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べリング『なぜペニスはそんな形なのか』を読んで、樹木葬を知る

会社の同僚が、ジェシー・べリング『なぜペニスはそんな形なのか: ヒトについての不謹慎で真面目な科学』(鈴木光太郎 訳)を持っていた。訳者から献本されたのだという。

僕はこの著者のことを知らなかったのだが、進化心理学者でゲイなのだという。18世紀に活躍し、ベーリング海の名称の元となった探検家ヴィトゥス・ベーリングの末裔であるとか、ないとか。現在アラフォーで、Scientific American のコラムもなかなか人気なのだという。
興味を惹かれる著者ではないですか。

先の同僚から本書を受け取ってパラパラと眺めようとしたところ「18章 女性の射出」のページがひとりでに開いた。どうやらその章を真っ先に読み始めたようだ。お前もスキモノだな。

【潮吹きについて】
僕も一般教養(?)として、エロ本やらアダルトビデオやらである程度の学習はしていたので、女性がオルガスムに達した時に尿道から液体を噴出するらしいということは知っていた(残念ながら、実地で直接観察した経験はない)。けれども、その成分が何なのかは知らなかったし、どういう機能があるのか(生殖には関係なさそうだし)も知識がなかった。

本書を読んでわかったことはいくつかある。
女性の射出は性的な刺激の初期には起きないので、性器の潤滑のためにあるのではないということ。尿道の出口に近い腺から分泌されており(尿を貯める膀胱ではない)、尿とは明らかに違う成分であるということ。3ccから50ccほどの量が出ること。生涯のうちに女性の40%ほどが経験すること、などを知った。

一方で、なぜそれが噴出されるのかは未だわかっていないらしい。

なお、女性のオルガスム(いわゆる「イク」ってやつ)に関する生殖上の説明は「20章 女性のオルガスムの謎」にある程度書かれている。
身体的な特徴として、オルガスムの間、子宮頸部が律動する。このことは、精液を保持しやすくし、妊娠の可能性を高めるのだという。加えて、望ましい男性(身体的魅力が高かったり、裕福であったり)と性行為をしている時にはオルガスムに達する頻度が高いという。つまり、良い遺伝子を持っている精子を逃さないようにしていると考えられるそうだ。
そして、オルガスムは女性にとって快楽をもたらす。それが心理的な報酬となるわけだから、望ましい男性との性行為を動機づけ、彼らの精子を囲い込み、良い子を産むという点で適応的だと説明されている。

オルガスムの進化生物的な基本原理は以上のように分かっているのだけれど、潮吹きについてはさっぱりわからないのだという。不思議な事ですね。

理由は何であれ、潮吹きは稀なことでも異常なことでもないらしい。それにもかかわらず、社会通念上は恥ずかしいことということになっている。でも、本当に気持ちいいことなんだから、恥ずかしがらなくてもいいんじゃね?的なことが書いてあった。
男性(もしくは、女性の同性愛者)にとっても、パートナーを最高の快楽に導いたということだから、誇ってもいいんじゃないかと。

【その他の性の話題】
本書は33章からなるオムニバスのエッセイ集で、話題は多岐に渡る。
書名にあるヒトのペニスの形状(3章)に関しては、亀頭の窪みが他の男の精液を掻き出すためにあるという話とか。つまり、ライバルの精子を除去して、自分の精子だけを送り込むために形状が進化してきたという話(一方で、窪みに残った他人の精子を異なる女性に運搬してしまうリスクもあるんじゃないかっつー話も。そのせいで、不貞をしていない妻から他の男の子が生まれることもあるかもしれないとか)。
その他、ヒトの精液(5章)には50種類以上の化学成分があり、特にある種天然ドラッグ(抗鬱、精神高揚など)が含まれており、同時に膣には毛細血管が張り巡らされていてそれらを吸収するようにできているという話なんかが面白かった(かといって、コンドームなしのセックスはリスクがあるから、ドラッグ目的でするのはお勧めしないと注意喚起されていた。天然ドラッグのメリットよりも、性感染症のデメリットの方が大きいと)。

【樹木葬】
とはいえ本書は、このようなヒトの性にに関わる、ある意味下世話な話ばかりではなかった。
人間社会における宗教の役割(27-28章)であるとか、自殺の問題(30-31章)、人間の自由意志と道徳の話題(32章)などもあって、下品な話(本当は、僕は性の問題は下品なことだとは思わないけれど。合意のある性行為ほど平和で幸福なことはこの世に無いと思う)が苦手な人でも読むべき話題はあると思う。

性以外の話題で僕が一番関心を持ったのは、「樹木葬」の話(29章 亡き母の木)。本書では「緑の葬式」と記載されているが、僕がぐぐった限り、日本では一般に「樹木葬」と呼ばれているらしい。

要するに、遺体を容易に分解可能な方法で埋葬(木製の棺桶に入れるのではなく、たとえば麻布でくるんで埋葬する)し、墓石を置く代わりに植樹をするという方法。
想像の通り、遺体は微生物などの作用で分解され、樹木の養分となる。

そこで育った樹木は、故人の象徴としてそこに残るだけではなく、時間の経過とともに成長していく(墓石だと不変)。人としては時間が止まってしまっても、木が大きくなっていくことでその人の時間は続いていく。
本書の中では、隣同士で埋葬された夫婦の木が枝を伸ばし、互いに絡み合っていく様子などが想像されている。子孫たちが、木登りをして先祖と触れ合う様も記述されている。ロマンチックじゃないか。

加えて、従来型の棺桶埋葬や火葬では資源の浪費も問題視されている。
棺桶に使用される木材や金属は、ただ単に遺体を埋めるだけに使われている。その数値が本当なのかはにわかに信じがたいが、1人分の遺体を火葬するのに使われるエネルギーは、車で7700km移動するのに相当するという。その他、遺体を燃やした時の大気汚染の問題もある。

僕はこの話にすっかり入れ込んでしまった。
別に、みんながみんな、従来型の埋葬や火葬をやめるべきだということを主張する気はないが、少なくとも僕の遺体は樹木葬にしてほしいな、と思った。何なら、棺桶に最適な樹木を植えて、数十年後には伐採して棺桶の材料にしてくれてもいい。少しくらいはエコに貢献したい。

こういうことは遺言状に書くべきことだとは思うけれど、効力のある遺言状の作成にはいろいろ面倒な手続きがあるらしいし。今のところ僕が死んだら葬儀の手配をするのはうちの両親だと思うけれど、彼らは古いタイプの日本人だし、実家を新築する際にそれなりの仏壇なんかも備えちゃったので、旧来のやり方に固執するかもしれない。ていうか、余命を考えれば、僕より先に彼らの方が死んじゃうだろうから、頼りないし(ていうか、親と葬式の話をすると、「早く死ね」って言ってると勘ぐられたりして、めんどくさそうじゃない?)。

そんなわけで、ここに記しておくので、僕が死んだ時に思い出した人がいたら、然るべき親族なり関係者なりとうまく連絡が取れたらそうお伝え下さい。よろしくお願いします。

【結論】
本書は、セックス大好きな人も、そうでない人も、それなりに考えさせられる点があるのでお勧めです。
訳者が同僚の知り合いでなかったとしても、お勧めしていたと思います。

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