夢十夜 / 夏目漱石

こんな夢を見た.

しとしとと雨が降る中,道端に車を停めて往来を見ている.
色を失った町並みと雨雲の下を,真っ白な傘がこちらに向かってくる.小さな傘の中から,どこか懐かしいような顔が車中の僕に向かって会釈をしてくる.
初めて会う人に違いはないはずだけれど,ドアを開けてエスコートするのが礼儀だと思って,ドアを開けて彼女を車の中に招き入れた.

「赤い車だから,すぐわかりましたよ」
と言われたけれど,なんだか気恥ずかしくて,携帯電話を取り出してケーキのおいしいお店を予約してそこに連れて行こうと思った.

30分もたたずに,僕は彼女のことが好きになってしまったようで,嫌われないように退屈させないように,べらべらと喋りまくった.

まだ名前も知らなかったので,尋ねてみると
「私には,3つの名前があるのです」
と,返事があった.
あまり問い詰めるのも失礼だと思ったので
「僕には,3つの人生があるから,おあいこだね」
と答えた.

今欲しいものは何かと尋ねると,
「正直いって,ミーは,あなたをペットにしたいです.次に,ミーの秘密を教えようと思います.実はミーは,不死身なのです.内緒ですよ.」
と,返事があった.
ペットになってもいいと思ったけれど,
「正直いって,俺は,君はかなりの変態だと強く感じています.次に,俺の秘密を教えようと思います.実は俺は,あなたが好きです! キャ!」
と答えた.

そう言うと,彼女はゴーバンズの “あいにきて I・NEED・YOU! ” をニコニコと歌いながら近鉄の改札口に消えて行った.


そんなわけで,みかん汁さんにお勧めされた夏目漱石の「夢十夜」を読んでみたわけ.

実際に夏目漱石が見た夢かどうかは定かではないらしいが,夢のように非論理的で幻想的な物語が10編収録されてます.

“自分の亡骸を埋めて,そのそばで100年待ってくれ”と言われ,その約束を守った男が,ユリに姿を変えた女に再会する話は,どっかで読んだ記憶があった.いいね,この話.

運慶が明治時代に現れて仁王像を彫る話は,高校の国語の教科書で読んだ,確実に.夏目漱石の「夢十夜」だとはすっかり失念していたのだが,改めて記憶が固着した感じ.

女好きの男が,女にフラフラついていったら,大嫌いな豚の大群に襲われて困ってしまうお話も,どっかで読んだ記憶があった.中身はほとんど忘れていたけれど,ラストの”その男はすぐに死んでしまうだろう.彼の被っていたパナマ帽子は人手に渡るだろう” というくだりだけは良く覚えていた.

さらりと読めるし,何かの話のタネにはもってこいな作品ですな.

Thanks to みかん汁.

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コメント (2)

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