『エンゾ: レーサーになりたかった犬とある家族の物語』

知人宅のワンコちゃんと同じ名前の犬が主人公の小説、ガース・スタイン『エンゾ: レーサーになりたかった犬とある家族の物語』を読み始めた。

まだ5分の1くらいしか読んでないけれど、冒頭からものすごく面白い。

主人公はエンゾという名の老犬。彼がナレーターとなって、飼い主一家のヒストリーを語るという内容。

今読んでいるのは66ページあたり(全体で350ページほど)で、一家の大黒柱のデニーが、レーサーとしての栄光を掴み始めたところ。彼は幸せの絶頂なのだが、最愛の妻の体調がおかしいことに気づき始めた。娘はまだ4歳くらいで可愛い盛り。
実は、本書の冒頭には、犬のエンゾの終末期が描かれている。同時に一家の行く末も。ゴールを知りながら、一家の進む道を読んでいるわけだ。そのため、これから読み進むにつれて、次々と一家にたいへんなことが発生していくのだろうと想像できる。具体的には分からないので、興ざめするわけではないが。それで、僕は彼らの将来を不安に感じ、胸がモゾモゾとしてしまう。

一気に読んでから紹介しようと思ったけれど、全部読んだ後では平常心を失ってしまうくらい泣きそうな予感があるので、読書途中で紹介することにした。
この夏、絶対に読むべき本だと思う。おそらく。


タイトルと表紙、そして煽り文句(「世界中が号泣」だの「突然ふりかかった悲劇ー」だの)を見たときは、言葉は悪いが「女子供向けの、ほのぼの文章スタイルなんだろうなぁ。そんなスィーツ(笑)な本を、この俺様が読むのか。とほほ」なんてナメたことを考えていた。
しかし、訳文は抑揚の抑えられた、クールな文体だった。思いっきり、当方好み。

「リリー・フランキーの『東京タワー』のように、ずーっと雌伏の段階があって、最後にドカンと泣かす算段なんだろう」
なんて、書き手の思惑が透けて見えるようではあるのだが、この際、思いっきりのせられてみることにする。

あと、エンゾはワンコのクセに、僕以上にカーレース(スピン中の車の制御方法とか)に詳しくて微笑ましい。元仕事仲間で、レース経験のある某友人に、このワンコちゃんの語りがどの程度正しいのか聞いてみたいとも思ったり。

では、読書に戻ります。読了後にお会いしよう、諸君。

「ときどき、おまえにはぼくのいうことがほんとうに理解できるんじゃないかって気がする。まるでなかに人間がいるみたいにな。なにもかもわかってるみたいだ」
 そうなんだ。わたしは心の中でいった。わかるんだよ。

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コメント (12)

  1. sterai

     素朴な疑問。なぜ「そんなスィーツ(笑)な本を、この俺様が読む」ことになったんですか?

  2. 大彦

    > エンコはウンコのクセに

    まで読んだ。

    #って、うんちのことを「エンコ」と言うのは道南だけか?

  3. 木公

    steraiさん:

    人と本屋で待ち合わせをしていて、新刊コーナーを眺めていたら、某知人宅のワンコちゃんと同じ名前の本を見つけたから。

    話のネタになるだろうと思って、中身をよく確かめずに買い(給料日だったから、気が大きくなっていたのですよ)、読み始めたら2ページ目くらいで「こりゃ、いい!」と思いました。

    読み終わるまで帰ってくるつもりはなかったのですが、ウィスキーを飲んで酔っ払い始めたので。
    酔っ払って読むには惜しい本だと思い、一時中断中。

  4. Kayo

    うちの子が何かしたかと思った(笑)

    こういう動物系のお話って
    絶対泣いてしまいそうなのでムリです・・・

  5. 木公

    大彦クン:

    苫小牧でも「エンコ」通じますよ。
    函館とはかなり距離があるけど、道南にカテゴライズされるし。
    #道南の根拠: 道南バスが走ってる。

  6. 木公

    Kayoさん:

    泣き覚悟で読むべきですよ。
    僕は、泣く気マンマンで読んでますから。

    #なんだか、コメント書くたびに、誰かが間に入ってくるなぁ。

  7. 木公

    「 モンゴルでは、犬が死ぬと、その墓を人に踏まれないよう丘の上に埋葬する。飼い主は犬の耳に、来世は人間として戻ってくるようにという願いをささやく。・・・(中略)・・・生まれ変わる前に、その犬の魂は解き放たれて国を旅し、好きなだけ高地の砂漠を駆け巡る。
     という話をナショナル・ジオグラフィック・チャンネルの番組で観たので、ほんとうだろうと信じている。全ての犬が人間に生まれ変われるわけではなく、準備ができている犬にかぎられるそうだ。
     わたしはできている。」(P.106)

    同書の広告ビデオ(英語版)の冒頭のセリフも、ちゃんと本編の中に出てきた。

  8. Kayo

    あかん! 
    上のコメントを読んだでで泣けるし
    ビデオ見ただけで泣けるし
    買おうと思って、アマゾン見ただけで泣ける。

  9. 木公

    では、クスッとする引用もあげておきましょう。

    「駐車場とは奇妙な場所だ。人間は車が動いているときは好きでしかたがないくせに、動いていないときは急いで離れたがる。」p.108

    「デニーは運転席側へまわり、後部座席からヘルメットを取ってかぶった。車に乗り込み、シートベルトを締めた。
    『”もっと遅く”は一度、”もっと速く”は二度吠えるんだ。いいな?』
    わたしが二度吠えると、デニーも、助手席の窓からのぞきこんでいたパットとジムも目を丸くした。
    『いまからもう速くしろだとさ』ジムがいった。『あんた、いい犬を飼ってるな』」p.161

  10. 木公

    読了。
    とりあえず言えることは、スイーツ(笑)向けの動物愛がテーマのほのぼの作品ではない。
    タフな男が、苦境を乗り越え人生の活路を切り開いていくという主題。僕は、その男臭さにガツンとやられ、読後感もいい。犬のエンゾはあくまで狂言回し。

    しかし、エンゾは利口な犬だけれど、どこか抜けていて、そういうところは可愛い動物モノとして読むことも可能。間口は広い作品だと思う。

  11. sterai

     訳の感じがなかなかいいですね。
    (実は戌年故に犬好きな当方)

  12. 木公

    機会があったら、ぜひ読んでみてください。グッとくる小説でした。

    ところで、「犬大好き」と「大犬好き」は字面も意味もものすごく似てますね、どうでもいいですが。

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