サイトアイコン alm-ore

今年のエイプリルフールの思い出

親しい人ならとっくにご存知のことかと思いますが、僕は北海道大学に入学して大学院を修了しました。

僕の所属ゼミの大先輩に通称 “D-ken” と呼ばれるOBがいました。事情通の方に簡単に説明しておくと、確かオーニョさんとかよぢこさんとかKYNRさんとかと同学年の人だったはずです。
D-ken さんとは歳が離れているので、僕がゼミでご一緒することはありませんでした。しかし、彼は卒業後もちょくちょくゼミ室に顔を出していたので、僕はいつしか顔見知りになりました。

ていうか、彼がゼミ室に顔を出すのは年に1回で、決まって4月下旬から5月上旬あたりでした。その時期になると、決まって缶ビール一箱(24本入り)を差し入れに来てくれるのです。ちょうど札幌の気温も上がって、ビールも美味しくなり始める時分です。
彼は大学を卒業後、札幌市の職員になりました。色白の小太り体型で、ほっぺはいつも赤く染まっていました。見るからに人のよさそうなタイプです。

そんな彼は、毎年、市役所の上司と賭けをしていたそうです。その賭けの内容は「札幌市の気温が初めて20度を超えたら、どんなに仕事が忙しくてもその日は午後に半休を取る」というものです。ですから、4月下旬から5月の初めあたりに午後半休を取得し、ゼミの後輩である僕たちにビールを振る舞ってくれたわけです。
今はもう音信不通になってしまいましたが、今でも春先になると D-ken さんのことを思い出して、心がポッと暖かくなります。

さて、そんなこんなで、2024年の4月1日です。
たぶんお子さんの入学式かなんかだと思うのですが、年度初めだというのに僕の職場の上司が休みを取りました。桜はまだだけど関西の気温も上がってきたし、上司も休んでるし、俺もD-kenさんみたいにこの陽気に誘われて午後からの仕事をサボってもいいよな、と思ったわけです。そんなわけで、午後からは大阪で思う存分ビールクズしてきたわけです。

事件は、その大阪の居酒屋で起きました。

某居酒屋に入ると、空いてる席は70歳がらみの夫婦らしき二人のそばしかありませんでした。あんまりそばに座るのもアレなので、ちょっと距離をとってカウンターに着席しました(下記図)。
大阪特有のめんどくさそうな夫婦に見えたので、僕は目を合わせないように気をつけ、手元のスマホをいじることに集中していました。

スマホに集中しながらも、夫婦の会話はなんとなく聞こえてきます。
夫の方が「トウタ」がどうのこうのと妻に説明しているようでした。「陶器の陶の字に似たやつあるやろ!?」などと言っています。しかし、妻の方は「そんな言葉知らん」と言っています。妻は居酒屋の店長に助け舟を求め、「トウタって知ってる?」などと尋ねています。店長も知らないと答え、1対2で夫の旗色が悪そうでした。
僕は聞き耳を立てながら「はいはい、”淘汰”ね。わかるわかる。なんなら大学で講義できるくらい知っとるわ。北大の大学院修了だしな!」と思いながら、めんどくさそうな夫婦に絡まれたくなくて、知らんぷりしながらスマホをいじり続けていました。

ところがですよ。夫が「なぁ兄ちゃん」と僕に声をかけてくるではないですか。「淘汰って言葉あるよな?」と。
こうなってしまっては仕方ないと思い、「はい、ありますね。”環境に適応できなかったものが排除される”みたいな意味ですね。もともとは生物学からきてる言葉だと思います」と応じてみたり。

すると夫は「ほらみろ!」みたいな感じで、妻と店長に胸を張りはじめた。
そして、「このまま帰ったら、”トウタなんて言葉あるわけないやろ”と妻に詰められるところだった。兄ちゃんが味方してくれて、言葉の存在を証明してくれて、めっちゃ助かったわ。ほんまありがとう」などと感謝されたり。気をよくした夫は、僕にビールまで奢ってくれた。正直、それまでに生中2杯飲んでいて、もうこれ以上飲んだら気持ち悪くなると思いつつも、おっさんの顔を立てようと思ってありがたく頂戴したり。

その後、おっさん曰く
「俺はな、兄ちゃんに聞いてみようと思ったねん。でもその前に、妻に”あの兄ちゃんに聞いてみてええか?”って聞いてみたねん。そしたらな、コイツは “あんな茶髪ロン毛パーマの怪しい風貌のアホそうなヤンキーが知ってるわけないやろ。恥かかすだけだからやめとき”って言うねん。でもな、ワシはあんたならわかると見抜いたねん。で、妻の反対を押し切って聞いてみたら、やっぱり知ってはった。ワシの人を見る目は確かやねん」
などとご満悦の様子でした。

僕も悪い気はしなかったのでよかったんだけど。
よかったんだけど、ちょっと待てよ、と思ったわけです。今日はエイプリルフールの日だし、これは何かのドッキリではないかと思ったわけです。どこかに隠しカメラがあって、知ったかぶりでいい気になってる僕を笑い物にする企画なんじゃないかと。

おっさんに「これはドッキリカメラですか?僕はその手にはのりませんよ」と釘を刺したんだけど、おっさんからは「そんなことあるかい!」と怒られた。

いずれにせよ、おっさん、おばさんには「エイプリルフールの日に面白い話ができてよかったです。これから毎年4月1日になったらお二人のことを思い出します」と告げて、僕は居酒屋を後にしました。
ビール飲ませられすぎて、めっちゃ気持ち悪くなって吐く寸前だったんだけれど、なんとか電車を乗り継いで家にたどり着いて、今こうやってブログ記事書いてます。リバースの危機は回避できました。
よかった。

追伸:
昨夜、「ギターやめる」と書いたのは当然エイプリルフールです。お騒がせしてすみませんでした。

モバイルバージョンを終了