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Cream White (Room) を入手しそこなった話

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In the white room with black curtains near the station

At the party she was kindness

— Pete Brown “White Room”

ちょっと前からYogiboのビーズソファに興味津々で。けれども、ちょっと贅沢かなと思って買わずに我慢しようと思っていたわけで。
しかし、毎日数分から10分くらいは「ヨギボー欲しいな」って思ったりしていたわけで。1日10分悩んだとしてその時間を合計すれば、約5ヶ月後にはまるまる24時間分ヨギボーのことが頭を占領したことになる。なんともったいないことか。

ここで買わない踏ん切りをつけるために、某駅のそばにある直営店を覗いてきた。店頭で「ヨギボーは自分にとって魅力的ではない」という理由を探そうとした。

年末の平日、閉店1時間半前の店は閑散としていた。他の客は皆無で、展示品を独占して座り放題。店員(♀)はレジカウンターで書類処理をしているらしかった。いらっしゃいませとも言われない。冷やかしの客だと思われてるんだろう。
こちらも断ることなく、試し座りしてみたり。座り心地が想像より悪ければ、それだけで買わない理由になる。

ところが、想像以上に座り心地が良かった。来る前より欲しくなってしまった。これはマズい。

すぐにその場を離れようかとも思ったのだけれど、それもなんとなくきまりが悪いかなと思い、ブラブラと店内を見て回った。スター・ウォーズのコラボ商品とか、フリスビーみたいのもあるんだ。へぇー、知らなかった。

そうこうしていると、事務作業をしてた店員が近寄ってきた。
遠くからはわからなかったけれど、近くで見るとちょっと俺好みじゃん。SCANDALのベースのTOMOMIに似てるし。好き。

この店員さんに声をかけられただけでも来た甲斐はあったなと思ったり。しかし油断してはならない。ここで彼女からヨギボーを買わない理由をなんとか引き出す方針にした。

まずは、「ヨギボーは2-3年でビーズが潰れてヘタるって噂を聞いた。そこんとこどうなの?ビーズの補充をしたらある程度直るらしいけど、補充用ビーズも高いんでしょ?」と単刀直入に聞いた。
すると彼女は淀みなく回答した。
「そういう風に言われていますが、意外とビーズは長持ちします。それよりも問題は、外のカバーが伸び切ってしまって形を保持できなくなることです。新しいカバーに替えると良くなります。
カバーにあまりお金をかけたくない場合は、カバーを洗濯すると改善します。洗濯して乾燥機にかけることで、繊維が縮んでホールド力がアップするのです。乾燥機がない場合は自然乾燥でも構いません。ただし、干す時は絶対に吊るさないでください。吊るすと、重力に引っ張られて、せっかく縮んだ繊維がまた伸びてしまいます。」

あまりに理路整然としていて、納得しかけてしまった。ヤバい。以前からの懸念事項が見事に解消されてしまった。しかも TOMOMI似のかわいこちゃんに言われているんだ。

彼女は畳み掛けるように続けた。
「それでも予備カバーはご購入されたほうがよろしいかと存じます。替えカバーが無いと、洗濯中に使えなくなってしまいます。本体と同時購入なら、予備カバーは30%オフでお買い求めいただけるのでお得です。」
「すぐヘタる」ということはFAQなのだろう。TOMOMI似の店員さんは、『洗濯前 / 洗濯後』の比較写真や、本体と予備カバー同時購入のメニュー表などを即座に出してきた。

しかし、僕にはもう一つ切り札があった。ちょっと前に、同じ店でヨギボーを買ったという知人の体験談である。
彼女が買いに来た時、持ち帰りまでものすごく時間がかかったのだという。購入時には、店で本体とカバーをセットして渡してくれるのだけれど、そこでイライラするくらい待たされたのだという。この知人が誰かの悪口を言っていることは全く聞いたことがないし、何かに腹を立てている姿もほとんど見たことがない。そんな彼女が愚痴っていたのだから、よほど長い時間待たされたのだろう。

この時、僕は1時間後に別の人と待ち合わせの約束があった。それに間に合うように持って帰れないならヨギボーとは縁がなかったということである。
そこでTOMOMI似の店員さんに聞いた「知り合いから、持って帰るまでめっちゃ時間がかかるって聞いたけど?このあとあまり時間がないんですよ。」

すると彼女は流れるように答えた。
「商品の準備に5-10分程度、補償のためにお名前や住所の入力などに5分ほどお時間をいただきます。土日祝日の混雑時ならばそれ以上のお時間がかかることもありますが、今日のような平日の夜はごらんの通り他にお客様はいらっしゃいません。すぐにご用意できます。
ただし、お選びになったカバー色の在庫によってはすぐにお渡しできないかもしれません。それでも毎週水曜日が入荷日なので、明日にはご用意できると思います。31日までなら送料無料ですので、ご自宅に配送することも可能です。」
そう言って、彼女は全色のサンプル生地を即座に出してきた。宙から突然出てきたようでびっくりしたのだけれど、どうやら常に腰にぶら下げているようだ。

もうヨギボーを買うとか買わないとかそっちのけで、TOMOMI似の店員ちゃんにぞっこんになってしまった僕は、彼女と一緒にサンプル生地を覗き込んだ。彼女は「これは汚れが目立つけれど、こっちはあまり汚れが目立ちません」だの、「当店の一番人気はこれです。」だの、「あとはお部屋との相性ですかねー」などと話してくれて、なんだか彼女と一緒に選んでるみたいで当方の鼻の下もますます伸びてくるわけで。

もうこのままでは絶対に買わされてしまうと戦慄した当方は逃げることにした。
「うん、色々説明してくれてよくわかったし、納得もしました。でも、もうしばらく考えてみたいので、今日のところはいったん引き上げます。せっかく時間を割いてくれたのにすみません。」

立ち去ろうとすると、彼女はチラシを手渡してくれた。
「色見本も付いてるので、これでじっくり考えてください。
あと、これは全国共通のもので、当店の電話番号が書いてありません。私が書き足しておくので、後日お問い合わせください。」

嫌な顔ひとつせず親切にしてくれたので、万が一買うことに決めたら、彼女から買おうと考えた。そこで「あなたのお名前を教えてくれますか?問い合わせのときに対応をお願いしたいです。そこに書いておいてください」とお願いした。「ていうか、売上のノルマとか、販売インセンティブとかあるんじゃない?ぜひともそれに協力したいし」と、言わんでいいことまで言ってしまった。
すると彼女は
「販売報酬のようなものは残念ながらないんですよ。それでも、接客した相手が買ってくれると、それだけで嬉しいですね」
などと瀟洒なことを言うではありませんか。この一言で僕は完全に彼女に情が移ってしまった。

先のように言いながら、彼女はチラシに自分の名前を書いた。こういう時、普通なら名字を書くと思うのだけれど、彼女は下の名前をひらがなで書いた。仮称「ともみ」としておきましょう。かわいいじゃねぇか。
人によっては「あざとい女」って思うのかもしれないし、「木公は販売員の手のひらの上で見事に転がされたな」って思うことでしょう。でもいいんです、うふふきゃきゃとおしゃべりできて楽しいんだから。ここまでは費用かかってないし。

もう8割方は買ってもいいかなという気になってしまったんだけれど、さっき「一度検討する」と言ってしまった手前、短い時間でそれを翻すのも気恥ずかしかった。チラシだけ受け取って店を出た。

さて、このあと、別の知人と約束があったのだけれど、1時間くらい余ってしまった。とりあえず、ショッピングモールのベンチに座って、今もらったばかりのチラシを眺めることにした。ともみちゃんの直筆は可愛いな、とか。

彼女の文字をひとしきり眺めたあと、色名をつぶさに見ていった。
すると、”Deep Purple” というのを見つけた。ギター小僧なら誰しも一度は通る “Smoke on the water” で有名なバンド Deep Purpleじゃん!これはネタとしてできすぎている。ロックの神様が買えと言っているに違いない。
さっき店を出てから5分くらいしか経ってないけれど舞い戻った。

ところが、店にはさっきのともみちゃんの姿は見えなかった。別のキリッとした姉さん風店員さんしかいない。
やっぱり彼女の名前をちゃんと聞いておいてよかった。こんなときでも指名ができるわけで。
キリッとした姉さん風店員さんに「ともみさんを呼んでいただけますか?」などと下の名前を言うのはとても恥ずかしかったけれど、言うしかない。言った。

すると彼女はすぐにバックヤードから出てきてくれた。本体と予備カバーを購入する旨を伝えた。
で、色の一つは “Deep Purple” に決めたと話した。「大好きなバンドと同じ名前だから」と話したのだけれど、彼女にはピンと来なかったようだ。くっ。

そして、もう1色が決められないと打ち明けた。そこは年の功のスケベ根性で「ともみさんの好きな色を買っていこうと思うのですが、どの色が好きですか?」と相談した。
彼女は
「私は Cream White が好きですね。汚れがすごく目立って、みんなには嫌がられるけれど、私は断然それです」
とのこと。

僕は Deep Purple にすっかり目が留まってしまっていて、そのすぐ下に記載されていた Cream White には全く気づいていなかった。不覚。これは僕の大好きなギタリスト Eric Claptonが在籍していた伝説のバンド Cream じゃん!彼らの有名曲の一つに “White Room” ってのがあるじゃん!!ロックの神様がまた僕の背中を押したように思った。
もちろん、ともみちゃんは Cream のことは知らなと言っていたけれど。

こうして、当初の思惑とは異なり、ヨギボーのビーズソファを買うことになってしまった。

ところが、一筋縄ではいかなかった。
ともみちゃんがカバーの在庫を確認したところ、Deep Purple は在庫ありだが、Cream White は品切れだという。
仕方ないので、Wine Red を代わりに買うことにした。シャア専用だし、「ワインレッドの心」という名曲もあることだし。さすがにもう「安全地帯『ワインレッドの心』って名曲もあるしね」とは言わなかったけど。

その後、ともみちゃんは高校時代に軽音部でドラムやってたという供述を得た。せっかくだからバンド組もうよって言ってみようかなと思ったけれど、それより先に「真面目にやってなくて、今はもう全然ですけどねー」と先手を打たれたので黙ってた。

こうして無事に時間通りに商品も準備され、ともみちゃんは通路のところまで見送りに来てくれた。
「またよかったら遊びに来てくださいね。買わなくてもいいので」
と最後に言ってくれた。
これが社交辞令なのか本気なのかわからなくて、帰りの車のなかで悶々と考えてしまうなど。

そして、彼女は確かに水曜日が入荷日なので、ほとんどの色が明日には揃うと言っていた。
そんなことなら、無理に Wine Red を買わずに、彼女のお勧めの Cream White を明日以降買いに行けばよかったのではないか。今日のうちに精算して、本体とDeep Purpleだけ持って帰ればよかったのだ。Cream White は自宅配送でなく、店頭受取にすればよかったのだ。そうすればもう一回、正々堂々とともみちゃんに会いに行けたではないか。
くっそ。

そんな2021年の年末の出来事です。

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