その際、彼女から伝えられた感想は「フェルゼンって男のくせにすぐ泣くよね。私は”すぐ泣くフェルゼン”って呼ぶことにした」というものだった。事前にそんな話を聞かされていたものだから、僕も読みながらフェルゼンにばかり目が向いた覚えがある。
『ベルサイユのばら』はフランス革命を舞台にした漫画で、虚実入り混じった物語である。ストーリーの狂言回しは架空の人物で、オスカルという男装の麗人。彼女に密かに思いを寄せる従者のアンドレとの悲恋がテーマの一つの軸であることは有名。
同時に、実在の人物としてマリー・アントワネットも主役級で登場する。オスカルはアントワネットの公私に渡る護衛役であり、相談相手なのだ。
オーストリア出身のアントワネットは、政略結婚の駒としてフランス国王ルイ16世の妻となった(ふたりはフランス革命において処刑される)。王妃として何不自由なく暮らし、夫婦仲も険悪なわけではなかったが、アントワネットは国王との夫婦生活に退屈している。
そこへ現れたのが、スウェーデン貴族のフェルゼンであった(彼も実在の人物だそうだ)。アントワネットとフェルゼンは互いに強く惹かれ合うのだが、フランス王妃という立場上アントワネットは自身の衝動を押さえつけなければならない。彼女の心境を理解し、彼女を尊重するフェルゼンは苦悩することとなる。
そのようなわけで、恋に苦しむフェルゼンはとにかくすぐに泣くのである。
では、フェルゼンは漫画の中で何回泣いたのか?今回、kindle 版『ベルサイユのばら』を購入し、その回数をカウントした。
全9巻のうち、フェルゼンが涙を流すシーンは11回であった。多いんだか少ないんだか、よーわからん。
フェルゼンが涙を流すシーンを列挙すると以下のとおりだった。
- フェルゼンに別の女性との縁談が持ち上がり、それをアントワネットに報告した時(3巻)
- 国王主催のオペラに招待され宮殿まで来たが、入場を躊躇し庭に佇んでいた時。オスカルに遭遇し、苦しい思いを打ち明けた時(3巻)
- その直後、アントワネットが気分転換に庭に出てきて遭遇した際(3巻)
- 婚約を解消し、一生独身を貫く決意をしたことをオスカルに語った時(3巻)
- アメリカの独立戦争へ志願することをオスカルに報告しながら(3巻)
- オスカルの自分に対する恋愛感情を知った時。そして、恋愛関係ではなく友情を結ぶことを誓った時(5巻)
- アントワネットと逢引を行った時(5巻)
- アントワネットらの亡命(フェルゼンの手引)が失敗した後、再度の逃亡計画をジャルジェ将軍(オスカルの父)に打ち明けつつ、オスカルとの友情を思い出し。(9巻)
- 幽閉されているアントワネットの元へ忍び込み、互いの深い愛を確かめ合った直後(9巻)
- アントワネットとルイ16世から亡命を辞退され、今生の別れだと悟りつつアントワネットから去る時(9巻)
- アントワネット処刑の日(9巻)
フェルゼンは7巻を除いて全ての巻に登場している。こうして一覧を見ると、常時泣いているわけではなく、まとまった時期(3巻、5巻、9巻)に集中して泣くらしいことがわかった。
高校生の時に読んだ時には、フェルゼンは女々しいし(泣き虫)、道義的に正しい行為をしているとも思えなかったし(不倫)、英雄になりそこねたし(アントワネットの亡命失敗)、どうも好きになれなかった。
ところがアラフォーになって読んでみると、こういう薄汚れた人物にこそ魅力を感じてしまうわけで。この四半世紀の間に僕の懐が深くなったのか、同じように薄汚れてしまったのか。
高校生の時にベルばらを貸してくれた女の子とは、一生添い遂げるんだろうなぁと当時は心の底から信じていた。しかし、多くの初恋がそうであるように、僕のそれも残念な結果に終わってしまったわけで。
その後も25年かけていろいろな経験をしてきたわけだから、懐が深くなったり、薄汚れたりはするよな、そりゃ。