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今夜、すべてのバーで / 中島らも

昨夜、新横浜に出没していたのは、今日、神奈川県某所で行われる研修に参加するためだったり。
こんなこと言っては失礼だが、「人生設計考えましょう」という趣旨のかったるい内容。


「年度末が迫ったこのクソ忙しい時期に、何で数時間もかけて移動して、1泊して、丸一日つぶさにゃイカンのじゃ。しかも、こちとら風邪が長引いて鼻はズルズルするし、薬のせいで眠くてフラフラするし、やってられんのじゃ」
と、ちょっと悪態ついてみたり。

けれども、「これも業務命令だから仕方ないよなぁ」と冷めたサラリーマン風なセリフを吐いてみたり。

それでも結局、「こういう手厚い福利厚生系のお話を、給料もらって業務として聞かせてもらえるんだから、会社には感謝しなきゃ」と、優等生チックなことを考えることも忘れてなかったり。

でもって、1日の研修の感想。
「うげぇ、マイホームを手に入れようとしたら、そんなにたくさんお金が必要なの?ががーん、退職までにローンを払いきることなんて不可能じゃーん」
と落ち込んでみたり。

いやいや、お家の価格と自分の給与を見比べたら、客観的には無理めじゃないのだろうけれど、現在の自分の「超浪費的、自己満足系独身貴族生活」に照らしてみると、どう考えてもむりぽ。

そこまで理解しているなら、節制してお金ためれば済む話なのだが、自称天邪鬼な当方なので、
「こちとら江戸っ子でぇ。宵越しの金なんてもたねぇぜ」
とか、強がってみたり。

配布資料のあちこちに差し込まれているイラストが、いずれも「夫妻子供2人の幸せほのぼの家族」だったり、「杖を突いた、年老いた両親を子供世代が面倒を看る図」だったりするのを見るに付け
「俺は、こういう絵に描いた”モデル的幸せ”とは違う、俺独自の”幸せ設計”をするぜ」
と、うそぶいてみたり。

実際、研修の最後にA4の紙に現在から15年後までの欄が用意され、「○年後に給与がいくらになっているか、そのときどんなライフイベントが起きそうか、貯蓄はどれだけあるか」等を各年ごとに記入する作業をやることになったり。
さらには、「将来の自分の夢/あるべき姿」みたいなものをタイトルとして書き出す部分があり、
「日々享楽的な生活を行う」
とサラリと書いてみたり。

半分くらいは本気だったり。

「アリとキリギリスだったら、キリギリスでいいな。楽しむだけ、楽しんで、太く短く生きますがなにか?」
だの
「年金?マイホーム?んなもんいらねーよ。いよいよになったら、適当に浮浪者になって、人知れず息を引き取るし」
だの、かなり、斜に構えてみたり。

たぶん、風邪気味で弱ってたせいもあると思うのだが、「いいよ、いつ死んでも」くらいの勢いで、本日の人生設計終了。

風邪気味で弱ってたので、ちゃちゃっと作業を終わらせ、一刻も早く帰宅すべく足早に会場を後にする。
一応、研修の終了時間を見積もって、新幹線の予約はしてあったのだが、予定よりも2時間ほど早く帰れそうな雰囲気だったり。
東海道新幹線利用者の強い見方(ていうか、JR東海のカード顧客囲い込み作戦)エクスプレスE予約で予約変更を試みるも、さすがは週末、空席がない。
同僚な人々に愚痴っていると「新横浜から”のぞみ”乗るのではなく、小田原から”ひかり”に乗るっている裏技があるぜ」との耳より情報を得、その作戦を取ることに。
ふむ、小田原から名古屋まではノンストップで、名古屋から”のぞみ”に乗り換える手があるようだ。これなら、到着時間にさほど差はない。しかも、空席アリ!

そんなわけで、初小田原~!(駅のみ)
ちょっと早めに小田原についてしまい、乗り換え時間にかなり余裕があったので、駅舎内をブラブラ。
本屋発見 → 移動用文庫の物色 のコンボをかます。

そんなわけで、ゲットしたのが中島らも著「今夜、すべてのバーで」なのである。

これ、以前にどっかの古本屋で1章だけ立ち読みした記憶あり。
主人公は重度のアルコール依存症で肝臓がメチャメチャにやられて、黄疸が出るわ、尿は真っ黒だわ、まともに歩けないわの状態になり、自分でも「こりゃマズイ」ってな状態になって病院で診察を受けるところから始まる話。
診察した医者は、主人公の顔を見るなり入院即決。
ただし、病室の準備に1時間ほどかかるから、後でもう一回来いと言われ、暇つぶしに病院の周りをブラブラ歩いて、「これ飲んじゃマズイだろうなぁ」と思いつつ、自販機で購入したワンカップ(2本)を飲み干してから入院。
担当医にその所業が即バレして、皮肉たっぷりに冷たくたしなめられるというくだりまで、その時に立ち読みしていた。

その時は、この話は中島らもの実話をもとにしたエッセイだと思い込んでいて、
「なんてハチャメチャな酒乱なんだ。結局は、階段から落ちて死んだけれど、一歩間違えば酒で本当に死にかねない人だったんだな。生々しくて読むに耐えないや」
と思って、そっと棚に戻した記憶がある。

なお、今日、本書を購入し、裏表紙のあらすじを読んで真実を知ったのだが、これって実話のエッセイじゃなくて、小説なのね。この作品で、「吉川英治文学新人賞」を受賞してるのね。
帰宅後、ぐぐってみたら、中島らもの本名は「中島裕之」であるのに対し、本小説の主人公の名前は「小島容」だった。確かにフィクションだ。
な~んだ、実話をもとにした生臭い話じゃないんだ。安心、安心、と読み始める。

でも、結局、あとがき代わりに付けられている、山田風太郎との対談で、大部分が中島らもの実体験に基づいているということが判明して、かなり生々しいものだと知ったけれど。
ぎゃふん。

で、どの登場人物もかなりキャラがたって魅力的に書かれている。みんな、ちょっと世間に対してヤクザな感じだけれど。
主人公の小島は、屁理屈・天邪鬼王でいちいち小憎らしいことを言うし。
主治医の赤河も、負けず劣らずの憎まれ口野郎だけれども、熱いヤツだし。
同じく酒で肝臓をやれれた入院患者の福来は、保険成金にして小島に飲酒を勧めるイヤなヤツだし。
主人公の思い出の中で生きている故人の不二雄は、男なら誰でも憧れるかっこいいヤツだし。
不二雄の妹のさやかは、最近の言葉で言えばきっと「ツンデレ」系でその筋では絶対萌え対象だし。
休むことなく、一気に読めちゃいます。

最後になりますが、僕が一番気になったのは、当方命名”クララじいさん”こと西浦じいさん。
なんでクララかってーと、「アルプスの少女ハイジ」のクララそっくりだからだ。
別に、西浦じいさんが、金髪のロングで青いワンピースを着た美少女だからではない。
それなりに体は回復していて、自分の足で立つことは可能なはずなのに、それをしないからだ。
当方、入院初夜の「事件」のシーンで、ハイジの名セリフ「立った!クララが立った!」というフレーズがグルグル回りました。;-p

それはさておき、別のシーンで”クララじいさん”西浦はこんなことを言っている。

神さんはなぁ、意地が悪いんや。生きたいもんは死なすし、死にたいもんは生かしよる。

ああ、確かにそうかもしれないなぁ。

「いいよ、いつ死んでも」とかうそぶいていた当方に(上のほうにスクロールするとそう書いてあるよ)、ガツンと響いてきた。

ああ、僕は神様に意地悪されて、わりと長生きしちゃうかも。
70にも80にもなってホームレスは、寒いし、腹減るし、惨めだし、ちょっとやだな。
真面目に人生設計を考えようと、ちょっとだけ思った。

ついでに、タバコを少し減らそう(注)かと思った。
肺のダメージも減るし、お小遣いも増えるし、一挙両得だね。

(注)
「やめる」と書くと、きっと目標が達成されずに自己嫌悪に陥るので、「減らす」くらいにしておく。
具体的に数量化しないとダメなので、「1ヶ月以内に、タバコ消費量を2/3にする」くらいにしておく。
ほら、マイルドな目標にしておいたほうが、それ以上のパフォーマンスを発揮したときに自尊心が高まるじゃん。;-p

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