そして10月になった。五郎は中畑(地井武男)や彼の部下たちに手伝ってもらい、いよいよ丸太小屋の建築に取りかかった。純と螢(中嶋朋子)は学校が終わると建築現場に駆けつけた。雪子も炊事係として現場に詰めていた。作業は至って順調で、一週間と待たずにに屋根まで完成しそうな勢いだった。活気ある現場で、男たちも楽しそうに取り組んでいた。
純と螢は、現場をこっそりと抜け出し山奥に入っていった。実は、本人も忘れいてるが、数日後が五郎の誕生日なのだ。みんなでサプライズ・パーティーを開くことを計画していた。純と螢は翌年用のブドウ酒を贈るつもりだった。その材料となる山ブドウを採りに行ったのだ。
螢と純は、五郎の誕生日にこごみ(児島美ゆき)を呼ぶべきか話し合った。螢はこごみを呼ぶべきだと主張した。自分たちはピクニックの時にこごみに冷たい態度をとった(第20回)。しかも、その頃から五郎はこごみに会っていないようだ。螢は、五郎が自分たちに気兼ねしてこごみと会わないでいるように思われた。ゆえに、自分たちがこごみを誘ってやるべきだと考えているのだ。
一方の純は猛反対した。こごみの前でデレデレとしてだらしのない五郎を見たくはないからだ。しかし、その日は結論が出なかった。
翌日は日曜日だった。純と螢も朝から作業を手伝った。
螢が食料を持って家を出ようとすると、こごみが訪ねてきた。螢はこごみを建築現場に連れて行くことにした。道中、ふたりは親しくおしゃべりをした。螢はこごみを誕生会に招待した。こごみも喜んで参加すると答えた。
ところが、こごみが現場に着くと、場の雰囲気が一気に悪くなった。それまで楽しげに話していた男たちが、一切口を利かなくなった。五郎と目を合わせようとするものもいなかった。みんな、五郎と中畑がこごみと肉体関係のあったことを知っているのだ。もちろん、五郎と中畑も気まずい表情を浮かべていた。
そんな中、こごみは明るく快活な態度のまま、何も気にせず五郎の横に座った。そこで一緒に食事を摂り始めた。中畑にもわだかまりのない様子で挨拶をした。ふたりはほぼ一ヶ月ぶりの再会だった。
こごみと顔を合わせていたくない中畑は、純を誘って山の中へキノコ狩りへ向かった。すると、純は中畑に愚痴り始めた。純は、彼女が来ると五郎がだらしなくなるので、こごみのことは大嫌いだとぶちまけた。中畑は話の流れで、こごみが飲み屋に勤めていると言ってしまった。それを知った純は、ますますこごみのことを軽蔑するのだった。
一方、建築現場では、中畑の部下の中川(尾上和)がこごみに何かを耳打ちした。その直後、こごみは何も言わずに帰っていった。五郎はその場に立ち尽くし、こごみが帰っていくのを黙って見ているだけだった。螢はどうして急にこごみが帰ってしまったのかわからなかった。
夕方、五郎が帰宅すると、先に帰宅していた純の大騒ぎしている声が家の外まで聞こえてきた。純は誕生会にこごみを呼ぶのが嫌だと言い散らしていた。今日もこごみが現れた途端にみんなが白けたことを引き合いに出し、彼女はみんなに嫌われていると言うのだ。そして、飲み屋に務めている女は不潔だから来て欲しくないとまで言った。
外で全てを聞いてしまった五郎は、そのまま引き返し、中畑と一緒に飲みに出かけた。
中畑の目には、五郎がこごみのことで落ち込んでいるのが明らかだった。中畑は、こごみに深入りしないことを忠告した。五郎が誰かを好きになってしまうのは仕方ないが、子供たちのことを考えろというのだ。中畑は、純がこごみが飲み屋の女が出入りすることを嫌がっていることを伝えた。それから、ただでさえ五郎と令子(いしだあゆみ)の離婚で傷ついているところへ、別の女が現れることによる子供たちのショックは大きいはずだと説いた。子供たちに対して理想の父親であり続けることを最優先し、こごみとのことはせいぜい外での遊びに留めておけと助言した。
五郎は怒った。珍しく中畑を全否定した。自分は理想の父親ではないと否定した。それから、自分は女と遊びで付き合うほど器用でも無責任でもないと否定した。怒った五郎は店を飛び出して帰った。
家に帰ると、五郎はすぐに純に声をかけた。自分の誕生会を計画してくれていることと、純がこごみを呼びたくないと思っていることは知っていると話した。純が、こごみのことを飲み屋の女だから嫌いだと言っている事は許せないと厳しく伝えた。人にはそれぞれの生き方があり、各自が一生懸命生きている。純が人や職業に格付けをしていることが絶対に許さないと言うのだ。
純がこごみを呼びたくないから、五郎が代わりに断りに行ってやるとすごんだ。そのかわり、誕生会もキャンセルだと宣言して家を飛び出した。
雪子は慌てて五郎を追いかけた。ただし、雪子が五郎を追いかけた真意は、純のことをかばうのではなく、雪子に届いた手紙を五郎に見せるためだった。それは令子からの手紙だった。
令子は五郎に手紙を書くつもりだったが、それができないので雪子に宛てたという。内容を雪子から五郎に伝えることを期待していた。手紙には、すでに令子が吉野(伊丹十三)と一緒に暮らしているという事が書かれていた。五郎と正式に離婚して2ヶ月ほどしか経っていないのでまだ再婚はできないが、事実婚を始めているというのだ。子供たちに知らせるかどうかは五郎に一任するとあった。
それから令子は、自分の心境を綴っていた。離婚してからは2ヶ月しか経っていないが、吉野との関係が始まってからは2年半経っている。その間、令子は一人きりであるかのように感じていた。一人でいる時間は、家族と共にすごす時間の何倍にも感じるのだという。だからもう、一刻も一人ではいられない。だから、すぐに吉野と一緒になるのだと書いてあった。
それを読んだ五郎は、「良かった」という感想を述べた。雪子は「恥ずかしい」と言って、手紙を回収することもなく家へ駆け込んだ。五郎は手紙とともに富良野の街へ向かった。
五郎が駒草に顔を出すのも久しぶりだ。
五郎は、昼にこごみが急に帰った理由を問うた。こごみは急用を思い出したとにこやかに答えるのだった。
こごみは、五郎と会えない一ヶ月の間、取り乱すことなく待っていた自分を誇った。五郎は忙しかったためだと答えた。こごみはそれが嘘だと分かっていたが、追求しなかった。
続いて五郎は、誕生会が開催できなくなったと告げた。自分の忙しさのために開催できないのだと言い訳した。こごみも、店を休めそうにないので断るつもりだったと、再び笑顔で答えた。それ以上高いに踏み込まなかった。
さらに五郎は、こごみと中畑の関係を遠回しに聞いてみた。五郎が知ってしまったこと察したこごみは、巧妙にはぐらかした。五郎はそれ以上自分からは聞かなかった。
中畑との関係を答えるかわりに、こごみは、五郎が噂や過去にこだわるタイプかを聞いた。五郎はいったん否定した。しかし、すぐにそれを取り消した。
五郎は、自分の経験を話し始めた。妻・令子の浮気現場を目撃し、そのことにこだわり続けたと話した。令子がどんなに謝っても許さなかったというのだ。最終的には、子供たちを巻き込んだ騒動となった。人を許すことのできない自分の傲慢さを自嘲した。
そして、令子から再婚を知らせる手紙が来たことを話した。ホッとしたという正直な心境を語った。
そこへ、中畑の部下の中川とクマ(南雲佑介/現・南雲勇助)が駒草にやって来た。どういうわけか、五郎を店の外に呼び出して話をしようとしている。五郎は不審に思いつつ店の外に出た。
こごみは、五郎が席を外したことで緊張が解けた。大きく深い息をついた。
直後に五郎が戻ってきた時、顔面は蒼白だった。タバコをつかもうとする手は震えていた。会計をして帰ろうとする。
前妻・令子が死んだらしいというのだ。2ヶ月前に退院し、富良野まで旅行に来た令子が、以前に入院していた病院で死んだというのだ。
こごみ(児島美ゆき)を軸に、職業の貴賎に関する問題や、奔放な性行為に関する問題などが語られていると思うわけです、僕は。そして、白黒をつけるのが難しい問題だと思うわけです、僕は。
おそらく僕は、こごみとは偏見なしに友だちになれると思う。飲み屋の女だろうが、誰とでもすぐ寝るのだろうが別に気にしない、友だちとして付き合う分に関しては。けれどもたとえば、自分の恋人や配偶者にしてもいいかと聞かれれば、逡巡がある。それが何に起因するのかよくわからないが、とにかく「ちょっと考えさせてくれ」と言ってしまうと思う。恥ずかしながら。優等生でありたい(職業に貴賎なしと言いたいし、そう信じたいし、そう思って人と付き合いたい)わけだけれども、ちょっと想像しただけでその願望が崩壊することが分かるのである。ちと辛いな。
僕はこのドラマはひと通り見たので、大人になった純(吉岡秀隆)がゴミ収集職員になり、職業上の理由で劣等感を抱くことを知っている。さらに彼の恋人が元AV女優だと発覚して苦悩するという話も知っている。そう考えると、職業観と貞操の問題は、ある意味このドラマの永遠のテーマなのかもしれんな、と。
さらに、昨日の放送では、純はつらら(熊谷美由紀/現・松田美由紀)に対して好意的な感情を抱いている。ところが、彼女はソープ嬢になっているわけだ。もし純がそのことを知ったら、つららに対してどういう評価をするのだろうかと考えると、暗い気持ちになる。実はそういう問いかけをしているのが今日の放送だと思った次第。
そんな感じで、ただでさえヘビーなお話の中に、令子(いしだあゆみ)の突然死なわけです。重い、重苦しい。
あと、五郎(田中邦衛)とこごみの飲み屋でのやり取りも名シーンです。お互いに「みなまで言うな」的なオーラを出し、相手の嘘と本音を見抜いており、見抜いてる/見抜かれているということを了解し合いながら淡々と進んでいく対話がしびれます。