一期一会

無精ヒゲは2日目.

今僕は,千歳→関空の機上にいる.寝不足でフラフラし,あまりにつらかったので座席をクラスJにアップグレードした.
1,000円で広くて快適な座席に変更でき,10月末まではビール無料のサービスもつく(ビールの変わりに,特性リーフパイも選べる)ので,お得感満載.
座席楽チン.シートベルトサインが消えるのを待ち構え,フットレフトを広げ,背もたれを倒したら,1秒と経たずに意識を失った.こりゃいいわ.ビールのサービスがなくなっても,毎回クラスJに載ろう.

クラスクラスJは,1列に6席しかない.2ブロック×3の6席.
座席の間の肘掛も広いから,隣の人と争奪戦をする心配もない.
むしろ,仮に隣にかわいい女の子が座ったとすると,密着感が少なくて残念な思いをするほどだと思う.

でも,今日は座席につくなり,別の意味でがっかり.
だって,僕の隣は50-60代のオバサンなんだもん.とほほー.
なんだか,ガリガリの痩せ型で,骨と皮だけの人.まぁ,いいよ,僕は寝ることが目的だし.

つーか,隣のオバサンも「げっ」って思っただろうなぁ.
「茶髪ロン毛で無精ひげ.野球帽を深くかぶって顔が良く見えない.色あせたジーパンになんだかよくわからない染み(洗濯しても取れないんだよねー)のついたグレーのTシャツ.指には黒を基調とした装飾のはいったシルバーリング.平日の昼間っからクラスJに座ってビールかっ食らってる」
こんな人って,チンピラ以外の何者でもないよね.
僕だったら,こんな人が隣の席に座ったら,周りを見回して,空席があったら(たとえ,クラスJからエコノミーに移ることになっても)そっちに逃げるよなぁ.
おそらく,隣のオバサン,それくらいビビッたと思う.
僕より先に寝てるし(正視したら殴られそうだから,寝るのが一番だと思ったんだろうなぁ)

ところで,最近の僕のテーマは「チンピラの風体で,どこまで紳士たれるか?」です.
自分で自分の姿がチンピラだということは十分わかっている.あえてそうしているし.
チンピラだから,人から避けられるのもよくわかるのだ.
しかし,そこで自分に課題が課されるわけです.
「相手の緊張感を解きほぐし,安心感を与えるには何をしなくてはいけないか?」
それを考えて行動しています.
あえて自分にハンディを課すことで,普段以上にジェントルで物静かな立ち居振る舞いをするように心がけています.

例えば,お店でレジに行ったら必ず「お願いします」と言い,レシートをもらったら「ありがとう」と言う.
飛行機への搭乗時,客室乗務員さんが「いらっしゃいませ」と言ったら,僕は「こんにちは」と返す.飲み物をくれたら,「ありがとう.いただきます」と微笑む.飲み終わったら「”お手数ですが”片付けてください」と言う.
自分で言うのもなんだけれど,見た目は別として,かなり好青年になっている.
悪くないハンディを負ったと思っている.

さてさて,クラスJで隣に座ったオバサン.
ずーっと寝てんたんだけれど,いい加減な時間に目が覚めたわけで.彼女の前には「お目覚めになられましたら,飲み物のサービスをいたしますので,お申し付けください」というメモが貼ってある.
彼女を観察する限り,登場前に買ったであろうミネラルウォーターとお茶をシートのポケットに収納しており,それが随分残っている.どう考えても,飲み物などリクエストするようには見えない.
しかし,目を覚ますと,客室乗務員さんを呼びつける.
「ひでーな,オバサン」と僕は思ったわけで.

彼女は,ビールをリクエストした.
僕は自分のことを棚に上げて「ほー,平日の昼間からビールですか.いいご身分ですなぁ」と冷ややかに見ていたわけで.

ところで,ちょうど僕は自分のビールを飲み終わり,缶を片付けてもらおうと思い,オバサンの前を横切るようにして,乗務員さんに空き缶を渡した.
オバサンにあんまり良い印象を持っていなかったけれど,上に書いたように自分にハンディを課しているので,「前を失礼しますね」と一声かけた.

その直後,オバサンが僕に話しかけてくる.
「お兄さん,よかったら,このビール飲みませんか?私は,一口だけ飲みたかったんですよ.あとはいらないから,よかったらどうぞ」
見ると,コップに5cmほど注いだだけで,残ったビールとおつまみをこちらへ差し出しているじゃないですか.

僕はお酒に強い方じゃないし,昼間っからビールを2本も飲んじゃったらどうなってしまうか心配だったけれど,彼女の申し出がすごく嬉しくて,そのままいただいた.
「昼間からお酒飲むなんて,それだけで嬉しくてワクワクしますよね」とだけ会話を交わし,あとは無言で飲んだ.
僕はビールを飲み干した後,彼女自身もおそらくその小さな親切を忘れたであろう頃に,「ごちそうさま」と告げた.

なんだか,とてもいい生活をしていると,自分では思っている.
名前も知らない,もう二度と会わない人だろうけれど,すごく気持ちのいい時間を共有させてもらった.
なにが嬉しいんだろう?よくわからないけれど,なんだかとても感動している.

恥ずかしいけれど,本当に今,飛行機に乗りながら,涙と鼻水を垂れ流しにしながらキーボードに向かっている.
さすがに,昼間からのビール2本は効いたようだ.

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コメント (2)

  1. da

    僕がちょっとおちてる時,普段より人に優しくできるのと似てるかも.
    人間としての仲間意識を向上させることで自意識や居場所を確認しホッとする.これつまり,それ以上おちないための自己防衛的ココロのバンソーコ.

  2. 木公

    「ココロのバンソーコ」って良いフレーズ.
    いただきっ

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