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マリモ -酒漬けOL物語 / 山崎マキコ

午後10時半頃、月に2回は通っている某ラーメン屋で夕食。
ゴールデンウィークの真っ只中、人々は行楽や恋に花を咲かせているかもしれないし、いないかもしれないと想像するが、当方は地味に1人でラーメンをすすっていたり。
いつもは空いているラーメン屋なのに、今日はちょっぴり繁盛気味。
両隣のテーブルにはアベックらしき客がラーメンとか餃子とかをつまんでいる。あっちの長テーブル(10人くらい座れる)では、サークル帰りの大学生らしき一団が陣取っており、1人地味でおとなしい女の子がちょこんと座っている。結構好み。
そんな連中を横目に、4人がけのテーブルを1人で占領し、文庫本を片手にズルズルとラーメン。汁が紙面に飛ばないように注意して食べ読みしていたけれど、そういうときに限って、やっぱり汁が飛ぶ。丼を丸ごとひっくり返して、本を1冊全部ダメにしてしまえば思い切って買い直す気も起きるだろうに、直径1mm程度の飛沫を1つ飛ばしただけで終わる。中途半端でちょっと気持ち悪い。

そんな感じで、読み始めたのが、山崎マキコ著「マリモ -酒漬けOL物語」だったりする。
意外と売れていたみたいだし、知り合いの何人かもblogその他で感想を書いていたし、ちょっと泣けるという噂も聞いていたので、興味が魅かれて手に取った。

完全に僕の幻想だが、OLというキーワードと表紙に描かれている青い制服の女性から、「仕事はちょっとアレだけれど、義理人情に厚く、サッパリとした性格で、快活なOLが会社のオジサン達を向こうに回して大活躍」みたいなストーリーを勝手に想像していた。
賢明な読者諸氏ならもうお気づきのことだろうと思うが、著者の「マキコ」から江角マキコを無意識に連想し、表紙の制服もドラマのイメージを踏襲しているので、完全に「ショムニ」の世界を頭に描いていたのである。

しかし、注文したラーメンの最後のゆで卵を食べる頃(どうでもいいが、ゆで卵があまり好きではない当方は、ラーメンに入っているゆで卵を最後の最後まで残す。ついでに言うと、おでんのゆで卵もめったに食べない)には、その認識が誤りであることを思い知らされた。

主人公の大山田マリモは暗く、ジメジメしている。
趣味が、ネットゲームらしいし、セリフの随所に2ちゃん用語らしいものが出てくる。
・・・ダメだ。当方の「女性に抱く恋心」の範疇を完全にはずれている。
萌えない。

ラーメンの具を全て食べ終えレンゲでスープをズルズルとすする頃には、路線を変更し、文章の中のお酒描写を丹念に追って楽しむことにしようと決める。
ある晩はオサレなカクテルを、別の晩にはアダルトにワインを、そして時には渋く日本酒をチビチビとやる。珍しい銘柄なんかもいっぱい出てくる、そんな小説なんだろうと思うことにした。なんてったって「酒漬けOL」なんだから、『美味しんぼ』なみの薀蓄のオンパレードなんだろう。勝手にそう想像した。

・・・ダメだ。
お酒に対する愛が1つも見られない。
主人公マリモは、酒を飲んで記憶をなくすのが関の山で、アルコールならば何でもいいらしい。
焼酎をウィスキーで割って飲んだりしている。
酒の薀蓄を語らせるどころの話ではない。


「今回、読む本のチョイスを間違えたかも」
そんな後悔と共に、ラーメンスープも飲み終わり、食後のタバコに火をつけたあたりで、道が開けた。

この小説、「酒漬け」はストーリー展開の中で、それほど重要な位置を占めていない。
確かに、お話の”狂言回し”にはなっているけれど、「酒」というアイテムなりキーワードなりは、まったくもってどうでもいい。
なんの参考にもならない例えを挙げるなら、僕の人生を語る上で、僕が「第1回苫小牧小中学生将棋名人戦」で優勝したことを語ることがまったくもってどうでもいいのと同じくらい、どうでもいい。

このお話の主題は、社会の中で他者と関わって生きることの重要性と、それによって得られる安心感にある。
エヴァンゲリオンと同じで「自分がいてもいい理由」を主人公が探すというもの、要するに自分探しの旅だったりするわけだ。
#こんな書き方すると身も蓋もねーな。

そのメインテーマがわかって、そのスジを追っていくと、非常に面白く、良く書けているお話だと思った。

特に、主人公の高校時代の恩師の言葉は、どれも染みる。
一見、朴訥とした人物なんだけれど、ひとたび話し始めると饒舌で、格調高い口語で、泣ける言葉を吐く人だ。

冒頭の大半を占める、システム管理部の男の子と主人公のオタク丸出しの会話に辟易せずに、恩師が出てくるところまでがんばって読むと、とたんに泣けてくる小説。

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