写真家マン・レイの “Natacha”

Natacha大学の教養課程のとき、現代美術史だかなんだかの講義を取った。特別に興味があったわけではなかったが、取得単位の調整か、はたまた、たまたま時間割の都合が良かったからだと思う。

毎週、いろんな芸術家の作品をスライド映写機で鑑賞するという講義だった。上に書いたとおり、まったくの消化講義だったため、内容はほとんど覚えていない。

覚えていることは、主に以下の3点
1. 講師(名前も忘れた)は白井晃を老けさせてチョビ髭をつけた感じ
2. 勝利の女神ニケ(NIKE)を抽象彫刻にしたものが、札幌駅前通にある。Google maps で言えば、このあたり。確か、道路の西側歩道。
3. 鉛筆でスケッチしたみたいな、女性ヌードのモノクロ写真を見た

3つめのヌード写真は、見た瞬間にその強烈なイメージが頭にこびりついた。今でも目をつぶれば思い浮かぶ。しかし、今日までそのタイトルも写真家の名前もわからず、もう一度見ることがかなわなかった。
人物の輪郭が、影となってくっきりと浮かび上がっていた。普通に写真を撮ると、人物の輪郭と背景とがぼんやりとしているものだが、その写真は鉛筆でデッサンをして輪郭をゴリゴリと太く書いたようにハッキリとしていた。その写り方がひじょうに不思議で、印象的だった。
あと、モデルの女性のスタイルがとても綺麗で、理想的体型だった。講義の最中、スクリーンに見入って、神々しさを感じた(ような気がする)。


もう一度見たいと思っていたのだけれど、どこでどう探せばいいのかわからずに途方にくれていた。
美術に詳しい人に尋ねてみたりもしたのだけれども、僕の記憶があいまいで説明も拙いせいで、結局見つからず仕舞いだった。

しかし、ひょんなことから手がかりを見つけた。ちょっと探したら、見事に発見できた。
それが冒頭の写真であり、写真家 Man Ray の “Natacha” という1929年の作品。
すげぇ、80年前だ。

見つけたきっかけは、中島らもの『空からぎろちん』。同書の256ページにこう書かれている(なお、出てくる女の子とは、後に中島らもの妻になる人だそうだ)。

ところで、当時つき合っていた女の子が宝塚の旧家の娘で、ある日、彼女の家に遊びにいくと、部屋の天井近くの壁に変なものが押しピンでとめてある。それはモノクロの外人女性のヌード写真で、大判の雑誌を開いたのをそのままブッツリと押しピンでとめているのだった。僕はそのヌードをぼんやり見ていたが、そのうちにそれがどうもマン・レイの写真らしいことに気づいた。

モノクロの外国人女性のヌード写真でピンときた。それで、マン・レイについていろいろ調べて、Man Ray official digital photographic libraryというサイトに行き着いた。ここには、マン・レイの作品のサムネイルが1000点近く収録されている。それをつぶさに見て、ついに15年前に見た、あの写真に行き着いた。

かなり感動している。
インターネットと中島らもに感謝している夜。

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