いくら男を集めたってたくさん子どもができるわけでないし、無駄じゃん。そんな読者の不満は、物語中で徐々に解消されていきます。うーん、これなら将軍職に女がいても仕方ないのかもしれない・・・、あっそうか、この場合には男を集めた大奥は確かに必要だな――
この一節が、僕に最優秀賞の授与を決めさせました。
男女が逆転した大奥の存在がどのように正当化されるのか。そのカラクリを知りたい一心で『大奥』を手に取りました。
若年男子が感染すると必ず死に至らしめるという奇病の発生。その感染症の大流行という「たった一つの嘘」から出発し、演繹的に物語を展開していきます。その構成力は見事でした。
下手くそな嘘つきの場合、自分の嘘を正当化するために次から次へと嘘を塗り重ねていく必要がある。ところが、この物語は、謎の感染症という嘘のみにとどめ、それ以上は都合の良い設定は何も出てこない。舌を巻きます。
そして、何より凄いことは、我々の知っている江戸時代の年表が書き換わっていないこと。リアルな現代日本に存在する年表を座右において『大奥』を読んでも矛盾がない。年表のとおりに将軍が入れ替わるし、生類憐れみの令など幕府が定めた法度はその通り出てくるし、浅野内匠頭は腹を命じられ、大石内蔵助らは吉良上野介を討ち取る。
この整合性は小気味良い。
一流の手品師のトリックを見せられたような清々しさだ。なんでこうなったのかわからないのに、こうなっちゃったんだから驚くしかないよな、みたいな。
この漫画は現在も連載継続中のようだが、ラストはきっと
「この物語は、本当にあったこと・・・かもしれません。」
とかなんとかいうフレーズで終わるような気がする。
そう締めくくられても、僕らにはそれを否定するだけの根拠は集められないだろう。
追伸:
6巻まで通しで読んだ限りでは、やはり2-5巻の「綱吉編」がグッと来ますね。
他の人とは良いと言う理由が違うのかもしれませんが、少々マゾっ気のある当方は、綱吉のように高慢な女性にいたぶられると思うとゾクゾクします。