今、NHKで「ドラマ・万葉ラブストーリー -夏編-」を見ていた。
奈良を舞台に、万葉集の歌をモチーフにした boy meets girl (中には、old man meets old woman もあるけど)の甘くてベタベタなストーリーが展開される。
1つのお話は15分程度で、3本セット。今までに3セット放送されている。僕は、「第2回 秋編」と今回の「第3回 夏編」を見た。
脚本の原作は、素人応募作品だそうだ。次回「春編」の脚本も募集されている。優秀作品はドラマになって、賞金も10-20万円ほどもらえるそうなので、腕に自信と、万葉集への造詣と、奈良への愛着がある人はチャレンジしてみてはどうか。
これまで2セット見てきたわけだが、NHK奈良なんつー地方局が作っているドラマなので、正直つくりはちゃちぃ。
予算がないせいだろうと思うが、俳優さんたちもよー知らん人たちばっかりだし(唯一、夏編1本目の『人込みさがし』に出てきた旅館の女将さんは、ちりとてちん外伝「まいご3兄弟」で扇骨職人の妻なので知ってた)、なんだか演技もぎこちない感じがプンプンしてる。
小道具なんかもつくりが適当な感じで、ちょい興ざめ。たとえば『花守り』(夏編2本目)には、”40年前にスケッチブックに描かれたイラスト” というものが出てくるのだが、紙がものすごく真っ白でピンとしてるの。40年の時間の流れを出すために、日焼けとか端がほつれるとか、そういうヨゴシを入れて欲しかった。
とはいえ、素人が作ったベタベタ・ラブストーリーと低予算ドラマが、謎の作用を起こしたのかどうだがよくわからないが、僕にはとてもよく見えたんだけれど。
万葉集なんて古臭い和歌が、なんで現代の若い男女を結びつけるのか。自分の身に照らして考えたて「そんなわけあるまい」とリアリティのなさにバカバカしく思いながらも、「そもそもおとぎ話なんてバカバカしいもんだよな。18mもある人型ロボットがドンパチやるバカバカしさに比べたら、万葉集の恋の歌で男女がねんごろになるのもありかもしれない。むしろいい!」と納得してしまった僕がいた。
そんなわけで、何か妙に気に入ったので、ネタバレ覚悟でメモしておく所存。
1. 『人込みさがし』
学校で目立たない存在である自分を悩む少女。夏休みに入り、わざと奇抜な格好で奈良を訪れる。泊まっている旅館の息子に「自然のままの君が素敵だ」と言われる。しかし、彼女は「地味な自分なんて、誰にも気づかれないから嫌!」と猛反発。彼女は「じゃあ、なら燈花会の人ごみの中で、私を見つけ出してみてよ」と挑戦状を叩きつける。
うちひさす 宮道を人は 満ち行けど 我が思ふ君は ただひとりのみ(作者不詳)
#都の道には人がいっぱいいるけれど、僕が心寄せるのは君ひとりだけだ
2. 『花守り』
仕事を定年退職した男性が奈良の長谷寺を訪れる。そこで、認知症を患った初老の女性と出くわす。彼女こそ、男性が40年前に心を寄せていた女性だった。40年前、家業の失敗で彼の一家は逃げるように奈良を後にした。その時、男性は最後の別れを告げるため、長谷寺の牡丹をかたどったお守りを携えて彼女を待った。しかし、彼女は現れなかったため、牡丹のイラストに和歌を添えて残しておいたのだった。
あしひきの 山のしづくに 妹待つと 我立ち濡れぬ 山のしづくに(大津皇子)
#山であなたを待っている間に、山のしずくですっかり濡れてしまった
我を待つと 君が濡れけむ あしひきの 山のしづくに ならましものを(石川郎女)
#私を待つ間に濡れてしまったという、その山のしずくになれたらよかったのに
3. 『誰そ彼からの手紙』
何年も入院したままの女の子が、毎夕病院の玄関に立ち、手紙を楽しみに待っている。毎日配達する局員に向かって「ハガキを盗み見しているんじゃないか?」と聞くものの、マジメな局員はそんなことは決してしていないと否定する。どうやら、ハガキはどれもラブレターのようだった。そんなある日、局員が郵便の仕分けをしていると、宛名の代わりに和歌だけが書かれたハガキを発見する。宛名は書いていないのに、差出人は病院の女の子になっている。
夕さらば 君に逢はむと 思へこそ 日の暮るらくも 嬉しくありけれ(作者不詳)
#夕方になれば君に会えると思うからこそ、日が暮れるのも嬉しいなぁ