『大奥』(よしながふみ)を6巻まで読みました

 当blogで開催した夏の読書感想文大会において自由図書部門の最優秀賞を受賞したのは、 @myuuko さんが『大奥』(よしながふみ)について書いたものでした。

いくら男を集めたってたくさん子どもができるわけでないし、無駄じゃん。そんな読者の不満は、物語中で徐々に解消されていきます。うーん、これなら将軍職に女がいても仕方ないのかもしれない・・・、あっそうか、この場合には男を集めた大奥は確かに必要だな――

 この一節が、僕に最優秀賞の授与を決めさせました。
 男女が逆転した大奥の存在がどのように正当化されるのか。そのカラクリを知りたい一心で『大奥』を手に取りました。


 若年男子が感染すると必ず死に至らしめるという奇病の発生。その感染症の大流行という「たった一つの嘘」から出発し、演繹的に物語を展開していきます。その構成力は見事でした。
 下手くそな嘘つきの場合、自分の嘘を正当化するために次から次へと嘘を塗り重ねていく必要がある。ところが、この物語は、謎の感染症という嘘のみにとどめ、それ以上は都合の良い設定は何も出てこない。舌を巻きます。

 そして、何より凄いことは、我々の知っている江戸時代の年表が書き換わっていないこと。リアルな現代日本に存在する年表を座右において『大奥』を読んでも矛盾がない。年表のとおりに将軍が入れ替わるし、生類憐れみの令など幕府が定めた法度はその通り出てくるし、浅野内匠頭は腹を命じられ、大石内蔵助らは吉良上野介を討ち取る。
 この整合性は小気味良い。

 一流の手品師のトリックを見せられたような清々しさだ。なんでこうなったのかわからないのに、こうなっちゃったんだから驚くしかないよな、みたいな。

 この漫画は現在も連載継続中のようだが、ラストはきっと
「この物語は、本当にあったこと・・・かもしれません。」
とかなんとかいうフレーズで終わるような気がする。

 そう締めくくられても、僕らにはそれを否定するだけの根拠は集められないだろう。

追伸:
 6巻まで通しで読んだ限りでは、やはり2-5巻の「綱吉編」がグッと来ますね。
 他の人とは良いと言う理由が違うのかもしれませんが、少々マゾっ気のある当方は、綱吉のように高慢な女性にいたぶられると思うとゾクゾクします。

コメント (9)

  1. myuuko

    お読みいただけましたか。そしてやはり2-5巻でしたか。

    あのあたりは歴史的事実とお話ががっちりシンクロしていてとても楽しいです(その楽しさを感想文で伝えたかったのになかなかうまくいかなかったのですが,それがこの記事の中盤で適切に表現されていて嫉妬しました)。

    なお,私は綱吉よりも家光派です。

  2. 木公

    家光のエピソード、確かにこの物語の大きなターニングポイントです。その気持分かります。
    家光が「男」から「女」に変わっていく様はなかなか圧巻だったと思います。
    そして、個体間においても、個体内においても変化するっつー二重構造がすごいっつーか、なんつーか。

    面白い漫画を紹介していただきました。本当にありがとうございます。
    (僕の大好きな喜八州のみたらしだんごを食べたと聞いて嫉妬しました http://www.kiyasu.jp/)

  3. @kaihiraishi

    僕は家光と綱吉の間で揺れています。どちらも捨てがたい。吉宗は人間ができすぎ。4代将軍にコクられたときのお万の方の「目が点(・。・)」の絵には、不謹慎ながら爆笑してしまいました。いや、悲しい話なんですけどね。悲劇と喜劇は紙一重。

    某学会会場で、次はリエティに貸す(というか、経由で返却する)という話を勝手に仕立ててしまったのですがよろしかったでしょうか?

  4. 木公

    myuukoさん所有の『大奥』の行方ですが、はたしてここの記述に myuuko さんが気づくかどうか。
    とても心配なのですが、とりあえず面白いから彼女に伝えるでもなく、黙っておいてみる。

  5. リエティ

    そもそもkaihiraishi先生から借りてねーって話になってたので、問題ないですよ。
    何でこんな時間に書き込みをしているかというと、寝る前にちょっと、と思って読み始めちゃったばっかりに今まで読んじゃったからです。
    おもしろかったー。
    実際の歴史と絡めてのお話のおもしろさとしては綱吉の勝ちかなと思いましたけど、共感度は家光の方が高し。

  6. 木公

    家光のあたりは、ちょうど社会の変化の時期であり、将軍自身もそれに翻弄される時期であり、家光のアイデンティティの確立とか恋愛模様とか、確かに面白いとこですよね。

  7. @kaihiraishi

    リエティに渡す前に大急ぎでもう一度読んだのだけど、綱吉派として生きていくことにしました。

    今後、男人口が増えていくときの社会がどう描かれて、どうやって幕末・開国につなげていくのか、楽しみですね。

  8. 木公

    僕は、大奥閉鎖(1868年、江戸城明け渡しの時らしい)までに、赤面疱瘡は何らかの解決をしているのではないかと予想します。
    およそ200年弱の時間があるので男女比が1:1に戻り、将軍も男になり、大奥にも女性だけが集められるという「僕らの知っている歴史」に戻る。

    江戸城明け渡しの時に、誰かが何らかの事情により「男だけの大奥」の資料を全て破棄するんじゃないかと思います。
    その行為によって、男だけの「大奥」の存在は知られることなく、現代人の僕らは女性だけの大奥しか知らない・・・というオチが付くんじゃないかと。

  9. alm-ore

    映画『大奥』(男女逆転)を見た

    ♪バババーン バンバンバン バーーン  ちゃーららーん ちゃらーららーん ちゃらららららーん  ちゃーららーん たらーららーん たーららららららーん  ち…

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