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中ぱみゅちゃんのこと

「中ぱみゅちゃん」とは、僕が毎朝立ち寄るコンビニの店員さんのことだ。

お人形さんのように白い肌で明るい茶色のロングヘア、少々ポップな化粧を施し、いい意味でエキセントリックな色合いのパンツとスニーカーをいつも履いている。その雰囲気がタレントの中川翔子に似ていたので、僕は心の中で彼女のことを「中川翔子ちゃん」と呼んでいた。
ある時、彼女は髪を切った。前髪をまっすぐに切りそろえたセミロングのボブカットだ。その姿は、もはや中川翔子というよりもきゃりーぱみゅぱみゅであった。
そういう経緯で、中川翔子ときゃりーぱみゅぱみゅを混ぜて、「中川ぱみゅぱみゅ」だとか「中ぱみゅちゃん」だとか呼ぶこととした。

僕が彼女を初めて見たのは、もう2年くらい前のことだと思う。
僕は、人の見た目や職業、出身や学歴、性別、その他などで偏見を持たない人間でありたいと常々思っている。そう心がけているつもりだ。

けれども、彼女を一目見た時、
「うわ、ヤンキーあがりのくだらない女に違いない。こんな子にレジ打ちされるなんて、今日はツイてない」
などと思ってしまった。情けないことに。

ところが、僕の愚かな先入観は瞬く間に覆った。
彼女は僕の目をしっかりと柔和に見据えて、ハキハキと丁寧に挨拶をした。テキパキと商品のバーコードを読み取り、慎重かつ手早く袋詰めしてくれた。ポイントカードの有無の尋ね方や電子マネー読み取り機への誘導も気持ちのよい口調だった。接客マニュアルからそのまま飛び出してきたかと思うほどの適切さであった。お腹の低い位置で両手を合わせ、腰から折り曲げて会釈をする姿には気品が感じられた。接客の間中、常に口角を上げて上品な笑顔をたたえていた。

月に何度かしか立ち寄らないコンビニであったが、気持よく買い物ができたので、それからは週に何度か行くようになった。無論、頻度は増加する一方だった。今ではほぼ毎日立ち寄る。「ほぼ毎日」であって、必ず毎日ではない。なぜなら、今や中ぱみゅちゃんの週4日の出勤シフトを把握したので、彼女がいない日には行かないからだ。

彼女の出勤日には、駐輪場にかわいいスクーターが停まっている。松田優作がドラマ『探偵物語』で乗ってたやつみたいな小洒落たスクーターだ。それがない日はお休みだ。僕はコンビニを素通りする。彼女の休暇予定日でも駐輪場だけは必ず確認する。そこにスクーターが停まっていれば、彼女の臨時出勤かもしれないからだ。
ていうか、あのスクーターかわいい。彼女によく似合っている。2-3回、彼女がそれに乗っている姿を見たこともある。少女向けファッション雑誌のお手本のようだった。

ほぼ毎日顔を会わせているおかげで僕達が親しくなったかというと、残念ながらそのようなことはない。
ふたりの関係で変わったことといえば、彼女が僕の顔と電子マネー利用者であるということを覚えてくれた程度だ。僕が何も言わなくても、率先して電子マネーでの支払いモードに切り替えてくれる。よく言えば「あうんの呼吸」ができ上がったのだ。しかし、そのせいで彼女の僕に対する口数は減ったことになる。親切丁寧で耳障りの良い彼女の声があまり聞けなくなったことは残念だ。

それでも、毎朝の通勤が楽しくて仕方がない。つまらないことがあって会社に行きたくないなぁと思う日でも、その途中に中ぱみゅちゃんがいると思えば会社に行く意欲が湧いてくるし、彼女に接客してもらえば「今日はいい日だ」と前向きな気分にもなれる。ありがたいことだ。
特に親しくなったり、私的な会話を交わすことがなくても、それで良かったのだ。

そんな僕と中ぱみゅちゃんとの関係は、明日の朝を限りに大きく変化することだろう。何がどう変わるかについては、いずれ知れることと思う。

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