Alm Ore

ゲームの社会的側面

タイトル

ゲームの社会的側面: MMORPGにおけるインタラクションパターンに関する研究
(The Social Side of Gaming: A study of Interaction Patterns in a Massively Multiplayer Online Game)

Nicolas Ducheneaut and Robert J. Moore (Alm Ore 訳)

原文の書誌情報

Nicolas Ducheneaut and Robert J. Moore. The social side of gaming: a study of interaction patterns in a massively multiplayer online game. Proceedings of the ACM Conference on Computer-Supported Cooperative Work (CSCW 2004), 360-369. 2004 November 6-10. Chicago IL, USA.

PDFファイルのダウンロード

訳者による前文

先日、ちょっと調べ物をしていたら、1編の論文が目に留まった。Abstract をつらつらと眺めていたら Star Wars Galaxies という、僕にとってはどうしても無視できないキーワードにぶちあたった。その瞬間、えも言われぬ複雑な心境(この心境については後で軽く触れる)に駆られた。そして、SWGを一緒に遊んだ仲間たちとこの論文を共有したくなった。

ただし、決して自分が優れた人間であると主張するつもりもないし、ここをお読みになっているあなたのことをバカにするつもりもないけれど、この英語で書かれた論文の内容を十分に理解できない人たちもいるのではないかと思い至った。そこで、力不足ではあるが翻訳を試みて、その内容を公表することで、みんなと知識を共有したいと思った。それが、翻訳を始めた動機。

この論文の一番の見所は、2節にあるSWGのシステム紹介の部分。僕が(そして、きっとみんなも)、「もっとも面白かった」と思っていた時代のSWGのエッセンスが濃縮して記述されている。ぜひともこの部分をお読みいただきたい。例えば、シャトルポートでの待ち時間。なんて素敵な"ムダ時間"だったんだろう。もうひとつ例を挙げよう。あの華やかだったカンティーナ。疲弊を癒しに来る戦闘職と、それをもてなすエンターティナーたち。僕のSWGライフの原点だ。

この論文で記述されていた頃のSWGは、今となってはこの世には存在しない。それは悲しいことだ。しかし、僕らの思い出の中と、この論文の中にはあの時の「ワクワクした気持ち」がそのまま残っている。それをみんなと共有したい。

あの頃の「ワクワクした気持ち」を忘れずに、みんなと共有したいと思ったのが、この論文を見つけたときに僕に去来した心情の1つ。

・・・もうひとつは「俺のSWG人生って、あやうく尻切れトンボのままで終わるところだった。ちょっと変則的な幕引きだけれど、この論文を紹介するってのはきれいな最期だな。」ということ。

そんなわけで、翻訳を始めます。

概要

コンピュータゲームで遊ぶことは社会的な活動である。初期の multi-user dungeons (MUD) ゲームの流れを汲み、今日繁栄しているジャンルの1つである massively multiplayer online games (MMORPG) では何千人ものプレイヤーが互いに社会的なインタラクションを行っている。これらの新しいゲームではプレイヤー同士の相互作用が発生するようデザインされているが、それらの相互作用の特徴や構造についてはほとんど知られていない。本稿では、Star Wars Galaxies のある2箇所におけるプレイヤー同士の相互作用に関する分析を行った。その2箇所における相互作用のパターンの違いについて概要を述べ、ゲームのどのような構造によってその違いが生み出されているのかを議論する。最後に、マルチプレイヤーゲームにおける社会活動を設計し支援するための提案について述べる。

1. はじめに

多くの人々は、コンピュータゲームは孤独に行う活動だと考えるであろうが、むしろその想像よりはずっと社会的な活動である [12]。70年代後半の MUD (Multi-User Dungeons) ゲームの頃より、ゲームのプレイヤーもデザイナーも、複雑で社会的なオンライン世界をうまく利用し、互いに出会い、共に活動してきたのだ [2,3]。MUD の流れを汲み、より現代的なジャンルである MMORPG (Massively Multiplayer Online Role-Playing Games) では日々何千というプレイヤーが相互作用を行っている [28]。"The SIMS" という有名ゲームのクリエイターである Will Wright はこの傾向に関して「ある意味、我々がゲームを通じて真に作っているものはコミュニティーである。それこそが我々の最優先事項だ。」とはっきり述べている。

多くのゲームが社会的相互作用を促進するように目的を持って作成されていたにもかかわらず、ゲームの世界の社会環境が調査されるようになるまでには多くの時間を要した(おそらく、他の「生産的な」活動に比べて、ゲームが「取るに足らないもの」であり価値がないものと考えられてきたからだろうが [5])。たとえば、これらのオンラインコミュニティにおける社会的相互作用パターンについて初めてまともな調査を行ったのは Curtis [3] であったが、それは Xerox PARC が LambdaMOO を作った時であり、MUD が世に初めて出てから実に15年も経っていた。

最新のゲームにおける社会的な特徴は、そのゲームのデザインの成り行きに関わる。ゲームデザイナーはプレイヤー同士の出会いが仮想世界の成功にとってもっとも重要だと考えており、プレイヤー同士の相互作用を促進させたいと望んでいる。確かに、MMORPG 内で行う活動(例えば、キャラクターを成長させる、モンスターと戦う)のほとんどは、1人用のゲームでも同様に行うことのできるものではある。Bartle [1] が多人数ゲームのプレイヤーの全員が必ずしも社交的なわけではないと以前に指摘している通り(例えば彼は "achiever", "explorer" などのタイプを挙げている)、中には単純な活動や作業のみで不満がないと感じている人々がいるのも事実である。それでもなお、多くのプレイヤーは体験を共有することを望んでおり、多くの活動を共に行う傾向を持つ。それに加え、プレイヤーコミュニティの中で社交的に付き合うことや良い評判を得ることに、たいへん重きを置いている [11,30]。翻って、こういった共有経験ができることは、そのゲーム自身の訴求力を高め、寿命を長くする。例えば、ゲームデザイナーが作ったストーリーよりも、プレイヤー自らがストーリーの基礎を作ったストーリーの方が人々を引きつつけるといった議論もなされている [27]。

結局、多くの MMORPG はそもそもプレイヤー同士が相互作用せざるを得ないように設計されているのである。プレイヤー同士の相互作用を活発にさせることに成功した典型例が EverQuest である。このゲームにおいては、1人で「クエスト」をこなすのは大変な困難を伴うように設計されており、グループを形成し他のプレイヤーの援助が必要なようにされている。Jakobson and Taylor によれば、EverQuest は「明示的な社会化のプロセスがゲームに組み込まれた最も良い例の一つである」[11]。より最近の例では Star Wars Galaxies (SWG) におけるプレイヤー同士の相互依存関係の深化と広範化がある。職業間の複雑な相互関係によって、プレイヤーは互いに協力したり、財やサービスの交換を行わなければならないという経済システムが形成されている。

MMORPG におけるプレイヤー同士の相互作用が重要であるにも関わらず、それらがゲームの中でどのように発生しているのかはあまりよくわかっておらず、プレイヤー同士の相互作用のレベルを調べるために、ほんの少数のデータがあるという程度である。プレイヤー同士の相互作用の本質を知ることはほとんどできていない。プレイヤーは他者と共に活動することを真に望んでいるのだろうか?それとも、純粋に目的の達成のためだけに協同するのみで、用が済んでしまえば他人のことなどすぐに忘れてしまうのだろうか?これらの疑問は、将来のゲームデザインにとって重要である。繰り返すが、ゲームにおける社会環境の質は、そのゲームが最終的に成功するかどうかに大きな影響力をもっていると考えて間違いはないと思われる。

多人数ゲームの社会的側面の調査としては、PlayOn プロジェクトが多くの努力を行ってきている。特に我々は、MMORPG がプレイヤー同士の相互作用をうまく活発化させることができているかどうかを調べる目的で、補足的アプローチ*1 (質的および量的) を用いてゲーム内の相互作用を広く観察した。MMORPG である Star Wars Galaxies において3ヶ月間に渡るエスノグラフィックな定点観測を行い、そこでのログとビデオの分析を基にプレイヤー同士の相互作用の特徴について本稿で記述する。この観察を通じて、オンラインゲームにおける社会的活動のより良いサポート方法について提案することを目指している。

次の節では、我々が調査対象とした Star Wars Galaxies について説明する

2. SWG の特徴

本研究が行われた時点では、Star Wars Galaxies (SWG) は技術的最先端にある MMORPG であった。2003年7月に、人々の期待を背負ってサービスが開始された。注目を集めるゲーム分野で、有名メーカーからのリリースでもあり、当時最高峰であった EverQuest を超えるゲームになることは間違いないと思われていた。ゲームデザイナーは、モンスターを殺して回ったりレベルを上げることに専念するようなゲームを作るようなことはせず、多数の非戦闘系職業を提供した。言い換えれば、SWG はより社交的なキャラクターたちによる多人数ゲームを作ろうと試みた。デザインチーフの Raph Koster はこのゲームのヴィジョンを「ゲーム内の世界を他者との交流が活発な場とするよう試みる人々に報いるつもりだ。・・・(中略)・・・娯楽を提供する人々、サポート役に徹する人々、平和に貢献する人々、経済的役割を行う人々など。」と明言していた[14]。このことは、我々の研究にとって興味深いことである。

この崇高な目的にも関わらず、SWGのリリース後数ヶ月は多くの問題に悩まされ、製品としては不完全なものであったために多くの批判を浴びた。そのため利用者は増減したが、パッチや改良が加えられた結果、現在ではずいぶんと安定したゲームとなっている。不安定なスタートではあったが、現在では 400,000人の登録者がいると発表されている。この数は、このジャンルの中でも無視できない存在である。

Figure1.png
【Figure 1 SWGのインターフェイス】

SWGは、Star Wars の世界を模した高精細な3D環境として提供されている(Figure 1)。一般的な構成は他の類似 MMORPG と同様である。プレイヤーは1人称もしくは3人称視点で自分のアバターを操作し、ミッションをこなしたりすることで進行する。SWG が他のゲームと異なっている点は、プレイヤー間に張り巡らされた複雑な相互依存のネットワークである。これについては、以下で説明する。

2.1 プレイヤー間の相互依存

本稿の目的はゲームの詳細なレビューを行うことではないが、プレイヤー間の相互作用がゲーム内でどのように構成されているかを説明しておくことは必要であろう。他のロールプレイングゲーム同様、SWG でもプレイヤーは一連の属性(例えば、性別や種族)に基づいてキャラクターを作成しなければならない。自分のアバターの身体的な外見はかなりの程度までカスタマイズすることができ、個性的な外見を作ることができる。ただし、それよりも重要な属性はキャラクターの職業である。SWG では職業は3つの分野に分けられている。1つめは戦闘系職業(例えば、マークスマン*2)、2つ目はサービス系職業(例えば、メディック、エンターティナー*3)、3つ目は生産系職業(例えば、アーティザン*4)である。最初に選んだ職業は、そのキャラクターがゲームで獲得するスキルの基本となる。スキルを上昇させるためには、「一般的な」経験ではなく、特定のスキルに関連した経験を積まなくてはならない。例えば、メディックは他人を治療することでスキルが上昇するのであり、敵へ射撃したりビルを建設したりしても医療スキルは上昇しない。

職業はプレイヤー同士の相互作用に多大な影響をもたらす。全ての職業がゲームには必要であり、そもそも互いに依存しなければならないようにデザインされている。例えばマークスマン(訳注: 銃器を扱う戦闘系職業)は戦闘で負った怪我や疲労を癒すために、メディックやエンターティナーが必要だ。それに対してメディックは治療行為を行うためには怪我を負ったマークスマンが必要だし、薬を作るのに必要な資源はスカウト*5の協力が必要である。エンターティナーは疲れてリラックスしたがっている戦闘職がいなければ仕事にならないし、ステージ衣装はテイラーに作ってもらわなければならない。職業リストはとても長く、8つの基本職に加え、30の上級職がある。そしてそれらは互いに関連している。こういった職業間の相互関係はプレイヤー同士の相互作用を形成するのに重要なフレームワークである。

このオンライン世界においては、経済も重要な役割を果たしており、完全にプレイヤーが主体となるようにデザインされている [14]。プレイヤーは自分の取引に必要なアイテムを誰かから調達してくる必要があるし、職人は自分の製品の販売経路を開拓しなくてはならない。SWGではこれらの要求を満たす方法を複数用意している。各街にはバザーが設置され、定価であれオークションであれ、誰でも商品を売り買いできる。ただし、バザーで販売できるものは小額(売値には最大値が決められている)で、少量(1人当たり一度に25個まで)な物に限られている。より多くの製品を高額で販売しようと思ったら、プレイヤーは自分のビジネススキルを高めたり、家などに「ベンダー」を設置できるだけのスキルを持った人を探さなければならない。ベンダーでは高性能なものや珍しいアイテムなどが見つかる場合がある。その他、プレイヤーは直接1対1で取引することもできる。ただしそのためには、お互いが何を望んでいるかを何らかの方法で知らなければならない*6

ここまで述べてきたように、SWGにおける職業システムと経済の両方共にプレイヤーが相互作用しなくてはならないように構築されている。他方で、相互作用促進のための昔ながらのテクニック方も組み込まれている。例えば、EverQuest のように、SWGの中のいくつかの「ダンジョン」は1人で訪れてしまっては手に余るようになっている。プレイヤーらはこれらの危険な場所へ冒険に出かける前にバランスの取れたグループを形成する必要がある。協同する必要のある戦闘は、プレイヤー同士の協力や社会化を行わせるもう1つの方法なのである。

以上のことに加えて、このゲームのもう1つの重要な側面を忘れてはならない。それは世界を体制化することの重要性である。プレイヤー同士が相互作用をするためには、彼らは必ずどこかで出会わなければならない。SWG においては、世界を体制化することで、プレイヤー同士が特定の場所に集まるように仕向けている。

2.2 場所の重要性

現在、SWG には10個の惑星が存在している。そして、それぞれの惑星には大小さまざまな街があり、ゲームデザイナーが設置した街もあれば、プレイヤーが後から自分たちで作った街もある。それらの街の中には、それぞれ特別な目的を持った様々な種類の建物が設置されている。

SWG の街の多くは、スターポートもしくはシャトルポート、メディカルセンター、カンティーナ*7、劇場、ホテル、クローンステーション*8 などを有する。建物の中では、その種類に応じた特別な行為を行うことができ、その特別な行為は他の場所では実行できない。例えば、カンティーナ*9は戦闘による疲労を癒すことのできる数少ない場所のひとつであり、多くの人々が集まってくる。そのため、疲れを癒しにやってくる戦闘職を待ち構えようと、エンターティナーらはカンティーナに居座るように強く動機付けられる。それに加えて、戦闘による疲労はにわかには回復することはなく、戦闘職らはカンティーナを訪れるたびに数分間待ち続けなければならない。このシステムは、プレイヤー同士の相互作用を活発化させるために、ゲームデザイナーが敢えて組み込んだものである。組み込んだ根拠は、この"待ち時間"の間にプレイヤーがちょっとしたおしゃべりをすることができるという点にある。実際、Koster はオンライン世界のデザインにおけるこの原理を「社会を作りたければ、待ち時間を与えよ (Socialization Requires Downtime)」と述べている [14]。

この原理は、SWGの他の場所にも応用されている。例えば、駆け出しのメディックはメディカルセンターの中でしか治療をすることができない*10。そのため、メディックは、けが人がやって来るのを大きな街の病院の中でいつも待っていなければならないのである。そして、治療にもやはり時間がかかるので、医者と患者はその間におしゃべりなどをすることができる。

もう1つ相互作用が活発になる重要な場所がある。スターポートである。プレイヤーは頻繁に惑星から惑星へと旅をする必要がある。その理由は、ミッションを完了するためであったり、特殊なアイテムや珍しいアイテムを販売しているベンダーを探し求めるためであったりするが。しかしながら、即時の移動はできない。シャトルは9分に1便しか運行しない。たまたま運良く時間通りにシャトルポートに着けばよいが、そんなことはめったになく、たいていの場合はしばらくの間待ち続けなければならない。もちろんこれも、プレイヤー同士が「ドスンと衝突」し、思いがけない相互作用をし、関係を形成する機会を作り出すためにデザインされたものだ。

ここまで、なぜプレイヤーは相互作用しなければならないのか(理由は、職業と経済の相互依存性である)、そしてその相互作用はどこで起きるのか(答えは、特定のサービスや交換が起きる特別な場所を構築した)について説明してきた。次に、プレイヤーはどのようにして相互作用するのかを説明する。つまり、ゲーム内のチャットシステムについてである。

2.3 相互作用のためのシステム

SWGにおける相互作用のほとんどは、他の MMORPG とあまり代わり映えのしないチャットシステムによって発生する。チャットには3つのモードがある。「発言 (say)」モードでは、タイピングした文章を付近にいる人全員に見せることができる。このモードでのメッセージは、他のプレイヤーのチャットウィンドウに表示されるのと同時に、プレイヤーの操作するアバターの上に漫画のフキダシとしても表示される。「テル (tell)」モードでは、ある1人のプレイヤーから他の1人に対して非公開メッセージを送ることができる。テルモードのメッセージは当事者2人にしか見ることができず、その上、どんなに距離が離れていても使うことができる。つまり、メッセージを送受信する2人は実際に会う必要がない。「グループ (group)」モードでは、一緒にグループを形成しているプレイヤーにのみメッセージを送ることができる。先の「テル」を1対多にしたものと似ている。グループモードのメッセージはグループメンバーにのみ表示され、物理的な距離に制限をされることもない。

相互作用システムの特徴の中で、SWG と他の MMORPG とを大きく隔てているのは、SWGにおけるキャラクターのジェスチャーや「ソーシャル (socials)」の充実ぶりである。プレイヤーは "/smile"、"/bow"、"/cheer" などのコマンドをタイプすることで互いにジェスチャーを送りあうことができる。例えば、他のプレイヤーを選択して、"/smile" とタイプしたとしよう。そうすると、付近にいるプレイヤー全員に対して「あなたは [誰それ] に微笑んだ」と表示され、その上アバターの外見が「ソーシャル」を反映して変化する(この例の場合では、アバターの顔が微笑む)。本研究を行った時点では、340種類の「ソーシャル」が利用可能であった。4節での観察で述べるが、プレイヤー達は相互作用を豊かにするために「ソーシャル」を利用しているし、特に初めと終わりによく使う。例えば、誰かからサービスを受けたときには "/wave"(手を振る)や"/smile"(微笑む)を使うし、取引を終えるときには "/bow"(おじぎをする)を使用する。

また、SWGは強力なマクロ・システムを備えている。プレイヤーは一連のコマンド、「ソーシャル」や発言などを、1つのキーやアイコンに割り当ててマクロとして実行することができる。マクロは互いに呼び出したり、ループさせたりすることができ、たとえPCの前のプレイヤーがどこかに行ってしまったりしても、キャラクターを完全自動で動かし続けることができる。後に詳しく述べるが、これもまたプレイヤー同士の相互作用に大きな影響を与える。実際には "AFK マクロ"("キーボードの前にいない; Away From Keyboard"。離席しているのにキャラクターにマクロをさせていることについてSWGプレイヤーが与えた名称) であるにも関わらず、アバターがあたかもプレイヤーによって操作されているかのように見えてしまうことが、しばしばあるからである。

3. 方法

SWG におけるプレイヤー同士の相互作用の特徴を知るために、以下の方法で観察を行った。事前準備として、我々はキャラクターを作成し、ゲーム内活動の「仮想エスノグラフィー (virtual ethnography)」[9, 17] を実施した。ゲームに対する我々の視点に可能な限りバランスをもたらすため、筆者の一方が戦闘系の職業を選択し、他方がエンターティナー(サービス系)を選択した。我々は3ヶ月に渡って定期的にログイン(最低週2回としたが、それ以上のときもあった。1度のログインは2時間以上であった)し、少しずつプレイヤー・コミュニティーのメンバーになっていった。キャラクターの成長するにつれて、我々はプレイヤーが作った街やギルドに参加した。我々の全活動はPCのビデオカードに接続されたビデオカメラで記録された。これらによって大量のエスのグラフィック・データを入手することができ、SWGを理解する枠組みが得られた。

質的観察のため、プレイヤーの出入りの激しい場所として、惑星コレリア(Corellia; 銀河系のほぼ中心に位置している)*11のコロネット・シティ(Coronet City)にあるカンティーナとスターポートを対象とすることにした。より小さな街や普段は誰からも省みられないような辺境の惑星と違って、我々が選んだこの2箇所には常に誰かしらがいる。ここに行けば、見知らぬ誰かがいるのである。コロネットの次に賑わっているカンティーナやスターポートはシード(Theed)であり、それに続くのがモス・アイズリー(Mos Eisley)であるが、これらの街は Star Wars の映画の中でも目立って取り上げられているせいであろう。

以上を済ませた後、研究を次のフェーズに進めた。我々はさらに2人のキャラクターを作成し、それらをコロネット・シティのカンティーナとスターポートの前に配置した。この目的は、SWGの公共スペースにおける社会的相互作用の特徴を把握するためである。この2人のキャラクターは1ヶ月間接続したままにしておき、それぞれの場所で見ることのできる活動を全て記録した。SWG には、プレイヤーのチャットボックスに表示されるものを全てテキストファイルとして保存することができる "/log" コマンドが用意されているので、これを利用した。つまり、それぞれの場所を訪れた全ての人に関して、彼らの発言やジェスチャーを、誰でも見れるものに関しては全て記録したことになる。記録は全てマクロを利用して自動的に行われ、最終的に100MBのチャットとジェスチャーのデータを得た。この方法でデータを蓄積しつつ、我々は最初から行っていたエスノグラフィク観察を、特定の観点から続けた。

研究の最後には、ログ解析用のツールを作成した。ログの各行を整形し、有効なデータのみを抜き出す小さなパーサーを perl で作成した。それに加えて、プレイヤーのジェスチャーやその対象を正しく認識するための辞書も作成し、それを基にパーサーを動作させた。パーサーで処理した後、データは分析のために mySQL で構築したデータベースに格納した。データベースは、各イベント(つまり、ログの各行に相当する)を、「どこで(カンティーナかスターポートか)、誰が、誰に対して、どんな方法(チャットかジェスチャーか)で、何月何日の何時何分に、どんな方法の相互作用(テキストチャットか「ソーシャル」コマンドか)をしたか」といった構成要素に分割するという、シンプルな構造にした。最後に、もう1揃いのスクリプトを作成し、データから興味深いパターンを抜き出した。

次の節では、ログデータの解析結果を報告する。紙面の制約上、エスノグラフィック観察の詳細を紹介することは不可能である。そこで、ビデオデータから抽出したプレイヤー間の相互作用の例を適宜参照しつつ、ログからわかったパターンの数量的分析の背景として利用するに留める。

4. SWG における相互作用パターン

集めたログは26日分となった。この間に、カンティーナとスターポートをあわせて 5,493人の異なるプレイヤーが確認された。1日あたりおよそ21時間分のデータが存在する(SWGのサーバーは、太平洋標準時の毎晩午前4時にシャットダウンされ、午前7時まで再ログインすることができないためである)。

Figure2.png
【Figure 2 コロネット・シティのカンティーナ】

4.1 カンティーナ

26日間のログデータから、3,564人の異なるプレイヤーがカンティーナを訪れたことがわかった。もちろん、その間中、全員がずっと滞在していたわけではない。実際、データ分析の早い段階で、カンティーナに現れる頻度は非対称的であることがわかった。カンティーナへ頻繁に現れるのはごく少数で、大部分のプレイヤーはたまにしか訪れないことがわかった。一日に現れる回数の中央値は2回(平均:3.5回、標準偏差:3.05)であった。26日の期間中、13日以上現れたプレイヤーはわずか71人(全体の2%)のみであった。Fig 2 に、カンティーナの典型的な風景を示す。

Figure3.png
【Figure 3 カンティーナにおける活動の時間推移】

カンティーナにおける活動量は、1日を通じてほぼ一様である。できごと(メッセージとジェスチャー)の発生回数を1時間ごとに全て加算したものを Figure 3 に示す。ただし、Figure 3 のデータは26日間の総計で示してある(4時から7時の間は先に述べたとおり、サーバーのダウンタイムである)。活動量は深夜から午前4時にかけて緩やかに減少し、ピーク時の半分程度まで落ち込んでいる。午前8時から11時にかけては急激に活動量が増加する。これは、プレイヤーが広範囲なタイムゾーンや地域から接続しているせいだと考えられる(実際、我々はゲーム内でヨーロッパから接続しているプレイヤーに何度か出会った)。さらに重要なことは、サーバーの稼動中はカンティーナから人の姿が絶えることはないということである。ピーク時には約15,000回のできごとが観測された。つまり、1日あたりとして計算すれば、1時間に平均して577回のできごとが発生していたわけである。これらの活動の3分の2がメッセージであり、残りがジェスチャーであった。

ジェスチャー全体に占める割合
微笑む (Smile)18.13%
喝采 (Cheer)9.57%
拍手 (Clap)7.77%
手を振る (Wave)6.27%
ウィンク (Wink)4.22%
にかっと笑う (Grin)3.72%
うなずく (Nod)3.23%
お辞儀 (Bow)3.22%
感謝 (Thank)2.51%
挨拶 (Greet)2.40%
【Table 1 カンティーナにおけるジェスチャーの上位10種類】

カンティーナを訪れた人々は、317種類の「ソーシャル」(ジェスチャー)を利用した。そのうち、上位10種類を Table 1 に示す。SWG の豊かな相互作用システムこそがこのゲームを成功に導いた要因のひとつであると考えてよいだろう。他のいくつかのグラフィック・チャットシステム [22] と異なり、カンティーナにやって来た人々は幅広い 340 種類の「ソーシャル」を駆使して自分たちの相互作用を豊かにしていた。先にも述べたが、プレイヤー間の相互作用の3分の1がジェスチャーによるものである。先行研究でも、友好的でポジティブなジェスチャー(微笑みや歓声など)の方が、敵対的なジェスチャーよりもはるかに多いことが示されている [22]。

Table 1 に示されているジェスチャーを概観すると、いずれもカンティーナにおける相互作用として適切だと思われるものが多い。客はエンターティナーに声援 (cheer) を送ったり、拍手 (clap) をしたりする。また、客はエンターティナーの注意を引こうと彼らに手を振り (wave)、演奏サービスを見た後はお辞儀 (bow) をして礼を述べる (thank) のである。逆にエンターティナーは聴衆に向かってウィンク (wink) したり、ニヤッと笑ったり (grin)、微笑んだり (smile) するのである。

全体的なパターンは上で述べたとおりであるが、それだけではカンティーナで実際に何が起きているかを示したことにはならない。より詳しく説明するために、相互作用を3つの次元から分析した。各プレイヤーについて、1)他人に向けて何回ジェスチャーを行ったか、2)その返答を何回受けたか、3)パブリックな発言を何回行ったか、を計測した。この3つの次元のバランスを見ることによって、カンティーナにおける社会環境に関する興味深い知見が得られるだろう。ただし、頻繁にカンティーナにやって来るプレイヤーがおり、彼らによってデータがゆがめられてしまうので、各プレイヤーが現れた日数で各次元の値を割って正規化した。正規化した結果、(1)発したジェスチャーの中央値 0.5 (平均 0.73、標準偏差 1.24)、(2)受けたジェスチャーの中央値 0.5 (平均 0.76、標準偏差 0.98)、(3)発話の中央値 3.5 (平均 11.47、標準偏差 39.04)であった。これらの結果から、相互作用の活動量は比較的低いレベルにあるようだ。つまり、平均して、ある1人のプレイヤーがカンティーナを訪れると、誰か1人の相手に対して1回のジェスチャーを送り、4回ほど発話し、1回ジェスチャーを送られるということである。この数量データは、質的データとも一貫する。大部分のプレイヤーは「戦闘で得た疲弊」を回復するためにカンティーナを訪れる。回復するためには、単に数分間だけダンサーの踊りを見たり (watch コマンド)、ミュージシャンの演奏を聞く (listen コマンド) だけでよい。これらのサービスを受ける場合、エンターティナーと相互作用することが必須ではないのである。中にはエンターティナー達と話をしたりジェスチャーを送ったりするプレイヤーもいるが、大多数のプレイヤーはそんなことはしないのである。

Figure4.png
【Figure 4 カンティーナにおける相互作用プロファイル】

もちろん、これらの結果はカンティーナを訪れたプレイヤー全体の平均的な値でしかない。プレイヤーによる相違へ着目するため、3つの次元をグラフ上にプロットした。Figure 4 に「相互作用プロファイル」を示す。このグラフでは、2次元平面上に1プレイヤーを1つの点としてプロットしてある。横軸はジェスチャーを受け取った回数、縦軸はジェスチャーを送った回数である。各点の大きさは、そのプレイヤーが行った発話回数の比率を示している(viegas and Smith [25] ニュースグループの分析で同様のグラフ化テクニックを用いている)。

グラフの左下を見ると、大多数のプレイヤーはそれほど相互作用をしていないことが容易にわかる。かれらはほんの少ししか発話をせず、ジェスチャーもほとんどしない。彼らは「お客さん」であり、カンティーナを訪れ、サービスを受けたら、去っていく。ところが、この領域にはそれとは異なるタイプのプレイヤーも含まれている。彼らは、ジェスチャーのやり取りはないものの、多くの発話を行っている。質的データとあわせてみれば、この原因は明らかである。というのは、彼らはマクロを利用したエンターティナーであり、ログインしている間中はずっと同じメッセージを繰り返しているのである。こういったメッセージは自分が癒して*12もらうことやチップをもらうことを求めるダンサーやミュージシャンによって発せられる傾向がある。

11:33:38 エンターティナー A [嘆願]: マインドが癒されたら、チップを下さい。お願いします!! (PLEASE TIP WHOMEVER HEALS YOUR MIND)

22:30:10 エンターティナー B [発言]: あなたを癒すことを厭いません。チップをもらうことはもっと厭いません (^^) (heals welcome. Tips even more welcome :) )

16:48:34 エンターティナー C [発言]: チップとは偉大な愛です。あなたに愛はありますか? (tipping is great, show us you love us please)

このゲームで経験値を稼ぐためには自分の職業に関連した活動を行わなくてはならないことを2節で述べた。このシステムの下でいち早く経験値を稼ぐために、多くのエンターティナーは自分のアバターが繰り返しダンスや演奏を行うマクロを作って実行している。こうすることで、自分は実際にゲームをプレイしていなくても経験値を稼ぐことすらできる。そして多くのエンターティナーは、マクロの中に先の引用のようなフレーズを繰り返すように仕組んでいるのである。自分はキーボードの前にいなくても(AFK; Away From Keyboard)、カンティーナを訪れた人の注意を引き付けることができるからである。この習慣は個人の目的を達することには貢献するが、カンティーナの社会環境には何も影響を与えない。なぜなら、同じメッセージを飽きることなく繰り返しているだけで、アバターの背後にプレイヤーは存在しないからである。

グラフの左上にプロットされているのは、上記の行動の派生種である。プレイヤー自身は多くのジェスチャーや発話を行っているものの、他者からのジェスチャーは受けていない。彼らはもう1種類の 「AFKマクロ」である (2.3節参照)。このアバターは文章を繰り返すようにこそされていないが、近寄る人全てにジェスチャーを送るようにプログラムされている。時々、事情をよく知らないプレイヤーなどは、そのキャラクターは誰かが実際に操作しているものだと信じてしまうこともあることにはある。しかし、いずれにせよ同じことである。そのアバターは真の意味で相互作用を行っているわけではないのだから。

もちろん AFK マクロはカンティーナの雰囲気に影響を与える。我々が実際に話したプレイヤーの多くも、コンピューターによって動作しているノン・プレイヤー・キャラクター (NPC)と同様であると言って、これらの「似非」エンターティナーへの文句をよくこぼしていた。SWG のフォーラムにおいても、AFK マクロとその弊害に関する議論が何度も行われている。ついには、ゲーム内の全ての活動をマクロで簡単に行うことができるシステムを導入すべきだという風刺にまで発展した [13]。以下の引用は我々のログから抽出されたものであるが、カンティーナへやって来た人が AFK マクロへの不満を述べている箇所である。

22:17:45 プレイヤー X: AFKじゃない人いる?

14:56:06 プレイヤー Y: みんな、ジェダイ*13になろうとしている AFK 野郎だよ。ご苦労なこった。

02:14:29 プレイヤー Z [叫ぶ]: カンティーナは最も馬鹿げた場所だ。どーせ誰も聞いちゃいないんだから、俺ははっきりと言ってやる!これなら、ドワーフ・ヌナ (dwarf nuna*14)からバフ*15をもらった方がよっぽどマシだ!

ゲームに参加していないということだけではなく、「AFK マクロ」はカンティーナにおける相互作用の質にすら影響を与えてしまう。同じ文章を繰り返し垂れ流すので、マクロはスパム同様なのである。実際、何人かのプレイヤーはこんな直接的な例えを言っていた。

23:03:52 スパマー (演奏マクロを実施している) [叫ぶ]: ジェダイ・ホロクロン10個を500万で売ります!興味があればメールを送ってください、後でお返事します!
23:05:40 プレイヤー A: やぁ、みんな。。。ようこそスパムティーナへ! ^^;
23:06:19 プレイヤー B: スパムをやめやがれ 23:06:19 プレイヤー C: ホロクロンだったら、俺が30万以下で売ってるよ。だからスパムを止めなさいな。
23:36:50 プレイヤー D: スパムを組み込まなくても AFK マクロは作れるって事を早く学んで欲しいよね。lol*16

グラフの右側、特に右上には相互作用をより行うプレイヤーがプロットされている。彼らは「生きたエンターティナー」である。彼らは他人へ多くのジェスチャーを行い、それへの返答もたくさん受け、平均よりもはるかに多くの発話を行っている。生きたエンターティナーは2つのタイプに分類される。一方は「社交家」[1]で、他方は「マスター・エンターティナー」である。前者は、チャットをしたりジョークを言ったり、ナンパ、ロールプレイ、パフォーマンスなどをすることを特別に楽しんでいるプレイヤー達である。後者は、ゲームシステムとして用意された「バフ」というサービスを提供するマスター・ダンサーやマスター・ミュージシャンである。ドクターに加えて、ダンサーとミュージシャンは特定のキャラクターの能力 (マインド、クイックネス、スタミナ) を一時的に上昇させてパワーアップしてやることができる。疲弊を癒す場合とは異なり、バフを行うためにはエンターティナーと聴衆の間で実際に相互作用をする必要がある。エンターティナーは対象に直接注意を向ける必要があるため、希望者は積極的にバフしてもらうことを頼まなければならないからである。SWGにおける他の財やサービスと同様、バフの提供には対価が求められる場合が多い。そのため、価格の交渉と支払いのためにしばしば相互作用が発生するのである。さらに、バフを希望する聴衆よりもマスター・エンターティナーの数が多いときなどは、潜在的な客がドアを入ってくるや否や、エンターティナー達は微笑んだりウィンクをしたりして、顧客の獲得競争を行うのである。ゆえに、疲弊を癒すことよりも、バフに関しては社会的相互作用をより強く活性化させるのである。

もちろん、社交家とマスター・エンターティナーは相互背反するものではない。いずれのタイプとも、 SWG のデザイナーがカンティーナで発生させようとしていた社会的活動のパターンとかなり合致したものになっている [14]。以下の引用は、ログの中から抽出された、バフのやりとりの進行における社会関係の典型例である。

22:02:31 ダンサー: やぁ
22:02:37 客: こんばんは
22:02:39 客はダンサーに会釈した
22:02;46 客: マインド・バフできますか?
22:02:51 ダンサー: 喜んで
22:02;52 ダンサーは客に注意を向けた
22:03:49 ダンサー: 今夜は何をするつもりだい?
22:04:02 客: エンドア*17に向かう途中です。狩りに行くんです。
22:05:12 ダンサー: イウォーク*18を1匹捕まえてきてくれよ
22:05:16 ダンサー: お願いーーーーーーー
22:05:24 客: 毛皮だけですか?それとも丸ごと生け捕りがいいですか?
22:05:28 ダンサー: はは
22:05:32 ダンサー: 生け捕りで。
22:05:47 ダンサー: 毛皮がなくなっちまったら、奴らも困るだろ?
22:05:52 客: あのおチビさんをうまく捕まえられたら、持ってきてあげますよ
22:06:05 ダンサー: へへ
22:06:05 ダンサーは客に微笑んだ
22:06:05 客はダンサーに微笑んだ'

まとめると、カンティーナでの観察からは対称的な光景が見られた。一方では、ごく短い目的志向的な相互作用が多数観察された。これは、プレイヤーが直接アバターを操作するのではなく、マクロで自動的に動作している多くのエンターティナー達によって生み出されていると思われるものである。他方で、決して無視し得ない数のエンターティナーが存在していた。彼らは真の意味での相互作用を行っており、より長くユーモアに富んだやり取りをしていた。以上のことから、コロネットのカンティーナは、「癒しのためのドライブスルー」(マクロだろうとそうでなかろうと、とにかくぱっと癒してもらい、すっと立ち去る)とプレイヤー達が楽しいひと時を共有する社交場(先に紹介したユーモラスな会話などの例)という2つが混在するおかしな場所であると言えよう。

4.2 スターポート

Figure5.png
【Figure 5 コロネット・シティのスターポート前】

26日間のログによれば、4,668人の異なるプレイヤーがスターポートにやって来た。非常に多くのプレイヤー数に登り、我々が採取したプレイヤー人口の多くの割合を占めている。なお、スターポートを訪れたプレイヤーのうち 2,761人 (59.1%) はカンティーナにも姿を現していた。

ジェスチャー全体に占める割合
感謝 (Thank)15.95%
お辞儀 (Bow)12.29%
手を振る (Wave)9.81%
腕を振り回す (Flail)8.17%
微笑む (Smile)7.89%
うなづく (Nod)7.03%
敬礼 (Salute)2.48%
可愛がる (Pet)1.95%
吐く (Puke)1.89%
喝采 (Cheer)1.56%
【Table 2 – スターポートにおけるジェスチャーの上位10種類】

スターポートにおけるプレイヤーの各時間ごとの総活動量は、カンティーナの場合とほとんど同じである。深夜から午前4時のサーバーダウンに向けて減少していき、午前7時から午前11時にかけて増加していく。ピーク時には1時間あたり約30,000のできごとがある。つまり、1日あたりで見れば、1時簡易平均して1,154回のできごとが発生していることになり、カンティーナでの活動量のおよそ2倍である。大きな違いは、そこで行われている相互作用が、ジェスチャーではなくテキストメッセージであるという点である。このことは、相互作用のやり方が異なっているということを意味する。スターポートでは270種類のジェスチャーが使用されており、上位10種類を Table 2 に示した。

プレイヤーはカンティーナよりもスターポートの方を頻繁に訪れる。1日あたりの訪問回数の中央値は 3 (平均 4.21、標準偏差 4.17)であった。26日の期間中、13日以上現れたプレイヤー数は 219人 (スターポートへ来た人の 4.7%) であった。この結果は、スターポートがトランジット・ハブの役割を担っており、プレイヤーはカンティーナよりもスターポートを通過することが多いということを反映している。

前節の3つの次元の値をここでも求めると、(1)発したジェスチャーの中央値 0.1 (平均 0.4、標準偏差 0.96)、(2)受けたジェスチャーの中央値 0.21 (平均 0.43、標準偏差 0.89)、(3)発話の中央値 4.5 (平均 14.26、標準偏差 52.73)であった。まとめると、プレイヤーがスターポートにいる時は、あまりジェスチャーを行わないが、より多くの発話を行っている。前節の分析手順に従って、ここでも3つの次元をグラフ上にプロットし、結果を Figure 6に示す。

Figure6.png
【Figure 6 スターポートにおける相互作用プロファイル】

このグラフは、左下に大きく偏っている。まずは、一切ジェスチャーは行っていないのに、多数の発話を行っているプレイヤーを取り上げる。我々のエスノグラフィック観察によれば、スターポートで大勢を占める活動は広告である。スターポート(中でも、コロネットのスターポートは特に)は、多様な聴衆に広告する最適な場所であり、プレイヤーはマクロを使って同じメッセージを繰り返し「叫ぶ」傾向にある。広告内容は、商品の販売、バフやその他のサービスの提供、そしてプレイヤー・シティで行われるイベントについてである。このような「シャウト・マクロ」を行う場合、プレイヤーは自分のアバターを単なるチラシとして使っているだけであり、ほとんどの場合は様子を確認しているプレイヤーなどは存在せず、話しかけられても返事もできない。以下の引用は、この習慣の典型例である。

17:50:37 プレイヤー X [叫ぶ]: ベンダー設置中 596 -5165! オーガニック他、多数のリソースを販売しています。武器多数、シップ、ジオノーシス・ケイブのルート品*19、シス・ソードもあります!早い者勝ちです!

同じ左下の領域には、ごく少数の発話しか行わないプレイヤー達がたくさんいることもわかる。これは、スターポートで行われる別のタイプの相互作用を反映している。それは訓練である。プレイヤーは十分な経験値を獲得すると、スキルの段階を上げることができる(例えば、初心者マークスマンからライフル・レベル1へ、など)。ただし、スキルの上昇は自動的に行われるわけではない。プレイヤーは、獲得したいスキルを教えてくれるのに適切なトレーナーから教わらなくてはならない。各街にはコンピュータによって操作されているトレーナーがおり、対価を支払えば彼らからスキルを学習することができる。ただし、それにはかなりの費用がかかる。しかし、そこにもう1つプレイヤー同士の相互作用を活性化させるための仕組みが SWG のデザイナーによって組み込まれている。プレイヤーは互いにスキルを教えあうことができるのである。訓練したい人は他のプレイヤーから無料でスキルを習うことができ、教える方には見返りとして訓練授与経験値が与えられる(この経験値は、全ての職業において「マスター」になるために必要なものである)。

しかしながら、自分の欲しいスキルを教えられる人を見つけることは容易なことではない。それゆえ、人の出入りの激しく人口密度の高いスターポートは、トレーナーを探すのに最適なのである。その結果、例えば以下のようなやり取りが多数見られる。

14:22:19 プレイヤー A [叫ぶ]: どなたか、ハンティング 3 と罠 2 を教えてくれませんか?
14:22:45 プレイヤー B: はい
[2人は出会い、プレイヤー B は プレイヤー A を訓練する]
14:24:03 プレイヤー A: ありがと!
14:24:08 プレイヤー B: np*20

スキルの進んでいても、訓練授与経験値は欲しい人もおり、彼らは先に説明した「シャウト広告」を用いる場合がある。

02:06:59 プレイヤー X [叫ぶ]: ブロウラー4004、パイクマン3143、テラス・カシ1011、スカウト4143、クリハン*211113、メディック2111を教えます。訓練授与経験値が欲しいのです。Player X にテルして下さい。

Figure 6のその他のプレイヤーのほとんどは、発したジェスチャーと受けたジェスチャーの数が等しい所*22を推移している。そして、そのほとんどはかなりの発話を行っている。これらのプレイヤーはスターポートの前でサービスの提供を行っている人々であり、ほとんどが医者と「スライサー」である。前者は「バフ」(ヘルスとアクションを一時的に上昇させる)を提供しており、後者は武器を「スライス」することで強化している。両職業共に、スターポートの前に立って、自分のサービスの宣伝をしている。サービスを求める人がやってくると、彼らは一連のジェスチャーを行う。典型的には、提供側が手を振ったり(wave)お辞儀(bow)をし、客もお辞儀や微笑(smile)を返したり、丁寧に謝意を示したりする。以下は、医者の典型的な例である。

10:31:30 医者 [叫ぶ]: マスター・ドクターのバフセットを8k*23で販売中
10:33:25 バウンティ・ハンターは医者に手を振った
10:33:27 バウンティー・ハンター: バフ下さい
10:34:36 医者はバウンティー・ハンターにうなずいた
10:34:51 医者: はい。どうぞ、おかけください
[医者はバウンティー・ハンターにバフを与えた]
10:39:25 バウンティー・ハンター: ありがとうございます ^^
10:39:30 バウンティー・ハンターは医者にお辞儀した
10:40:03 医者: np

まとめると、スターポートはもっぱら商売やサービス志向の場所であるようだ。多くの人々が他の惑星へ行く途中に通過するため、サービスの広告には適した場所なのである。マクロで操作して自分のベンダーがどこにあるのかを単に知らせているだけの人もいれば、その場でサービスの販売をしている人もいる(医者やスライサー)。また、人口密度が高いので、スキルを教えてくれる人を探すのにも適している

5. 考察

5.1 MMORPGにおける社交場の構築

複数の先行研究で、多人数ゲームですら豊かな社会的活動を支援することには根本的な問題があるということが示されてきている。それゆえ、「プレイヤーは常に何らかの解決策を模索しているし、社会活動への欲求を満たすような外的なサポートを求めている」[16]のである。SWG はこの問題を解決する試みをはっきりと打ち出した。つまり、ゲーム全体がプレイヤー同士の出会いを最大限に引き出そうとしたのである。特に SWG に置ける場所は目論見をもって配置されている。いくつかの場所は特定のサービスの提供に関連付けられているし(例えば、戦闘での疲弊はカンティーナで癒す)、人々はそこに集まって、しばらくの間滞在しなければならないようにされている(スターポートでシャトルを待つ時間があるなど)。ゲームでは他にも相互作用をする機会はあるが、これらの場所はプレイヤー同士の相互作用が活発になるように意図的にデザインされているのである。本稿ではカンティーナとスターポートにおける相互作用のパターンを調査したが、相互作用の活性化ということに関して、SWG がうまくいっている点もあれば、今後改良していく必要がある点もあることがわかった。

キャラクター間の相互依存関係を作り出したことと、作業に応じた場所をデザインしたことが、プレイヤー達がお互いに付き合うことを促進したのは間違いない。カンティーナとスターポートは定期的に何度も人々が訪れる場所なのである。プレイヤー達がこれらの場所へ来ることは、あたかも人口密度の高い地域を通り抜けるようなものであり、賑わいのあるバーや公共施設にいる状況により近いものである。それぞれの場所では、プレイヤーは自分のできるサービスを提供しつつも、他者から受けなければならない必要なサービスをも手に入れることができるのである。提供者と受益者はこれらの場所で接触を持ち、ゲーム内での必要に応じて相互作用を行う。この点で、SWG は大成功した。他人と話をせずに済ますことは不可能なのである。Bartle [1] が目的志向者 (achiever) と呼ぶタイプの人で、特に筋金入りの目的志向者ですら、他のプレイヤーと最低限の会話を行わなければ、回復能力や装備品、その他の必要物資・サービスの欠如によって生き残っていけないのである。

CSCW*24研究者は、オンラインスペースにおける社会的相互作用を促進する技術をいくつも提案してきている [15]。その中で、「場所作り」("place-making")と「空間感覚」("sense of space")*25が中心的役割を果たしてきた。特に空間は、環境の手がかりの社会的解釈を与え、その場所の適切な使い方と行動の共通理解を与える [7,8]。例えば、教会に入れば、騒々しい行動は不適切だとわかるものである [15]。物理環境がほど良く設計された都市広場 [26] に人々は集まりやすく、そこでは予期しない付随的な出会いがとても起き易いのである。

初期のオンライン上の社交場のほとんどはテキストが主体のものであった (例えば、MUDやIRC)。現代の MMORPG はそれらと異なり、精細な3D世界の中に構築されている。SWG はデザインの段階から、空間感覚を取り入れるよう努力した。街は現実世界の街や巨大な公共スペースを真似ている (例えば、スターポート)し、建物はその機能がはっきりとわかるように作られている (例えば、カンティーナ)。しかしながら、場所の効果とは異なり、予期せぬ付随的な相互作用は我々の観察ではあまり見られなかったことに注意する必要があり、それはそれで興味深いことである。実際には、多くの相互作用は場所に基づいて発生したのではなく、財やサービスの提供に関連して発生していたのである。そして、相互作用は我々が思っていたほどは多くなかった。

奇妙なことだが、我々は SWG の社会空間は「デザインが懲りすぎ」なのではないかと思い始めるようになった。ある特定のやり取りが特定の場所でのみ発生してしまうようになり、その他の社会的活動を発生しにくくしてしまう傾向にあるのではないかと考えている。このことは、その場所ではデザイナーが意図した会話内容以外のものは話しにくいという事実によって、より深刻になっている [7]。例えば、優れたレイアウト設計(メインフロアがあり、その脇には小さな個室が並んでいる)であるにも関わらず、カンティーナはたった1つのおしゃべり空間に成り下がっている。これは、カンティーナの中で発言したことは、建物のどの場所にいる人にも聞こえてしまうからだ。空間を物資の交換以外の目的に使いたいと思ったプレイヤーがいたとしても、場違いなことをしたくないという思いから、そうすることが妨げられてしまうのである。

言い換えると、カンティーナのような空間は、そこにいる人が自分勝手に他の社会活動に利用しようと思っても、簡単には他と区切ることができない構造になってしまっている。空間を他の目的に使おうとすると、衝突や対立が発生してしまう。例えば、「AFK マクロ」と生きたエンターティナーは、それぞれが考える適切な行動に相違があるのに、同じフロアを共有して使わなければならない。究極的には、もっとも声の大きい者がその空間の使い方を支配する。カンティーナでもスターポートでも、マクロを利用しているプレイヤーがもっとも目立つのだ。もし、今とは別の空間の構成の仕方であれば、両者共に平和共存できたかもしれない。

SWG の社会空間におけるもうひとつの問題は、気づき (awareness) の問題である。気づきとは「他の人々の存在、彼らの相互作用や活動についての知識」と定義される [6]。ひどく混んだオンラインスペースでは、ユーザーに他者の存在を気づかせるべきかどうか、またそれはどのように実現するかということが、重要な課題である [15]。人々は、他者と相互作用するときには、その他者が本当にそこにいるということを知らなくてはならないからである。

直面する問題として、SWG ではマクロが広く普及しているせいで、誰が本当に相互作用の相手になりうるのか判別することは難しい。4.1 節で紹介したユーザーのコメントがそのことを如実に示している。さらに重要な問題として、誰とどんな相互作用が可能なのかを知ることすら困難なのである。あるプレイヤーは目的志向的で短い相互作用を欲しているのに対して、別のプレイヤーはより社交的な付き合いを望んでいるのである。プレイヤーのタイプ分けに従えば、コミュニケーション志向者 [10] はいきなり深いコミュニケーションを始める傾向にある。SWG ではプレイヤー自身が望む相互作用の種類に応じて、自分を識別させるためのシステムがすでに導入されている。例えば、プレイヤーは自分のアバターに「ロール・プレイヤー」、「新人お助け係」などのラベルをつけることができるのである。また、自分のプロフィールやキャラクターの経歴などを記しておくこともできる。我々のエスノグラフィック観察においても、カンティーナやスターポートなどの混んでいる場所では、頻繁に経歴やラベルを見て、付き合う相手を識別しているのが観察された。実際には、これらの情報を知るためには、相手をクリックしてその人のプロフィールを調べるという一連の動作が必要ではあるが。

しかし我々は、この問題を解決することはかなり容易ではないかと考えている。各アバターの頭上に表示される名前は、その人が所属する勢力(反乱同盟軍か帝国軍か)に応じて青もしくは紫色に変化するようになっている。この変色システムを拡張して、その人の相互作用パターンに応じて変化するようにすれば良いのだ。例えば、社交的な付き合いを望む人は、大勢の中から他の社交的なその色を見つけて、その人と相互作用を行えばよいのである。

まとめると、SWG は CSCW 研究者が提唱しているオンライン上の社会空間のデザイン法を実装して成功を収めていると考えられる。しかし、オンライン上の社会的相互作用に関する多くの研究で、はっきりと示されている問題も内部に含んだままである。将来の MMORPG は、もっと CSCW 研究に目を向けるべきであろう。

5.2 2つのプレイスタイルのサポート -目標志向的プレイと社交的プレイ

プレイヤー同士の相互作用について述べるとき、我々は受益者と提供者という言葉をしばしば用いた。この言葉を採用したのは、気まぐれではない。繰り返し述べるが、SWG における社会的相互作用が目的志向的であることが分析から明らかになったからである。ほとんどのプレイヤーはカンティーナやスターポートで、短く散発的な相互作用を行っている。彼らは自分の目的が果たされるや否や、ゲームの他の目的のためにどこかに行ってしまうのである。Muramatsu & Ackerman [18] が示したゲームにおける社会活動の特徴が、本研究でも一貫して見られた。彼らが主張したように「システム内での活動は、人との関わりはあるが、社交的ではない」のである。Manninen も同様に、「目的志向で戦略的な活動が、他のタイプの活動よりもずっと多い」と述べている [16]。我々が調べた全ての相互作用にこれが当てはまるわけではないが、彼らの主張を支持する結果も得られている。

目的志向的行動は、我々の観察で特にはっきりと、ある特定の行動となって現れている。つまり、マクロである。SWG の中に存在するかなりの数のキャラクターは単に自動操作されているものであり、彼らがゲームを進める上での必要を満たすために動いているものである。しかしこれは、カンティーナのような目的を持った社会的空間を台無しにしてしまうものである。多くのアバターはあたかもロボットのようなものであり、戦闘疲弊を癒してもらいたいと思って待っているプレイヤーと相互作用することはできない。スターポートは、自分のベンダーの広告のために自動的に「叫んでいる」多数のアバターによって占拠されている。いずれも、もう1つのコンピュータを介したコミュニケーション(Computer-mediated communication; CMC)環境のことを色々と思い出させるものである。IRC (Internet-Relay Chat) のチャンネルの中には、「ボット」(bots; スクリプトに基づいて自動的に行動するプログラム) によって、お互いに会話をしようとしている参加者が追いやられてしまい、結果としてその場の相互作用が台無しにされてしまう [19, Chapter 6]。4.1 節で紹介した、「スパム」に対するプレイヤーのコメントも同様の問題を繁栄したものである。

他方で、特にカンティーナにおいては、純粋に相互作用を行おうとするプレイヤーも存在していた。決して少なくない数の人々は、単にサービスを提供するだけではなく、聴衆に向けてパフォーマンスを行っていた。この種のエンターティナーは実際にプレイヤーによって操作されており、カンティーナの中で見聞きしたことに対して当意即妙に、ジョークや適切なジェスチャーで反応している。彼らは、SWG のデザイナーがカンティーナを作ったときの目論見に合致した人々であろう。

同じ場所に集まった、目的志向的プレイヤーと社交的プレイヤーの間の衝突も観察された。MUD ゲームの黎明期から、プレイヤーには異なる志向性を持った人々がいることがデザイナーの間で知られていた [1,24]。「パワーゲーマー」(Power gamers) や「目的志向者」(achievers) はゲームをいち早く進めることや効率性に重点を置いている。彼らは非社交的であるわけではないが([24]を参照)、おそらくカンティーナに居座っておしゃべりすることには興味がないのだろう。その代わり、彼らはできるだけ速くレベルを「かっさらう」ためにマクロを使うのだ。一方で「社交家」は、自分自身の楽しみとして、他人と付き合うのであり [21]、楽しい時間を過ごせるかどうかが最大の関心ごとである。この2者は、カンティーナやスターポートのような場所で真っ向から対立する。ゆえに、MMORPG を設計する際の重要な課題は、この異なるタイプの人々の要求を同時に満たしてやることである。

SWG においては、プレイヤーは均質な志向を持った人々でサブグループを作ることで、自発的にこの問題を解決している。例えば、プレイヤーが作った街に関して言えば、あるところに「ロールプレイヤー向け」を謳った所があれば、社交目的のものもあるし、もっぱら戦闘を行う街などもある。これは、同じゲームの中で異なる志向性をもったプレイヤーの共存を可能にするとりあえずの解決策である。しかしながら、ゲームのメイン舞台となる、ノン・プレイヤーシティ(例えば、コロネット)では、そういった区分けは不可能である。我々は、目的志向者と社交目的者のそれぞれが、同じ場所でそれぞれの行いたい活動をすることで見返りが受けられるような形へ、ゲームの相互作用システムを再構築することは可能なのではないかと考えている。

我々のデータに拠れば、マクロシステムが両刃の刃であり、デザイナーが熟考すべきであることは明らかである。ゲームのインターフェイスや一連の動作を効率的に行おうと思えば、マクロはプレイヤーにとって役に立つし、歓迎されるものである。特に、パワーゲーマーにとっては必須の機能である。しかし、全ての活動について自動操作を可能にしてしまうと、それは社会的相互作用に影響を与え始める。ゲームのどんなものも手に入り、進行もより早くなり、無常にもゲームが台無しにされてしまうのである [24]。SWG に限って言えば、簡単な動作のほとんど、他者との相互作用ですらマクロによって行われてしまうのである。

この点に関して言えば、SWG のマクロは強力すぎるようだ。特に、サービスを提供する職業にとっては、あるアバターがマクロで組まれた動作を繰り返し行っている場合に、そのプレイヤーが本当にコンピュータの前に座って他人と相互作用する準備ができているのかどうか確認しなければならない。プレイヤーは、「AFKマクロ」ではなく、実際に自分でアバターを操作したときに見返りを受けるようにしなければならないだろう。例えば、「実際に」プレイしているときは、より多くの経験値が得られるなどである。最も重要な点は、次の通りである。今すぐに、SWG のような社会的相互作用を促進させようとしているゲームですら、目的志向的な行動とゲームの進行を結びつけることである。例えば、エンターティナーは戦闘疲弊を癒すことで成長するが、それは多くの人がエンターティナーを「見る」とクリックするだけですんでいる。そのため、これくらいのことはマクロで自動s化することは容易であり、優れたショーを見せても追加の経験値は得られない。そのため、プレイヤーは空虚なアバターにマクロを仕組んで、必要な経験値を稼がせようとするのだ。このようなシステムをやめて、生で社会的相互作用を行えば経験値が得られるようにゲームを再構成して、誘因と報酬をプレイヤーに与えればよいのだ。

この策を実現するにあたって、ゲームデザイナーはおそらく社会的相互作用のデータを有効に利用できるのではないか。本研究では、パブリックに発せられたもののみで、簡単に手に入る情報だけを利用した。これだけでも、ゲーム内の社会活動について良く理解することができたし、問題点も特定できた。例えば、カンティーナでは、受け取ったジェスチャーの数を調べれば、「生きている」エンターティナーとマクロ利用者を識別できる。おそらくゲームデザイナーならば、サーバーを通じてゲーム内の全ての情報を操作できるのだから、より大量のデータを利用できるはずだ。ゲーム内の全ての地点における相互作用を数量化して計測することも容易にできるだろう。各プレイヤーが参加している社会ネットワークの分析も可能となるはずだ。同様の試みは、他のオンライン上の社会環境で進行中であり[例えば、4,20,23,25]、Raph Koster は同様の技術を前回の Games Developers Conference で発表している [14]。マルチプレイヤーゲームがこのアプローチから得られるメリットは大きいだろうと我々は考えている。実際、マルチプレイヤーゲームは既存の CMC 環境の可能性を拡張して構築されたものであり、電子メディアに関する先行研究の結果を有益に利用することもできる。これらのデータは、「社交的プレイヤー」に適切な報酬を与えることができるし、より目的志向的なプレイヤーですらサポートすることができるのである。

例えば、エンターティナーは、彼らが他者と行った会話の数と長さに応じて報いられるようにできるだろう。政治家 (SWG におけるもう1つの社会的職業である) は、広範な社会ネットワークの中心的位置*26をしめることで報酬を受け取るようにするのだ。可能性は無限であるが、社会的相互作用のデータは網羅的ではない。本稿がゲームデザイナーにインスピレーションを与え、社会科学者との交流を深めることでより良いゲームを開発することを、筆者らは願ってやまない。

5.3 短所と注意

本節の最後に、いくつかの重要な注意点を述べておく。第1に、我々の社会的相互作用に関する分析は2箇所に限られており、SWG プレイヤーの全ての相互作用を反映したものではないことである。我々は、プレイヤーが相互作用をせざるを得ないようにデザインされた重要な場所に焦点を当てた。エスノグラフィック調査の方では、コロネットの中では雑音にしかならない、他の文脈において発生する、十分に長期間にわたる相互作用のデータを多数取得した。それらは、簡単な狩り、荒野における冒険や戦闘、小さな町のカンティーナやスターポート、プレイヤーが作った街や場合によってはプレイヤーの家で行われるギルド会合などのイベント、結婚式やノミの市などである。SWG に相互作用が全くないとは主張するつもりはないが、いくつかの公共の場所で発生している相互作用は将来の改善に向けて大きな指針となるだろう。

第2に、我々の量的分析は全て公に観察できる行動に限られている。しかしながら、多くの活動は我々からは見えないところで行われているのである。プレイヤーは「テル」やグループチャットを利用して、仲間内だけで会話をしており、その内容は我々には知る由がない。実際、プライベートなチャット方法は、コロネットのスターポートやカンティーナのように混んでいるところではよりたくさん利用されていることだろう。我々のエスノグラフィック観察から、スパムが多いところでは、そういった雑音を締め出すためにプレイヤーはプライベートなチャット方法に切り替える例が頻繁に見られた。それでもなお、パブリックな情報はそれら2箇所における社会的な雰囲気をよく教えてくれていると思っている。ただし、あくまで部分的なデータであることは心に留めておきたい。

6. 結び

SWGは、様々な特色を複雑に組み合わせることによって、ゲーム内の特定の場所での社会的相互作用を促進させるという試みを行った最初のものである。このことは、プレイヤーの中でも少なくない数を占める非目的志向的プレイヤー(社交的プレイヤー)に手を差し伸べるものであり、多人数ゲームの社会的な特徴に照らして正しい方向に踏み出したものであると再認識させてくれる。しかし、SWG 内の2箇所(カンティーナとスターポート)における相互作用パターンの観察を通じて、これらの場所をより良くするためにはいくつか改善すべき点があることも明らかになった。我々のデータに拠れば、プレイヤー同士は相互作用はそれほど深いものではなく、短い相互作用と目的志向的な特徴を持っていた(例えば、癒しを受けるだけ、サービスを購入するだけ)。このことは、これらの場所で非目的志向的行動を行うこと誘因がプレイヤーに存在しないことによって引き起こされていると考えられる。特に、SWG では強力なマクロシステムによって、他のプレイヤーたちと対話する必要なく、目的にあったことが自動的に実現できてしまうのである。ゲーム内の社会空間の構造とプレイヤーが実際に操作しているのかどうかわからないという欠点によって、問題を複雑にしている。ゲームデザイナーは、本稿で用いたのと同様の社会的相互作用データをゲームに反映させ、真の意味の社会環境を作っているプレイヤーに報酬を与える仕組みを作ることで、これらの問題を解決すべきだ。そうすることで、目的志向的プレイヤーと社交的プレイヤーを、新しく拡張されたオンライン世界において、うまく共存させることができるだろう。

7. 引用文献

[1] Bartle, R.: Players who suit MUDs. Journal of MUD research,1 (1). (1996)

[2] Cherny, L.: Conversation and community: chat in a virtual world. CSLI Publications, Palo Alto, CA (1999)

[3] Curtis, P.: Mudding: Social Phenomena in Text-Based Virtual Realities. In: Proceedings of Directions and Implications of Advanced Computing (DIAC'92) Symposium, Berkeley, CA, (1992)

[4] Donath, J., Karahalios, K.,Viegas, F.: Visualizing conversation. In: Proceedings of the thirty-second annual Hawaii international conference on systems sciences, IEEE, January 5-8, 1999, Maui, Hawaii, (1999)

[5] Dourish, P.: The state of play. Computer Supported Cooperative Work, 7. (1998) 1-7

[6] Dourish, P.,Bellotti, V.: Awareness and Coordination in Shared Workspaces. In: Proceedings of the Conference on Computer-Supported Cooperative Work (CSCW'92), ACM Press, New York, (1992), 107-114

[7] Ducheneaut, N.,Moore, R.J.: Gaining more than experience points: Learning social behavior in multiplayer computer games. In: Conference proceedings on human factors in computing systems (CHI2004): Extended Abstracts, April 24-29, 2004, Vienna, Austria, (2004)

[8] Harrison, S., Bly, S., Anderson, S.,Minneman, S.: The Media Space. In: Finn, K.E., Sellen, A.,Wilbur, S.B. (eds.) Video-Mediated Communication, Lawrence Erlbaum Associates, NJ, (1993), 273-300

[9] Harrison, S.,Dourish, P.: Re-Place-ing Space: The Roles of Place and Space in Collaborative Systems. In: Proceedings of the Conference on Computer-Supported Cooperative Work (CSCW’96), ACM Press, New York, (1996), 67-76

[10] Hine, C.: Virtual ethnography. Sage Publications (2000)

[11] Isaacs, E.A., Tang, J.C.,Morris, T.: Piazza: A Desktop Environment Supporting Impromptu and Planned Interactions. In: Proceedings of the Conference on Computer-Supported Cooperative Work (CSCW'96), (1996), 315-324

[12] Jakobson, M.,Taylor, T.L.: The Sopranos meets EverQuest: social networking in massively multiplayer online games. In: Proceedings of the 2003 Digital Arts and Culture (DAC) conference, Melbourne, Australia, (2003), 81-90

[13] King, B.,Borland, J.: Dungeons and Dreamers: the Rise of Computer Game Culture. McGraw-Hill, New York (2003)

[14] Lee, A., Danis, C., Miller, T.,Jung, Y.: Fostering social interaction in online spaces. In: Proceedings of INTERACT'01, IOS Press, Amsterdam, (2001), 59-66

[15] Manninen, T.: Interaction forms and communicative actions in multiplayer games. Game Studies, 3 (1). (2003)

[16] Mason, B.: Issues in virtual ethnography. In: Buckner, K. (ed). Proceedings of Esprit i3 workshop on ethnographic studies, Edinburgh: Queen Margaret College, (1999), 61-69

[17] Muramatsu, J.,Ackerman, M.: Computing, social activity, and entertainment: a field study of a game MUD. Computer Supported Cooperative Work, 7. (1998) 87-122 [18] Rheingold, H.: The Virtual Community: Homesteading on the Electronic Frontier. MIT Press, Cmabridge, MA (2000)

[19] Sack, W.: Conversation Map: An interface for very largescale conversations. Journal of Management Information Systems, 17 (3). (2001) 73-92

[20] Simmel, G.: The sociology of sociability. American Journal of Sociology, 55. (1949) 254-261

[21] Smith, M.A., Farnham, S.D.,Drucker, S.M.: The Social Life of Small Graphical Chat Spaces. In: Proceedings of the SIGCHI conference on Human factors in computing systems (CHI 2000), The Hague, The Netherlands, (2000), 462-469

[22] Smith, M.A.,Fiore, A.T.: Visualization components for persistent conversations. In: Proceedings of the SIGCHI conference on human factors in computing systems, ACM Press, NY, Seattle, WA, (2001), 136-143

[23] Taylor, T.L.: Power gamers just want to have fun?: Instrumental play in a MMOG. In: Proceedings of the 1st Digra conference: Level Up, The University of Utrecht, The Netherlands, (2003)

[24] Viegas, F.,Smith, M.A.: Newsgroup Crowds and AuthorLines: Visualizing the Activity of Individuals in Conversational Cyberspace. In: Proceedings of the 37th Hawaii International Conference on System Sciences, IEEE, (2004)

[25] Whyte, W.H.: City: Rediscovering the Center. Doubleday, New York (1988)

[26] Wilson, D.: Do Games Need Stories? Gamespot, http://www.gamespot.com/all/news/news_6089069.html.

[27] Woodcock, B.: An Analysis of MMOG Subscription Growth -Version 7.0. http://pw1.netcom.com/~sirbruce/Subscriptions.html.

[28] Wright, W.: Models Come Alive (PC Forum transcript). http://www.edventure.com/pcforum/wright.cfm.

[29] Yee, N.: Ariadne - Understanding MMORPG addiction. http://www.nickyee.com/hub/addiction/home.html.

訳者あとがき

翻訳ポリシー

翻訳中に注意して心がけたことは「自然な日本語になるように」です。訳してみて、おかしな日本語になったら、自分で言葉を補ったり、原文の文章の順序を入れ替えたり、原文の意味そのものを変えてしまった部分などもあります。

今回の翻訳の目的のひとつが、前文にも書いたとおり「英語の苦手な人と、この論文の内容を共有したい」ということであり、大意が僕と読み手との間で共有できれば十分だと考えたからです。自画自賛ですが、割とその試みはうまくいったのではないかと思っています。

もし、原文の意味を正確に理解したいなら、原文を読むべきだし。それは僕の責任ではなくて、正確に理解したい人の責任でやるべきだと思うし。ただし、偉そうなことを言いつつも、明らかな誤解や誤訳があったら知らせていただけると、大変ありがたいので、よろしくお願いいたします。

ちなみに、冒頭にある「自然な日本語になるように」という考え方は、翻訳中、勝手に「『良い朝』ではなく、『おはよう』」原則と名付けて心に留めていました。"Good morning, Alm" は直訳すれば、「良い朝だよ Alm」になります。しかし、現代語としてはおかしい。やはり「おはよう、Alm」と訳したい。つまり、そういうことを念頭において訳したので、いろいろ原文の枠を超えて訳したってことです。

もう1つ、今回の翻訳で考えたことは、「もしかしたらSWGユーザー以外にも有益かもしれない」ということです。そのことがあったので、SWG プレイヤーには説明不要な単語でも、思いつく限りは訳注をつけました。ただし、うろ覚えだったり、SWG 用語をそのまま使っては到底理解できそうにない言葉に関しては、勝手に訳語を作りました。

多くの人の役に立つといいな。

論文に対する学術的コメント

論文審査について

まずは、学術論文の世界に縁遠い人へ向けて、ちょっとこの世界の事情についてお話します。

あえて乱暴な言い方をすれば、論文なぞ誰にでもかけます。研究することなんて、たいして難しくはありません。それこそ、SWG でどうやれば効率的にジェダイになれるかをつらつらと文章にして、自分で「これは論文だ」と言い張れば良いのです。

学術論文に関して何が一番大変かというと、「採録許可をもらう」ということです。論文を書いた研究者は、学会などにその論文を送るわけですが、送れば全て公表されるわけではありません。投稿された論文は、複数の専門家によって審査され、彼らが「公表に値する」と判断を下して、初めて学術論文として認められるわけです。

最近は、技術の発達などにより、誰でも簡単に blog などで自分の意見を発表できますが、学術論文との違いは、発表前に「専門家にチェックされるかどうか」です。blog は基本的にチェックがないので、学術的な価値はないと言うのが、一般的な見方です。

この論文は、(どこの誰が審査したのかは、普通は公表されず、この論文の審査者も公表されていないけれど)正式な査読プロセスを経て発表に至ったので、お墨付きのれっきとした学術論文です。もう一回調べればいいのだけれど、面倒だからやらないけれど、たしかこの論文が採録された CSCW2004 は採録率が 30%以下だったと思います。投稿された論文のうち、3本に2本は陽の目を見ず、その競争を勝ち上がってきた論文なので、まぁまともな方です (かの有名な Nature や Science に比べると、はるかにダメだけど。比べる相手が悪いね。;-p)。

そんなわけで、そんじょそこらの日記などを翻訳するよりは、よっぽどまともな文章などだと思うことが、僕のモチベーションを維持していました(この文、かなり嫌な言い方ですな。そんじょそこらの日記にも素晴らしいものはあることは認めています。念のために言っておくと。「学術」という言葉にこだわるかこだわらないかの問題です。ここでは一応こだわるという方針なので。)。

内容について

オンラインコミュニティを設計したいと思う人には示唆に富んだ論文だと思いました。コミュニティのシステム自体を設計しようとしている人だけではなく、所与のシステムの中でいかに豊かなコミュニティ(e.g. SWG のプレイヤーシティ)を作ろうかと考えている人にも得るところは大きいでしょう。コミュニケーション(本文の中で「相互作用」と表していたものとほぼ同意)を促進するために、それに適した物理的環境をつくることと、相互依存性のネットワークに組み込むということは、おそらく真理でしょう。なにもオンラインコミュニティに限った話ではなく、現実世界でも同じことが言えると思います。

以下は、読んでいて気になったことを記します。 筆者らは、デザイナーはもっと社交的プレイヤーのプレイスタイルが報いられるように改善すべきだという提案を行っており、いくつかの具体的アイディアも提示しています。確かにうまく行きそうな気もしますが、実装してみて初めて見つかる不具合のチェックをどうやって行うべきか、その指針を示して欲しかったと思います。例えば、本文の中で、スターポートは人々が集まりやすいから交流の場になるだろうという、デザイナーの事前の目論見があったのですが、蓋を開けてみれば、AFK マクロの温床になるという不具合が見つかりました。筆者らの提案を容れた場合、同じ構造による不具合が発生しないとも限りません。対話した文章の長さで経験値を与えるなどというアイディアが出ていましたが、これなど2人1組で整合性のある会話を行うAFKマクロの前には無力であり、結局問題の解決にはならないはずです。筆者らの提案を受けても、永遠に続くイタチごっこが一歩先に進むだけだと考えられます。必要なのは、実装して不具合が見つかる前に、不具合の可能性をチェックする方法論だと思います。その点が抜け落ちている主張には不満を感じました。

論文に対する心情的コメント

プレイスタイル

訳していて、一番面白かったのは、カンティーナのエンターティナーと客がイウォークの話をするくだり。ああいう客いじりがエンターティナーの醍醐味だったなぁとシミジミと思い、自分がその場にいるつもりになって、キーをタイプしました。頭の中では マンド・ヴォイルで演奏する Western が流れていました。その他、プレイヤーのセリフの引用はいずれも力を入れて訳したところなので、どうぞよろしく。

訳しながら思い出したエピソードがあります。僕が Mos Espa のカンティーナの主をやっていた時代。よく、こんな掛け合いを初心者相手にやっていました。

Alm Ore: やぁ、xxx。ここらじゃ見かけない顔だな。新人かい?
xxx: はい、昨日始めたばかりです。
Alm Ore: Welcome to SWG!
Alm Ore: ところで、SWGで一番大切なコマンドは何か知ってるか?
xxx: いいえ、知りません。
Alm Ore: 教えてやってもいいが、タダでとはいかないぞ。10cr だけれど、カネはあるか?
xxx: ぜひ教えてください。お金はありますが、渡し方がわかりません。
Alm Ore: カネを必ず渡すと約束するなら、先に教えてやる。聞きたいか?
xxx: お願いします!
Alm Ore: じゃあ、俺の言うとおりにタイプしてみろ。それが最も重要なコマンドだ。
Alm Ore: /tip Alm 10
[xxx は Alm に10crチップした]
Alm Ore: 毎度あり〜
xxx: あっ!

そんな、「社交的プレイヤー」だった、当方。

しかし、一方で、Mos Symphonia 一の AFK マクロ野郎も僕だった。古くからの馴染みの中でも、いち早くエンターティナー系はマクロでサクッとマスターにしてしまったし。かなりマクロにはお世話になりました。マクロを使いすぎて、いつもAFKなもんだから、たまにまともに操作してると「あ、珍しく Alm が起きてる」って、何人の相手に何度言われたことか。筋金入りのマクロ野郎でしたが、先の引用のようにそれなりにパフォーマンスもやっていたので、プラスマイナス0ってことで、1つよろしくお願いします。

アプレンティス経験値

論文の中に、アプレンティス経験値(翻訳の中では、SWGを知らない人のためにも「訓練授与経験値」とした)のことが出てきます。これ、日本でのSWGサービスが始まって、1ヶ月もしないうちに廃止になっちゃいましたけれど。そんなわけで、かなり懐かしい、場合によっては知らない人もいるんじゃないかってくらいのシステムですが。しかし、僕にとって縁のあるシステムなので、語らずにいられない。

先にも書いたとおり、僕は仲間内でもわりと速くマスターレベルに達したので、他の人の訓練にあたる機会が多かった。そんなわけで、アプレンティス経験値がたまりまくっていた。そして、マニュアルをつらつらと眺めていると、政治家になるためにはアプレンティス経験値がなくてはならないということを知った。余りまくって処置に困っていたアプレンティス経験値だったので、そのはけ口として政治家になったのが、Mos Symphonia 開設にいたる第一歩です。もし、初めから誰でも政治家になれるようなシステムだったら、それこそ掃いて捨てるようにたくさんの政治家が乱立し(実際、アプレンティス経験値廃止後は、乱立こそしていないがたくさんの政治家がいる)、僕のような弱小者は街を作ることはできなかったでしょう。アプレンティス経験値さまさま。

そして、今さらこんなことを書くと、「論文に書いてあったことの後知恵だろ?」と言われてしまいそうなので恥ずかしいのですが、アプレンティス経験値が廃止になるというニュースを聞いたときは、「何!プレイヤー同士の交流を促進するためのシステムをわざわざ廃止するのか!」とこっそりと憤っていました。SWG特有の優れたシステムの1つだと思っていたのに、それが廃止になることは非常に残念でなりませんでした。

そして、その後SWGの歴史を知っている人なら明らかなように、アプレンティス経験値の廃止は氷山の一角で、その後、本論文で紹介されているような、相互作用促進のための仕組みは次々と廃止されていきました。医者やエンターティナーがサービスとして提供する「バフ」は弱体化されたり廃止になったりで、それを求める人が少なくなりました。戦闘疲弊も廃止になったので、カンティーナに足を運ぶ人はほとんどいなくなりました。

当記事にいち早くトラックバックを張ってくれた libacca 氏が

SWG の魅力は、この論文で分析されているような社会活動を促す枠組みににあって、背景世界をスターウォーズという映画から借用しているなんてことは彩りのひとつにすぎませんでした。
http://swg-ent.jp/?date=20060304

と書いていますが、SWGからは社会活動を促進する枠組みはどんどんと消え行き、スターウォーズという映画のハリボテしか残らなくなりました。libacca 氏の引用部は、僕の気持ちに100%合致しています(代弁ありがとう!)が、そんな僕にとってはかなりSWGへのモチベーションが低下していきました。もし Mos Symphonia の市長という大役を任されていなかったら、とっくの昔にSWG は引退していたことでしょう(それが幸せだったのか不幸せだったのかは、今は言わない;-p)。

最後に

来る2006年3月11日に Mos Symphonia 市庁舎で市民会議が行われる予定で、きっとそれを最後に僕がSWGにログインすることはないでしょう。

この論文の翻訳が、今後もSWGを続けていく人はもちろん、一緒に遊んだ仲間たちへの手向けになれば何よりです。

ありがとう、楽しかったよ。

note (2011-03-11)

コメント欄

誤訳、意味のわかりにくいところ、励まし(これが多いと、作業もはかどる)、罵倒(できれば勘弁してください)などなど。

  • 翻訳お疲れ様です。『社会を作れたければ、待ち時間を与えよ (Socialization Requires Downtime)』って素晴らしい発想だね。面倒だと思ったことも多々あったけど、振り返るとそれこそが貴重な時間だった気がするなぁ。必ず人を頼らなければならないシステムも最初こそ面倒だったけど、それがSWGの最大の魅力でした。翻訳頑張ってください。 -- Carlo 2006-03-04 (土) 00:31:41
  • 早速のコメントありがとうございます。"Socialization Requires Downtime" はまさにその通りだと思うのです。似てる話では、Mos Symphonia の市民会議があると思っています。掲示板だのSWG内でのチャット(いわゆる、シンフォチャット・チャンネル)を使えば、わざわざ市庁舎に集まって会議をやる必要などなかったはずです。しかし、市長として「市庁舎に集まって会議をやる」ということにはこだわりを持っていました。会議の前後で、普段付き合いのない人といろりろ相互作用する機会が生まれると信じていたから。やり方は違っても、思想は一緒だったわけです。 -- Alm Ore 2006-03-04 (土) 00:52:10
  • なるほど。言われて見ると確かにシンフォチャットで事足りるね。会議する事が当たり前で普通だったので、そこまで思い至りませんでしたw 実際、普段会うことのできない市民の方々と会う事ができたし、会議を切っ掛けに狩りに出かけたりイベントが始まったりと最高の『溜まり場』だったのは間違い無いです。自分にとってはカンティの存在も大きかったのですが、いずれにしろ『シンフォ会議の思想』と『開発者の設計思想』に脱帽。この論文が最後にどう結ぶのかも気になるところです。重ねて頑張って下さい。 -- Carlo 2006-03-04 (土) 09:10:27
  • GJ!って、まだ翻訳始めたばかりのようですが。興味深く拝見しました。相手との距離をつめる一番の方法は、共通の思い出を持つことだと思っています。同じ場で同じ時に体験することによって相手との距離感って縮まる気がするのです。病院もカンティーナも市民会議もそれですね。市長もsymphoの町についてペーパーを書いてよw -- mimoza 2006-03-04 (土) 10:22:14
  • シャトルを待つ時間、疲弊度を回復する時間など、待たなければいけない時間。わざと作った便利でないものがコミュニティを作るんだよなぁ。そういうのがなくなりつつあるのが今のSWGなのかも・・・ -- Juga 2006-03-04 (土) 14:48:11
  • Jugaと同じだな〜。疲弊度あったころは疲弊度回復してくれたお礼と言ってドクターがエンタを回復したりと、疲弊度ひとつだけでかなり会話弾んだりしたもんだよね〜。市長、翻訳がんばってくだされ! おいらも暇な時間あったら、Jackie視点で1年間の活動を物語化してみよっかのぉ・・・SSのこってりゃいいんだが・・・。 -- Jackie 2006-03-04 (土) 19:17:24
  • 【mimoza へ】sympho の街の論文は書きません。投稿先がないし、採録されそうにないし。って、ここに書けってか?やだよ、企業秘密だもん。;-p / 【Juga & Jackie へ】便利になって、"1人で解決"できるようになってしまうと、そもそも人と一緒に何かやる必要がなくなるわけで、コミュニティがいらなくなるわけだよね。1人じゃどうしようもないからこそ、コミュニティ作って協力するわけで。街のサイトをWikiにしたのも、ひとりじゃ街の情報を網羅できないと思ったから。Wikiにしたおかげで、みんなが情報提供を手伝ってくれたし、wikiを通して結束が高まった部分もあるし。そういう話だよね。 -- Alm Ore 2006-03-05 (日) 01:38:44
  • 4節を追加しました。 -- Alm Ore 2006-03-05 (日) 02:58:23
  • 5.1節まで。みっしりと字ばかりなので、苦しくなってきました。 -- Alm Ore 2006-03-05 (日) 12:33:17
  • 5節終わった。あと一息、がんばれ、俺。 -- Alm Ore 2006-03-05 (日) 15:06:06
  • 第1稿完成。週末のうちに終わってよかった。後は、こっそりと誤字等の修正をします。 -- Alm Ore 2006-03-05 (日) 16:45:58
  • もう、ゲームで会うことはないですが、ここでalmのお仕事が見ることができてうれしいです。こんなすごいゲームなんだぞって、いろんな人に見てもらいたいですね。お疲れ様でした。口下手なのでコメントはこれで許してね〜。 -- Selene Ray 2006-03-05 (日) 21:32:14
  • 翻訳お疲れ様でした。MMORPGを作りたい衝動に駆られるね(作り方、知らないけど)。『相互作用』に力を入れたやつ、それこそ「社交的プレイヤー」に注力したモノが欲しいなと思った。そんなユトリのあるタイトルを渇望して止まないです。さて、期待していた結びがマクロ強すぎって・・・。そんなスパム発言もカンティーやSWGの愛すべき一面だった気もします(ストーム・トルーパーのうるさい発言など)。 -- Carlo 2006-03-05 (日) 22:02:37
  • 読みやすい翻訳でした。GJ!。1年前にこの論文を読んでいたら、俺もログの解析ツールを作ってたかもしれない。某氏が女性に対してセクハラ発言をするパーセンテージに有意な偏りがあるかとか、楽しそうな研究だ。 -- libacca 2006-03-05 (日) 22:23:57
  • 【Seleneへ】ありがとう。君のいつも素朴な言葉、好きだったよ。【Carloへ】MMORPGの作り方(プログラミング技術など)を知っている人は世の中にそれこそ何十万人もいるでしょう。しかし、確固とした"デザイン思想"を持っている人はかなり少ないと思います。そういう役割を担うって手がありますよ。【libaccaへ】Thx! あとがきでも引用させてもらいましたが、libacca がいち早く紹介記事を書いてくれたことが、翻訳の励みになりました。翻訳のやる気がなくなるたびに、あの記事を読み返して自分を盛り上げていました。調べてみれば、某氏のセクハラ頻度には有意差があると思いますよ。もちろん、"少ない方向"にね! -- Alm Ore 2006-03-05 (日) 23:46:56
  • 興味深く読まさせていただきました -- rch 2006-03-06 (月) 18:53:40
  • Figure(図)が載ってないのはCopywrite絡みかな?と思いつつ…まぁ、PDF見れば良いだけだしね。昔はよく「相互作用」してたよねぇ〜。市民みんなでワレンに突撃〜!!とか… -- Caesar 2006-03-06 (月) 21:49:35
  • 【rch さん】blog での紹介ありがとうございました。 【Caesar】図は張るのがめんどくさかったのです。 -- Alm Ore 2006-03-06 (月) 22:12:55
  • http://swg-ent.jp/images/The%20social%20side%20of%20gaming.lzh -- libacca 2006-03-07 (火) 03:59:43
  • 画像張りました。Table 作ってくれたのも、libacca かな? /thank libacca; /bow libacca -- Alm Ore 2006-03-07 (火) 08:49:06
  • 読ませていただきました。SWGがサービス中止と聞いて、WoW、EG2、DAoC、ギルド ウォーズ等々いろいろやってみましたが、何故かモチベーションが上がりませんでした。その疑問がこの論文を読んで分かったように思います。無駄と思えることが、以外に大事なんだな〜と。 -- BERSERGA 2006-03-08 (水) 00:48:31
  • この書き込みや、過去のゲーム内でのBERSERGAの言動から、かなりのMMORPGフリークだとお見受けします。いつか(もしくは既に)、ゲーム内にコミュニティーを作り、そこで指導的立場に就くこともあるでしょう。その時の参考になれば。 -- Alm Ore 2006-03-08 (水) 20:23:24
  • お疲れさまです。大変興味深く読ませていただきました。残念なのは、優れた「相互依存」のしくみが多くのプレイヤーには受け入れられなかったということになるのかな・・・。同じような思想のゲームは当分作られないでしょうね。symphoは、旧SWGのシステムの中で最も成功した事例だったと思います。 -- Ume 2006-03-11 (土) 03:31:58
  • 「優れた「相互依存」のしくみが多くのプレイヤーには受け入れられなかった」かどうか、僕には確信がもてません。僕の周りを見渡せば、それを受け入れている人が多いように見えてはいましたが、SWG人口全体がそうであったかどうかはわからないからです。ただ、本文にある「2つの種類のプレイヤーがいる」というのは、それぞれの比率がどうであれ真実だと思う。両方を共存させる道をあきらめ、一方のタイプのみに注力してしまった結果が今のSWGなのだと思っています。 -- Alm Ore 2006-03-11 (土) 07:35:15
  • たった今、興味深く読み終えたところです。読みながら、Harlaで育てていたメディックキャラを思い出して(Katanaメインになってしまい、ドクターへ行き着く前に放置…)懐かしさに浸っていました。あのころ、周囲のゲーマーをつかまえては「SWGはプレイヤー間の相互依存システムがあって面白いんだ、是非体験してくれ!(もうちょっとネガティブな言い回しだったような気もしますが)」と勧誘しまくってたり…思い出してみれば一年経っていないのにえらく遠い昔のような気にさせられます。何はともあれ、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。 -- Nile 2006-03-12 (日) 09:36:09
  • プレイヤー間の相互依存があると面白いというのは、割と誰でも思いつくことでしょうし、おそらくいくつかのゲームにも導入されているでしょ。しかし、SWGはその網の目が非常に細かく、よく練りこまれていたと思います。本当に、多くの人にお薦めしたくなるゲームでしたよね。 -- Alm Ore 2006-03-12 (日) 12:52:29
  • 自分のBlogでも「不便さを楽しむ」というようなコトを書いたことがありました。同じような考えを持っている人たちがSWGを楽しんでいたのだなと感動しました。いつか、あの「メンドクサタノシイ」が蘇ればいいなと思っております。 -- Qelolyn 2006-03-29 (水) 11:02:10
  • Qelolyn さん、もし差支えがなければ blog の URL を教えてください。ぜひ拝見させていただきたいと思います。 -- Alm Ore 2006-03-29 (水) 22:00:11
  • Mixiなんですわー。SWGのSSとかはttp://oxan.jugem.cc/に貼ってますのでよかったらお越しくださいまし。 -- Qelolyn 2006-03-29 (水) 23:13:32

市民コラム


*1 訳注: complementary approache って普通なんて訳すっけ?
*2 訳注:銃器を扱う人
*3 訳注:医者、芸人
*4 訳注: 職人
*5 訳注: 狩猟採集者
*6 訳注: 広告媒体などがないときに、どうやって自他の望んでいるものを知らしめるかという問題が残るということ
*7 訳注: 酒場。Star Wars EP4 でオビ=ワンが運び屋を探し、ハン・ソロと出会った酒場などを思い出しましょう
*8 訳注: 自分のクローンを作っておく場所。キャラクターが死んでも復活できる。EP2 でジャンゴ・フェットが量産されている工場を想像するが、SWGではちょっと雰囲気が違う
*9 訳注: くどいが酒場。この後何度も出てくる重要な場所なので、ここらで暗記せよ
*10 修行を積み、より上位の治療職業に就けば、メディカル・ドロイドを利用してどこでも治療をすることができるようになる。ただし、メディカル・ドロイドは生産系の上位職業であるドロイド・エンジニアから入手する必要がある。これも職業間の相互依存の例の一つである
*11 テストエンターを除いて、25個のサーバーが利用可能である。それぞれのサーバーは独立した銀河を形成している。そのため、サーバーによって活動が異なる可能性がある。コロネット・シティは我々の選んだサーバーではもっとも活動的な場所であったが、他のサーバーでは他の場所が活発である可能性がある
*12 エンターティナーも演奏で疲れてしまう。より長い時間演奏し続けるために、誰かに癒してもらいたいのだ。
*13 ジェダイになるためには、ランダムに決められた4つの職業で「マスター」レベルに達する必要がある。このシステムはプレイヤーの批判を受けた。というのも、多くの人はジェダイになるために望んでもいない職業を行わなければならないからだ。そうは言ったものの、多くのエンターティナーはジェダイになるために「AFKマクロ」を行い、プレイ時間の浪費を避けるという結果になった。
*14 訳注: SWGの弱っちいモンスター、確か。
*15 訳注: 演奏を見聞きすることで得られる能力アップ
*16 "laughs out loud" (大爆笑) の意。SWGや他のテキスト・ベースの社会環境では頻繁に見られる。ジョークだと示す場合や、ジョークへの返答として良く使われる。
*17 訳注: 惑星の名前
*18 訳注: EP6に出てくる、毛むくじゃらで小さくて、可愛らしい小人
*19 訳注: ジオノーシスってのは EP2 に出てきた羽の生えた人種。ジェダイがいっぱい出てきて闘技場で戦うシーンなど。ルート品ってのは、そこから拾ってきたレアアイテム
*20 "No problem"(どういたしまして)の意。訳注: 日本サーバーでも使う人多数
*21 訳注: 日本サーバーっぽくしてみた。「クリーチャー・ハンドラー」の意
*22 訳注: 45度線やね
*23 訳注: kは1000を意味します。キロですな
*24 訳注: "Computer-Supported Cooperative Work"(コンピュータによって支援された協調作業)の略称。この論文が発表されたのは、CSCW2004 という国際会議であることを思い出しましょう。
*25 訳注: "place-making" も "sense of space" も専門用語っぽいので、定訳がありそうですが、この分野に疎い当方は良くわかりません。ごめんちゃい。
*26 訳注: 比喩的な意味での「中心」ではなく、social network analysis の中心性の概念でしょう、おそらく。数量化できる概念です。

リロード トップ 一覧 検索 最終更新 バックアップ   ヘルプ   最終更新のRSS