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雨降って地固まる

昨日の台風で隣家の塀が崩れ、僕の車にガレキがぶつかった
昨日は風雨が強かったので、詳しい被害の確認はしなかった。ざっと見た限りでは特にひどい事にもなっていないようだった。だから、あんまり気にしないことにしていた。
ただし、たまたま居合わせた塀の持ち主に話をしたところ、軽くすっとぼける素振りを見せたので、それにはケツに来ていた。

さて、台風が過ぎて、今朝は晴天。
7時過ぎには起きていたのだが、なんとなく気が重くて車の確認には行かなかった。もし何らかの被害があったら、隣家との交渉はもちろん、賃貸住宅の管理会社やら自動車保険会社やら、その他やら、諸方面に連絡をとらなくてはいけなくなる。それが面倒だと思っていた。

何よりも厄介だと思うことは、隣家との関係が悪化することだ。特に口を聞くわけではないが、普段から頻繁に顔を合わせる相手だ。トラブると、今後顔を見るたびに気まずくなる。

それに、つい3日前に講演を聞いたり(ここに発表資料がある)、数週間前に本(『中越地震被災地研究からの提言―未来の被災地のために』)を読んだりした辻竜平さんによれば、災害発生時に重要なことは近隣住民の協力関係だという。そして、いつ発生するかわからない災害に備えて、普段から地域の人間関係を良好に保っておくことが肝要だと説いている。

まったくその通りだと思うのはもちろんだし、ごく最近その話を聞いたもんだから、妙にそれが頭に残っていて。お隣さんと関係が悪化するのは特に避けたいと思っていた。

そんなわけで、いろいろと気が重かった。
傷などの被害が一切なければいいのに。何もなければ、隣家を尋ねて「なんともありませんでしたー。どーもお騒がせしました。いやぁ、大変な台風でしたね、びっくりしました」と明るく世間話と挨拶だけして、水に流そうと思っていた。
一方、もし何かあったらどうすればいいのか、全くアイディアがなかった。こういうトラブルごとには慣れていない当方なので。先方と交渉する前に、保険会社等に連絡すればいいのだろうか。警察に連絡もせなアカンの?ああ、もう、考えるのもめんどくさい。

10時過ぎになって、やっと重い腰を上げて車を見に行った。ていうか、郵便局に用事があったので、車で出かけようと思った。車で出かけるついでに、被害を確認しようと思った。

玄関を出て、一瞬硬直した。
隣家の夫婦が、事件現場にいるではないか。何をしているかはよく分からないが、大方、台風の後片付けだろう。

目があったから逃げるわけにも行かない。僕にできたことは、できる限り冷静な愛想笑いを浮かべながら近づいていくことだった。
「とりあえず、一緒に確認しましょう」
そう言って彼らの様子を伺うと、彼らはどこか余裕を浮かべた表情だった。

結局、全ては僕の杞憂だった。
僕のシャア専用 WiLL CYPHA には、昨日の事件が原因と思われる傷はひとつもなかった。ほっと安堵した。隣家との面倒な軋轢が回避されたと思うと、本当にありがたかった。
頑丈なTOYOTA車、万歳。

隣家のおぢさんの話によると、塀のすぐ横に木を植えていたのが失敗のもとだったという。強靭な根が塀を押しやっていたようだ。崩れた塀のあった位置には、太くて大きな根が張っていた。倒れずに残った塀も、根に押されたせいで、元あった場所からズレている。木の根でずれて不安定になっていたところ、昨日の強風で遂に塀が抱懐したということらしい。
おぢさんは、しきりに木を植えたことを悔やんでいる様子だった。僕はといえば、人は全知全能じゃないんだから、まぁ仕方のなかったことだよなと思って、ふんふんと聞いていた。もちろん、車がなんともなかったことによる余裕があったからだ。

今後、彼の家では塀を作りなおす予定はないという。
また、僕の車の駐車位置を変更してもらえないか、管理会社と相談してみようかということで話が落ち着いた。

去り際、僕がどこに務めているのかと聞かれた。
今回の件と俺の勤め先はカンケーねぇだろうよ、と思いつつも、辻センセーの「地域の人間関係」の話が頭にこびりついていたので、最低限の情報として会社名とオフィスの場所だけ説明した。

職種を説明しなかったのが失敗だったかもしれない。節電対応で、この夏は水木曜日が休みになっていることを説明しなかったのも失敗だったかもしれない。

平日の10時に、ジーンズにTシャツで家からフラフラ出てくる僕を見て、チンピラかなんかだと思ったのかもしらん。京都ナンバーのままの僕の車を見て、関西でのシノギに失敗して関東に逃げてきたケチなヤクザ者の下っ端だと思ったのかもしらん。

もしかしたら、隣家夫婦は、「やべぇよ、やべぇよ。あいつは絶対ヤクザだ。難癖付けられて、ガッツリたかられる・・・」なんて思って、昨夜は不安な夜を過ごしたのかもしれない。
もうしわけn・・・・

と、ここまで書いたところで、自宅のインターホンが鳴った。(フィクションや演出や誇張ではない)

出てみると、件の隣のおぢさんだ。
「知り合いからぶどうをもらったんでね。どうぞ、食べてください」
と、一房ぶら下げて持ってきてくれた。

いやはや、恐縮なり。

僕の職種上、普段からチャラチャラした服装をしていることやら、時間や曜日に不規則な生活であることをちゃんと説明しようと思ったのだが、おぢさんはどうも人付き合いが苦手なようで、ぶどうを置くと、逃げるように帰っていった。
#いや、まだ僕のことを、みかかの武闘派(そんな職種があるのか?)と思ってるのかも。

今度どっかに出かけたら、隣家におみやげを買ってこようと思う。

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