バスタオルを探しに行ったのに100万円以上のギターの説明を受けた日

横浜別宅生活3日目、清潔なバスタオルがなくなった。
本宅を出るとき、バスタオルを2枚だけ持参してきた。足りない分は買い足せばよいと安易に思っていたからだ。
なお、今日の正午にやっと洗濯機が納品された。それでとりあえず洗濯はしたのだけれど、乾燥機は持っていない。冬季の曇り空でだし、容易にバスタオルが乾くとも思えない。
当初の予定通り、バスタオルを買い足すことにした。

洗濯する際、柔軟剤なども持っていなかったので、ドラッグストアに出かけていった。そこでバスタオルも一緒に買うつもりだった。しかし、バスタオルは陳列されていなかった。
近所のスーパーも覗いてみた。赤ちゃん用はもちろん老人用のオムツは山のように積まれていたけれど、バスタオルは1枚も売っていなかった。水分を吸い取るという機能では同じはずなのに、この仕打ちはなんたること。

ニトリドン・キホーテで買うのがよいという情報は得ていたけれど、どちらも別宅からクルマなしで行くには少々躊躇われる。僕のクルマは本宅に置きっぱなしなのだ。

ダメ元で、別宅から目と鼻の先である横浜橋通商店街を捜索してみることにした。
ところでここは、故・桂歌丸に縁が深い商店街だそうだ。彼は生まれてから亡くなるまで近所に住んでいて、彼はこの商店街を愛していたし、商店街の人々も彼を慕っていたらしい。商店街には今でも「永久名誉顧問」として歌丸の幟がある。

横浜橋通商店街の入口と桂歌丸の幟(2025年1月6日撮影)

さて、そんな商店街を少し進むと、軒先に布団やタオルケットといった寝具、さらにはポリバケツや鍋といった日用品を売っている店が目に入った。
正直に言えば、ものすごく草臥れた店で、昭和からまったく改装していないんじゃないかと思われる埃っぽいお店。

しかし、この様子だとバスタオルの1枚や2枚は売っていそうだ。
買うかどうかは別として、とりあえず様子だけは見てみようと思った。

店内の陳列品の概要は以下の図の通り。

店の中央が棚で仕切られていて、狭い出入り口が左右に2つあるかっこう。
左手側に寝具の並んでいるのが見えたので、バスタオルがあるとするならこちら側だろうと思い、地点(1) から店の中に入っていった。中央の棚の陰に人の気配はしたものの、「いらっしゃいませ」の声がけもなかった。まぁこっちも半分冷やかしみたいなもんだし、妙に愛想だけは良くていらないものを押し売りしてくるような店員だったらメンドウだから、これくらいのほうがちょうどいいけど。
しかし、目的のバスタオルは置いていないようだった。あまり居心地のいい店でもないし、さっさと引き返そうと思った。

ところが、地点(2)まで進んだところで、店主の影が半分だけ見えた。60歳前後くらいのおじさんだった。全く商売っ気のなさそうな人だった。
ていうか、「なさそう」だなんて推量は今回のケースでは不適切だ。この人、マジで商売っ気が「ない」。断定していい。
だって、棚の陰に隠れるようにしてエレキギター(無名メイカーのストラトキャスタータイプ)の練習してんだもん。アンプに繋がずに生音だけで。

そりゃ僕もギター大好きだから、この人にもこの状況にも、とても興味が惹かれたよ。でもなんかコワいと思ってしまって、目を合わせないように引き返して慌てて店を飛び出してしまった。
けれどやっぱり後ろ髪は引かれるよね。地点(3)からもう一回店に突入した。ていうか、地点(2)からは棚の陰になってしまってギターのヘッドに描かれているであろうメーカーロゴが見えなかったから、反対側から確認しようという目論見もあったのだ(結局ロゴは見たけれど、初めて見るロゴでよく読めなかったのでメーカー名はわからず終い。以後この件には触れません)。

地点(4)まで来ると、店主に最接近した形になる。しかし、彼はこちらを一瞥もせずにギターを一生懸命練習している。生音なので何弾いてるのかはわかんないんだけど。
何弾いてるかわかんなくて気になるから、聞くよね。

俺「ギターやってらっしゃるんですね。何弾いてるんですか?」
店主「いや、まぁちょっと練習してるだけです。ははは」

そう言って、彼は眼の前の棚に打ち付けられたギターハンガーにギターをぶら下げた。
おいおいおいおい、わざわざギターハンガーを設置してるなんて、ガチじゃねぇか。ガチで商売する気ねぇだろ!

俺「ギターハンガー設置してるなんて、ガチじゃないですか」
店主「いや、こうやってすぐに置けるように。そして、あっち(勝手口の方向を指差す)にもつけてあります」

2箇所も!どんだけガチなんだよ。

俺「いや、僕もギターが趣味で、思わず声をかけてみました。すみません。」
店主「僕は昔っから高中正義が大好きでね。クルマではいつも高中のCDを聞いてるの。で、4年くらい前にこのギターを7000円で買って、それから高中の曲ばっかり練習してます」
俺「高中正義なんて、超絶技巧派じゃないですか!すげぇ」
店主「いやいや、高中なんて簡単な方でしょう。渡辺香津美なんかに比べたら・・・。」
俺「いやいやいや、僕は高中のギターは1曲だけ、『タイムマシンにおねがい』にチャレンジしましたが、高中のソロをよー弾けませんでした」
店主「あなた若そうに見えるのに、サディスティック・ミカ・バンドなんてよく知ってるねぇ。僕はミカと加藤が抜けたあとのサディスティックスがすごく好きで」

商売っ気はまったくないのに、音楽の話になるとしゃべるしゃべる。僕も楽しくてたまらなくなってきた。

店主「あなたは何使ってるんですか?」
俺「実は1週間前に引っ越してきたばかりなんです。何本かあるんですけれど、1本だけこっちに持ってきました。PRSなんですけど・・・」
店主「PRS!?」
俺「いや、高いやつじゃないですよ。安いラインのやつです」
店主「店にはどうなってもいい安いギターしか持ってきてないんだけれど、家にはお宝があるんですよ。PRSなんですけどね・・・」

そういって彼はスマホで自慢のギターコレクションを見せてくれた(以下の一覧)。
分かる人にだけ分かればいいし、ギターのわからない人にはチンプンカンプンだろうけれど、とりあえず彼が言うにはいずれも100万円以上の金額で中古品を買ったそうです。物によってはさらにプレミアが付いて、今では彼の買値の倍以上でも欲しがる人もいるとか。ちなみに僕の安いラインのPRSは購入当時の値段で12万円くらいですからね。

  1. PRS Custom22 Private stock ハカランダ指板
  2. Fender Stratcaster 高中正義シグネチャー サンバースト
  3. YAMAHA SG-T2 高中正義シグネチャー 黒
  4. PRS Custom24 Private stock 青

(写真を見せてもらった順)
※太字になってる「ハカランダ」ってのは、現在では取引禁止の木材。過去に輸入されたものを国内で売買するのはセーフ。去年は某楽器店が他の木材だと偽って密輸したのが税関で摘発された。

彼が言うには、10年以上前からコレクションとしてギターを買い始めたらしい。それまではただ飾っておくだけだったけれど、コロナのあたりで独学で実際に弾き始めたとのこと。ただし、主に引くのは7000円のギター。

そんなこんなで、「また遊びに来ていいッスか?」と言って、僕は一方的に友達認定しました。
横浜は楽しい街ですね。

なお肝心のバスタオルですが、店主が言うには「うちには置いてない。何件か先の◯◯には置いてると思うけれど、あんまりいいのがあるかどうか・・・」とのことでしたので、結局20分くらい歩いてドン・キホーテで入手しました。
あと、ギター談義をしている途中に、湯かき棒を探しに来た客がいた。商売っ気のない店主だけれど、さすがにそれには応対していた。ただし、在庫はないという。今どきの風呂は性能が良くなって湯をかき回す必要がないし、需要がないから置いてないのだと説明していた。そのまま追い返すのかなと思っていたら「取り寄せはできるよ」と、少しだけ商売っ気を見せていた。ただ、相手はじゃあいいです、と帰っていったけれど。ていうか、湯かき棒を買いに来た客は店内中央の棚を挟んで反対側だったから姿を見ることはできなかったのだけれど、声の感じは30-40代といった感じ。そんな人が今どきどうして湯かき棒がほしいのか不思議だよね。店主の言う通り、現代の風呂だと通常使わないだろうし(僕も40年以上お目にかかってないんじゃないかな)。
不思議な人が出入りする横浜橋通商店街は楽しい街ですね。桂歌丸に縁があるからか、落語の登場人物みたいな人がいっぱいいる感じ。

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