気温がぐんと下がってきた。黒板家のあばら屋では1階に五郎、2階の屋根裏部屋で純(吉岡秀隆)と蛍(中嶋朋子)、そして雪子(竹下景子)が寝泊まりしていた。就寝中の寒さに音を上げた純は、五郎に何とかして欲しいと訴えた。しかし、五郎は純が自分で何とかしろと突き放すのだった。2階は純たちのテリトリーであり、その中でも男である純が解決するのが筋だというのだ。
五郎は幼馴染みである中畑(地井武男)に仕事を世話してもらった。彼の事業を手伝うのだ。今日は彼の自宅敷地内にある養豚場で作業していた。そこへ本田(宮本信子)と名乗る弁護士が現れた。彼女は令子(いしだあゆみ)の代理人として東京から来たのだ。
本田の使命は、子供たちを令子の手に取り戻すことだった。まず、令子が離婚を望んでいないことを伝えたが、五郎の意志は変わらなかった。続いて、客観的な事実として、以前は五郎が全ての子育てを令子に任せていたこと、子供たちもかなり令子に懐いていたこと、周囲の人々もそう見立てていたことなどを指摘した。その上で、子供たち自身に富良野で暮らすことの同意を取り付けているのかと五郎を詰問した。五郎は黙っている他には何もできなかった。
五郎が黙ってばかりいるので、本田は質問を変えた。この約1ヶ月の間に、令子は3度も子供たちに手紙を送っているのに返事がない事を問うた。返信用の封筒を同封しているのに返事がないので、令子が不審がっているというのだ。中畑家気付けで送れば黒板家に届くはずなのに、何かトラブルでもあったのかと問いただした。
確かに五郎に手紙は渡されていた。ところが五郎が処分していたのだ。五郎は、本田に対しては子供たちに手渡しているし、彼らも読んでいるはずだと嘘をついてごまかした。
五郎は令子との話し合いを思い出していた。令子は五郎に恨まれてもいいし、財産もいらないかわりに、子供だけは手放したくないと強く言っていたのだ。
家に帰ると、蛍が一人で2階の寝室の壁にビニールを張り付けていた。それですきま風を防ごうとしているのだ。一方の純は、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)の家にテレビを見に行ったので留守だった。五郎は蛍のことが愛おしくなり、頭を抱きしめて撫でた。そして、蛍を手伝ってやるのだった。
その直後、純が帰宅した。蛍に仕事を任せっきりにして遊びに行ったことがばれたので、純は気まずそうにした。対する五郎も、複雑な表情をして何も言わなかった。純の頭に軽く手をのせると、釘を打ち付けるための金槌を純に手渡して部屋を降りていってしまった。
翌日の学校帰り、純と蛍は本田に声をかけられた。見知らぬ人間が自分たちの名前を知っていることで、ふたりはひどく怯え、警戒した。本田は純の腕を掴み、令子からの手紙を見たかと尋ねた。純は黙って逃げようとするものの、困惑した表情を浮かべた。それで全てを悟った本田は、令子から預かってきた手紙を純に渡した。しかし、純と蛍はそれを投げ捨てて逃げ帰った。
それでも純は、本田の言ったことが気にかかった。中畑の家で確認したら、令子からの手紙が来ていたことは事実だった。中畑が五郎に引き渡したことも間違いなかった。五郎が手紙を隠していることが判明した。
その日の夕食。五郎は仕事からまだ帰らなかった。雪子にモーションをかけている草太(岩城滉一)が来て食事をしていた。純は素知らぬふりをして、令子から一つも頼りがないのはおかしい、もしかしたら五郎が隠しているのではないかと問うてみた。しかし、雪子も草太も、五郎がそのようなケチなことはしないはずだと言って笑い飛ばした。
ちょうどその時、五郎が家にたどり着いた。家の外から純たちの話し声が全て聞こえてしまった。
家に入ると、五郎は純に手紙を渡した。日中、本田にもう一度会い、託されたのだ。そして、明日本田の宿泊しているホテルに連れて行くので、そこで本田と話せと命じた。
そして五郎は、令子からの手紙を全て焼いたことを白状した。中畑にも雪子にも知られないよう全て自分一人で行ったと告白し、彼らの濡れ衣を晴らした。そして、自分は軽蔑されて当然だと言うのだった。
純は2階の寝室で、一人で一心不乱に母からの手紙を読んだ。一方の蛍は、全く興味がなかった。一人外に出て、キタキツネを餌付けしようとしていた。
五郎は東京での出来事を思い出していた。
その日、急に予定が変わり、五郎の夜勤がキャンセルになった。そこで、五郎は蛍と連れ立って、令子の美容室まで彼女を迎えに行った。店はすでに閉店しており、入り口も閉まっていた。しかし、店の中からレコードの音が聞こえてくる。そこで五郎と蛍は裏口に回った。五郎は令子を驚かせようとし、そっとドアを開けて静かに入って行くよう蛍に命じた。
蛍がドアを開けると、下着姿の令子が見えた。陰にもう一人いるようで、その人物の吐き出すタバコの煙が見えた。自分もタバコを吸おうと手を伸ばした令子は、視線の先に蛍と五郎を見つけた。五郎は蛍を抱えて、走り去った。
翌日、五郎は純をホテルに連れて行き、本田に引き合わせた。蛍は来なかった。純がどんなに誘っても彼女は頑なに拒否したのだ。理由は一切しゃべらなかった。
本田によれば、令子は子供たちに会いたくて毎日泣いてばかりいるという。それから、五郎が手紙を無断で破棄したことをなじった。続いて、純は五郎と令子のどちらが好きかと尋ねた。純はもじもじして答えなかった。本田は質問を変え、東京と北海道のどちらに住みたいかを聞いた。これにも純は答えなかった。
純は、本田の話を上の空で聞いていた。純は、本田の吸っているタバコがずっと気になっていた。話に夢中になっている本田は、灰が落ちそうになるのに気づいていない。純はそのたびに灰皿を差し出すのだった。
純は東京の家に住んでいた時のことを思い出していた。当時の令子はハイ・ファイ・セットに凝っていて、五郎が夜勤の日は彼らのレコードばかり聞いていた。その日の夜、純がトイレに起きると、令子がリビングでレコードを聞きながらどこかに電話している様子が垣間見えた。その時初めて令子が喫煙する姿を見た。その日の令子は別人のようだった。令子は電話に気を取られていて、タバコの灰が落ちそうになっているのに気づいていない。五郎はよくタバコの灰で絨毯を焦がし、玲子に叱られてばかりいた。今まさに、玲子が絨毯を焦がしそうになっている。純は部屋に飛び込んで行って灰が落ちると指摘したかった。しかし、どうしてもそれができなかった。後日、玲子が五郎を叱っていた。絨毯にまた焼け焦げを作ったというのだ。しかし、それは明らかに玲子のタバコで焼かれたものだった。ところが、五郎も自分が知らないうちにやったのだと思って疑わず、言われるままに修繕していた。純は真実を知っていたけれど黙っていた。
それから半年ほどで、玲子が急に家を出ていった。
純が追憶から意識を戻すと、本田は相変わらず五郎の悪口を言い続けていた。そして、また灰が落ちそうになったので灰皿を差し出した。
純は耐えられなくなった。母のことは大好きだし彼女に会いたい、東京で暮らしたい、五郎の態度は腹に据えかねる。本田の言うことはいちいちもっともだ。しかし、赤の他人が自分の父の悪口を言うことには我慢ならなかった。
本田は玲子に電話をかけ、通じると受話器を純に差し出した。しかし、純はそれを受け取らなかった。それどころか、走って逃げ出した。自分でも何に突き動かされて逃げているのかわからなかった。駐車場で待つ五郎の元へ一目散に走った。
家に帰ったが、純はその日のことを一切蛍には話さなかった。蛍も何も聞かなかった。
その夜、純は令子の夢を見た。背後では母の好きな音楽がなっていた。そして、電話がどんなにありがたいものか、それを一方的に純に語りかけるのだった。目を覚ました純は、それは夢ではなく、東京で母が本当にそう言っているのだと思った。
蛍(中嶋朋子)が母・令子(いしだあゆみ)の不倫現場を目撃していたことが判明。きっついなー。
蛍自身はまだ幼いので正確な意味を理解してはいなかったのかもしれませんが、令子の尋常ではない姿、五郎(田中邦衛)の慌て具合、その後の別居などの事実から、彼女なりに母の不実を理解しているのでしょう。そのようなわけで、蛍はいつも五郎の味方しているのだと説明がつきました。
一方の純は、令子の様子がおかしかったことには気づいていたけれど、蛍ほどには決定的な事情を知らないのでしょう。そのようなわけで、令子への未練が大きいわけです。
しばらくは、両親に対する純と蛍の態度のすれ違いや対比が描かれていくことでしょう。
その他、本文では割愛しましたが、物語開始時点で恋人同士だった草太(岩城滉一)とつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)の関係がどんどん危うくなっています。原因はもちろん、草太が雪子(竹下景子)に惚れてしまったため。つららより雪子の方が器量が良いですし(熊谷美由紀はあえて不細工に見えるメイクまでしている)、東京で生まれ育った雪子はセンスも洗練されています。それに惹かれていくわけです。足繁く黒板家に顔を出しています。
つららも草太の気持ちが離れかけていることに気づいています。しかも、黒板家のもっとも近い隣人がつららの家なのです。ですから、つららは頻繁に様子を見に来るようになっています。そして、つららは草太を人の来ない所に誘って、セックスをねだったりするわけです。ただ、つららが純粋にセックスをしたかっただけなのか、草太を引きとめるために自分の体を道具として使っているのかは、僕にはよーわかりませんでした。あと、すぐにシーンが変わってしまったので、本当に行為に及んだのかどうかは不明です。
さて、今回のナンバーワン・クズは五郎でしょう。
令子に腹を立てているし、子供たちに里心が付いたら彼らが帰京するだろうと思うし、手紙を見せたくなかった気持ちはわからんでもありません。そこはちょっと同情する。
しかし、バレた後がひどい。純に告白するのだろうけれど、五郎は一度も謝罪の言葉を口にしなかった。自分が行ったことを淡々と、まるで他人ごとのようにつとめて客観的に話すばかりで、ついぞ謝らなかった。「軽蔑していい」と自分を貶める発言はしたが、「ごめんなさい」は言わなかった。クズだろ、これ。
とはいえ、五郎は純との距離感をつかめない父親として描かれています。蛍に比べて、純はほとんど懐かないので五郎も持て余し気味なのです。さらに、純は令子と仲がよく(名付けたのも彼女だ)、自分とは違って成績も優秀でした。そのため、我が子でありながら、コンプレックスや遠慮のようなものがあります。まとめ記事では極力セリフをそのまま書くのは避けるようにしているのでニュアンスが伝えられないのですが、五郎と純は親子なのに互いに常に敬語で話しています。例えば、「父さん、寒くてたまりません」「純くん、君は男の子なのですから、自分で何とかして下さい」のような感じ。
このチグハグな親子関係が今後どのように変化していくかも見所の一つになるわけでしょう。
最後に。
『北の国から』の有名シーンの一つである、「るーるるるるる」と言ってキタキツネを呼び寄せるのが今回初登場。誰に教えられるわけでもなく、蛍が自主的にやっていたようです。