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ファースト・プライオリティ / 山本文緒

おひさしぶりです,山本さん.
以前のように,Junk Cafe で読みまくらせていただきました.

31編収録された短編集です.
主人公はいずれも31歳.
でもって,ボクの個人的な事情なんてどうでもいいけれど,僕も31歳.
できすぎ.
とうせなら,サーティーワン・アイスクリームでも食べながら読めばよかった.

他の読み方をする理由は特になかったので,初めの話から順番に読んだ.

最初の10編をあたりは,
「あ,今回ハズレだ.面白くねー」
と思いながら,半ば義務感で読んでた.
なんか,どの話も妙に頑固で偏屈で愚痴っぽい登場人物ばかりで,かなり萎えた.

しかし,11編目の「旅」あたりから,読んでいる僕の心境に変化が現れているのがわかってきた.
相変わらず,どの登場人物も頑固で偏屈なんだけれど,愚痴が減ってくる感じ.
そして何よりも,お話の中の雰囲気が俄然やわらかく,ホンワカしてくる.

以下,いくつか気に入ったお話.


「旅」は日々,淡々と仕事をこなす女性が,毎週末は必ずプチ旅行をするという話.山場も,驚くべきオチもない話なんだけれど,主人公の女性のゆったりとしていて,ちょっぴり浮世離れした人生観に憧れを抱いちゃった.

「庭」は,妻を亡くした男の話.昔かたぎの人で,いつも突っ張っていて,家族に対してどこかよそよそしい態度でいるのだけれど,ふとしたきっかけで家族のことを省みるようになるという話.不器用なオッサンの話に弱い当方としては,かなりのヒット作.

「燗」は,「この話が読めただけでも,この本を買ったかいがあった!」と思えた.夫と別居中の女性が,離婚のカタをつけようと待ち合わせをしていると,夫の父が現れて,いろいろあってお互いにトホホな状態になっちゃう話.トホホな二人が”日向燗”(30度くらいのぬる燗らしい)みたいな幸せを見つけるという話.ある意味不器用なオッサンネタであり,プチ・ハッピーエンドであり,好きな話.

「ジンクス」.かわいい31歳女が登場.おバカちゃんだけど,こういう子好きよ.

とにかく,
若い人(31歳以下)は「31歳になると,こんなに大人になるんだ!」と将来に希望を持ってもいいし,「バカじゃねーの?自分はこうならない」と反面教師にするもよし.
年配の方(31歳以上)は「ふっ.まだまだ青いわね」と失笑するも良し,「あの時は良かったわ」とノスタルジーに浸るもよし.
同い年の人は,多分どれを読んでも「あー,自分に当てはまる!」と思うだろうし,「自分はこんなのとは違う」と思うことでしょう.
いろんな楽しみ方がある短編集だと思うので,お勧め.

最後に,笑ったフレーズ.
3度の結婚を経験し,相手の女性は全て31歳だった男のセリフ

「三十出たくらいの女っていいじゃないか.そろそろ迷いが吹っ切れて,腹がくくれてて,でもやり直しもスタートもできる歳だろ」

(「三十一歳」)

笑った理由は説明しないけれど,いろいろ思ったのよ.

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