某所から、ちょっと高級なティシュペーパーを入手した。
主に花粉症の人々をターゲットにした製品で、頻繁に鼻をかんでも肌が荒れにくいという宣伝文句のティッシュペーパーだ。
3箱あったので、職場の同僚と分けあった。
一人は僕で、もう一人は妻子ある男性社員で、残る一人は夫と2児を有する女性社員だ。
そして、この話の中心はその女性社員である。
彼女は花粉症のため、これからの季節が憂鬱でたまらないらしい。けれども、質の良いティッシュペーパーを入手して、今日はちょっとゴキゲンな様子だ。
彼女はゴキゲンなのだが、彼女の夫はここ数日風邪で苦しんでいるという。当然、鼻水がたくさん出るし、頻繁に鼻もかんでいるらしい。
そんな夫の様子を説明しつつも、彼女はこう言った。
「このティッシュを持って帰ったら、旦那に全部使われてしまう。(自分の花粉症が本格化するまで)しばらく会社に隠しておこう。」
聞き捨てならない当方は、すかさず突っ込んだ。
「結婚式の時に誓いをしなかったの?『健やかなる時も、病める時も夫を愛し、慈しむ』って。風邪で病んでる今こそ、愛が試される時なんじゃないの?」
すると、彼女は自分の結婚式の時のことを話し始めた。
「それがさぁ、手に持った花束がめっちゃ重かってん。手ぇがブルブル震えよるねん。全然緊張してへんのに、周りからは緊張してるように見ぇへんか、そればっかり心配しててん。せやから、誓いの言葉なんて、よー覚えてへんねん。」
ひでぇ鬼嫁だ。
ていうか、ティッシュの話からも逸れてるし。
そうこうしているうちに、彼女は保育園へ子供を迎えに行く必要があるので帰って行った。
机の上に、かのティッシュペーパーを置き去りにして。
ますますもって、ひでぇ鬼嫁だ。
・・・1分後。
「忘れ物♪ 忘れ物♪」
と言いながら、オフィスに戻ってきた。
彼女は、飲みかけのウーロン茶のペットボトルを掴んで、また出て行った。
わきには、あの青いティッシュペーパーの箱をちゃんと抱えていた。
彼女が本当に夫からティッシュを隠すつもりだったら、神に代わって僕が私刑を与えようと思っていたのだが、そうならなくてよかった。
私刑といっても、今夜のうちに彼女の高級ティッシュを駅前で貰ったポケットティッシュに取り替えておくというイタズラだけど。
そして思うことは、「何を誓ったか、誓ったことを覚えているか」ではなく、「以前のことはどうであれ、大切な人のために何をするか、何をしてあげるかが重要なんだな」ということ。
余談:
妻子ある男性社員(ティッシュを分け合った残りの一人)は、思うところあって、今日の会社帰りに1000円カットの理髪店に行き、丸刈りにするそうだ。
「バリカンを買って帰って奥さんに刈ってもらえばいいじゃん。すぐに伸びてくるからこまめな手入れも必要になるし、かえって安上がりだよ。」
と、僕はアドバイスした。
しかし、彼が言うには
「奥さんに言うと反対されるかもしれない。だから、何か言われる前に丸刈りにして帰る。」
とのこと。
夫の気持ちを理解してあげないような妻はどうかと思うし、「妻には理解してもらえないかもしれない」と予想する夫の方もどうかと思う。
お前ら、夫婦なんだから小細工しないでちゃんと話しあって理解し合えよ、と思う未婚の当方であった。
余談2:
もう時効だと思うから白状するけど、僕がちょうど2年前に丸刈りにしたのは、いわゆるひとつの「オンナがらみ」。えへへ。
余談3:
「余談」の男性社員が丸刈りにするのは、ヨソに女を作ったことが明るみに出たから反省と謝罪を込めて丸坊主にするとか、そういう不名誉な話じゃないので誤解なきよう。
「余談」→「余談2」の流れでそういう風に誤解する人がいるかもしれないから、念の為に言っておきますよ。