夢の話を聴かされるのって、つまらないよね。
「知人が見た夢の話」を聞かされるのって、もっとつまらないよね。
「知人が見た夢の続きの創作」を読まされると、泣きたくなるよね。
「今日もまた夢の話…。」by sterai
今日見た夢もまたおかしな夢だった。
僕は高校生で、在籍する中高一貫教育の学校の行事で、夏休みの林間学校のようなところに来ていた。
で、朝早くから全校生徒が(もちろん先生たちも)森の中の広場のような所に集まり、ラジオ体操のようなことをするわけだが、その学校には「○○学院伝統の肩出し運動」というのがあった。両肩だけを前方に突き出す、という妙な体操だ。しかし、肩だけを前方に突き出せるものだろうか? しかも、両肩を同時に。人体の構造上無理だよな、などと友人たちとおしゃべりしながら、ダラダラ体操していた。
すると、後の方から「そこっっ!! 真面目にやれーっっ!!」と女性教師に怒鳴られた。見ると、小泉今日子である(彼女は中等部の教師のようだった。『生徒諸君!』(西河克己監督 1984年)?)。「○○がくいーん! 肩出し運動!」
確かに、彼女の後に並んでいる中等部の男子生徒たちの両肩は驚くほど前に出ている。「本当に肩だけ前に出るんだ!?」と呆れたところでこの夢は終わった。…、何ざましょ。
まず、状況を整理しよう。
1. sterai さんは高等部の生徒である
2. sterai さんは「肩出し運動」ができない
3. 中等部の生徒らは「肩出し運動」ができる
4. 「肩出し運動」は学園の伝統である
中等部生には簡単にできることが、高等部生のsteraiさんにはできなかったということが、この夢の事件である。なぜそんなことが起きたのか不可解であるという点が、この夢の主題である。
この学校は中間一貫教育だ。ゆえに、sterai さんも中等部からのエスカレーターだったと考えるのが順当である。この肩出し運動は学園の伝統なので、当然 sterai さんは中等部時代にもやらされる機会があったはずである。しかし、sterai さんは初めて目にしたと、驚きを述べている。
このことは、大いなる矛盾だ。
合理的な設定として、sterai さんは高等部へ編入した生徒であるということにしよう。しかも1年生であろう。だから、最初の夏休み林間学校で、いきなり奇妙な体操を見せられたから驚いたのだ。
これで矛盾は解消された。
しかし、彼が編入生であるという事実は、steraiさんに新たな脅威を与えることになろう。
一般に、この手の編入生は極端に人気者になるか、極端に爪弾きにされるかのどちからだ。学園外の異質な文化の持ち主は、羨望の眼差しで見られるか、秩序からの逸脱者と思われるかのいずれかの運命を受け入れざるを得ない。
さて、sterai さんの場合はどうか。
彼は、新入りのくせにダラダラと朝の運動へ参加している。周りの生徒とおしゃべりまでする不真面目さ。しかも、学園の伝統を小馬鹿にする態度まで呈している。間違いなく、中等部進学組から白い目で見られるだろう。
つまり、steraiさんは爪弾きされ、クラスメイトからは仲間はずれにされる運命だ。
おしゃべりに付き合っていた友人たちも、きっと編入組だろう。そうでなければ、「人体の構造上無理だよな」などと言い合うはずがない。
steraiさん同様、この生徒たちも十把一絡げに仲間はずれにされるはずだ。
編入生が仲間はずれにされると当然グレる。真面目に勉強しなくなる。学校もサボリがちになる。暇を持て余す。だけどモテたい。
だから、バンドを結成する。
ちなみに、この手の話の時には、中等部からのエスカレータ組で家は金持ち、両親も同じ学校の出身。けれども、家庭が少々冷え切っているし、学校の保守的校風にも辟易している。だから、アウトローな編入生たちと気が合う・・・という女の子がつきものだ。
ここでは sterai 氏へのサービスとして、蒼井優を配役しておこう(『フラガール』(李相日監督 2006年)の垢抜けないセーラー服姿が可愛かったが、今回は雰囲気的にブレザー着用で登場願おう)。
夏が終わり、秋が来る。学園祭の季節だ。
steraiさんらのグループは、在校生や先生たちを見返してやりたくて、学園祭でのゲリラライブを計画する。
深夜の美術室に忍び込んで、バンドの横断幕やオブジェの製作を行う。
馬鹿話に花が咲き、これぞ青春だ。ステージ衣装の試着では、蒼井優ちゃんが太ももの顕なセクシーなタイトスカートを披露する。横一列で鼻の下を伸ばして惚ける男子生徒たちのカットを入れるのは、三流監督ならお約束だ。デブで三枚目担当の子には、鼻血を垂らすという演出まであるかもしれない。
ハッと我にかえったsteraiさんは蒼井優ちゃんを異性として意識しすぎる雰囲気を打開しようとして、
「時間もないし、早くやっちまおうぜ。ちょっとそこのペンキを取ってくれよ」
なんて言う。赤のペンキ缶は蒼井優ちゃんの足元に置いてあるのだ。
手渡してもらう時にちょっとだけ彼女の手が触れて、ドキドキして、赤面して、一瞬真面目な顔になって、すわ、いきなりキスシーンか?と思いきや、やだもぅーと蒼井優ちゃんに胸をドンと小突かれて、後ろにひっくり返った拍子に頭からペンキをかぶって一同大騒ぎになる。
ああ、楽しい青春の1ページ。
♪ このまま何時間でも 抱いていたいけど
ただこのまま冷たい頬を あたためたいけど—来生えつこ「セーラー服と機関銃」
しかし、その時。廊下に懐中電灯の明かりが見え、誰かの足音が近づいてくる。
やべぇ、隠せ、電気を消せ、隠れろ、ヤダぁちょっとペンキが付いちゃうじゃない、などと言っているうちにガラリと美術室の扉が開く。
急に明るい部屋に入ったせいで、目を眩しそうにしているが、彼女は学園一の美人教師と評判の中等部・小泉今日子先生だ。彼女は目が慣れると、胸を張って顎を上げ、見下ろすように室内の様子を見回す。両手は腰に当て、両足は30cmほど左右に広げ、どっしりと立っている。
先程の蒼井優のタイトミニが白い素肌にペッタンコ上靴を履いていた状態とするなら、小泉今日子先生のタイトミニの方は、目の細かい黒のストッキングで左足首にだけワンポイントで透かしのバラ模様が入っている。艶消しエンジ色のピンヒールまで伸びた両足は、定規で引いた直線のようにシャープで神々しい。つまり、筆舌に尽くし難いほどの美しいお姿なのである。
#筆者は足フェチなので、上半身の衣装等は読者に任せる。
「今さら何を慌てているのよ。アンタたちの仕業だってことはとっくにわかってたわよ。美術室のペンキを使うのはいいけど、使った分はちゃんと補填しておきなさい。モロバレじゃないの。それに、何よ、この塗り方は。いい?ムラがでないようにするにはね・・・」
さすがは、アイドル時代のコンサートでファンに対して「うるさい。黙って聞け」と啖呵を切った小泉今日子だけはある。こういう不良少年たちの味方なのである。
「だけど、他のセンセーたちには秘密よ」
小泉先生のウィンクは、ニキビの生え揃った少年たちには眩しすぎた。
美味しいところを小泉今日子に持っていかれた蒼井優だけは、教室の隅で頬を膨らませて少し拗ねている。
唯一 steraiさんがその姿に気づいた。しかし、大人の女性の匂い立つ色気と、少女の素朴な健康美とを天秤にかけ、チラチラと見比べながら、どうしたものかと思い悩むのみであった。
いよいよ学園祭当日。
彼らの学園の卒業生であり元不良グループのリーダー、今は土建屋の若社長で、steraiさんにバイトを紹介してくれたりする人物が、軽トラックを提供してくれることになった。そこにライブ機材を積み込み、正午きっかりに校門へ乗り付け、車上からゲリラライブをやるのである。
11時55分。
若社長が運転する軽トラには、蒼井優ちゃん(Vo)と黒いストラトキャスターをむき出しで抱えたsteraiさん(Gt)が窮屈なベンチシートに詰め込まれている。荷台では、デブで鼻血担当のでんちゃん(Dr)がアンパンを頬張りながらドラムセットに座っていて、キョージ(Ba)は揺れるのを気にせず器用にバランスをとりながらチューニングしている。
道中、steraiさんは無口だった。初ライブ(しかもゲリラ)の緊張のせいなのか、蒼井優ちゃんと密着して舞い上がっているせいなのか、ベンチシートの中央に座る彼女の右半分が若社長にもくっついていることを憤っているせいなのか、本人以外には知れなかった。
国道を左折し、いよいよ学校への一直線だというところで、トラックの前に何かが飛び出してきた。慌てて急ブレーキを踏む若社長。でんちゃんのあんぱんは慣性で運転席後部にぶつかる。キョージはつんのめることも、慌てることもなく、いつものようにクールに目を細めて前方を見る。障害物を認めたキョージは、より一層目を細めた。
ダッシュボードに頭をぶつけた蒼井優ちゃんと steraiさんは、あいたたた、と額をさすりながら顔を上げた。sterai さんが「なんだよー」と悪態をつきながらギターに破損がないか点検をする横で、蒼井優ちゃんは誰かの名前をつぶやいた。
頭に添えていた手をどけて、フロントガラスの向こうを見たが、steari さんの目の焦点はなかなか合わなかった。彼女が言うように、本当にそこに教頭がいるのだろうか。でも、どうして?
steraiさんは目を2、3度バチバチさせて、やっと道路の真中に 如何にもインチキ臭い口ひげをはやしたメタボ系エロ教頭(昔、社会心理学会でこのエロ教頭とそっくりな人の目撃例があるらしい・・・)が立ちはだかっているのが見えた。
「お前たちの企みはすでに露呈している。馬鹿なマネはさせないぞ。」
エロ教頭はトラックの助手席側に歩み寄り、ドアを開けた。steraiさんの肩をむんずと掴んで道路へ引きずり下ろした。
続いてエロ教頭は、奥の蒼井優ちゃんへ腕を伸ばし「一緒にきなさい」と一言告げた。彼女は黙ったままうなづいて(ほとんど涙目)、手を引かれて車外に出てきちゃったよ。荷台の2人は往生際良く自分たちで降りてきた。取り残された若社長はボーゼン。
通行人だけではなく、騒ぎを聞きつけた学園の生徒たちも野次馬として集まった。エロ教頭は「学校に戻りなさい!」と叫ぶが、沈静しそうにない。解散させることをあきらめたエロ教頭は、ともかく不良グループを学校に連行しようと、さぁ行け、と学校の方へ首をしゃくった。
ただし、蒼井優ちゃんの柔らかい手だけは、自分で握って連れて行くつもりらしかった。
「そこまでよ!」
女性の声が響きわたった。
『十戒』の海のように人垣がさーっと左右に分かれ、にわかにできた花道の向こう側には、学園を背にして小泉今日子先生が立っていた。
小泉今日子先生が右手を高く掲げると、校庭に設置されたスピーカーからくぐもったダミ声が聞こえてきた。多少不鮮明ではあるが、誰が何を話しているか、学園の関係者ならば誰の耳にも明らかであった。
『ぐふふふ。みなさん、朝早くからよくぞお集まり下さいました。お待ちかねの夏の林間学校がやってまいりましたよ。わが校に伝わる伝統的体操、”肩出し運動”は夏の風物詩といっても過言ではありませんからなぁ、でふふふふ。さぁさぁ、みなさんご遠慮なく。ここからの眺めは最高ですよぉ、ほほほほ。ほら、あそこの三つ編みの女生徒をご覧なさい。彼女は今年イチオシの巨乳です。今に肩をつきだしますよ。1、2、3、はい!見えましたか、見えましたか?肩を前に押し出す時に体操着の襟から見える胸、あの胸を見てください!うひひひひ。動画サイトっていうんですか?最近は隠し撮り映像をネット配信してるんですよ。入会金は3万円ですが、希望者は続々ですよ!!ひょひょひょひょひょ。』
そう。エロ教頭は林間学校の期間中、部外者から会費を集め、隠し部屋に招待し、俯瞰的アングルから女生徒の胸チラを閲覧させていたのだ。小泉今日子先生の正体は警察庁の刑事で、美術教師を装って内偵調査を進めていたのだ。そして本日、衆人環視の下、彼の所業を白日のもとに晒したのだ。
「ど、ど、ど、どけっ!」
エロ教頭は観念しきれず、人垣をかき分け逃走をはかった。
何かが跳ねた。
エロ教頭はその場に倒れこんだ。いつの間にか、彼の手足は銀の細い鎖で縛り上げられていた。
乾いたアスファルトの上を小さな円盤が転がる。それはまっすぐに地を滑り、蒼井優の足元へ向かっている。
いつの間にかブレザーを脱ぎ捨てた彼女は、トラディショナルな紺のセーラー服姿に変化していた。きっと、ヤッターマンのような早着替を習得していたのだろう。
少し長めのプリーツスカートからは、彼女の細く優しいすねが生えている。ローファーから飛び出す足首は、くるぶしまでの丈の純白ソックスが映えている。やっぱりセーラー服にはこれでなくっちゃ!もっと栄えろ。
蒼井優は上半身を折り、靴でコツンと止まった円盤を拾い上げた。それは直径10cm、厚さ4cmほどで、円の中央は赤く塗装されていた。そこ以外は、材質の金属が鈍く光っていた。
「はんかくさいこと、すんでないっ!牢屋に入れてじょっぴんかっちゃるべ。」
すると、彼女は円盤を開いた。
そう、彼女も特殊任務を帯びて潜入捜査していたスケバン刑事だったのだ。
初代・麻宮サキ(斉藤由貴)が棒読みのハマ言葉で、二代目・麻宮サキ(南野陽子)が嘘くさい土佐弁、三代目・麻宮サキ(浅香唯)が大根な宮崎弁であったので、今回、蒼井優をスケバン刑事にするにあたっては当方の母語である北海道弁が採用されている。なお、松浦亜弥の四代目・麻宮サキは見たことが無いので、どういう台詞回しなのか知らない。
「・・・桜の代紋」
エロ教頭はついに観念したのか、頭をがっくりと垂れた。
こうして学園に平和が取り戻された。
以後、肩出し運動が実施されることは二度となかった。
そしてまた、その日を境に、小泉今日子と蒼井優は学園から姿を消した。
別れの言葉はなかった。
ニュースでは、沖縄の桜が咲いたと言っている。
しかし、北海道では水っぽい雪が降るばかりだ。頭に積もれば重く、冷たい。地面に積もれば、辺りは水浸しとなる。1年でもっとも憂鬱な季節だ。
新しい教頭が赴任し、あの事件はほとんど話題に上らなくなった。そもそもが下品な事件なので、まぁそれも当然である。
セコい事件だったとはいえ、捕物の中心には sterai がいた。
通常なら、クラスの話題の中心になり、仲間はずれから復帰し、楽しい学園ライフをエンジョイできるはずである。
しかし、筆者はそこまで steari に対して優しくはない。
彼は、相変わらずクラスに友達ができなかった。
他に仲間がいないので、でんちゃんやキョージとは今でも付き合っているが、バンドは自然解散した。教室の隅で3人そろって弁当を食べるのが日課だ。しかし、食べ終わると無言で目礼して、それぞれ思い思いに昼休みを過ごす。
他のふたりが昼休みにどこにいるかは知らない。
sterai は白樺の木の下で時間をつぶす。
それはプールのさらに奥にあり、めったに人の来ることがない。日当たりが悪くて陰気臭いが、そのおかげで雪が溶けずに残っているのは幸いだ。溶けかけた雪と違って、根雪はあまり衣服を汚さない。
ずいぶんと寒いのは確かで頬も冷え切ってしまうが、他人の冷たい目に晒されるよりはずっとましだ。
2日前、ちょっと向こうに小さな雪だるまがあるのに気づいた。
近寄って確かめてみようかとも思ったが、誰かに監視されている気がしてならない。前にも誰かの視線を感じたことがあった。気のせいなんかじゃない。頭にくる。どうせ誰かのいたずらだ。雪だるまに興味を示した僕を見て、誰かが笑ったり喜んだりするに違いない。何もないかのように、無関心を装った。雪だるまのニコニコした表情が癪に障る。
さらに3日経ったが、まだ雪だるまはそこにある。
ただし、陽気のせいで雪だるまは自然に崩れ始めている。誰かのイタズラが失敗する過程を見ていると思えば、ザマアミロと思う。しかし、白くて丸くてかわいい雪だるまが溶けていくさまは、どこか落ち着かない。
溶けて均整のなくなった表情は、悲しみを訴えているようにも見えた。
翌日、さらにずいぶん崩れていた。
そして、首のあたりに何かが埋まっているのに気づいた。
小さなオルゴールだった。
この曲は知っている。何年も前の流行歌だ。
周りに誰もいないことはわかっていたが、歌詞を口に出すのは恥ずかしい。
だから、心の中で曲に合わせて歌った。
さよならは別れの言葉じゃなくて
再び逢うまでの遠い約束
現在を嘆いても 胸を痛めても
ほんの夢の途中
このまま何時間でも抱いていたいけど
ただこのまま冷たい頬を あたためたいけど—来生えつこ「夢の途中」
誰が埋めたのかわからないし、誰が埋めたのかわかる。
【終】
※この物語はフィクションであり、実在する団体、人物、女優、作詞家、ブロガー、知人とは関係ありません。