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「なんでもっと早く知らせねーんだよ」の件

ちょっと、1泊2日くらいの旅程で札幌に行くべきかなぁ・・・と考えている、連休初日の朝。

どれどれ飛行機の空席状況でも調べようか、とANAのサイトを見ると、大阪から札幌も!「旅割」なら片道10,000円なんて広告が出ていたりして、うひゃー、新幹線で東京に行くより安いじゃん!とクリックするものの、28日前までに予約しないとダメなんだそうで。
そりゃそうだよなー、とちょっと諦めモード。普通に往復航空券を買ったら、8万円弱だし。さすがに自称独身貴族の当方でも、コンビニ感覚でその金額は出せない。なんつっても、交通費がバカらしくて盆も正月も帰省しない当方なのだから。

なんか、北海道の天気は荒れているようだし、もし復路が欠航になったりしたら火曜日の仕事に響くしなーと思ったり。別に僕以外の人を代理に立ててもいいんだけれど、以前にも一度カゼでドタキャンしているから、さすがに2回目ってのはいろいろ気まずいしなぁと思ってみたり。
そんなわけで、「飛行機が飛ばなかったら困る」という、自称合理的な理由により札幌入りは断念。

いやいや、1万円(往復なら2万円)で行けるものなら、「仕事?関係ねーよ!」と豪語して飛んでいたところだが。
なんで、28日前に知らせてこなかったのか、今回の札幌の案件。


つーか、まぁ、人がいつ死ぬかを28日前に予見しろっつー方が無理っちゃ無理なので、仕方ないけれど。

当方の実の父親以上に父親っぽく振舞ってくれたオッサンが今朝亡くなったらしい。
オッサンといっても、92歳だったらしいから、もうジジイだけど。
本人は92歳のくせに、長男が当方と同い年(34歳)であり、ジジイ老いても盛んだったんだなと、少々突っ込みを入れたくなるわけだが。

彼の長男と当方は小学校のクラスメイトだったわけだが、僕はクラスメイトの家に行っては、そのジジイと一日中将棋を指していたり。腹が減ったら、いつもチャーハンを作って食わしてくれたり。
「料理にミカンの皮だけ使いたいんだけれど、実はいらないから食ってくれや」と言われて、剥いたミカンの実を食わされたり。結局、皮だけを使って彼が何を料理したのか、わからなかったけれど。何を作っているのか聞かなかったし、チャーハン以外食わしてもらった記憶もないし。(なお、このミカンのエピソードに関して、一部の人は「ああ、木公が自分でミカンを剥こうとしないことの原点はここにあるんだ」と合点する人がいるかもしれないが、それが正しいのか誤っているのか、僕にはよくわからない。)

当時で70歳を超えていたから、ミカンを僕に渡してくる手が皺だらけで。顔ももちろん皺だらけで。
歯は、抜けている数よりも、残っている数を数えたほうが早そうで。歯がないものだから、息が漏れて聞き取りにくいしゃべり方で。
目は白内障の初期状態のような感じで、白くにごっていたし。目ヤニのアクセントも忘れずにつけていたし。
ジジイのクセに鷲鼻っぽくて、肩までのセミロングヘアーで、いつもベレー帽を被って作務衣を着て街中をブラブラしていた。昭和の地方都市には似つかわしくない風貌で、みんなから知られていたり。
見た目は怪しいのだけれど、画家をやっていると聞けば、なんとなく「じゃあ、あの姿も仕方ないか」と納得してしまう、ネガティブなカリスマ性を遺憾なく発揮している人だった。

子供心には、彼の描く絵の意味はまったく分からなかった。耄碌しているんだと思った。何を描いているのか分からない、ぐちゃぐちゃとした絵だったから。
大人になってから、「抽象画」というジャンルがあることを知り、そうか彼は抽象画家だったのかと納得したところで、僕の中での彼への評価が上がった。
ただし、世間的に彼の評価が高かったのかどうかは、僕はよく知らない。
よく、「生前は認められなかったけれど、死後評価が上がった画家」なんつー話をよく聞くが、彼がそうなるのかどうか、僕には予見できない。
きっと、ダメだろうと思うけれど。

でも、そんな世間的な評価なんてどーでもよくて。
僕にとっては、実の父親以上にいろいろなことを教えてくれて、良い所も悪い所も生き方の目標となってくれた人で。
自分がもっと立派になったら、堂々とお礼参りにいこうと思っていたのに、ずいぶん遠いところに行ってしまった。ちょっと、挨拶に行くのが難しいなぁ。

今、僕が彼を追って行くと、大学時代の奨学金やら車のローンやらなんやら、ちょっとした借金が残るし。
せめて、数年前から知らせておいてくれたら、生命保険をたんまりかけて借金の憂いをなくしてから後を追ったものを。

保険をかける暇も、1万円航空券の予約をする暇も与えずに、いきなり死ぬんだからズルいよな。
あんな妖怪ジジイみたいな顔して、絶対に死なないような風貌なのに、いきなり死ぬなんてズルイよな。

目には目を、歯には歯を、っつーことで、通夜だの告別式だのといった場に挨拶には行ってやらんことにした。

訃報の電話によって、休日の惰眠を妨害されたことにムカつく。
寝室を出て正面に飾ってある、彼の作品は埃だらけだ。ムカつくから、これから雑巾できれいに拭いてくる。

それくらいしか弔う方法を知らない自分にムカつく。

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