初めての失神の話をしようか。

2-3週間前から、左腕全体が痺れるようになった。
ギター奏者は腱鞘炎と無縁ではないという話をよく聞くので、「オレもついに腱鞘炎デビュー!?やっとギタリストの第一歩を踏み出したな」などと悦に入っていた。

しかし、ギタリストの腱鞘炎は指だけだったり、手首あたりに出ることが多いらしい。
それに比べて、僕は腕全体なのでちょっと違う。そもそも、ギターを弾いていて違和感を感じることはない。むしろ、何もしてない寝起きなんかにピリピリ痺れたりする。

「これは、神経のどっかがおかしいのかもしれない」とちょっと不安になった。
そんなわけで、整形外科へ行ってみた。

脛骨のレントゲンを撮ったところ、神経ビンゴ。
加齢のせいで首の骨が変形し始めていて、そのせいで神経を圧迫しているらしい。それが左腕の痺れの原因だと診断された。
医師からは「ギターでそんなところ痺れるわけ無いやん」みたいに半笑いされた。オレのギタリスト道も3歩後退。くっそー。

まず、処置として首に注射を打たれた。
ボーっとしていたせいで(「加齢のせいか・・・。加齢のせいか・・・。厄年だしなぁ」と考えてばかりいた)、よく話を聞いていなかったのだけれど、痛み止めだか、炎症緩和だかの注射らしい。多少チクッとしたけれど、これは無事クリア。

次にリハビリ室に移動して、首の骨を伸ばす処置をすることとなった。
ここで事件が起きた。

首を伸ばす処置というのは、顎に紐をかけて上に引っ張るという、ある意味原始的な方法だった。
リハビリ室に鏡はなかったけれど、顎に網状の紐をかけられて吊るされている自分の姿はきっと間抜けに違いない。その姿を想像し、一人でニタニタしていた。なんならケータイで自撮りしてtwitterにアップしようかと思ったほどだ。
この時までは絶好調だった。リハビリ室にいる3人の理学療法士さんはいずれも年増だったけれど「彼女はモンチッチ、あっちは駄菓子屋のおばあちゃん、もう一人は特に特徴はねーな」なんてくだらないことを考えていたり。途中で若い女の子が低周波治療器を受けに来て、隣に座ったので顔をガン見したかったのだけれど、僕は首を動かせないので見ることが叶わず舌打ちしたり。
首も程よく伸びて心地いい。

しばらくすると、顎がだるくなってきた。
下顎から引っ張りあげられるので、強制的に歯を食いしばらされてしまう。短時間なら歯茎に刺激があって気持ちよかったのだけれど、3分もやると辛くなってくる。
しかし、これも腕のしびれをとるためだと思って我慢していた。

続いて、胃がムカムカしてきた。
それでもまだ余裕があった。「晩飯まだだし、腹が減ってきたんだな。これ終わったら、何食いに行こう?」などとつらつら考えていた。

その次がヤバかった。
まず、視界がちょっと歪んだり、妙に風景が明るくなったり暗くなったりした。それから、ひどい二日酔いのような気分になってきた。
二日酔いならまだ我慢できたのだが、胃のムカつきと相まって、吐きそうになった。

これはマズいと思って、そばにいたモンチッチに声をかけた。
後から聞いた話だけれど、僕は真っ青な顔をしていたらしい。手も真っ白だったそうだ。
手早く装置が外され、床に横たわるよう指示された。

僕は椅子に座っていたので、そのまま前方に倒れればうつ伏せの体制になる。
それは具合がわるいので、仰向けに寝ろと言われたところまではなんとなく覚えている。
どうやって体を横たえたかは全く覚えていない。次の記憶は、モンチッチが顔を近づけて真上から僕を覗き込んでいる映像だ。
完全に気を失っていたらしい。

気を失っていても、夢を見ていたような気がする。
僕はちゃんとスケベなので、女の子と一緒にベッドで横になっている夢を見ていたはずだ。彼女が可愛らしい声で、ずっと「木公さん(はーと)、木公さん(はーと)、木公さん(はーと)」と言ってくれている夢だ。僕は夢の中で「はい」と何度も機嫌よく答えていた。
ところが夢の中の風景が徐々に暗くなって行く。大好きな女の子が遠くに去っていくようで、僕は悲しくなった。

次の瞬間、ぱっと目を開いたら、明るくて白い天井が見えた。
「あれ?オレ、いつの間に寝てたんだろう?」なんてトボけたことを言ってしまった。事態がよく飲み込めず、自分が今どこにいるのかよくわからなかった。一瞬にして考察したことは、実家で寝坊して母親に起こされたのだろうということだった。

ほんの一瞬そうしていると、理学療法士のモンチッチの顔が大写しになった。
彼女はしきりに「木公さん、木公さん、大丈夫ですか?」と声をかけてくれている。それでやっと正しく状況を理解できた。
気持ち悪くなって気を失っていたのだ。

目を覚ました隙に、リストバンド型の装置で血圧を測られたようだ。
それをなんとなく知覚しながら、また眠った。眠ったのか気を失ったのかはわからない。
もう一度目を覚ますと、今度は意識がはっきりしていた。もう一度血圧を測られ、もうしばらく休んでいるよう指示された。

目をつぶっても眠れないし、退屈だから目玉だけギョロギョロと動かしてあたりを見回した。
他のリハビリ患者がいなくて暇なのか、理学療法士さんたちは入れ替わり立ち代り様子を見に来たり、話しかけてくれたりした。

ただ、誰も彼も、半笑いだ。
「めったに貧血起こす人はいないんですけどねー」とか
「昨日あんまり寝てないんですかー」とか
「いきなり顔面蒼白になるから驚きましたよー」とか。

理学療法士はズボンを履いているのだけれど、別に1人いる看護師さんだけはスカートだ。
床に寝ている僕の様子を見るために近づいて来るたび、スカートの中のパンツが見えそうになる。

でも僕は見なかった。
その看護師はババァだったからだ。

パンツを見るべきかどうか冷静に判断できるほど意識が回復し、下半身に血液が集中する心配もなく、無事に頭に血が巡り始め、僕は回復した。
首に低周波治療器を当ててもらい、これは無事に気分が悪くなることもなく終わった。
病院を出て、飯食って、帰宅し、今はブログを書くくらいに元気である。

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コメント (2)

  1. sterai

     要するに、「みんなに半笑いされた」という体験をしたワケですね。

     …なんて冗談言ってたら、「これを最後に更新が途絶え、結局これが生涯最後のエントリとなった」みたいなことになって、こんなコメントを書き込んだことを後悔するのかも。あぁ、不憫不憫…。

    • 木公

      かわいこちゃんの夢が見れて嬉しかったという話です。
      でも、目が覚めたらモンチッチで不憫だったということです。

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