フジ『北の国から』第16回

「『おしん』の方はまとめ記事を書くどころか、録画を消化する余裕もありません」と弱音を吐くと同時に、「このドラマは俺の青春時代とかぶるから捨ててはおけないんだよ!」と強く主張する当方が、BSフジ『北の国から』の第16回を見ましたよ。

* * *

杵次(大友柳太朗)が橋から転落死した。
孫の正吉(中澤佳仁)以外の親族はみな麓郷を離れ、札幌や旭川に暮らしている。集落の者達が総出で葬式の準備を手伝った。

正吉以外の子供たちはいつものように登校し、通常の授業が行われた。ただし、純(吉岡秀隆)は勉強が手につかず、杵次のことばかり思い出していた。昨日の杵次は一日中酔っていた。泥酔したまま父兄参観に現れ、夜に純の家にふらりと現れた時もかなり酔っていた。18年間飼っていた馬を手放したことが杵次にはかなり堪えたのだろうと想像できた。

放課後、純や螢(中嶋朋子)、凉子(原田美枝子)は正吉の家に行った。すると、しばらく前から正吉の姿が見えないと言って騒ぎになっていた。大人たちは葬儀の準備があるため、正吉を探してばかりもいられない。純と螢、涼子が探しに行くことになった。
手がかりは全くなかったが、螢には心当たりがあった。螢について行くと、森の奥に大きな木があり、その上に小屋が備え付けられていた。その中で正吉がうずくまっているのが見えた。涼子が登り、男の子なのだからしっかりしろと厳しく声をかけるのだった。

通夜の間、純と螢は家で留守番をしていた。
純は、木の上の小屋を螢が知っていた理由を問い詰めた。すると、純が東京に行っている間に杵次に連れてきてもらったことがあるのだという。寂しくなったら、ここで一人で泣くといいと言って教えてくれたのだ。それで、正吉がいると思ったのだという。ただし、杵次から秘密にしておくよう命じられていたので、今まで純には教えなかったのだという。

通夜は杵次の家で行われた。久しぶりに麓郷へ帰ってきた杵次の息子たちは、通夜というよりは同窓会にでも来たかのように、古い知り合い達と愉快に酒を酌み交わしていた。草太(岩城滉一)のボクシングの試合日程が決まったと聞くと、みなで応援し盛り上がった。会場の隅にいる草太の父・清吉(大滝秀治)に対しても、自慢の息子で羨ましいなどと声をかけるのだった。

しかし、清吉はその場の雰囲気に溶け込めず、居心地が悪かった。そっと母屋を抜けだして、馬小屋を見に行った。昨日の朝まで使われていた馬小屋には、売られた馬の痕跡があちらこちらに残っていた。五郎(田中邦衛)も馬小屋に現れ、前夜の杵次の様子を話した。そして、酔った杵次を自転車で一人で帰してしまったことを悔いた。
清吉は杵次の馬について話した。あの馬が最後に活躍したのは、遭難した純と雪子(竹下景子)の乗用車を見つけた事件だ(第10回)。家畜馬は機械や車に活躍の場を奪われたというのに、その車を助けることが最後の仕事だったとは皮肉なことだとつぶやくのだった。

そこへ、やっとみどり(林美智子)が帰ってきた。馬小屋にいた五郎と清吉が出迎えた。
みどりは、息子の正吉を杵次に預け、自分は旭川の飲み屋で働いているのだ。しばしばアパートに帰らないことがあり、居場所が掴めないことも多い。あいにくこの日もなかなか連絡がつかず、杵次の訃報を知らせるのが遅れたのだ。
みどりはサバサバした表情で、「いつかこうなると思っていた」と五郎に一言漏らすのだった。

翌日、杵次は焼かれた。杵次の家ではごちそうが振舞われ、弔問客が集まった。
純は生まれて初めて葬式に参列した。しかし、想像していた葬式とは全く様子が違うので面食らった。泣いている人はおらず、祭りの晩のように誰もが楽しそうに騒いでいるのだ。
純は正吉を話した。正吉によれば、杵次は五郎のことを良い奴だと言って褒めていたのだという。また、樹上の小屋は、みどりが家を出て行った時に杵次が作ってくれたということを教えてくれた。正吉が寂しがって泣くと、よく杵次が連れて行ってくれたのだという。

母屋では、杵次の息子たちが父の悪口を言い合っていた。杵次がみなに嫌われていたせいで、自分たちも散々苦労したというのだ。しかも、最近は土地の境界をごまかしたといって、裁判にもなっていた。大胆に奪うならまだしも、ほんの1尺(約30cm)ずつ杭を動かして徐々に侵食するというケチな盗み方だったという。みなでバカにして笑い合っていた。

それを隅で聞いていた清吉が口を挟んだ。
息子たちは杵次の気持ちを少しも分かっていないと言い、食って掛かった。杵次はこの辺りの土地の開墾を行った立役者だった。しかも、現代のような機械やエネルギーも無い時代にそれを行ったのだ。大きな石や木の根に阻まれ、ほんの少しの土地を拓くのにも多大な時間がかかった。そういう苦労をした人間の土地に対する執着心や大切さを分からない人間が軽々しい口を聞くなと言うのだ。
場がしらけた。

息子たちは話題を変えた。馬の話になった。いつまでも手元に置いて売りどきを逃したから、安く買い叩かれたに違いないなどと言って、またしても杵次をバカにした。
清吉はもちろん黙っていなかった。昔の杵次は「仏の杵次」と呼ばれるほど尊敬される人物だった。それが、晩年はケチでズルいと悪評ばかりになってしまった。その理由は、家族や集落の住人たちが杵次の多大な苦労や功績を忘れてしまい、尊重することをしなくなったからだと主張した。人はみな杵次の苦労を忘れたのに、馬だけは分かち合った苦労を忘れていなかった。そんな無二の相棒である馬を手放した杵次の気持ちを考えろ。そこまで言うと、清吉は涙を流し、言葉に詰まってしまった。
場は完全に冷えきってしまった。いたたまれなくなった草太は、清吉を抱えて家に帰ってしまった。

純と螢は五郎を残して先に帰った。純は、その晩ずっと清吉の言葉が脳裏に焼き付いていた。馬を手放した時の杵次の心情を思うと胸が苦しかった。

いつしか眠りについた順だったが、夜中に目を覚ました。2階の寝室から1階を覗くと五郎が帰宅していた。そして、純の隠し持っていたヌード写真集をストーブの火で焼いているのが見えた。純は自分の隠し事が全てバレてしまったことを悟った。
純は降りて行き、五郎に向き合った。そして自分が病気になったと告白した。女性が気になり、胸や足、尻などから目を話すことができなくなった。頭が狂う病気になったと真剣に話した。女性のことを考えたり、朝起きた時に陰茎が勃起しているという症状も訴えた。
五郎は一瞬驚き、次に微笑ましく思った。しかし、すぐに真剣な表情を浮かべ、純によく話して聞かせた。純の訴える症状は全て正常なことで、大人の男なら誰でもそうなると説明した。ついに純が一人前の男になったといって祝福した。そして、これからは純を一人前の男として扱うし、純も一人前の男として恥ずかしくない振る舞いや働きをしろと説いた。純は納得し、自分の成長を嬉しく思った。

五郎は、これまで純に秘密にしていた計画を打ち明けた。まず、畑を作って作物を作ることを説明した。純は手伝うことを約束した。
続いて、丸太小屋を自分たちで作ると話した。純には、荒唐無稽な話のように思えた。大工でもない自分たちに家など作れるはずがないと思うのだ。しかし、五郎は自信満々だった。その意気に圧され、純もその気になってきた。翌朝、螢にも話してやった。螢も大喜びした。

その日から、早速3人は畑作りを始めた。作業をしていると、夕方にみどりと正吉が食材を持って訪ねてきた。他の親族たちは帰ってしまい、ふたりで寂しいから一緒に夕食を食べようというのだ。楽しい団欒を終え、子供たちは連れ立って外に遊びに出かけた。残った五郎とみどりはふたりで酒を酌み交わした。

みどりと五郎、そして中畑(地井武男)は幼馴染みである。みどりは幼馴染みの存在は良いものだとしみじみ話した。中畑は葬式の準備から後片付けまで、親身になって手伝ってくれたのだという。材木店を営む中畑は、杵次が家に蓄えていた古ぼけた木材も全て買い取ってくれたのだという。みどりはそれにも随分と助けられたという。
五郎は、自分がその木材を譲り受け、丸太小屋を作る計画があると打ち明けた。みどりは、自分の実家にあった材料を使い、幼馴染みが自宅を作ると聞いて、心が暖かくなった。幼馴染みはありがたいと、改めて話すのだった。

みどりは、五郎の別れた妻・令子(いしだあゆみ)のことを聞いた。五郎は嫌がることなく、令子の現状を端的に説明した。原因不明の激しい腹痛で入院していること、五郎以外の恋人がすでにいること、その恋人の縁故の病院に入院しており、そこの評判は悪いのだが、恋人の立場が悪くなることを懸念して転院を断っていることまでを話した。
みどりは、令子のことをいい女だと評した。自分が苦しくても男を立てるいい女だという意味だ。そして、それだけのいい女なら五郎が惚れるのも当然だと付け加えた。

そこまで話すと、みどりは急に立ち上がり、何の前触れもなく帰ると言い出した。正吉を連れ、一目散に帰って行った。

翌日以降、喪中の正吉は学校を休んだ。葬式の後片付けで大変だからといって、純は正吉の家に遊びに行くことも禁じられた。純は素直に言いつけに従った。
そんなある日、涼子先生が正吉は転校したと発表した。前夜遅くに、遠くの町に向けて発ったのだという。涼子は、別れを言わずに去ることを謝るという正吉の伝言を皆に伝えた。
純は強いショックを受けた。慌てて螢と共に正吉の家へ向かったが、すでに戸には板が打ち付けられ、家は無人になっていた。馬小屋には清吉が様子を見に来ていた。清吉は、麓郷にまたひとつ廃屋が増えたと嘆いていた。

その晩、純は夢を見た。正吉と樹上の小屋で楽しく遊んでいる夢だった。夢は楽しいのに、目を覚ますと純の目は涙でいっぱいだった。

5月26日。畑に撒いた大根の種が一斉に芽を出した。8月には収穫できるという。純はとてもワクワクした。麓郷に来てから初めて感じるような高揚感だった。
夜には、中畑らの仲間が集まり、五郎の丸太小屋の計画を話し合った。誰も丸太小屋建築の経験はないが、外国の書物を取り寄せ、図を自分たちで解釈して組み立て方を議論した。大人たちは工作用の木材で模型を作りながら組み方を研究した。出来上がった模型はとても小さかったが、順や螢には夢の様な家に思えた。

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フジ『北の国から』第15回

今日は思わず頬が緩むようなちょっと嬉しいことが何件かあったのだけれど、それと同じくらいの量だけ眉をひそめるような嫌な出来事もあったので、結局のところ気持ちをどこらへんに落ち着けていいのかわからなくなってしまった当方が、BSフジ『北の国から』の第15回を見ましたよ。

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純(吉岡秀隆)、螢(中嶋朋子)、正吉(中澤佳仁)の3人はUFOを目撃した。さらに、UFOが飛び去ったところから担任の凉子先生(原田美枝子)が現れるのを見た。3人は、宇宙人が涼子に化けたのだと考察した。自分たちに危険が及ぶのを避けるため、この事件は3人の秘密とした。同時に、学校での涼子の動きをよく観察することに決めた。

ところが翌日、本校(純たちが通うのは分校だ)から立石という男性の代理教員が来た。涼子は急用で旭川に行ったのだという。立石先生は、次の月曜日に臨時の父兄参観と懇談会を行うと発表した。本校から校長が来て、父兄に説明したいことがあると言うのだ。
3人は涼子が休んだことを不審に思った。本物の涼子は宇宙人の手ですでに殺されたか、連れ去られたのだろうと思った。

中畑(地井武男)は五郎(田中邦衛)を自宅に招き、五郎宛の封書を手渡した。それは匿名の怪文書であり、涼子先生を糾弾するものだった。中畑の娘(塩月徳子)も同じ学校に通っているため、中畑も同じ内容の手紙を受け取っていた。そこには、2年前の涼子に関する新聞記事が同封されていた。受け持ちの小学5年生が、涼子からの体罰を苦にして飛び降り自殺したという内容だ。消印は東京であった。涼子の転任先を調べ、そこの父兄名簿まで入手して送りつけるという執念深さにふたりは驚くのだった。
中畑は初耳だったが、五郎は本人から直接話を聞いていた(第3回)と打ち明けた。そして、過去がどうであれ、今の涼子は良い教師だと言って擁護した。さらに、匿名の送り主の卑怯さに怒り、怪文書を破り捨てた。中畑も同意し、倣った。

放課後、純たちが川で遊んでいると、森家の新妻の姿を見かけた。それは、正吉が森家からの不思議な声(泣いているような、笑っているような声)を聞いて陰茎が勃起したと言っていた新妻である。彼女はズボンをまくって、川の中で足を洗っていた。純は、彼女の白い足に見とれた。不思議と動悸が激しくなった。見てはいけないと思いながら、どうしても足から目を話すことができなくなった。
その後、純は五郎に連れられて富良野の街へ出かけた。その道中もずっと新妻の足のことが気になっていた。街に着くと大勢の女性がいた。すると今度は、彼女らの胸ばかりが気になって、視線が釘付けになった。女性の事を考えてはいけないと思えば思うほど、気になって仕方がなかった。ついに、成人映画館のポスターのヌードを見てのぼせ上がってしまった。

その日の夜、正吉の祖父・杵次(大友柳太朗)の発案で、分校に子どもを通わせる4家族(五郎、中畑夫婦、杵次、小学1年生の娘の両親)の会合が開かれた。全員のところに怪文書が届いていたし、その日涼子が旭川の教育委員会に呼び出されたことも知っていた。初めから杵次は酒にひどく酔い、荒れていた。開口一番、涼子は教師失格だとがなりたてるのだ。五郎が済んだことだととりなしても、「隠していたことが気に入らない」などと言って、結論ありきの揚げ足取りばかりした。1年生の母親も、問題のある教師が派遣されたことは問題だと主張し杵次に同調した。話し合いは荒れ、お開きとなった。
中畑は五郎に杵次の噂話をした。最近、土地を巡る裁判で負けて荒れているのだという。大切にしていた馬(第10回では純らの命も救った)も手放すことになったのだという。

五郎は精神的に疲れて帰宅した。すでに眠っている子供たちの顔を見ることが癒しだった。
五郎は、純のボストンバッグがなんとなく気になった。手にとって調べてみると、中にヌード写真集が隠してあるのを見つけた。突然のことに、五郎はどうしていいかわからず、ひどく困惑した。

その頃、学校では旭川から戻ってきた涼子と立石が話し合いをしていた。立石によれば本校では涼子に同情的であり、事件のことは気に病むことはないと慰めるのだった。ただし、子供たちと深い関係になり過ぎないようにと優しく忠告するのだった。近年、放課後や休日の課外活動に教師が関わることですら問題視する風潮があることを引き合いに出し、涼子も気をつけるよう諭すのだった。涼子は黙って聞いていた。

次の日、涼子は復帰した。しかし、UFOを目撃した3人は警戒を解かなかった。涼子の一挙手一投足をよく観察し、不審な点が無いか調べた。真剣に取り組む螢や正吉とは違い、純は気が散ってしかたなかった。というよりも、涼子の胸ばかりが気になって仕方なかった。涼子のことを変な目で見ることを心の中で謝りつつ、純は自分が妙な病気になってしまったと心配するのだった。

五郎の方も、純がヌード写真を隠し持っていたことにショックを受けていた。しかし、どのように対応していいかさっぱりわからなかった。草太(岩城滉一)の母・正子(今井和子)なら数人の息子を育てた経験を話してくれるだろうと思い、相談に行った。しかし、五郎はそのことを話すのが恥ずかしくて、モジモジしてしまった。モジモジしている間に、正子は話も聞かずに去ってしまった。それどころか、正子はどこか機嫌が悪いように思えた。

直後に、夫である清吉(大滝秀治)が近寄ってきた。五郎に相談があるので、夜に富良野の店で会いたいという。しかも、ふたりで会うことには内緒にして欲しいと言うのだ。内容も今は話せないという。五郎は少し不思議に思ったが、自分も純のことを相談できると思い約束した。
はたして、清吉の相談というのは、草太と仲違いしたということだった。雪子(竹下景子)が東京へ突如帰ってしまったことが問題なのだという。姉・令子(いしだあゆみ)の看病のために帰京したというのが真実であるのに、草太は清吉が暗躍して追い返したと思い込んでいるのだ。このままでは、跡継ぎの草太が家を出て行ってしまうかもしれないと心配している。そもそもは、正子が雪子を鼻白んで清吉になんとかするように頼んだにもかかわらず、正子まで草太の味方についてしまい、清吉は家の中で孤立しているというのだ。なんとか、五郎に誤解を解いて欲しいというのが願いだった。
五郎は、純のヌード写真集のことを相談した。自分のことで頭がいっぱいの清吉は、的確な助言ができなかった。小さい頃の五郎の早熟さに比べれば、純は遅いなどとからかうばかりだった。五郎の悩みは解決しなかった。

その足で五郎は、草太の通っているボクシングジムを訪ねた。草太は五郎の顔を見ても機嫌が悪いままだった。五郎は、雪子は看病のために帰っただけで他意の無いことを丁寧に説明した。しかし、草太は頑なな態度を崩さず、「大人は信用しない」と言って五郎を切り捨てた。五郎は清吉と結託していると信じて疑わないのだ。
草太は8月に初めてボクシングの試合に出場するという。4回戦という低い地位の試合だが、自分が人に認めてもらうにはそれしか無いのだという。試合に出て、少しでも有名になれば、周りの女達も自分を見くびったりしないだろうと言うのだ。草太は、雪子が黙って東京に行ったまま、音信不通であることを根に持っているのだ。草太が世話をした牧場の仕事を辞める時も、何の相談も挨拶もなかったと言うのだ。
黙って聞いていた五郎だったが、堪忍袋の緒が切れた。五郎は草太に掴みかかり、彼がつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に対して行った非道な仕打ちを指摘した。それに対しては、草太も弁解の余地がなかった。反省している態度を見せた。しかし、それを償うにはボクシングに撃ちこむしか無いと言うのだった。

そして、父兄参観の日になった。授業は滞り無く、平穏に進んでいた。父兄も落ち着いて参観していた。
ただし、正吉の家族だけは誰も来ていなかった。同居家族は祖父の杵次だけなのだが、彼が姿を見せないのだ。純が正吉に尋ねると、今朝杵次は馬を売り、そのまま飲んだくれているというのだ。そんなやり取りをしていると、杵次が学校に姿を現した。手には一升瓶をぶら下げ、足元もおぼつかないほど泥酔していた。
授業が終わると、涼子に替わって立石が子供たちと父兄に向かって伝達事項を話し始めた。本校の校長が来るはずだったのだが急用で来れなくなったと断った。続いて、学校の統廃合について説明しようとした。今の分校は9月に廃校になり、本校に吸収されるというのだ。

突然、杵次が怒鳴り始めた。例の怪文書をちらつかせ、声を出して読めと言って涼子に付きつけた。立石が笑顔で割って入り仲裁しようとしたが、杵次の勢いは止まらなかった。子供たちが聞いているのにも配慮せず、涼子が児童を殺したというのは本当か、と問い詰めるのだった。

混乱を収集させるために、涼子は怪文書の内容は真実だと認め、全てを説明しはじめた。
2年前、新人教師だった涼子は東京都世田谷区の小学校で5年生を受け持っていた。そのクラスには成績優秀で学級委員で人気者の児童がいた。ただし、そんな彼にも問題があり、クラス中を味方につけて、成績の悪い子どもをみなで馬鹿にするようになったのだ。涼子はそれをやめさせるために、みんなの前でその子を叱った。しかし、それが彼の自尊心を傷つけ、涼子に対して強く反抗するようになった。涼子の小さなミスをあげつらったり、クラス中をけしかけて涼子をバカにしたりした。児童の親とも話し合ったが理解を得られなかった。ついに、涼子は我慢の限界に達し、授業中に彼を殴ってしまった。その夕方、その子は涼子に抗議する遺書を残し飛び降り自殺したのだ。

五郎は声を上げて涼子の話を止めた。中畑とふたりで杵次を教室から外へ追い出した。教室は大混乱だった。子供たちは校庭に出され、大人たちだけで話し合いの場が設けられた。校庭の子供たちは、涼子がかわいそうだと同情した。
純も同じ意見だった。しかし、純は別のことでも心を痛めていた。杵次は父兄会に参加せず帰った。酔った杵次に肩を貸し、正吉もすでに帰っていた。先ほどの騒ぎの最中、正吉はずっと目に涙を浮かべていたのだ。純はそんな正吉がとてもかわいそうだと思った。

その日は、夕方から雨になった。学校から帰ってきてからというもの、五郎は何もしゃべらなかった。夕食が終わり、21時ころになっても家の雰囲気は暗く沈んでいた。

そんな中、ふらりと杵次が訪ねてきた。傘をささない代わりに、またしても一升瓶を抱えて泥酔していた。雨の中、自転車で来たのだという。自転車で来た理由は、馬を今朝売ってしまったからだと説明した。
杵次は、あの馬は今頃は肉にされているだろうと話し始めた。昨晩、最後の晩餐としてごちそうを食べさせてやった。いつもと違う行動に、馬は自分の運命を悟っていたのだという。今朝馬小屋から出すと、急に立ち止まって動かなくなった。杵次の肩に何度も首を擦りつけ、目に涙を浮かべていたのを見た。馬は存分に別れを惜しむと、今度は自分から歩き出してトラックの荷台に収まったのだという。
杵次にとって、あの馬は女房同然だったという。18年間苦労を共にした仲だ。それなのに用がなくなったといって、杵次の勝手で売ってしまった。馬は杵次のことを信じていただろうに、裏切られた馬の気持ちを考えるとやるせないのだという。
そこまで言うと、杵次は再び雨の中を自転車で帰って行った。五郎が車で送ると提案しても無言のままだった。純と螢も暗い気持ちになった。

翌朝、雨は上がっていた。
純と螢が通学路の橋へ差し掛かると、大人たちが集まって騒然としていた。杵次が自転車ごと川に転落していた。すでに息をしていなかった。純と螢は走って家へ帰った。

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フジ『北の国から』第14回

最近、伊丹十三のエッセイ集である『ヨーロッパ退屈日記』やら『女たちよ!』やらを読んでいるわけだが、クールでダンディでちょっとガンコなんだけでユーモアのある著者の様子が本作の吉野によく重なるなぁと思う当方が、BSフジ『北の国から』の第14回を見ましたよ。

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純(吉岡秀隆)と雪子(竹下景子)が東京の令子(いしだあゆみ)を見舞って4日目。ふたりが病院に行くと、令子は薬で眠ったままだった。雪子は純を残して、病室を後にした。

雪子は吉野(伊丹十三)とふたりだけで会いに行ったのだ。
雪子は、令子の病状が良くならないのは入院している病院に問題があると考えていた。その病院は吉野の縁故であり、令子が彼に気兼ねして転院したがらないことも知っていた。それで、まずは吉野を説得する必要があると考えたからだ。
吉野は院長と直接話してきた結果を伝えた。令子の病状については可能性を全て考慮して検査をしている。それでも病原が見つからないので、神経や精神の問題であると考えるのが妥当だという。病院側としても、令子の転院を妨害しているわけではないし、雪子と令子がどうしても希望するなら送り出すつもりではある。そういったことを、吉野は嫌味混じりに説明した。
吉野は話題を変え、純に言及した。翌日、純は北海道に帰ることになっている。純と別れることで、令子の病状が悪化するのではないかと詰め寄った。令子のためにも純を東京に引き止めておくようにと責めるのだった。しかし、雪子はそれには何も答えなかった。

純は病室でじっと令子の寝顔を見ていた。
令子が目を覚ました。純の姿を見つけると、今見ていた夢の話を始めた。夢の中にも純がいて、彼のお気に入りの5段変速ギア付きの自転車に乗っていたのだという。昔純がやっていたように、曲乗りばかりするので令子はハラハラと見ているという夢だったという。東京時代に純が乗っていたその自転車は、今でもアパートの物置にしまってあるという。そこまで喋ると、令子は再び眠りに落ちた。

令子が眠ってしまったので、純はアパートに戻った。そして、令子が話していた5段変速自転車を物置から引っ張りだした。半年放置されていただけで、自転車はすっかり錆びてみすぼらしくなっていた。しかし純は紙やすりで錆を落とし、油をさして、愛おしそうに整備した。アパートの前で作業を行なっていると、同級生だったタカシが迎えに来たので、ふたりで自転車に乗って出かけた。

以前のタカシは、純と同じように変速ギア付きのスポーツタイプの自転車に乗っていたはずなのに、今日はもっとモダンな自転車に乗っていた。聞けば、お年玉を貯めて新調したのだという。もう変速ギア付きの自転車は流行遅れだから乗らないのだという。タカシの家に行くと、純の知らないプラモデルがたくさんあった。例えば、スペースシャトルというものを見せられたが、純にはピンとこなかった。
それからタカシは、高校生の兄が隠し持っているというヌード写真集を見せた。純は初めて見る女性のヌード写真に驚き、罪悪感を抱いた。タカシは餞別だと言って強引に純に引き渡した。純は返そうとするが、タカシは力づくで押し付けてくるのだった。しばらく押し問答が続いたが、その騒ぎが誰かに見つかっては困ると思い、純は渋々もらって帰ることにした。
タカシの家を出る時、彼の古い自転車が打ち捨てられているのが見えた。タカシによればまだ使えるが、流行遅れだから乗らないのだという。
また、渡されたヌード写真集はカバンの底板の下に隠した。帰りの飛行機の手荷物検査場で見つかって叱られるのではないかと思うと、純は心配でならなかった。

アパートでヌード写真集をカバンに隠し終えると、純は令子の病室に戻った。令子は、翌日に純が帰ることをしきりに残念がっている。病気が治ったら北海道に遊びに行きたいなどと言うのだ。
それを聞いていた純は、令子が以前に麓郷へ来たこと(第9回)を指摘した。令子は隠していたつもりだろうが、純も螢も気づいていたと告げた。パジャマに令子の匂いがついていることに螢が気づいたのだと説明した。令子は涙ぐんだ。
純は、令子は純が東京に残る事を望んでいるか質問した。令子は肯定も否定もせず、純の方こそ東京に残る気があるのかと質問した。ところが、純がその答えを言う前に、雪子が病室に戻ってきて会話は打ち切りとなった。

病院を辞した純と雪子は、喫茶店で夕食を摂った。
純は、明日の飛行機には乗らないことを雪子に表明した。五郎(田中邦衛)は怒るだろうが、病気の令子を残しては行けないと言うのだ。また、令子に情が移り、五郎との間で板挟みになるくらいだったら、東京になど来るべきではなかったと後悔の念を表明した。
その時、雪子は冷淡だった。五郎は怒らないから、純の好きなようにすればいいと冷たく告げた。むしろ、五郎はそうなることを予期していたと言う。雪子の態度に怯えた純は、雪子に許しを請うた。けれども雪子は「私には関係ないわ」とさらに冷たく突き放すのみだった。

その晩、純は五郎へ手紙を書いた。まずは、その日起きた当たり障りの無い内容を綴った。友達のタカシとキャッチボールをしたり、自転車を乗り回したりしたことの報告だ。

手紙を書きながら、純は一家で東京に住んでいた時の事を思い出した。
当時、純の友達の間で変速ギア付きの自転車が流行っていた。ところが、純は自転車を持っておらず疎外感を抱いていた。令子に相談し、買ってもらう約束を取り付けた。ところが、その話を聞いていた五郎が、ゴミ捨て場からみすぼらしい自転車を拾ってきた。自分で修理してペンキを塗り直し、それを純に与えた。純は大いに不満だったが、自転車が無いよりはマシだと思い、それに乗って仲間の輪に入った。
ところがある日、警察官が家に訪ねてきた。自転車の元の所有者から訴えがあったので、回収するという。事を穏便に済ませたい令子は即座に謝って差し出した。しかし、五郎は納得がいかなかった。1ヶ月以上もゴミ捨て場に放置されており、そのままでは到底使用できない自転車だったのに、今頃他人が所有権を主張するのはおかしいと言って警官に食ってかかった。さらに、流行遅れだからといって、まだ使えるものをすぐに捨ててしまう風潮も気に入らないなどと自説を打った。警官は怒りだすが、令子が必死に謝ってその場はなんとか収まった。そして、それから何日かして、令子が真新しい5段変速ギア付き自転車を買ってくれた。

その時の純は、五郎は物事の分からない田舎者で、話が分かるのは都会的な令子の方だと思った。
しかし、不思議なことに、今では五郎の気持ちがわからないでもなかった。それというのも、麓郷での半年間の生活を経験したからだ。その生活は、全ての必需品を自分たちで作り出し、様々な工夫を凝らして営んでいるものだ。水道や電気まで自給自足している。純自身はそんな生活に不満が多いし、ほとんど何も手伝いはしなかった。それでも、五郎の行き方のわずか一部でも理解し始めていることを自覚した。

純は、五郎に宛てて書いていた手紙を反故にした。そして、当初の予定通り北海道へ戻ることを決めた。
純は自分で自分の気持ちがわからなかった。五郎との約束はそれほど重要なわけではないし、東京での暮らしが性に合っているのは間違いないし、病気の母のそばにもいたい。しかし、なぜだか無性に麓郷へ帰らなくてはならない気がした。
令子に会えば決意が揺らぐ。それが分かっていたので、純は翌日母には会わず、直接空港へ向かった。令子に、吉野のことが嫌いではないと伝えられなかったことだけが心残りだった。

麓郷に帰って1週間ほどで、純は元の生活に戻った。令子のこともほぼ気にならなくなった。純の留守中、螢と五郎はUFOを見たという。純はあまりにバカバカしくて、まじめに取り合わなかった。

純は、東京から持ち帰ったヌード写真集を正吉(中澤佳仁)とふたりで閲覧した。ふたりは、女性の裸を見ると陰茎が勃起することについて話し合った。その現象については気づいていたが、どうしてそうなるのかふたりにはわからなかった。正吉が杵次(大友柳太朗)に質問したところ、「フキノトウが春に大きくなるのと同じ事だ」という返事があったという。純と正吉には意味がさっぱりわからなかった。
さらに正吉は、自分の経験談を話し始めた。最近結婚した夫婦の家のそばを通りがかった時、中から新婦の笑い声と泣き声の混じったような声が聞こえてきたのだという。それを聞いた時、正吉の陰茎が勃起したのだという。純にはそれがどういうことか想像できなかった。そこで、その日の夜、ふたりで声を聞きに行くことにした。

夜になって、純は星の観察に行くと嘘をついて家を出ようとした。しかし、螢も星を見たいといって付いてきてしまった。純と正吉は走って振り切ろうとするが、螢は足が早くて逃げきれなかった。走り疲れた3人は、野原の上に倒れ込んだ。
その時、夜空に大きな光が見えた。それは色が変わったり、ジグザグに動いたりしていた。3人はUFOに違いないと思い、追いかけた。しばらく追いかけると、森の上に停止して、まるで誰かと会話をするように色が変わり、柔らかく光った。呆然と眺めていると、UFOは突如舞い上がって消えてしまった。

あっけにとられていると、UFOがいたあたりから誰かが歩いてくるのが見えた。3人は慌てて物陰に隠れ、様子を伺った。すると、担任の凉子先生(原田美枝子)が朗らかに「365歩のマーチ」の鼻歌を口ずさみながら歩き去った。涼子は宇宙人と親しい間柄なのかもしれないし、そもそも宇宙人が涼子に化けているのかもしれないと思われた。
自分たちが秘密を見てしまったことを宇宙人に知れると危険が及ぶように思われた。だから、今夜のことは3人の秘密にした。

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フジ『北の国から』第13回

留守にしていたせいで放送に4日ほど遅れをとってしまい本作についてはもう追いつく見込みはなくてしょんぼりしているし、『おしん』の方に関してはもう全く余裕が無いので諦めようかとまで思いつめた当方が、BSフジ『北の国から』の第13回を見ましたよ。

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1981年(昭和56年)5月。
螢(中嶋朋子)は山でフキノトウを採り、野鳥やキツネ、満開の桜の様子などを見て春の到来を感じた。

一方、その日の朝、純(吉岡秀隆)は雪子(竹下景子)と共に東京へ旅だった。令子(いしだあゆみ)が病気で入院したというので、見舞いに行くことにしたのだ。螢は学校があると言って来なかった。純は金曜日に東京に来て、翌火曜日に帰る予定であった。

令子は、純が突然現れたことに驚きつつも、大いに喜んだ。純の滞在が短いと聞きつつも、相好を崩した。

一方の雪子は、令子の入院している病院の雰囲気を訝しんだ。あまり大きくはない病院だからだ。その上、令子は胆石で入院したはずなのに、レントゲン検査してみると何も写らなかったのだという。令子は、神経性のもので心配はないと笑って答えるのだった。

美容室の従業員が、入院中の令子の身の回りの世話をしていた。彼女は雪子にこっそりと事情を話した。
令子の病気の原因は分からないが、ひどい痛みを伴っているという。苦しむとモルヒネを投与するという対処療法しか行われておらず、入院してからもひどくなる一方なのだという。もっと大きな病院で精密検査を受けた方が良いと勧める人もいるが、令子は聞く耳を持たないのだ。それというのも、令子の恋人・吉野(伊丹十三)が紹介した所だから。吉野の上司の親戚の病院であり、彼の立場が悪くなるのを懸念して転院しないらしいのだ。
雪子は、令子に転院を勧めた。しかし、やはり令子は何かと別の理由を述べて、ごまかすのだった。すると、薬の切れた令子は痛みに苦しみ始めた。すぐに医師が呼ばれ、注射を打たれると眠ってしまった。純は、そんな母の様子にショックを受けた。

その夜、雪子は東京の友人を訪ねた。彼女は元看護師で、夫は勤務医である。彼女に令子の状況を相談したところ、やはり転院を勧められた。砂のように小さい胆石は発見が難しいので、大きな病院できちんと検査した方が良いという意見だった。彼女の働いていた病院でも、似たようなケースがあり、その患者は痛みに苦しみながら死んでいったのだという。彼女の夫は、令子の受け入れ体制を整えてくれた。
令子の件が落着すると、話は雪子の恋人の方へ向かった。雪子が北海道で暮らし始めた理由は、現地に新しい恋人ができたせいであろうとカマをかけられた。雪子は何も答えなかったが、脳裏は草太(岩城滉一)のことでいっぱいになった。

純と雪子は、令子のアパートに滞在することとなった。そのアパートは、黒板家が以前に住んでいた場所から近かった。
雪子が知人を尋ねて留守の間、純は東京時代の同級生・恵子(永浜三千子)に会いに行った。彼女は英語塾に通っているというので、それが終わるまで教室を覗くことにした。ところが純は、恵子の姿が見れた喜びよりも、自分が取り残されてしまったショックに苦しめられた。以前、純よりも出来の悪かった友達が、今では見違えるようにスラスラと英語で受け答えしていた。たった半年の間で、自分がひどく遅れてしまったと思った。辛くなり、その日は恵子に会わずに帰ってしまった。

翌日の土曜日の朝、純は登校途中の恵子を待ちぶせた。恵子は純の姿を見るなり、再会を喜んでくれた。それが純には嬉しかった。放課後、恵子の他、懐かしい友だちが数人集まった。
けれども、純は彼らの話の輪に入れなかった。彼らは最新のテレビや音楽の話で盛り上がっているのだが、それらの情報から隔離されている純には何もわからないのだ。隅で一人でヘッドフォンをつけて音楽を聞かせてもらっていた。不意に、北海道の野生動物の話を聞かれた。純は、ここぞとばかりに、ホラを吹いた。リスやキツネはもちろん、クマを間近で見ることも日常茶飯事だなどと言ってしまったのだ。東京の友達たちは感心して聞いてくれたが、純は終始傷ついていた。自分がすでに東京の人間ではなくなってしまっていることが悲しかったのだ。

その後、純は令子の病室に向かった。そこでは雪子と令子が言い争いをしていた。勝手に転院の準備を進めた雪子に対して、令子が腹を立てているのだ。令子は決して承諾しなかったし、吉野に話したら許さないと声を荒げた。
その時、ちょうど吉野が見舞いに現れた。令子は、純に対しては吉野のことを高校時代の友人だと紹介するに止めた。吉野は気さくに馴れ馴れしく、純に話しかけた。純は、吉野のことが気に食わなかった。特に、自分の母のことを名前で呼び捨てにしていることが特に気に入らなかった。

翌日曜日。
病院に行こうとしていたら、アパートへ電話がかかって来た。吉野が純を映画に連れて行ってくれるという。純は吉野と一緒に出かけることなどごめんだと思ったが、子どもなりに気を使って大げさに喜んでみせた。純は渋々出かけていった。映画は『宇宙戦艦ヤマト』だった。昨日、東京の友達たちが見たいと言っていた映画だ。彼らより先に見れることで鼻が高い思いがした。ところが、アニメ映画に退屈した吉野は眠りに落ちてしまい、大きないびきをかきはじめた。いくら揺すっても起きないし、周囲の観客からは白い目で見られるので、純はいたたまれなくなり映画の途中で席を立ってしまった。

その後は、遊園地に連れて行ってもらった。吉野は、ジェットコースターなどに付き合って乗ってくれた。
遊園地には、パンチングマシンがあった。拳で殴りつけると、その威力に応じた評価がなされる遊具だ。純が挑戦するも、ほとんど最低の評価しか得られなかった。不良たちがやって来て、純をバカにして見せつけるように殴りつけた。すると、かなりの好成績が得られた。純は感心した。
その様子を見ていた吉野が、自分も挑戦しようと進み出た。不良たちからは、「おじさんがやっても怪我をするだけだ」などとバカにされるが、吉野は無言で挑んだ。すると、不良たちの成績を越えたのはもちろん、パンチングマシンの最高評価を獲得した。不良たちは目の色を変えて吉野を称えた。

はやし立てる不良たちを尻目に、吉野はほぼ無言で立ち去った。唯一、ボクシング経験があるのかと問われ、「真似だけな」と答えるに留まった。純は、吉野のその一言に惚れた。実力者なのに、クールに謙遜する態度がとてもかっこよく見えたのだ。たとえば、同じくボクシングの練習をしている草太なら、軽薄な表情で聞かれもしないことまでベラベラと話すことだろうと想像された。それとは全く違う吉野の様子が素敵に思えた。

それでも、純は自分が吉野のことを気に入り始めたことを表に出すことははばかられた。
食事をしながら、令子や純自身の今後の事を聞かれたが、素っ気ない喧嘩腰の口調で答えた。自分は数日のうちに北海道に帰るので、あとは吉野にすべて任せると言うのだった。
ところが吉野は引き下がらなかった。男が一人でいることと、女が一人でいることはそもそも意味合いが違う。そうであるにもかかわらず、黒板家では令子だけを一人ぼっちにして、父がふたりの子どもを連れて行ってしまった。それは不公平だと言い、純が東京で令子と共に暮らすべきだと説得した。
純は、母には吉野がいると指摘した。純は、令子と吉野の交際については知らんぷりをするつもりでいたが、つい勢いで口走ってしまった。吉野がもう二度と令子に会わないと約束するなら、自分は母と一緒に暮らすと言い加えた。吉野は、それについてはどうなるかわからないと答えた。わからないことについては約束できないと、理路整然と答えた。
純は、大人相手にすごい話をしていると思った。吉野が令子と結婚する気でいることもわかった。一方で、もう吉野のことは嫌いではなかった。

その後、純は一人で令子の病室に来た。吉野のことを聞かれ、純は楽しかったし、良い人だったと答えた。令子は純のためにガンダムのプラモデル(1/60; 当時2,500円)を用意しており、純は大喜びした。ただ、それと引き換えのように、令子は純が本当に北海道へ帰るつもりかと聞くのだった。純はプラモデルに熱中するふりをして何も答えなかった。

直後、恵子が見舞いに来てくれた。ふたりで外に遊びに出かけた。
恵子も純が北海道に帰ることを残念がった。一人ぼっちになる令子もかわいそうだと付け加えた。恵子と彼女の母は、純が自宅に下宿してもいいと相談していると打ち明けた。父は外国に単身赴任しているし、兄も大阪に下宿している。母子2人きりで寂しいので、純の居候は大歓迎なのだという。なんなら、令子が退院したら一緒に住んでも良いと言うのだ。令子は美容室の仕事で忙しいから、家事の負担が減るのは嬉しいはずだと述べた。

純は北海道に帰ることを迷い始めた。
夜、雪子に正直に相談した。母のことが心配になってきたこと、吉野に父だけが子どもを引き取ることは不公平だと言われたことなどだ。そして、自分は答えを保留しておきたいのだが、一度北海道に戻って五郎(田中邦衛)の管轄下に入ってしまうと、他の選択肢は全て奪われてしまうのではないかと心配しているのだ。もちろん、五郎や螢と話し合う必要はあることも理解しており、純一人ではどうしていいのかわからなくなってしまったのだ。
結局、雪子に思いを打ち明けても、結論は出なかった。

その頃、麓郷では中畑(地井武男)が五郎を訪ねてきていた。中畑は、東京に言った純のことを案じていた。母や東京に未練のある純のことだから、令子に東京に残ってくれと泣きつかれたら帰ってこないだろうと言うのだ。それに対して五郎は、その時は仕方ないと一言寂しそうに答えるだけだった。

道端で花を摘み、学校から機嫌よく帰ってきた螢は、戸外からふたりの話を盗み聞いてしまった。螢は楽しい気分がいっぺんで台無しになってしまった。

* * *

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メイジ ミュージカライヴ『宇宙少女マミ』

宇宙少女マミ

宇宙少女マミ

1990年にキングレコードから発売された、山瀬まみ主演のVHSソフト。「ミュージカライヴ」とは、ミュージカル&ライヴのことだそうだ。僕の記憶が確かなら、これは当時大阪府で開催された国際花と緑の博覧会(花博)で行われたイベントを撮影したもの。

山瀬まみの生い立ち(花博とは全く関係がない)に始まり、会場に向かう道中の山瀬まみへのインタビュー(花博とは全く関係のない話)、ミュージカライヴ、山瀬まみが出演している明治のCMなどが収録されている。全57分。

ミュージカル部分には一応ストーリーがある。山瀬まみと相手役の真矢武は遠い星からやって来た宇宙人。彼女らの星は環境破壊が激化し居住が困難になってしまった。移住先の調査のためにふたりは地球にやって来た。地球の環境の素晴らしさに感動したふたりだが、地球でも環境破壊が進みつつあることに懸念を表明する。そして、調査を終えて母星へ帰っていくという内容。
環境がどうのこうの言うあたり、花博向けってことらしい。たぶん。
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フジ『北の国から』第12回

本日、女性をデート(デート?デートなのか!?)に誘うメールを書くにあたり、別の女性に文面を添削してもらうというただでさえ無様な状況に陥ったわけだが、その文案に一発でOKが出てしまい、本業の論文では不採録ばかりなのに、こういう文章ばかり修正なしで採択されるというとても無様な自分に情けなくなった当方が、BSフジ『北の国から』の第12回を見ましたよ。

* * *

つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が家出して2日が経った。しかし、彼女の行方は知れないままだった。純(吉岡秀隆)が五郎(田中邦衛)につららの事を聞くと、五郎はその話をするなと言ったきり、二度とその話題に触れなかった。

螢(中嶋朋子)が餌付けしていたキタキツネがトラバサミの罠にはまったのも2日前だ。そのキツ目もトラバサミをぶら下げたまま姿を消し、二度と表れなかった。
山歩きをしていたクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)が、トラバサミの罠をいくつか見つけた。全て解除し、そのうちの一つを持ち帰り五郎や中畑(地井武男)に見せた。クマによれば、罠は雪を使って巧妙に隠されていたという。トラバサミ猟は免許が必要であり、今回仕掛けた人物もかなりの手練だろうと予想された。1月下旬に禁猟になるため、駆け込みで猟をしているらしかった。

1月20日、小学校が再開された。
中畑の娘であるすみえ(塩月徳子)が、螢のキツネが罠にかかったことをみんなに知らせた。それをきっかけに、涼子先生(原田美枝子)は子供たちに野生動物との付き合い方について議論させた。純をはじめ、ほとんどの子どもは動物を狩ることは残酷だと主張した。特に、螢がかわいがっていたキツネならなおさらだという論調だった。

そんな中、正吉(中澤佳仁)だけは堂々と反対意見を述べた。キタキツネは家畜や畑を荒らす悪い動物なのだから、狩られて当然だと言いはった。そもそも螢が餌付けしたことで人里に近寄るようになったのであり、人の生活圏にやって来ていつ悪さをするかわからないし、早く仕留めてよかったなどと主張した。
涼子先生は正吉の話を引き継いだ。キツネは野生動物であり、自力で獲物を飼って生きている。人が餌付けすると、餌の獲り方を忘れてしまい、自然の中で自活できなくなってしまうかもしれない。それは自然の摂理に反すると言うのだった。正吉は得意になったが、他の子供達は納得がいかなかった。議論は平行線のままだった。

放課後、正吉は一人で涼子先生を訪ねた。
正吉は、自分の祖父・杵次(大友柳太朗)がトラバサミを仕掛けていることを知っていた。そのことを打ち明けに来たのだ。杵次は若い頃から冬には必ず動物を狩っているという。正吉は、キツネの毛皮で暖かいチョッキを作ってもらったこともあるという。けれども、まさか螢のキツネが罠にかかるとは思ってもいなかったと、苦しい胸の内を明かした。特に、杵次が集落でも鼻つまみ者であることを知っているだけに、正吉はますます不安になるのだった。
涼子は、正吉に他言しないよう助言した。杵次が長年続けてきた生活を誰にも非難する権利はない。だから、正吉は何も気にすることはないと言って慰めるのだった。
帰宅した正吉は、杵次にもう二度とキツネを取らないように頼んだ。チョッキはいらないので、狩りはしないでくれと言うのだった。

その日の夜。
螢は自責の念にかられていた。正吉の言うように、自分が餌付けしたせいでキツネを不幸な目に合わせたのではないかと後悔していた。寝室でそのことを純に話した。
しかし、純は螢の話をさっぱり聞いていなかった。純は五郎と雪子の関係が気になって仕方がなかった。正吉が言ったように、五郎と雪子が男女の仲になっているというのは、もしかしたら真実かもしれないと疑う気持ちがあるからだ。

そして、五郎と雪子は居間で並んで仕事をしていた。雪子は五郎にポツリポツリと話しかけた。草太(岩城滉一)は多くを語らないが、どうもつららを探しに回っているという。どうも旭川のあたりにいるらしいことがわかったという。それを聞いても、五郎は何も答えなかった。
さらに雪子は、草太の家の牧場を手伝いに行っているが、自分が歓迎されてない気がすると打ち明けた。どうも、自分を雇うことは草太が独断で決めたことで、草太の父・清吉(大滝秀治)らとは相談していないようだと言うのだ。清吉は雪子と口を利こうともしないのだ。五郎は雪子の懸念を否定した。清吉は元来無口な性格なので、気にすることではないと言って慰めた。

翌日の放課後、涼子先生は純と螢を職員室に呼び出した。
涼子は、トラバサミを仕掛けた人物を恨んではならないと諭した。たとえばネズミは倉庫の野菜をかじるし、鹿は畑を荒らして人を困らせる。それと同じように、キツネも害をなすのだ。麓郷に住む人々は決して裕福ではなく、大変な苦労をしながら生きている。害獣を始末したり、その肉や毛皮を利用する人がいるのも仕方ないと説いた。そういう習慣を長く続けてきた人々がいることを理解し、彼らの生き方や思いを理解し、決して憎むなと言い聞かせた。
純は、涼子の言うことはもっともだと思った。しかし一方で、どうしても納得いかない気持ちもあった。

純と螢が家に帰ると、ちょうど自家風力発電装置が完成するところだった。家の中の電灯を光らせることに成功した。一同は大喜びした。その日は雪子の誕生日だった。電気の開通と雪子を祝うパーティーを行うことを計画した。

その頃、草太の牧場で働いていた雪子は、清吉に呼び出された。清吉は、単刀直入に雪子に働いて欲しくないと告げた。
まずは、経営上の問題がある。彼らの牧場は3軒の家庭で共同経営している。ところが、その3軒を養うのも難しいほど経営が苦しい。雪子を雇う余裕などそもそもなかったのだ。
続いて、草太に関する問題がある。雪子の雇用は草太が勝手に決めたことで、清吉には何の相談もなかった。それに、草太はつららと結婚して家を継ぐはずだった。草太が勝手に鞍替えしたこととはいえ、雪子の登場で予定が狂ってしまった。百歩譲って、雪子が牧場の嫁となって家を助ける覚悟なら問題はない。しかし、都会に帰るつもりなら、二度と出入りしないで欲しいと言うのだ。草太が後に引けなくなって、雪子を追って家を出ると困るのだ。
それに関して、清吉の仲間の問題がある。本音を言えば、清吉は自分の代で麓郷の生活は終えてもいいと思っている。4人の息子たちはすでに麓郷を出たし、5人目の息子である草太がそうするのも仕方ないと思っている。けれども、この集落の開墾で苦楽を共にした仲間を裏切ることはできないと考えている。その仲間の一人がというのが、つららの兄である吉本辰巳(塔崎健二)だ。草太はつららと結婚する約束をしていて、両家もそのつもりだった。草太がつららを捨てたことは、全て草太の悪行であり、雪子は巻き込まれただけであり濡れ衣だ。それでも、辰巳への義理として、雪子を置いておくわけには行かないと言うのだ。

雪子は反論もできず、泣きながら家へ帰った。途中で草太と出くわしたが、雪子は口も聞かずに、雪道を歩いて家路についた。

雪子が家に着くと、家は真っ暗だった。落ち込んだ気分のまま家に入ると、突然部屋が明るくなった。中畑の家族やクマらまで集まっていて、みんながバースデー・ソングを歌ってくれた。電気が開通したことも知らなかったし、まさか自分の誕生日を祝ってくれるとも思っていなかった。雪子はみんなの前で涙ぐんだ。それでも、みんなで明るく楽しいパーティーとなった。

薪がなくなったので、五郎と純、螢は外に取りに出た。すると、杵次が立っているのを見つけた。五郎は家の中へ誘うが、杵次は固辞した。杵次は風力発電に成功したことを複雑な思いで見ていた。それから杵次は、五郎に馬を買うことを持ちかけた。五郎は返事を保留した。それに構わず、杵次は一人で静かに話し続けた。今の馬は20年買い続けて、多少情も移っている。けれども、名前をつけてやらなかったと後悔を表明した。
そもそも、このあたりでは馬に名前をつける習慣は無かったという。名前をつけると情が移り、手放すときに辛くなるからだ。それというもの、このあたりの農家はとても貧しい。夏に一生懸命働いても、冬を越すだけの蓄えができない。そこで、冬になると決まって馬を売って金に変えたのだという。そして、春になると農作業用の馬を新たに買う。いちいち名前をつけてかわいがる暇はないのだ。
冬に馬を売り、春に購入するためには、金を準備する必要がある。そのため、冬の間に動物を狩って毛皮を売っていたのだという。杵次にとって、それが当たり前の生活なのだ。この冬は正吉のために毛皮のチョッキを作ってやるつもりだったと語った。そして、キツネがやられたトラバサミは自分が仕掛けたものだと告白した。ただし、正吉は何も知らないことだから、彼を恨まないでくれと頼み込んだ。純と螢は受け入れた。
そこまで話すと、杵次は家へ帰って行った。

それから時が流れ、4月になった。黒板家が麓郷に住み始めてから半年が過ぎた。純と螢はすっかりここでの生活に慣れ親しんだ。雪が溶け始め、一部では土も見えてきた。春がもう目の前だった。純と螢は山で大量にふきのとうの若芽を摘んだ。

* * *

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フジ『北の国から』第11回

朝ドラ『カーネーション』で三浦組合長(近藤正臣)が「はずれても、踏みとどまっても、人の道」と言っていたなぁと思い出した当方が、BSフジ『北の国から』の第11回を見ましたよ。

* * *

純(吉岡秀隆)と雪子(竹下景子)の遭難騒ぎを引き起こした吹雪がやっと去った。麓郷に青空が戻った。
螢(中嶋朋子)は真新しい雪の上にキタキツネの足あとを見つけた。純がむしゃくしゃして石を投げつけて以来(第5回)、姿を見せなかったキツネが戻ってきたようだ。螢とともに、純も喜んだ。

五郎(田中邦衛)は杵次(大友柳太朗)を訪ねた。純と雪子は、杵次の馬のおかげで命が救われたのだ。その礼として、日本酒の1升瓶と現金1万円を携えてきた。貧乏な五郎にとっては、それが精一杯だった。ところが杵次は、酒は貰うが現金はいらないと言い出した。額が少ないとケチをつけた。家族の命の代償としては安すぎる、最低でも10万円は持って来いと言うのだった。五郎は食い下がったが、どうしても金を渡すことはできなかった。
困った五郎は、つい軽い気持ちで中畑(地井武男)や クマ(南雲佑介/現・南雲勇助)らに顛末を話してしまった。中畑らは、ケチでずる賢い杵次の言いそうなことだと言って、口々にバカにした。そして、そのことをあちこちで面白おかしく言いふらすようになった。

吹雪で停電の間、草太(岩城滉一)は自宅の牛舎の管理に奔走していた。そのため、雪子らが遭難して九死に一生を得たことを知らなかった。話を聞くやいなや、雪子の家まで会いに来た。風邪気味だという雪子の熱を測るために、草太は自分の額を雪子の額にくっつけた。そのどさくさに紛れて、草太は雪子にキスをした。雪子は子供たちに見られるのを気にして抵抗する素振りを見せたが、まんざらではない様子でもあった。
また、草太は、雪子が自分の牧場で働けるように手配したと告げた。仕事を探していた雪子は、早速翌日から働きに出ることになった。毎朝、草太がわざわざ雪子を迎えに来た。牧場でも、草太は鼻の下を伸ばしながら、雪子につきっきりで仕事を教えた。

それからというもの、純はつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に付きまとわられた。つららは純に話があるといって追いかけてくるのだ。純には、草太と雪子の関係がどうなっているか聞かれるのだろうと予想できた。純にも詳しいことはわからないし、面倒なことに巻き込まれたくないので、純は逃げまわってばかりいた。そもそも、二股をかけた草太が悪いのだと腹をたてるのだった。

そんなある日、正吉(中澤佳仁)が見知らぬ男子中学生と共に純を物陰に呼び出した。そして、ふたりで純を小突き回した。正吉の言い分は、祖父の杵次が馬の出動料として10万円を請求し、そのことを五郎と純が言いふらしたために街中で物笑いの種になっているというものだった。純にとっては寝耳に水だったが、正吉は聞く耳を持たなかった。さらにふたりは、五郎と雪子が男女の仲だという噂が流れていると言い、五郎を侮辱した。さらに、純が同級生の中畑すみえ(塩月徳子)と仲良くしていることを引き合いに出し、親子揃ってスケベだと言ってバカにした。純は根も葉もない噂だと否定したが、自分から手を出すことはできず、ふたりの暴力になされるがままだった。

草太の牧場に、友人の川島(小松政夫)が訪ねてきた。話があるから夜に時間を作ってくれというのだ。草太は気乗りしなかったが、しつこく頼まれるので承諾した。その時、川島は牧場で働く雪子を初めて見て、一目惚れしてしまった。

その夜、草太は約束通り居酒屋にやって来た。川島は会うやいなや、雪子は高嶺の花なので草太がものにするのは無理だと告げた。その代わり、つららと添い遂げろと言うのだった。つららは草太と結婚するつもりでこれまで付き合っていたのだし、草太の両親(大滝秀治今井和子)も彼女のことを気に入っている。草太もそのことは理解していたはずだ。それにもかかわらず、つららを捨てて雪子に乗り換えることは人の道を外れることだと川島は説いた。
川島は、つららに泣きながら相談されたという。それで川島もつららの味方になることにしたのだ。近所の喫茶店につららを待たせているから、今すぐに会いに行けと草太に告げた。

草太は指定された喫茶店へ向かった。離れた場所から覗くと、窓際につららの座っているのが見えた。草太はしばらくつららのことを見ていた。そして、喫茶店へは入らず、そのまま帰ってしまった。雪子に会いたくなって黒板家に立ち寄ったが、そこにはすでに川島が来ていた。ふたりは気まずそうに睨み合うのだった。

あくる日、純は草太に会いに来た。そして、ケンカのやり方を教えて欲しいと頼んだ。草太はまじめに取り合わなかったが、正吉が雪子と五郎ができていると吹聴したことがケンカの原因だと知ると、俄然純の味方をする気になった。草太が立会人となって、純と正吉が果し合いをすることになった。純は、草太から教えられた通り正吉の睾丸を握って苦しめ、ケンカに勝った。そして、そもそもが子どものケンカなので、それでふたりは仲直りした。
一方の草太は、雪子を侮辱されたことが未だ許せず、彼女を馬鹿にすると純以上の力で睾丸を握りつぶすといって脅かすのだった。

その晩、草太は父・清吉から説教された。前の晩につららが会いに来たのだという。清吉もつららの味方だった。むしろ、雪子のような都会の女は北海道の農家に嫁に来るわけがないと、初めから決めてかかっていた。今までに、北海道での暮らしに憧れてやって来た若い娘たちはたくさんいたが、いずれも生活の厳しさにへこたれて逃げ帰ってしまったのだ。
一方的に言われ、草太は頭にきた。自分もこの土地を出て行きたいののに、仕方なく残ってやっているのだなどと捨て台詞を吐き、家を飛び出してしまった。

富良野の街で、草太は酒をあおった。そんな草太を見つけた街の若い者は、草太との関係を知った上で雪子のことを侮辱した。曰く、雪子は五郎の先妻の妹だが、五郎と雪子が一線を越えて男女の仲になったから先妻が離縁状を叩きつけたというのだ。ただでさえむしゃくしゃしていた草太は、店内で大立ち回りをした。ボクシングのトレーニングをしている草太がケンカを始めると、誰にも止められなかった。すぐに警察が呼ばれ、草太は交番に連れて行かれた。

交番に着く頃には、草太はすっかり落ち着いて、おとなしくしていた。草太の取り調べにあたった刑事(蟹江敬三)は、高校時代によく張り合った他校の生徒であることがわかった。昔のよしみで、ふたりは世間話を始めた。その時、刑事の元に家出人捜索願の情報が入った。刑事はその書類を草太に見せた。
なんと、つららが失踪したというのだ。家に置き手紙が残されており、金や通帳がなくなっていた。ただし、行き先は一切記されていなかった。

開放され、行き先のなくなった草太は黒板家に向かった。すると、つららの兄・辰巳(塔崎健二)が捜索用に借りた五郎の車を返しに来た。そこで、草太と辰巳は顔を合わせた。辰巳は無言のまま草太に近づくと、草太を殴り倒した。草太は無言のまま無抵抗だった。五郎が辰巳を押しとどめると、辰巳は草太に唾を吐きかけて帰って行った。草太はいつまでも雪の上に倒れていた。五郎は草太を1度だけ優しく撫でると、やはり無言のまま家に入っていった。

その一部始終を見ていた純は、辛抱たまらずに2階の寝室に駆け上がった。そこでは、雪子が寝袋に包まって寝ていた。風邪で熱があり、頭もいたいと訴えている。純は雪子を許せなかった。つららが家出をしたと乱暴に言い捨てると寝室を出て行った。

居間では、五郎は何事もなかったかのように、風力発電用のプロペラを磨きあげていた。螢は食後の後片付けをしていた。全員、何事もなかったことを装っているかのようだった。

その時、家の外からキツネの鳴き声が聞こえた。螢は例のキタキツネが帰ってきたのだと思い、餌を持って外へ飛び出した。しかし、キツネの様子はおかしかった。目を凝らして見てみると、足に不審な金具がついていた。五郎は、トラバサミの罠にかかったのだと教えた。螢は泣きながらキツネに走りより助けようとしたが、キツネはすでに遠くまで去っていた。五郎と純は悲しみながらその様子を見ていた。

トラバサミに挟まれたキツネの足跡は、いつもと違って、雪の上でジグザグに伸びていた。五郎は、翌日明るくなったら足あとを追ってキツネを探しに行くと約束した。
しかし、その日の晩から雪になった。翌朝には足あとは全て消えてしまっていることだろう。

* * *

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手ぬぐいは濡れるか?

NHK『おしん』第13-18回(第3週)

どうも自宅HDDレコーダーが不調でDVDに移すことができず、せっかく全話をDVDに保存しておこうと思ったのにそれができないとなるとすごく萎えてしまうだろう当方が、NHK連続テレビ小説アンコール『おしん』の第3週を見ましたよ。

* * *

(第13回)
おしん(小林綾子)は、つね (丸山裕子)の金を盗んだという濡れ衣を着せられた。どんなことがあっても春までの辛抱だと耐えていたはずなのに、我知らず緊張の糸が切れ、無断で奉公先を飛び出してしまった。実家に帰るつもりで山に入っていったが、激しい吹雪となり、おしんは行き倒れてしまった。

おしんが目を覚ますと、粗末な山小屋の藁布団の中で、知らない男と一緒に寝ていた。
男は俊作(中村雅俊)という猟師だった。松造(大久保正信)という老人とともに、山の中で暮らしているという。俊作は山の中で凍死寸前のおしんを見つけ、小屋まで運んで一晩中暖め続けたので。おかげでおしんは九死に一生を得た。

おしんは一晩で回復したので、松造はおしんを山の麓まで送って行こうとした。しかし、おしんは帰ることを拒否した。逃げ出してきた奉公先には戻りたくないし、実家に帰るわけにもいかない。どこにも行き場所がないと訴えた。その話を聞いて、俊作はしばらく預かってやることにした。おしんには深い事情があるのだろうと察したのに加え、いずれにせよこの深い雪では故郷に帰れるわけもないからだ。春まで置いてやることにした。

陰で、松造は俊作に小言を行った。自分たちは世間から隠れて山に暮らしているのに、よそ者と関わるろくな事にならないというのだ。後におしんが自分たちの居場所を漏らしてしまうと、命が危なくなる。隠れ家の場所を深く知る前に帰すのが得策だというのだ。しかし、俊作は聞き入れなかった。おしんも自分たちと同じように何かから逃げている。そのような人間を放ってはおけないというのだ。

その頃、おしんの奉公先では騒ぎになっていた。
つねの財布からなくなっていた50銭銀貨は、主人・軍次(平泉征/現・平泉成)が無断借用したと言うのだ。支払いをするときにちょうど銭がなかったので、そこにあった財布から借りたのだ。軍次はうっかりしていて言い忘れたと謝った。おしんの所持していた銀貨は彼女自身のものだったということが証明されたのだ。
しかし、主人の行いに対して、つねは何も抗議しなかった。その上、おしんに気の毒をしたと反省する色も見せなかった。おしんは自分が米1俵と引き換えに奉公に来たということをよく理解しており、その責任を果たすために、すぐに戻ってくるだろうと楽観的に考えるばかりだった。

おしんには、俊作と松造が何者かはわからなかった。しかし、一見怖い顔の俊作ではあるが、どことなく眼差しが優しいことに気づいていた。おしんは俊作に妙な安らぎを感じ取っていた。

(第14回)
俊作らは粗末な暮らしをしていた。猟で仕留めた獣や少ない野菜を煮込んだものを食べていた。動物の毛皮や山で作った炭を春になったら麓に売りに行き、他の必要な物を手に入れるのだという。それでも、おしんには目新しい生活が楽しくて仕方なかったし、毎度暖かい食事にありつけるのもありがたかった。

おしんは、奉公先を飛び出した経緯を話した。奉公が辛かったり、盗みの疑いをかけられたことを苦にして逃げたのではないと説明した。奪われた50銭銀貨は、自分がどんなに腹が減っても使わなかった金だ。同じように、祖母(大路三千緒)が食べるものを我慢して作ったへそくりだ。その金が奪われたことを悲観し、また、実家に繋がる川の流れを見ていると、我知らずに歩き出してしまっていたと話した。

俊作はおしんに同情した。おしんの名は「信」(信じる)、「心」(こころ)、「芯」(物事の中心)、「新」(新しい)、「真」(真実)、「辛」(辛抱)、「神」など、様々な意味を持ち、良い名であると褒めた。その名前に負けないように、強くい生きろと励ました。そして、これまでの辛かったことは全て忘れて、春までゆっくりとここで過ごせと言うのだった。

しかし、松造は俊作とは反対の立場だった。ここでの生活が他人に知られると身が危険であるばかりか、そもそも質素な生活であるところにおしんの食料まで負担が増えるというのだ。それにもかかわらず、俊作はおしんが満腹になるまで際限なく食事を与えた。
松造は、貧乏な農家の三男として生まれたという。幼い頃は村長の家で奉公し、年季が明けて実家に帰ったが相続する土地がなかった。仕方なく、山へ入り炭焼の仕事を始めた。貧乏なためになかなか結婚できなかったが、なんとか妻を娶り2人の息子も生まれた。ところが、そんな息子たちに残す財産などあるはずもなかった。息子はいずれも軍人になり、日露戦争の203高地(中国旅順)で2人とも戦死した。以後、ひょんなことから俊作と出会い、親子同然として暮らして今に至る。
松造は、おしんの前であることも忘れ、俊作に自分の命を大切にしろと説得するのだった。

それでも、おしんが俊作らと暮らし始めて20日ほどが過ぎた。俊作の猟について行ったり、松造の炭焼を見学したりと、全てが新鮮であった。実家のことも奉公先のことも、全ては遠い世界のおとぎ話のように思えてくるのだった。

その頃、つねは源助(小倉馨)を呼びつけていた。彼がおしんの奉公を世話したのだ。いなくなってから20日も経ったのだから、もう実家に帰っているに違いない。おしんは年季明けの前に帰ってしまったのだから、先払いした米1俵を取り返して来て欲しいというのだ。おしんは使い物にならないので、もう帰ってくる必要はないと告げた。
ただし、おしんから取り上げた50銭銀貨だけは源助に託し、本人に帰すよう頼んだ。

(第15回)
源助はおしんの実家に来て、力づくで米を奪っていった。
ふじ(泉ピン子)と作造(伊東四朗)はおしんが出奔したことなど初耳で、おしんも帰っていないと訴えるが源助は容赦がなかった。

作造は激怒した。今後おしんが帰ってきても、二度と敷居をまたがせないと息巻いた。
一方のふじはおしんがもう死んでいるものと思った。この雪深い中、子どもが一人で山に入ったら到底生きているはずがないからだ。せめて遺体だけでも探そうと飛び出したが、作造が押しとどめた。子どもはおしんだけではなく、先日生まれたばかりの赤ん坊も含め、他の家族もいる。それらの面倒も見ずに家をでることは許されないというのだ。ふじは悲しんだ。
源助が持ってきた銀貨は、祖母の手に戻った。最後の望みの現金すら持たずに飛び出すとは、おしんに何があったのか想像もつかなかった。

俊作の家で世話になっているおしんは、せめてもの償いにと、あれこれよく働いたし、あかるく健気だった。
ところが、俊作はおしんが必要以上に働くと、怒るような素振りを見せた。おしんには理由がわからなかったが、俊作は必要以上に情が移ったり、懐かれたりするのを避けようとしていたのだ。むしろ、そういった感情を抑えることがすでに難しくなっており、俊作はおしんを預かったことをすでに後悔し始めていた。

俊作は、複雑な思いを抱えながら、戸外でハーモニカを吹いていた。それは肌身離さず、いつも持っているハーモニカだった。ハーモニカを初めて見聞きするおしんは、それが珍しくて仕方がなかった。そばによってよく聞こうとするが、俊作は無言で立ち去ってしまった。
おしんは悲しくなった。ここでも自分は邪魔者扱いされているのだと思ったのだ。この世で自分に優しくしてくれるのは、実家の母と祖母しかいないと思った。

そんなある日、俊作が酷い熱を出して倒れた。服を脱がすと、腹に大きな傷跡があった。松造によれば、その古傷のせいで、俊作はよく高熱を出すのだという。203高地での戦闘の際に当たった銃弾が体内に残り、それが原因なのだという。
おしんは、寝ずに看病を行った。一晩中、何度も外に出ては雪を取ってきて、それを溶かした水で俊作を冷やしてやった。俊作が目を覚ますとおかゆを作ってやり、汗で汚れた衣類はすぐに外へ洗いに行ったし、着替える前の衣類は火で炙って暖めた。

(第16回)
おしんの献身的な看病が俊作の心を開いた。体調が回復すると俊作は字を教えた。おしんにとっては、字を習うことも嬉しかったが、それよりも俊作の優しさが何より嬉しかった。

俊作らの貧しい生活には、まともな文房具などなかった。そのため、木の皮や板切れに消し炭で字を書いた。豊かな現代に暮らすおしん(乙羽信子)はその時のことを覚えており、部下や家族が鉛筆やボールペンを粗末にすると今でも怒る。俊作との暮らしで学んだことは、物がなくても幸せになれるということだったという。
そして、もっと重要なことは、生きるとはどういうことなのか多くのことを学んだのだという。

俊作の小屋には何冊かの本があった。その中に、木の葉をしおりにしてある物(『明星』)があったので、おしんは手にとって読んでみた。それは、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」であった。漢字にふりがながあったので、おしんは全て読むことができた。けれども、意味はさっぱりわからなかった。

それは俊作が一番好きな詩だという。俊作は意味を教えた。戦争に行った弟のことを悲しむ歌であり、弟は戦争に行くために生まれ育ったのではない、きっと生きて帰ってきて欲しい、そういう内容だと教えた。続けて、俊作は戦争がいかに馬鹿げていて非人道的なものであるかを話して聞かせた。戦争は相手の物をたくさん壊し、たくさん殺した方が勝つ。人を傷つけることは良くないことだと誰もが知っているのに、戦争の時だけは手柄だといわれる。こんなにおかしなことはないと言うのだ。
そして、将来、日本が戦争を始めようとしたら、全力で反対しろと説いた。一人ひとりの力は小さくても、団結すれば大きな力となって国家を変えられると説得した。おしんはまだ幼かったが、俊作の言わんとしていることはよくわかった。俊作は、その本をおしんにくれた。
俊作は、自分も軍隊で大勢の人を殺したと告白した。だから軍人を辞めたのだと説明した。

(第17回)
正月が近づいた。

ふじは、家から米を1升持ちだして寺へ行った。すでに死んだであろうおしんに戒名を付けてもらうためである。それでも、一番安い戒名しかもらえなかった。その行為に、作造は激怒した。持ち出した米が数日分の食料に匹敵するからだ。それを何の腹の足しにもならないものに変えてきたのが腹立たしいのだ。米がなくなったことの腹いせに、今年の餅つきは中止することにした。人が死んだ家では正月行事を自粛するというのが言い分だった。
ところが、作造の胸には別の思いもあった。まだ、おしんが死んだとは信じたくなかったのだ。おしんが生きていると信じているからこそ、戒名をつけるという縁起の悪い行為が許せなかった。

俊作の小屋では餅つきを行うことになった。これまで餅つきなどやったことはなかったが、今年はおしんがいるので特別だという。この日のためにこっそりと準備しておいたもち米と、松造が手作りした杵と臼が用いられた。それに加えて、おしんの毛皮の羽織を新しく作ってくれた。それまでは俊作のブカブカの毛皮をまとっていたのだが、今度のはおしんの体に合わせて作ってあった。おしんは幸福感に満ち足りた。
本当は、雪が溶けたら麓まで売りに行くはずだった毛皮をおしんのために使った。当初は反対していた松造だが、今ではおしんのことが実の孫のようにかわいく思えてきたのだ。

ある日、九九を覚えたおしんに、俊作は話しかけた。
生きていれば、辛いことや苦しいことに加え、嫌な人間に会うこともある。しかし、恨んだり憎んだりしてはいけない。人を憎んだり、傷つけたりすると、それは結局自分に跳ね返ってくる。その代わりに、相手の気持ちになり、その人がそうする理由を考えろと言うのだ。その時、自分に落ち度があることに気づいたら、そこを直して成長すべきだ。万が一、相手の攻撃に理由がない場合には、その人のことを憐れむのが良い。心が貧しい、気の毒な人間であると憐れむべきだ。
おしんには、人を許せる人間になってほしい。いくら勉学を身につけても、心が豊かでなければそれらを活かすことができない。人を愛することが出来れば、人からも愛してもらえる。そうすれば、心豊かに生きていける。

以上が俊作の教えだった。残念なことに、おしんには「愛」とはなんなのかわからなかった。しかし、俊作が戦争で人を殺したことを悔いていることはよくわかった。そして、愛をまだ知らないが、人を愛する人になろうと決意した。

(第18回)
春が近づいてきた。まだ雪は残っているが、おしんでも歩けるほどまで溶けてきた。

いよいよおしんが去る日が来た。翌朝早く、松造がおしんを送って行くことになった。俊作は逃亡兵として追われる身なので、人里に近づくわけにはいかないのだ。ところが、松造は足を滑らせて捻挫してしまった。しばらくの間、山道を歩くことができない。おしんは、自分の旅立ちが延期されると思い喜んだ。しかし、俊作は予定通り出発すべきだと主張した。帰る日が長引くほど、おしんも帰りにくくなるだろうから、早い方が良いというのだ。俊作が注意深く、麓の村の近くまで送ると言って聞かなかった。

出発の前、おしんはもう一度ハーモニカを聞きたいとせがんだ。ひと通り吹き終えると、俊作はハーモニカをおしんに譲った。今後、おしんには辛いことや悲しいことがあるだろうが、それを吹けば慰めになるというのだ。また、俊作も過去の自分と決別したいと思っていた。そのハーモニカは出征前に購入し、戦場でも肌身離さず持っていた。ハーモニカとともに、戦争の記憶も忘れてしまいたいというのだ。俊作はおしんにハーモニカの手ほどきをした。

そうして、俊作とおしんは出発した。
やっと麓の村が見えてきた時、前方から数人の憲兵隊がやって来るのが見えた。とっさに身を隠したが、俊作はすぐに見つかってしまった。自分は一介の猟師であり、妹を親戚に預けて学校に通わせるのだ、不審なところは無いなどと言い逃れようとしたが、彼らには通用しなかった。抵抗して逃げようとした俊作は、その場で射殺されてしまった。

俊作の最期の言葉は、おしんは後悔のない生き方をしろと言うものだった。

* * *

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フジ『北の国から』第10回

昨夜はかわいこちゃん2人(およびその他)とカラオケに行っていたために本まとめ記事を書けなかったわけだが、今朝『純と愛』を見ていて、昨夜のかわいこちゃんのうち1名が高橋メアリージュンに似てるかもしれないと思いついて、なんとなくテンションの上がった当方が、BSフジ『北の国から』の第10回を見ましたよ。

* * *

純(吉岡秀隆)は自らのおしゃべりのせいで、またしても困ったことになっていた。
正吉(中澤佳仁)の家に遊びに行った時、五郎(田中邦衛)が進めている風力による自家発電のことを話したのだ。すると、正吉の祖父・杵次(大友柳太朗)がそれを聞いており、北海道電力の知り合いにかけあって電気を引いてやると言い出したのだ。人のいい五郎だが、彼は杵次のことだけは嫌っている。純は五郎と杵次の間で板挟みになってしまったのだ。

そんなある日、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)の母・友子(今野照子)が訪ねてきた。五郎が注文していた発電機用の部品が入荷したと、友子の家に電話で連絡があったのだ。ちょうど五郎は留守だったので、雪子(竹下景子)が純と一緒に受け取りに行くことにした。内緒で部品を取ってきて、五郎を驚かせることを画策したのだ。友子の家でライトバンを借り、ふたりは麓郷の街へ向かった。
出発する時は抜けるような青空だった。しかし、天気予報や地元の人々は、午後から天気が崩れて吹雪になると予想していた。けれども、空を見上げた純には、そんな予想が当たるようにはちっとも思えなかった。

その頃五郎は、街中にある中畑(地井武男)の家へ向かう途中だった。そこで正吉とみどり(林美智子)の姿を見つけた。年越しのために帰省していたみどりが、正吉を残して、勤め先の飲み屋のある旭川に帰るところだった。
みどりは、杵次とけんかしたことをポツリと話しだした。原因は家で飼っている馬だという。みどりの言い分は、馬は餌代ばかりがかかって役に立たないのだから売れと言うのだ。自分が旭川で好きでもない男相手に愛想を尽くして仕送りしている金が馬の餌になるかと思うとやるせないと言うのだ。しかし、杵次にとって馬は家族同然で、今の馬とは18年の付き合いだと言う。すでに老馬なので、売ったとしてもすぐに食用肉にされてしまう。みどりは、杵次の気持ちも理解しつつ、ついかっとなって言い争いになってしまうのだといって自嘲した。

みどりらと別れた五郎は、中畑の家へ行った。中畑も杵次の馬のことは知っていた。中畑が聞いた噂では、杵次は馬の引き取り手を探していた時期もあったらしい。ところが、品質からいって10万円もしないような馬なのに、杵次は30万円で売ろうとしたのだという。そのせいで、買い手は見つからなかったのだという。それに、現代では馬はほとんど役に立たないというのだった。

13時頃、発電機の部品を受け取った雪子と純は寄り道をして帰ることにした。突然、純が草太(岩城滉一)の所に寄ろうと言い出したのだ。表向きの理由はスキーに行った時の写真をもらうという事だったが、ませている純は雪子と草太を会わせてやろうと画策したのだ。そのことを告げると、雪子もまんざらではない表情を見せた。それで、山中にある草太の家へ行くことになった。

空が急に曇りだし、純たちが街を出る時に少し雪が降りだした。ただし、いつも見慣れている程度の雪だった。
ところが、山道に入った途端、突如としてひどい吹雪になった。少し行っただけで、視界がほぼ真っ白になった。道路の境目もわからないほどだった。雪子は車の速度を十分に落とし、注意深く運転した。30分ばかり走った。いつもならとっくに草太の家に着く頃なのだが、速度が遅いのでまだ着かない。それどころか、視界が悪くて家の入口すら見えないため、家がまだ先にあるのか、もう通り過ぎてしまったのかすらわからなくなってしまった。

そして、最悪なことに車は雪の吹き溜まりに突っ込んでしまい、スリップして動かなくなった。慌てて雪をはね除けて脱出しようと試みたが、どんどん降り積もる雪の前には埒が明かなかった。手を尽くしたふたりは、車内で吹雪をやり過ごす他に方法がなくなった。

螢(中嶋朋子)が一人で留守番をしていると、杵次が訪ねてきた。螢は杵次とは初対面だったが、正吉の祖父だということは知っていたので家にあげた。すると杵次は、自分が幼かった時の昔話を螢に聞かせた。螢は楽しそうにそれを聞いた。杵次が吹雪の中を馬ソリに乗って来たと聞くと、外まで馬を見に行ったりした。

そこへ、五郎が帰宅した。
杵次の用件は電線の敷設についてだった。杵次は五郎の家まで電気を引き、工事代金も破格にするよう、北海道電力の者に依頼したと告げた。担当者はかなり渋ったが怒鳴りつけて従わせたなどと、自分の手柄を誇った。五郎の計画している風力発電など子どものおもちゃみたいなものだと言い捨てた。それを聞いた五郎は、下手に出つつもきっぱりと断った。
すると杵次は気分を害した。水道の時も役場に掛け合って引かせる杵次の申し出を五郎は断ったことを蒸し返した。そして、五郎が現代文明をわざわざ利用しないでいることを批判した。昔、村には電気が来ていなかった。その時、杵次や五郎の父、中畑の父、その他大勢で運動を行い、やっとの思いで電力供給を実現したのだという。先人たちの努力の結晶と遺産を受け取らない五郎のことが気に喰わないのだという。昔を懐かしがって礼賛するばかりでなく、二度と戻りたくない過去もあることを忘れるなと忠告して帰って行った。

18時になった。
純と雪子が帰ってこないことが心配になった五郎は探しに出かけた。まず、つららの家へ行き、電話を借りて心当たりにかけて見ることにした。ところが、つららの家は停電していた。どうやら、吹雪のせいで送電線が切れてしまったらしく、富良野全体が停電してしまっているようだった。
電話で各方面に連絡を取ったところ、ふたりは13時ころに街を出たこと、草太の家には来ていないことがわかり、結局行方は掴めなかった。さらに、どこの家も停電で大騒ぎであった。最近では、暖房や水道の運転に電力を使用する家が多くなった。それらが全く動かないのだ。また、牛舎を持つ草太の家や豚舎のある中畑の家では、畜舎を新式の電力暖房に取り替えていた。代替手段の確保のためにみんなが出払っており、純と雪子の捜索に割ける人員もなかった。

五郎は、車で回れる範囲はほぼ探し尽くした。けれども依然として見つけられない。残る可能性は、草太の家へ繋がる山道だけだったが、そこは除雪車すら引き返すほどの猛吹雪となっていた。到底、五郎ひとりの力では探しに行けなかった。
電話で中畑と相談していると、彼が馬ソリなら除雪されていない道でも入っていけるのではないかと提案した。五郎は早速、杵次に頭を下げに行った。

21時になった。
取り残された車の中で、雪子と純は凍えていた。車は完全に雪に埋もれてしまい、ドアが開かないことはもちろん、窓を開けても雪の壁に阻まれている。体力を消耗したふたりは眠りに落ちてしまった。
純は夢を見ていた。令子(いしだあゆみ)を含めた家族4人が花畑で愉快に仲良く遊んでいる夢だった。暖かい春で一面に花が咲き誇っていた。五郎と令子も手を取り合って走り回っていた。

ふと、雪子はどこかから鈴の音が聞こえてくるのに気づいた。慌てて純を起こし、ふたりで大声をあげた。鈴の音はだんだんと大きくなり、ふいに止んだ。
それは馬ソリの鈴だった。馬ソリで捜索していた五郎と杵次はついに純と雪子を発見した。というよりも、五郎たちには何も見えなかったが、車の埋まっていた場所で馬が勝手に足を止めたのだという。おかげで無事に救助することができた。

吹雪はそれから2日間も続いた。ふたりが生還できたことは奇跡に他ならなかった。
吹雪が続く間、純と雪子は疲れて眠ってばかりいた。五郎はほとんど口を聞かず、ぼんやりと酒ばかり飲んでいた。それでも、黒板家の生活は日常通りだった。他の家では停電のせいで日常生活がままならなかった。ところが、黒板家には元々電気がないので、停電にも吹雪にもほとんど影響を受けなかったのだ。

* * *

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