もっと!イグ・ノーベル賞

名古屋旅行のお供に、近鉄特急の中で読みふけた。

イグ・ノーベル賞(Ig Nobel Prize)とは、Marc Abrahams 氏によって運営・授与される賞で、本書によると

受賞基準は一つ。まず人を笑わせること、そして次に考えさせることである(どう考えるかは、完全に各個人の主観に依存している)。

だそうだ(p.9)。

たとえば、本書に紹介されているもので、面白かったのは
ノーランら(1990)「ジッパーにペニスが挟まった患者に対する適切な処置法を解説した医学論文」とか(これは、割と有名かも)、ビジャン・パクザドという香水メーカーが受賞した「DNAは含まれていない、三重らせん構造の『DNAコロン』」とか。
DNAコロンの受賞に関しては、「DNAの二重らせん構造」を発見してノーベル賞を受賞したワトソンが授賞式にメッセージ(しかも、ユーモアに富んだもの)を送ってくるなど、なかなかスゲー。


ていうか、イグ・ノーベル賞の隠れたメッセージと言うのは、「研究を楽しもう!」だと思った。
翻訳者の福嶋俊造氏があとがきでも述べているように、

(前略)一見すると荒唐無稽でありながら、選考委員、受賞者ともにその真意は非常にまじめなことを感じた。常識だと思われていることに疑問を持ち、事実を客観的に観察し、仮説をたて、実験を通して仮説を検証し、最後に法則をまとめるのは自然科学の出発点であろう。また、受賞者たちの研究に対する姿勢、つまり、どの受賞者も一様に研究を楽しんでいる様子がひしひしと伝わってきた。

と、楽しくてウキウキしてしまう研究がたくさん受賞していて、なかなか質が高い。

しかし、根は真面目でも、賞自身はかなりウィットにあふれている。
たとえば、受賞者のスピーチに関するルールの部分には以下のように記述されている

受賞者が与えられた時間を厳守するように、ステージの端には8歳のかわいい女の子が控えている。この少女の名前は、「ミス・スィーティー・プー」と言い、受賞者のスピーチが制限時間を越えると、シンプルかつ直接的な方法で受賞者に警告を与える。(中略)このようなセリフを口にする。「もうやめて、飽きちゃった。もうやめて、飽きちゃった。もうやめて、飽きちゃった」。ミス・スィーティー・プーは、その人が話を止めるまで、執拗にこのセリフを繰り返す。

うむ、かわいい女の子にこう言われちゃぁ、止めざるを得んな。

しかし、受賞者も受賞者で、かなり面白い対応をとるようである。
ジョン・トリンカウス(ブロッコリーの嫌いな若者の割合とか、一時停止標識を遵守する人の割合とか、会話で肯定するときに”yes”と発する割合とか、とても些細なことを調べ80本以上の論文を書いたことで受賞)の対応策を抜き出してみよう。

ペロペロキャンディーでミス・スィーティー・プーを買収しようとしたのだ。ミス・スィーティー・プーは、聴衆の見守るなか堂々と賄賂を受け取った後、礼儀正しく「どうもありがとう」と言うとすぐに、自分の職務に忠実に「もうやめて、飽きちゃった。もうやめて、飽きちゃった。もうやめて、飽きちゃった」と警告を発し始めた。

なんですか、この仕込みを疑うようなオモロイ展開は!

それから、受賞者はプレゼンテーション・ツアーというのを行い、各地で公演をするらしい。
そのときの様子を写した写真のキャプションが洒落てた。
居眠りをする男性が写っており、その下には

夢見心地で敬意を表する聴衆

と書かれていた。
思わず、本屋で立ち読みしているときに声を出して噴出してしまいました。
(そう、本屋で立ち読みしていて、この一文に出会ったのでその瞬間レジに進んだのでした)。

以上、普通の読み物としても十分暇つぶしとして楽しめます。
#うまくウィット感の出ている名訳だと思います。原著見てないけれど。

あと、途中にも書きましたが、科学とか学問を楽しむ姿勢というものを再認識するのにも良書だと思いました。

そして、受賞基準の「まず人を笑わせること、そして次に考えさせること」というのは、心に留めておきたい。

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コメント (3)

  1. みかん汁

    ( ̄O ̄;) ウォッ!、ドクター中松が受賞だ!
    栄養賞だって。

  2. Hirori

    新聞の夕刊にも載ってました。
    35年ってすごい!

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