京都の祇園祭の期間中、毎年7月16日に行われる宵山(山鉾巡行の前夜祭)の一日をめぐるオムニバス。6編のストーリーには、それぞれ異なる狂言回しが存在するが、舞台も登場人物もオーバーラップしている。1話ずつ読んでも短編としてまとまっているし、全篇を貫く「幻想世界のふしぎ」も森見登美彦らしい世界観でぐっとひきこまれる。
3本目「宵山劇場」では、僕の大好きな小説『夜は短し歩けよ乙女』の名もなき登場人物の後日談が語られていて、旧作ファンへのサービスも抜かりない。京都市内が舞台というのは森見の定番だが、達磨だの鯉だのといった小道具も『・・・乙女』とオーバーラップし、なかなか微笑ましい。
あとびっくりしたのが、登場人物が京ことばをしゃべっていた。
「京都が舞台なんだから、あたりまえじゃないか」
とおっしゃる方もいるかもしれないが、僕の記憶する限り森見作品の登場人物は、京都人であっても標準語を話していたと思う。たったそれだけのことで、新鮮な作風に見えてしまった。
表紙もキラキラ☆していてきれいなことは報告済み。
当方は祇園祭に一度も行ったことがないのだが、今年は出かけてみたいと思わされたりと、いろんな方面から楽しめる1冊だった。
ところで、先日からの懸案事項である、”a2c ホラ吹き疑惑”。
a2c 氏が、「くじ引きでせんべいの枚数が決まる、ミルクせんべいという露店がある」と主張しているのだが、当方はそんなものの存在を知らない。先日、大阪の愛染まつりに出かけた時も、そのようなものは発見できなかった。
当方の推理によると、a2c氏は近畿生活経験の少ない当方を担いでいるのではないか。つまり、本来存在するはずのないミルクせんべいなるものの存在をほのめかし、それを探し求める当方の滑稽な姿を見て、陰からほくそ笑んでいるのではないかという疑惑である。
実際、当blogのコメント欄にも、ミルクせんべいに関する情報提供は、a2c氏以外からは一切行われていない。これはもう、a2c氏の狂言だと断定してもよいのではないか?
『宵山万華鏡』(p.208)には、小学生の姉妹が宵山の露店を見学して歩く描写がある。
露店の明かりと人いきれと明け切らない梅雨の湿度が、まるでぬるま湯のように路地を浸している。妹とつないだ手は汗に濡れてつるつる滑った。妹の手を引いて路地を抜けながら、彼女は面白いものを見つけるたびに歓声を上げた。焼きトウモロコシ、唐揚げ、金魚すくい、くじびき、フランクフルト、たまごせんべい、ベビーカステラ、焼き鳥、風船、たこ焼き、射的、お好み焼き、かき氷、林檎飴に苺飴、お面にヌイグルミ。
森見登美彦(奈良県出身、京都市在住)すら、ミルクせんべいの存在は認めていないようだ。これだけたくさんの露店を列挙しながらも、ミルクせんべいは見当たらない。
百歩譲って、ミルクせんべいなるものが実在したとしても、その存在は露店界では2軍以下の扱いなのではないか。
そんなわけで、強引に『宵山万華鏡』の話に戻せば、夏祭りの楽しげな描写がいっぱいで、ウキウキとしてくる作品なのである。
なお、道産子の当方に言わせれば、焼きトウモロコシではなく「焼きとうきび」だ。
しかも、本当にウマいとうきびの食い方は「茹で」だ。