心の準備50%くらいでセッションデビューした話

■発端

4日前に、知人からメールでお誘いがあった。僕の職場のすぐそばのジャズ・バー N (わかるやつだけわかればいい)で小ぢんまりとした音楽パーティが開かれるとのこと。
すぐ近所だし、その日は特に予定もなかったし、お友達ができたら楽しいかもと思うし、いつかはそういうところで演奏もしてみたい。まぁ聞くだけなら問題なかろうと思うし、常連さんへの自己紹介も兼ねて参加してみることに決めた。

その音楽パーティは本日の正午から開かれた。
自分が弾くことはないだろうとは思いつつも、何かの間違いってことがあるかもしれないと思って、念のためにギターだけは車に積んで出かけた。ギターは車に置きっぱなしで、手ぶらで入店したわけだけれど。

■パーティ開始

参加者は、お店のスタッフさんも合わせて総勢15人くらい。
ミストレスさんの料理がビュッフェ形式で提供されて、めっちゃうまかった。これだけで参加した意義はあったなと思ったわけで。

各々が食事を摂った後、演奏開始。

はじめの組は、70歳を超えているというおじさんがボーカルをとった、沢田研二の『勝手にしやがれ』。ピアノとアルトサックスが伴奏するというトリオ編成。奇妙な組み合わせではあるけれど、息がぴったりで、最高のオープニングだった。
聞けば、ボーカルのおじさんこそ素人さん(それでもかなり上手い)だけれど、ピアノの女性(30歳代くらい)とサックスの男性(50歳代くらい)はプロのミュージシャンだそうで。しかも、事前のリハーサル無しで、現場で数分だけ簡単にリハーサルをしただけらしい。

それでこのクオリティ。
俺の出番はないな、と思った。ギターを積んできたことは黙っておこうと決めた。

その後も、みんなが次々と演奏をしていく。季節柄クリスマスソングやら、参加者の年齢層に合わせた昭和歌謡やら。
特に素晴らしかったのは、プロのサックスプレイヤー。今日が初参加でどんな曲が演奏されるか知らなかったとのことだけれど、その場の曲に合わせて、自在に伴奏をして盛り上げている。
プロすげぇと思った。かの有名なジャズクラブのブルーノート(の奈良にあるやつ)にレギュラー出ているそうで。すげぇ。

もしかしたら、この人だったら、僕の拙い演奏でもそれなりに聞けるようにフォローしてくれるかもな、と思ったりしてしまった。
・・・それが誤りの始まりだった。

■ミストレスの無茶振り

今回僕を誘ってくれた知人が、ミストレスに対して事前に「木公はギターを習っている」と告げ口しやがったらしい。彼女からギターを持ってきてないのかと聞かれ、ついうっかり車に積んでいることを白状してしまった。
すると、彼女は言った。
「うちのルールは『一人一芸』。何かやらないとダメです。私は一芸として料理を披露しました。あなたはもちろんギターで。」

マジかよ。聞いてないぞ。
僕は歌ものロックのバッキングくらいしかしたことないのに、そういうのを歌ってくれそうなメンバーがいないじゃないか。スコアも歌詞カードもないし、即席でできるものもない。それに、ドラム and/or ベースがしっかりとリズムを刻んでくれないと弾けないのに、今日はドラムもベースもないじゃないか。無茶すぎます。

「今日は顔見世ってことで、次回は必ず」
なんて、ヘラヘラしながら応えたんだけれど、許してくれそうな雰囲気ではなかった。

■ハービー・ハンコック『カメレオン』

2時間くらい経ったところで休憩タイム。このタイミングでちょっと人が減った。ミストレスからは相変わらず「一人一芸」プレッシャーをかけられている。人が減ったなら多少恥をかいてもいいかな、と思って腹をくくる事に。
ちょうどギターレッスンの課題曲『カメレオン』(参考動画)なら歌はないので、プロのピアノさんとサックスさんとのトリオ編成でなんとかなるかもしれない。ちょうどギターケースにスコアも入ってるし。きっとあのふたりなら助けてくれるだろう。
そんなわけで、車にギターを取りに行き、ピアノさんとサックスさんにお願いして付き合ってもらうことに。

しかし、そこで小問題と大問題が発生した。

まず、小問題。
ハービー・ハンコックの『カメレオン』はジャズ界では定番曲らしいのだけれど、ピアノさんはその曲を知らないのだという。なぜなら、彼女はクラシック音楽界で生きてきた人で、ジャズの経験はあまりないのだという。楽譜がしっかりと決まっているものを専門に弾いているので、僕の持っているアドリブ用のスコアではあまり上手に弾けないかもというのだ。
それでも、せっかくの機会なので挑戦してくれると言ってくださった。

そこで話をまとめて、次は件のサックス・プレイヤーさんに相談を持ちかけた。彼はジャズ界でずっと生きてきた人だから、『カメレオン』なんてお茶の子さいさいだろう、と。
しかし、そこで大問題が。

彼が言うには、この曲はサックスに適していないからやりたくないと言うのだ。ほとんど弾いたこともないし、どんな曲かもうろ覚えだというのだ。沢田研二の『勝手にしやがれ』はやれるのに、だ!
しかも、『カメレオン』はわりと難しい曲で、初心者がおいそれと手を出して良い曲ではなかったらしい。僕のギター講師がなぜこんなものを課題曲にしたのかと、しきりに首を傾げていた。
これには困った。ピアノさんも困ってる。しかし、3分くらい押し問答して、しぶしぶ参加してくれることに。

しかし、さすがプロ。やると決めたら本気で取り組んでくれた。
みんながいる前で、3人(サックスさん、ピアノさん、俺)で15分くらい延々と練習。もうこれが練習なのか本番なのかわからない。
サックスさんはすぐに曲の構成を理解して、注意すべきポイントやアドリブソロの順番や長さなどをテキパキと指示してくれた。特に、3人でばっちり音を合わせるところはどこで、そのためにはどういう弾き方をすればいいかまでアドバイスしてくださって、すごく勉強になった。今日の参加費は2,500円だったわけだけれど、ビュッフェとドリンクが付いて、その上、プロのミュージシャンに指導(15分)を受けられるなんてお得すぎた。

そんなわけで、冷や汗をいっぱい書きながらのセッションデビューだったけれど、すごくいい経験ができたし、楽しかった。

■その後1

サックスさんから、なぜ『カメレオン』なのかと改めて問い詰められた。初心者が手を出すべき曲ではないのに、と。
「いや、僕がリクエストしたわけではなくて、ギター講師から課題曲として一方的に渡されたわけで。講師には『ブルースギターやりたい。で、なんかブルースのアドリブとかやりたい』って言ってあったわけで」
などと『北の国から』の黒板純(吉岡秀隆)みたいなシドロモドロな返答をしたわけで。

そしたら、彼は「あー、なるほど。それでか」と一人納得していた。なぜ彼がそれで納得したのかは僕にはわからないし、その場で講釈を聞くこともしなかった。いつか自分で気づく日も来るだろうと、自分の将来に期待しておく。

■その後2

演奏後、ミストレスから「楽しかったでしょ?」とニヤニヤしながら聞かれた。
「悔しいくらいに楽しかった!」とニヤニヤしながら応えた。

■お詫び
心の準備ができていなかったので、いつものような演奏動画はありません。

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