『AV神話: アダルトビデオをまねてはいけない』杉田聡

本書の志は尊敬に値する。
男性がエロビデオに描かれる虚構を真実だと信じ込んでしまうことで、女性を虐待してしまう可能性が大きい。ゆえに、エロビデオで描かれている不条理なセックス観を是正するのである、と。

大きな期待を持って読んだのだが、残念ながら途中で飽きた。文章が冗長だし(同じことが何回も繰り返される)、結論ありきの都合がよすぎる引用や分析はちょっと読むに耐えなかった。

ただし、目次はチョー役に立つ。
むしろ、目次だけ読めば、本文はすべてふっ飛ばしてもいいと思う。
エロビデオを見て僕らが誤解しやすいことが、目次にすべて列挙されているので、そこだけ読んで「そうか、これらは誤解なんだ。信じちゃいけないんだ」と覚えておけば、それだけでいい。




本書には全部で23の”神話”が列挙されている。
有益な話なので、全部転載しようかと思ったけれど、上に書いたとおりそれだと本書のいいところを全部垂れ流しにしてしまうことになる。それはさすがに著者に申し訳ないよなぁ・・・という気になったので、1章に乗っている9つだけを引用しておく。それ以上気になる方は、本書を手に取ってください。

  1. 女性は性交によって快感を得、射精によってオーガズムを得る
  2. 女性は指や器具を膣に出し入れさせると快感を得、オーガズムを得る
  3. セックスで女性は必ずオーガズムを得る
  4. 女性はどんな男性相手でも興奮する
  5. 女性は興奮すると乳首が勃起する
  6. 女性にとってもフェラチオは気もちがいい
  7. 射精は女性の顔や体に向かってすべきものである
  8. コンドームなしに性交しても、妊娠の危険性はない
  9. 女性は男性の愛撫を待つだけである
(なお、2章はレイプ関連の話で、3章はフェミニズム関連の話)

聡明な読者諸氏ならば、わざわざ言われなくても知っているような事柄ばかりだろうとは思うが。
ただ、世の中にはこういった事柄を盲目的に信じている人がいるかもしれないということで、本文の中で懇切丁寧にその誤解を解く説明がなされている。
それはそれで、客観的な事実として、特に男性の立場からすれば読み応えがあるだろう。


さて、そのような”神話”の誤りを逐一指摘した上で、本書の提言がどこに行くかというと、「良質なAVを作って、まともな知識を啓発しましょう」路線。
たとえば、an-an のセックス特集号なんかが引き合いに出されて、女性の立場を尊重したエロビデオがあってもいいんじゃないかとか。

まぁ、それはそれで大きな前進かもしらんけど。

けれども、それよか、男女(同性愛者の権利も認めるから、男男、女女もアリ)に実地にセックスさせりゃいいんじゃね?
筆者は、どうしても「第三者が作ったコンテンツを用いて、人々を啓発する」という路線しか考えてないようだけれど、当事者であるカップルが試行錯誤しながら最適なセックスを見つけていくってのもアリなんじゃないか、と。

僕自身の少ない性体験に照らしてみても、どんなセックスを好むかってのは相手によりけりだ。
保守的でおとなしいセックスを好む女の子もいれば、AVっぽいちょっとアブないセックスを好む女の子だっていたわけだ。
むしろ、相手がどういうセックスを望むのかを探索する過程ってのが何よりも楽しいもんじゃないか?
初々しいカップルが、相手の好きな食べ物とか好きな映画とかを探り合う期間を恋愛の醍醐味だと感じるように。

恋愛のマニュアル化が進んで久しいようだけれど、セックスまでマニュアル化されるのも世知辛いよなぁ、と。
“神話” は誤りだということは忘れないようにするけれど、あとは2人の間で好きなようにやらせてくれよ、と思ったり、思わなかったり。
愛情(なんて、恥ずかしくて書きたくないけどさ)豊かなセックスだったら、わざわざ相手のイヤがるもんなんてするまいに。そういう愛情溢れる相手だったら、嫌なことは嫌って言えば聞いてくれるさ、きっと。相手を大切にしようという気持ちがあれば、たいていのセックスってうまくいくもんじゃない?(有識者の意見を待つ)
セックスのやり方を指南する前に、人を大切にすることの重要性を説く方がよっぽど優先事項であり、人々が生き抜く基本スキルだと思うけどなぁ。


あと、苦言。
全体的に議論の展開が脆弱な感じがしたのだが、特にpp.205-209 あたりが目立つ上に、ひどかった。
そこには、「アダルトビデオの発行数」(もしくは、AV視聴の推計)と「性犯罪認知件数」との年次推移グラフが提示されている。ところが、本文と読み比べてもグラフが意味を成していなかった。
ずいぶん悩んだのだが、これきっと、凡例の表示が逆転している(1983年の性犯罪が0 でAV発行数が4000になってることに気づいて、やっとわかった。逆じゃねーか。こういうミスするかねぇ)。
あと、相関係数が0.7くらいあるデータに対して、「因果関係はわからないし、第三の要因がからむ疑似相関かもしれない」と物分りの良いフリをしつつ、「でもやっぱり、相関が高いんだから因果関係が無いとはいえないよね!」的な主張がされていて、オイオイと・・・。
こういう基本的なところにミスがあると、文章全体への疑念がふつふつとわいてきちゃうんだよなぁ。
#24組しかないデータの相関係数を提示するのに、小数点以下9桁も書いちゃったり・・・。本当に意味わかって書いてるんだろうかと不安になるよね。

テーマも志も良い本だと思うので、あとはまともなブレーンがつけばよかったのに、と残念に思う本。

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