今日初めて字幕を表示させたところ、黒板家の娘は蛍ではなく「螢」であることを知った当方が、BSフジ『北の国から』の第5回を見ましたよ。
その前日、クマ(南雲佑介/現・南雲勇助)が道具の準備や段取りのために五郎の家にやって来た。クマは笠松杵次(大友柳太朗)に気をつけろと注意を促した。杵次は、五郎の父の親友だった老人だ。五郎はもちろん過去に杵次と面識もあったが、忙しさにかまけて挨拶が後回しになっていた。クマは杵次のことについて言葉を濁したまま帰って行った。
純(吉岡秀隆)は杵次に会ったことはなかったが、噂だけは聞いていた。同級生の正吉(中澤佳仁)の祖父であるが、ケチでズルい人間だと悪評が立っていた。純はそのことを家族の前で面白おかしく吹聴した。
すると五郎は、会ったこともない人物の悪口を言うなと純を叱りつけた。
純は、五郎の自分への態度が冷たいと思った。本田(宮本信子)が訪ねてきてから態度が変わったように思った。確かに純は令子(いしだあゆみ)のことを思い出し、未練がましかった。けれども、五郎に情が移り、令子との電話のチャンスを自ら放棄して帰ってきた。それにもかかわらず、五郎が自分に冷たいことを不服に思っていた。螢(中嶋朋子)への態度と比べると、その差は歴然としていた。
翌日、純は五郎が演習林での仕事から帰ってくるまでに風呂を沸かしておくように命じられていた。しかし、純は火を熾すことが苦手だった。マッチの火を白樺の皮に移し、そこから種火を作らなくてはならない。けれども、何度やっても白樺の皮から先がうまくいかない。マッチや皮を無駄にしてばかりだった。
苦戦しているところへ五郎が帰宅した。五郎は無言で道具を奪うと、あっという間に火を熾した。ヘタなら早くから初めて間に合わせろ、などと冷たく言い放ち家に入ってしまった。
食事中も五郎はむっつりしていた。純が学校での出来事を大騒ぎしながら話していると、うるさいと言って叱った。早々に食事を終えると、螢だけを誘って外へキツネを見に出かけた。
純は、ますます自分が五郎に嫌われているように思った。雪子(竹下景子)に相談してみたが、彼女は気休めしか言ってくれなかった。
外に出た五郎は、仕事場で杵次に言われたことを思い出していた。
杵次は、五郎らの住んでいる土地は自分のものだと主張した。五郎に住む権利はないというのだ。五郎の親は、五郎が東京へ家出した後に苦労した。その時に杵次が資金援助し、借金のカタに土地を譲り受けたのだという。五郎には寝耳に水で、激しい衝撃を受けた。五郎はそのことで思い悩んでいた。
その翌日、純と雪子は草太(岩城滉一)に連れられて富良野の街へ出かけた。雪子は美容院へ、純は草太のボクシングジムを見学した。ボクシングの練習をする草太は、いつもの軽薄な様子と違って男前に見えた。
練習後、雪子を待つ間、純と草太は喫茶店に入った。草太は雪子に恋人がいるかどうか、純に尋ねた。草太はかなり雪子に惚れ込んでいた。純はそんな草太をからかうように、かつ、ませた態度で答えた。雪子は恋人と別れたばかりらしいということが伝えられ、草太にもチャンスがあると焚きつけるのだった。
その夜、五郎は杵次を居酒屋に誘い、もう一度詳しく話を聞いた。
しかし、杵次の話は眉唾ものであった。まず、土地の登記はされておらず、土地の譲渡は口約束のみだった。50万円貸したというが借用書もないという。杵次は証人を立てたというが、その人物は3年前に他界している。杵次の主張を裏付けるものは何もなかった。けれども、五郎は父の親友だったという遠慮もあり、強く反論することができなかった。
五郎は、幼馴染みであり、林業の請負もしている中畑(地井武男)に相談した。中畑が間に入ってくれることになった。
中畑の仲裁結果を待つことなく、五郎は家に帰った。
帰宅すると、火は熾っていたが、焚き付け用の白樺の皮があたりに散乱していた。それを見た五郎は激怒し、純を怒鳴りつけた。普通の人なら1週間は使える材料を、純は1晩で浪費する。それにもかかわらず、材料を大事にすることもしないと言っては当たり散らした。見かねた雪子が、自分がやったのだと言って純をかばってくれた。
寝室で、純は雪子に自分は五郎から嫌われているのではないかと相談した。雪子は軽く笑い飛ばして否定したが、雪子にも五郎の態度が気になっていた。
さらに翌日。
杵次は演習林の作業場に姿を現さなかった。中畑の話によれば、五郎の土地の事を問いただしたら、杵次はブツブツと言うだけで、到底本当の事を言っているようには聞こえなかったという。彼の様子を見て、中畑は杵次が嘘をついていると断定した。五郎には気にするなと言って励ました。仕事に来ないのは中畑が断ったのではなく、杵次が勝手にしていることだと付け足した。
その頃、杵次は五郎の家に来ていた。
ちょうど純が家の前で火を熾す練習をしていた。杵次は少々酒臭かったが、親切に優しく火の熾し方を教えてくれた。手ほどきの通りにやると、純にも簡単に火が着けられた。
杵次は昔話を話して聞かせた。このあたりは鬱蒼とした森だったという。熊もたくさん住んでいたし、樹齢500年を越える立派な樹木もあった。そこへ人間がやって来て土地を切り開いた。もちろん、このあたりを切り拓いた入植者の一人が杵次である。粗末な道具や馬しか利用できず、その苦労は並大抵ではなかった。野生生物や大自然を犠牲にもした。それにもかかわらず、若い者たちはこの土地を捨てて出ていく。なんと身勝手なことか、と嘆くのだった。そこまで話すと、静かに帰って行った。
後から聞くと、昔の杵次は「仏の杵さん」と呼ばれていたことがあるという。それが今ではすっかり人が変わったのだという。
その日の夜は、五郎は妙に機嫌が良かった。友人たちも集まって、家で宴会が始まった。酒がどんどん進んだ。
純は、ふと、つらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)が窓から覗いているのに気づいた。外に出て声をかけると、中にいる草太を呼んできて欲しいと言うのだ。純は家に戻って声をかけるが、草太は面倒くさがって外に出ようとしない。ついには、家に入ってこいと大声で呼びつけた。つららは、来ていることをみんなには秘密にしたかったのだ。声をかけられて恥ずかしくなり、雪の中を走り去ってしまった。
純はつららに同情した。つららが草太に避けられているのと同じように、純も五郎に避けられている。五郎は先日、純が杵次の悪口を言ったことを激しく叱責した。それにも関わらず、今夜は酒を飲んで五郎はみんなと一緒になって杵次の悪口を言っている。明らかな矛盾である。それに、純には杵次が悪人に見えなかった。そう思うと、純は杵次にも同情した。杵次も自分やつららと同じように、みんなから避けられるタイプの人間なのだ。
純は家の中で激しい疎外感を感じた。一人で外に出た。
するとそこへ、螢が餌付けしたキツネがやって来た。純は石を拾ってキツネに投げつけた。ちょうどキツネの様子を見にでてきた五郎と螢がその瞬間を目撃した。キツネは一目散に逃げていった。
怒りに駆られた五郎は、純を張り倒した。合計2発殴った。純は立ち上がると、そのまま森の中に姿を消した。螢は泣き崩れ、五郎はその場に呆然と立ち尽くした。草太が純を追いかけた。
草太は追いつき、純が落ち着くのを待って話を聞いた。純は、五郎は螢だけをかわいがり、自分は嫌われているのだという悩みを打ち明けた。すると草太は不快感を顕にした。草太の見立てによれば、五郎は純が強い男になるようにあえて冷たくしているのだという。五郎は無器用な人間なので冷酷な態度に見えてしまうが、心の底では純を大切に思っていると説得した。
純は草太の言っていることは、詭弁だと思った。しかし、今夜は反論する気になれなかった。草太の口調が男の優しさを湛えていたからだ。
家に帰ると五郎は泥酔していた。
純が寝室に上がると、螢は自分が使っていた湯たんぽを純に差し出した。螢が言うには、五郎は雪子にこっぴどく叱られたのだという。ついには反省し、純のことが好きだと言っていたと教えてくれた。
螢はキツネのことは怒っていないとも話した。キツネはまた来ると信じていると言うのだ。
しかし、キツネはそれきり来なかった。
基本的には、杵次(大友柳太朗)が登場し、彼の言動で五郎(田中邦衛)がうろたえるという話。心労を負った五郎は、ついつい純に冷たくあたってしまう。そのせいで純が苦悩するというプロット。
杵次は亡き父の親友であり、過去には「仏の杵次」とまで言われていた人物だ。おそらく、五郎も若い頃に世話になったこともあるのだろう。五郎は過去に受けたであろう恩と現在の言いがかりの間で板挟みになっているわけだ。
純は、人間の二面性を見る。五郎は周囲からは優しい男だと思われているが、純にとっては冷酷な人間だ。逆に杵次は、周囲からは人でなしと言われているが、純にとっては経験豊かで優しい老人だ。さらに、草太(岩城滉一)はつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)と交際しているはずなのに、最近は雪子(竹下景子)に熱をあげている。人の醜いところを垣間見て、何もかも嫌になってしまう気持ちはわからんでもない。
また、まとめ記事に押しこむのに苦労したのだけれど、純と草太がふたりだけで話をするシーンが2回ある。杵次の話だけに絞り込んだ方が上手くまとまるとは思ったのだけれど、その2つのシーンは外せないと思ったので含めた。
最初のシーンは富良野の喫茶店で、雪子の恋人の有無を話しあうところ。ここでは、草太が幼い子どもで、純が物事を知り尽くした大人であるかのように描かれていた。ていうか、元々純はマセガキなのだけれど、それが強調されていた。
2回目は、草太が純を慰めるところ。ここでは立場が逆転し、草太が分別ある大人として、幼い純を慰めている。そして、その時の草太の様子は、純の「かっこいい男のロールモデル」となったようだ。
その対比を記録してきたくて、まとめ記事に押し込んだ。
さて、今回のナンバーワン・クズは、やはり準主役の杵次としておきましょう。
理由はもちろん、虚言で周囲に迷惑を振りまくところです。
このドラマ、とにかくクズばっかり出てくるわけです。
けれども、そんなクズたちにも、少なくともひとつまみ分くらいは良い所があったり、少しずつ更生していったりする様子が見る者の心を打つのです。杵次もそれなりにいいやつなんですよ。