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痴人の人

私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達男女の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いてみようと思います。

それは私自身に取って忘れがたない貴い記録であると同時に、恐らくは読者諸君に取っても、きっと何かの参考資料となるに違いない。殊にこの頃のように日本人もだんだんネット的に顔が広くなって来て、身内と他人とが盛んに交際する、いろんな主義やら思想やらが這入(はい)って来る、男は勿論女もどしどしネットオタクになる、と云うような時勢になって来ると、今まではあまり類例のなかった私たちの如き男女関係も、追い追い諸方に生じるだろうと思われますから。

考えて見ると、私たちは既にその成り立ちから変わっていました。私が始めて彼女に会ったのは、ちょうど足かけ1年前のことになります。尤も何月の何日だったのか、(くわ)しいことは覚えていませんが、とにかくその時分、彼女とは精華町の88家の近くにあるレストラン・セルドールと云う店で、会食をしていたのです。彼女の歳はやっと満年齢の26でした。だから私が知った時はまだ相楽郡というmixiのコミュニティに来たばかりの、ほんの新米だったので、一人前のコミュニストではなく、それの見習い、—まあ云って見れば、初対面に過ぎなかったのです。

そんな初対面の人をもうそのときは31にもなっていた私が何で眼をつけたかと云うと、それは自分でもハッキリとはわかりませんが、たぶん最初は、その()の名前が気に入ったからなのでしょう。彼女は今では “flyingbird” と名乗っていますけれど、そのとき私が聞いたところでは、”kakotea” と云うのでした。この “kakotea” というハンドルネームが、大変私の好奇心に投じました。”kakotea” は素敵だ、「かこ茶」と書くとまるで加藤茶のようだ、と、そう思ったのが始まりで、それから次第に彼女に注意し出したのです。不思議なもので名前がコミカルであっても、顔だちなどは何処か清楚で、そうして大そう悧巧(りこう)そうに見え、「こんなカワイコちゃんとお近づきにならないのは惜しいもんだ」と考えるようになったのです。

(中略)

今年の4月24日で、flyingbirdは27で私は32になりました。


以上、罰ゲーム完了(この記事のコメント欄参照)。

谷崎潤一郎「痴人の愛」(Amazonで買う)と読み比べよ。

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