目から日焼けするって話: 関連論文を読んだ

例の「目に紫外線を照射すると、その他の皮膚に日焼けが起きる」という話に関して、関連論文を読んでみた。
乗り掛かった船なので、簡単なメモを作っておく。

K. Hiramoto, N. Yanagihara, EF. Sato, M. Inoue: Ultraviolet B irradiation of the eye activates a nitric oxide-dependent hypothalamopituitary proopiomelanocortin pathway and modulates functions of alpha-melanocyte-stimulating hormone-responsive cells. Journal of Investigative Dermatology, 120, 123-127, 2003.(ダウンロード)


被検体はネズミ。
彼らは麻酔をかけられ、全身をアルミホイルで包まれる。個体ごとに目、耳、背中のいずれかの覆いがはがされ、そこに紫外線が照射される。対照群として、同じ部分に可視光を照射される群を用意した。(光線の波長や発生するエネルギーについての記述を見つけたが、照射時間に関して僕は見つけることができなかった)。

照射から5日後、ネズミから皮膚(基本的に耳)を採取し、メラニン細胞がどれだけできているか調べる。下の写真のように、メラニン細胞の発生数が異なるそうだ。左から対照群、目に紫外線、耳に紫外線。

Hiramoto et al., 2003; Fig1: メラニン細胞の写真

下にあるのは実験結果のグラフ。縦軸は生成されたメラニン細胞の数を表す。

白いバーは、何も操作をおこわなかったネズミ。”Visible” と書かれている2本は可視光を照射された対照群であり、未操作群と同じ水準。つまり、紫外線が照射されなければ、日焼け(メラニン生成)は起きない。当たり前。

“UVB” の3本のバーは、紫外線が照射された群。左の3本に比べると値が高く、確かに紫外線によってメラニン細胞が作られている。耳の皮膚を採取したので、確かに耳に紫外線を当てられた群(Ear)において一番値が高い。しかし面白いのは、背中に照射された群(Dorsal skin)よりも、目(Eye)に照射された群の方が高くなっていること。
この結果をもって、「目が紫外線に曝露されると、日焼けが起きる」という現象の存在が示されている。

Hiramoto et al., 2003; Fig2: 目に紫外線を照射した群でも、耳にメラニン細胞が作られている。背中に照射した群よりも多い

次に、脳下垂体を摘出したネズミを用いて紫外線照射実験を行った。それが次のグラフ。
左にある “Sham-operated” というのは対照群で、摘出手術をしていない群。こちらでは、先ほどの実験と同じパターン(目に照射してもメラニンが増える)が得られている。

一方、右にあるのは脳下垂体を摘出した群。すると、目を経由したメラニン生成が起きなかった。つまり、【目→脳下垂体→耳のメラニン】というルートがあるはずなのに、真ん中の脳下垂体がなくなったことでルートが途絶え、耳でメラニンが生成されなくなったという解釈。
ここが、「目にあたった紫外線が、脳を経由し、皮膚の日焼けを引き起こす」の根拠になっている部分。

Hiramoto et al., 2003; Fig3: 脳下垂体を摘出すると、目に紫外線を照射しても耳にメラニン細胞は生成されない

以上、主要部分のまとめ。

なお、斜め読みしかしていないので読み落としている可能性があるけれど、この論文の中では、人間でも同様かどうかは議論されていない。

上にも書いたが、紫外線の照射時間はわからなかった。
紫外線の波長は280-320nmで、2.5KJ/m^2 のエネルギーだったそうだ。
これがどのくらいの強さの紫外線なのか僕にはわからないのだが、人間の生活環境で曝露しうる紫外線量なんだろうか。だとするなら、今回の実験結果を真摯に受け止め、僕もサングラスをかけまくる所存。
目に照射された群は、耳に照射された群の60%ぐらいの量のメラニン細胞が”耳に”生成されてるじゃん。すげぇな。

コメント (2)

  1. flyingbird

    興味深い記事をありがとうございます。
    まったく知らないジャンルだったので大変ためになりました。
    結果についてはそうなるのかー、なるほど、という感じだったのですが、そこにいたるメカニズム、何のためにそうなっているのか?が気になりました。

    眼にUVを照射することによって、α-MSHがかなりのレベルで上昇することが本論文では示されていますが、
    眼に存在するメラノサイトにα-MSHが作用しないことも示されていました。
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17003446?ordinalpos=4&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
    ダイレクトに障害が起きている以外のところで防御機構が働くって、面白いですね。
    確かに欧米人で、紫外線を浴びていたから眼が黒くなったという話も聞きませんし・・・(その前に肌も黒くなったという話も聞かないので、人種差もあるのかも)
    じゃあ眼のメラノサイトはどんな物質で刺激されるんだろうと思いました。

    いま会社で扱っている製品は、副作用でまれに虹彩色素沈着を起こすものがあります。日本人だとあまり気にならないのですが、欧米だと結構気にされる方が多いようです。

  2. 木公

    僕は論文を通り一遍読んだだけで、白状するとα-MSHがなんなのかわかってないほどの門外漢なのですが・・・。

    >そこにいたるメカニズム、何のためにそうなっているのか?が気になりました。

    僕もそこが一番興味深いです。

    ネズミの場合、全身が体毛で覆われているから、皮膚に到達する紫外線量が少ない。ゆえに、バイパス・ルートとして目が利用されたという仮説はどうでしょう。
    そうやって考えてみれば、ネズミの耳っつーのも、外側と内側で毛の生え方がちがうけれど、どっちから紫外線を照射したのかちょっと気になり始めたり。背中にあてた紫外線も、毛を剃ったのかどうか気になり始めたり(書いてなかったような気がする・・・)。

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