道産子として北海道をこよなく愛する当方であるが、5年前から京都府に移住したわけである。
周りの人からは少々同情もされたわけであるが、当の本人はその移住に関してかなり前向きに喜んでいたわけである。
それには、3つの理由がある。
1つ目は、実は寒がりであるという事実である。
北海道の厳しい寒さに辟易しつつあったので、比較的冬の厳しくない近畿地方で暮らすことは歓迎すべきことであった。
ただし、こちらは暖房設備が貧弱なので、冬の家屋内は却って冷え込むけれど。
2つ目は、天下一品に気軽に通えることである。
悲しいことに、北海道には天下一品の店舗はひとつもなく、その憧れたるや筆舌しがたかった。
ただし、齢30を越えた現在、天一のラーメンを食べた直後は、ちょっと胃がもたれるようになったけど。
そして、3つ目は、日本のスーパー・エクスプレスであるところの新幹線が運行されていることである。
完成するんだかしないんだか、よくわからない北海道新幹線などという計画もあったりなかったりするわけだが、とにかく現在の北海道に新幹線はないのである。
夢の超特急である新幹線に日常的に乗車できる生活を想像するにつけ、京都への移住がまるで “楽園のDoor” (南野陽子の歌?) にも等しかったのである。
北海道在住時代は飛行機に乗る機会は多く、確かにそれはそれで嫌いではない。
離着陸の時に地上の建物や車両が小さくなったり大きくなったりするのを見るのが好きだし、上昇して厚い雲を抜けるとどこまでも真っ青な空が広がっているのを見るのも好きだし、夜のフライトでは漆黒のビロードの上に宝石をぶちまけたような夜景もきれいだ。(←なにを気取って、陳腐なことを書いているのか)
そして何よりも、甲斐甲斐しくサービスを行っているキャビン・アテンダントの麗しいおねーさん方を眺めながら、
「俺と彼女は、いつ恋が始まるのか」
と夢想するのも楽しかったりするわけだが。
(そして、もちろん夢想に終わるわけだが)
しかし、なんつーか、飛行機に乗るのはなんだか準備が大変で、いろいろと気後れするのである。
きっちりと予約をしておかないとダメだとか、フライトよりかなり早めに空港に到着していないといけないとか、機内での行動がずいぶんと制限される(シートベルトとか、禁煙とか、ケータイ電話が使えないとか)などのメンドくささがつきものなのである。
その点、新幹線は、発車直後から到着まで、車内をランニングすることすら可能な自由奔放さが素晴らしい。
出発時間の5分前にでも切符を買ってぷらっと乗れる気軽さも最高だ。5-15分おきくらいに発着するし。
乗るのももちろん好きだが、新幹線を眺めるのも大好きだ。
近畿自動車道に沿って摂津市のあたりを南下するときには、新幹線鳥飼基地 (←ぐぐってみる) に鎮座している車両を眺めてニヤニヤしたり。
女の子と車でデート(デート?デートなのか!?)している最中ですら、新幹線が走っているのを見かけると
「うぉ、新幹線!」
と声を上げて、女の子との会話もそっちのけだし。
そういう状況によく陥るのが、京都駅近辺と、京都-大阪間の171号線であることを申し添えておく。
ていうか、「そんなに新幹線が好きなら、私となんかじゃなくて、新幹線とデート(デート?デートなのか!?)すればいいのよ!」と言われているとか、言われていないとか、きっと心の中でそう思われているのだろう。
『新幹線ガール』
なる、ドンピシャ・コンボの本を見つけた時、素通りできるだろうか、いやできない(反語)。
しかも、表紙までご丁寧に、当方の大好きな新幹線・700系と、女の子・丸顔ベビーフェイス系のコラボレーションときたもんだ。
当方の萌え心が打ち抜かれてしまいました。
即行で買って、読んだ。
著者は1984年生まれで、新幹線のパーサー暦2年ほどのかわいこちゃん。
専門学校でホテルの接客業を学び一流ホテルに就職するも、職場の人間関係や理想のサービス業との乖離から失望して退職。
その後、アルバイト情報誌で見つけた現職に応募。
厳しい研修を受け、社員に採用され、ついには約300人の社員の中で売り上げトップにまで上り詰める。
その中での経験や業務の裏舞台、著者の考える理想のサービス業などについて綴られている。
惹句に「売り上げトップ」とあるし、「スノッブなオンナが、根拠もなく分不相応な人生訓を垂れ流している本」という懸念を抱く方もいらっしゃるかもしれないが、本書に関してはそんな心配はいらない。
むしろ、(ちょっとネガティブに書くけど)誰でも思いつくような「サービスの極意」しか書かれていないので、特に批判する気にもならず、さらっと読める。
それよりも、この本が楽しいのは、パーサーの目から書かれた東海道新幹線トリビアにある。
たとえば、「パーサー」という言葉1つとっても、以前は”売り子”と呼ばれていたものであるが、乗客へのホスピタリティ向上という目的のために業務改革を行ったものだと記されている。
たとえば、グリーン車の改札を行っているのも正規の車掌ではなく、パーサーの業務の一環だそうだ。
ただし、パーサーの中にもヒエラルヒーがあり、車内の車掌資格を取得しなければならないそうだ。しかも、階級は名札に示されており、その見分け方も本書に書かれている。
あと、一番気になったトリビアは、新幹線の各編成(700系とか500系とかのあれ)の定員について。
1列車あたりの定員はおよそ1,300名なのだが、500系の編成のみ 1名多いらしい。
萩尾望都の『11人いる!』ではないが、誰だ?誰が多いんだ?
#Wikipedia の500系の説明にも1名多いことが記されているが、具体的にどこに1席多いのかは書かれていない。
その他、本書全体を通して、まるで新幹線車内で接客を受けているかのように、とても丁寧な口調で語られているので、そこはかとなく読み心地は良い。
もう、それだけで惚れちゃうわけだ。
#あと、p.171 のパンプスから半分脱げかかっている著者の写真など、足フェチにはたまらない。
当方は平均すれば、月に1回程度は東海道新幹線を利用する計算になる。
今度から、新幹線に乗るときはいつも本書を鞄にしのばせ、やってくるパーサーさんの胸の名札を凝視し(ついでに、バストのサイズを目測するとか、しないとか)、著者の徳渕さんにお会いすることがあったら、ぜひサインをしてもらおうと思う。
ただし、パーサーは社員300人のほかにアルバイトも多数いるそうだし、1人のパーサーは最大でも1日に東京-大阪を1往復半しかしないそうだし、当方の乗車頻度ではいつ会えるとも知れないが。
そして何よりも、パーサーの持ち場は、主に3箇所に分かれるそうだ。グリーン車で1箇所とし、その前後で2箇所。
徳渕さんは1-7号車を担当することが多いそうだが、当方の愛用する車両は14号車である。理由は、「喫煙車にもっとも近い禁煙車であり、副流煙を避けながら、タバコを吸いたいときに喫煙車のデッキに移動しやすい」という点にあるわけだが。
う~む、彼女に会ってナンパするためにも、新幹線中のタバコを我慢すべきか。
とはいえ、いくら当方が車中ナンパを目論んでも
・・・「パーサーって毎日お客さんとの出会いがあるのに、恋愛に発展しないの?」と聞かれることがありますが、個人的な話をすることは、もちろん禁じられています。(中略) その規則を「かたくなに守っている」というわけでもなくて、「お客様はお客様としか見られない」・・・
徳渕真利子『新幹線ガール』 p.118
とのこと。
ダメじゃーん。
(飛行機のキャビン・アテンダントに続き、当方の夢想は瓦解)