めでたく判明した。
原田宗典の短篇集『時々、風と話す』に収録されている「零れた水のように」という作品だった。
わかった経緯は、Rinponねーさんからのタレコミだ。ていうか、そもそもその話を9年前に教えてくれたのが彼女だったのだが、彼女は題名を覚えていなかった。その彼女が昨夜の記事を読んで、ふと思いついたらしい。コメントに書いてくれた。
しかし、彼女も確信が持てなかったようだ。僕も書名『時々、風と話す』を手がかりにWEB検索してみたが、本当にそれで合っているかどうか分からなかった。そして、同書はすでに絶版になっていた。古本はネット書店で購入できるようだった。しかし、今すぐに確かめたくなって居ても立ってもいられなくなった。だから、近隣のBOOKOFFをめぐった。今日はとても風が強かった。『時々、風と話す』という本を探すにはおあつらえ向きだと思った。
そして、4軒目のBOOKOFFでやっとゲットした。300円だった。
4件目にして例のやつゲット (@ BOOKOFF 相模大野店) [pic]: 4sq.com/YZbFuK
— 木公 (@almore) March 13, 2013
「零れた水のように」に出てくる元カノのバイクは、ヤマハのチャッピーというバイクだった。どんなバイクかしらなかったので、画像検索してみたら、女の子が乗ったらチャーミングだな、と思えるバイクだった。小説の記述によると、彼女が乗っていたのは50ccの赤いタイプだったそうだ。6年近く、大切に乗っていたのだという。
彼女は主人公の男と1年半同棲していた。同棲を始める時にふたりで一緒に部屋を探し、遊園地のすぐ隣りのアパートに決めた。日中はジェットコースターの音がうるさいかわりに、新築で破格の家賃だったのだという。
ところが男は浮気をした。それが彼女の知るところとなり、彼女は書き置きも残さず、自分の荷物を全て持ってひっそりといなくなってしまった。男が会社から帰ってくると彼女の気配が全て消えていたのだ。
男はショックと寂しさに苦しめられる。にも関わらず、出て行った彼女を探そうともしない。かわりに、浮気相手の女の子に電話をかけ、翌日のデート(デート?デートなのか!?)の約束をする。しかも、家の隣の遊園地に呼び出したのだ。ふたりで観覧車に乗った。そこからは自分のアパートが見える。
アパートの前に赤いバイクが停まっている。そして、同棲していた彼女が部屋のドアをノックしているのが見える。留守だと分かって帰っていく様子まで見えた。
そんな話だった。
まず言っておかなくてはならないことは、文中には明記されていないけれど、元カノは最初からバイクに乗って去って行ったように読める。だから、Rinponちゃんの言っていた「元カノがバイクを取りに来る」というのは正確ではないように思える。
そして、僕が読んだ限りでは、元カノは一度家を出たことで冷静になり、ヨリを戻しに帰ってきたのだと思える。全面的に許したわけではないけれど、男が一晩反省して謝意を表明すれば許す気だったのではないかと思われる。けれども、男は家を留守にしていたからそのチャンスを失ってしまった。それどころか、男は別の女とデート(デート?デートなのか!?)していたわけで少しも反省していない。不幸中の幸いは、アパートの中でセックスしていたとか、その現場に踏み込まれたりとかしなかったことか。
そんなわけで、この話は「クズ男の自業自得」という無様なお話でござった。
けれども、「昨日までここにいた人がいなくなってしまう空虚感」とか「そこから逃げ出したくて仕方のない気持ち」とか「取り返しの付かないことをしてしまったと思いつつもどうしようもないヘタレな感じ」とかはわからないではないことだし、嫌いなお話ではありませんでした。
読むタイミングによっては、ぶわっと泣いてしまうような、切ないお話でした。
うん。どうしてあの時Rinponがこれを薦めてきたのが、9年経ってよーくわかりました。ありがとうございました。
本書『時々、風と話す』には15の短編が収録されている。基本的に全てバイクが絡む物語。
「うつむくミニスカート」という話も好きだった。初々しいカップルの皮肉な話。
女の子はおろしたてのピンクのミニスカートとハイヒールで彼氏が来るのを待っている。自分を精一杯かわいらしく飾り立て、ソワソワと彼氏を待っているわけである。肝心の彼氏は、バイクで彼女を迎えに来た。バイクはピカピカに磨き上げられ、ヘルメットも2つ用意している。自慢のバイクに彼女を乗せてやろうとしているのだ。
しかし、ミニスカート&ハイヒールでは上手くバイクに乗れない。その日のデート(デート?デートなのか?)は中止になって、ふたりはそのまま別々に帰ってしまうという話。両方とも、相手に自分のいいところを見せたいという気持ちは一緒なのだ。それなのに、ふたりの思惑は相容れない皮肉。
そういうことってよくあるよな、と口を曲げて笑ってしまいました。
追伸: