気鋭の経済学者 Steven D. Levitt(優しそうでハンサムな顔立ち)が、社会調査データを分析し、世の中の人々が思い込んでいる一般常識(本書の中では「通念」と訳されている。原著では “the prior beliefs” らしい)を痛快に覆してくれる。
例えば、「日本の大相撲の八百長を暴く」(カド番の時とそうでないときについて、同じ対戦相手との勝敗成績を手がかりにして実証)とか、「麻薬の密売人は儲かっていそうなのに、なんで母親と同居しているのか?」(理由は、麻薬の”末端”密売人は全然儲からないから)とか、「子供の年間の死因を見れば、銃よりもプールで溺れ死ぬ方が多い。銃じゃなくて、プールを規制すべきでは?」(ウケ狙いだと思うけれど、まぁ、データはその通り)とか書いてある。
この本、世の中を煽るような内容と文体なので、単発の話題づくりの本にも見えてしまう。
しかし、詳細までよく読めば、現代のミクロ経済学の常識的な考え方の「インセンティブ」の問題とか「情報の非対称性」とか出てくるし、背景は硬派。
ただ、「経済学の王道」的な世界では本書の内容はセンセーショナルなのかもしれないけれど、いわゆる「まっとうな」社会学の世界とか、某北大の社会心理学の世界とかだと、まぁ当たり前の分析法だったり考え方だったりするかもしれない。
いずれにせよ、社会に対する面白い見方を提供してくれる本です。
熱中して読んだ。
主張は「カンブリア時代に生物の多様性が高まったのは、生物が眼を獲得したから」の一言。
明快。
ちょっと説明すると、地球は今から46億年前にできたとされる。
それから数億年経た、39億年前に地球上に初めて生命が誕生。
その後30億年近く、ごく少数の種しか地球にいなかったとのこと。
しかし、5億4300万年前に、爆発的に種が増える。
そしてそれ以後は、あまり種が増えていない。
その理由に踏み込む本。
(なんだか、数字が大きすぎてピンとこないな。1日後の自分のあり方だって想像できない(俺だけかも)のに、億の単位で語られても、ねぇ。)
約5億年前に何が起きたかってーと、眼が誕生したって話。
聴覚でも嗅覚でもなくて、視覚が重要と主張されている。
聴覚や嗅覚は、生物自身から発生する(動くときの音とか、生体の分泌物とか)。
しかし、光は全ての生物に等しく降り注ぐ。動こうが、じっとしていようが、「見えちゃう」。
つまり、受動的に影響を受けてしまう点で、視覚が非常にクリティカル。
視覚の獲得は、「見る方」だけではなく「見られる方」にも淘汰圧をかける。
そのせいで、いっせいに種の多様化がなされたと主張している。
エッセンスはこれだけ。
最初の章を読めば答えは出てるので、すぐわかる。
すぐわかるから、ここにも書いた。
じゃあ、この本の残りに何が書いてあるかというと、「古生物学の基礎」(化石の話)とか、光の性質とか、視神経の説明とか。
門外漢の僕には、これらの枝葉がとても面白かった。
生物学から地質学、物理学などの知識が縦横無尽に説明されるのは、すごく勉強になった。
高校とか大学の一般教養とかで、なんとなく習ったはずの知識だけれど、目的もなく聞いただけだとチンプンカンプンだった。
しかし、この本のように「眼の誕生を解き明かす」というストーリーに沿って説明されると、水を吸うスポンジのようにどんどん話がわかってきた。
著者自身も認めているように、この本のメインテーマは、素人でもお酒を飲みながら語れるような内容。
しかし、そのワキをつめる議論は、酔った素人には無理な話であり、そこが著者のスゲェとこだと思った。
シャーロック・ホームズや古畑任三郎が、1つずつ証拠を集めて犯人に迫るような書き方。
知的ミステリー風科学啓発書として、すげぇ。
明日は日帰りで東京。
「ハリー・ポッター」の5巻を携えていくなり。
これも一応、「硬い本」。
いずれもハードカバー。