『精神科医・伊良部一郎』がぴったりではないかと思う。
第1話「イン・ザ・プール」はゲスト出演として筧俊夫を起用しよう。
主婦向け月刊誌の編集者である和夫(筧俊夫)は、原因不明の体調不良で伊良部総合病院にかかっていた。
内科の医師は様々な検査をするも、原因は分からない。
若い医師はついに、精神科での診察を勧める。
和夫は人気のない階段を下りて地階に向かう。
そこには「精神科」と書かれた古ぼけたドアがある。
おそるおそるドアをノックすると、中から
「いらっしゃ~い」
と甲高い声が聞こえてきた。
四十代前半と思われる太った医師が、一人掛けのソファに深々と腰をおろしていた。部屋の隅の机では茶髪の若い看護婦が、和夫には目もくれないで週刊誌を読んでいる。
太っていて、声が甲高くて、胡散臭くて、ヤブ医者っぽくて、精神的に子供である伊良部一雄を演じるのが、松村邦洋だ。
若くて、セクシーで、患者に注射をするときにわざと太ももを見せたり胸の谷間を強調したりするくせに、普段はまったくやる気のない看護婦が沢尻エリカだ。
伊良部(松村邦洋)と患者(週代わりでゲスト俳優)のドタバタ騒動を描く、連続コメディドラマだ。
第2話「勃ちっ放し」で、陰茎が勃起したまま直らなくなってしまった男は、劇団ひとりなんてどうだろう。
第3話「コンパニオン」では、小池栄子をゲストにして、妄想上のストーカーに悩まされる美人コンパニオンを演じてもらおう。
第4話「フレンズ」に登場する、四六時中ケータイで友達と連絡を取り合っていないと落ち着かない高校生役として若いジャニーズの誰か。
第5話「いてもたっても」のゲスト俳優は、布施博はどうか。自宅の火の始末が気になって仕方ない男の役。
そんなドラマの構成が、ありありと浮かんでくるくらい1話1話がコンパクトにまとまっていて、情景をありありと想像しながら読めるのが、奥田英朗の『イン・ザ・プール』だ。
毎話異なる患者が精神科にやってくる(しかも、はたから見たら笑える症状)のだが、精神科医・伊良部が毎回テキトーな診察をする。
ていうか、伊良部本人が患者以上にオカシな状態に陥っていく姿が、かなり笑える。
そして、そんな伊良部が反面教師になって患者が立ち直るという様式美。
患者が伊良部の滑稽な姿から自分の異常さを悟り、自然に社会復帰していくという図式は、読者と本書との図式と同じなのかもしれない。
本書に登場する患者の症状や状況は、誰しも多かれ少なかれ経験するものだ。
例えば、家の火の始末をしたかどうか外出先で気になってしまうとか、自分の感情を押し殺して人付き合いをしていることとか。
そんな悩みを抱えた患者たちの姿を通じて、読者本人のちょっとした問題行動を客観化することができて、伊良部のバカバカしい行動を反面教師として、僕らの人生のストレスががちょっとラクになる。
そんな快怪小説だと思った。