ピカソとクレーの生きた時代展: 兵庫県立美術館

「宝物」 クレー兵庫県立美術館において、2009年4月10日-5月31日の期間、「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代展」(観覧料 1,300円)が開催されるという情報をキャッチしたので行ってきた。

20世紀絵画の一つの潮流として、キュビズム、シュルレアリズム、抽象画という流れがあるそうで(今日、会場で勉強してきた)、それをテーマに展示してある。
ドイツのデュッセルドルフに、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館というところがあるそうだ。ここのコレクションはその筋では有名なのだが、作品の貸し出しが渋いことでも有名らしい。その博物館が改装のために休館するというチャンスに、日本への貸し出しが認められたとか。


さて、見てきた感想。
絵画や美術品の鑑賞眼を残念ながら有していない当方なので、キュビズムなどの思想にに則った作品の意味はやっぱり分からなかった。ピカソの作品を見て、「ああ、キュビズムだねぇ。ヘンテコだねぇ」とは思うのだが、正直に言って何が素晴らしいのかよく分からなかった。
対象物を多方面から観察した立方体を画面上に再構成した・・・とか言われ、その方向性は頭で理解できないこともないのだけれど、作品としてスゲェなぁとはやっぱり思えなかった。

「その道を知れば、本質が分かる」ということがあるんだろうなぁということは分かる。
僕はロック・ミュージックのギター・ソロの何がいいのか分からなかったのだが、自分でちょっとギターを弾いてみてはじめてギター・ソロのよさが分かったということを理解したし。小学生のときに何の疑問もなくファミコンのゲームで遊んでいたのだけれど、自分でコンピュータのプログラムを書くようになってから、売り物のソフトウェアの凄さを垣間見たりとか。
そんなわけで、僕自身が絵を描かない人間なので、そこに20世紀絵画への不理解があるんだろうなぁと思ったりするのだが。

そんなに絵画に対する造形がないなら、阪神なんば線の開通で神戸に行きやすくなったからといって、気軽に美術館まで行くなよ!」という突込みが聞こえるような気がしないでもないが。

まぁ、おっしゃる通りではあるのだが、今回の企画展でピカソと並んで冠にされている パウル・クレー に興味があって、どうしても彼の作品を生で見てみたかったのだ。
抽象画家のクレー、およびカンディンスキーは当方にとって、その名に馴染みのある画家だからだ。

社会心理学の教科書を読んでいると、「人は、いとも簡単に身内を差別してしまう」という超有名な研究が出てくる。Tajifel という人がやった実験なのだが、人々をランダム同然の些細な基準で2つのグループに分ける。その後、自他グループと取引するよう指示すると、そのグループ分けはほとんど意味がないにも関わらず、人々は自分と同じグループの人を優遇するようになってしまったのだ。
このような無意味な集団でさえ人々は身内びいきをしてしまうのだから、それが意味のある集団(家族とか同郷とか国籍とか、ホグワーツの寮分けとか。)なら内集団ひいきするのも当然だ、ああ、悲しき人間のサガよ・・・という、わりと教訓めいた実験だ。

で、この実験において、「些細な基準で2つのグループに分ける」時に利用されたのが、クレーとカンディンスキーの絵画なのだ。
2人の作品は、素人には見分けが付かないくらい系統の似た抽象画だ。実験参加者にクレーとカンディンスキーの絵を対で見せて、どっちが気に入ったかを尋ねる。その答えで人々を2つに分けたのが先の実験だ。僕もいくつか彼らの作品を見たのだけれど本当にそっくりで、「こりゃ、コインの裏表で集団を分けたのとかわらないくらい、どーでもいい組み分けだなぁ」と思ったりした。それでも、人々は内集団ひいきをするんだから、いろいろ考え込まされるわけだが。

そんな感じで、教科書の上では非常に身近なクレーとカンディンスキーであったが、実物を見たことがなかった(印刷物や電子ファイルでは何度も見てる)ので、どうしても生で見たかったのだ(シカゴの美術館で見たような気がしないでもないが、都合よくその時のことは忘れた)。

「赤いチョッキ」 クレー今回の展示では、クレーの作品が20点強、カンディンスキーの作品は3点のみだった。数の上で不均衡だったのが残念だが、実物を見て感激した。
クレーは、特に可愛らしい印象の作品が多くて、和んだ。右の作品には「赤いチョッキ」というタイトルが付いているのだが、どこにチョッキがあるのか分からないし、ましてや黄色にしか見えないのだが、どことなく優しく愛くるしい図形に頬が緩んでしまう。

Live in New York Cityあと、画面の左上から丸いサングラスをかけたジョン・レノン(ちょうど、プラスチック・オノ・バンドの ニューヨーク・ライブの時の姿)が覗き見しているようなやつとか、真っ黒な画面の中にまん丸緑が輝いていて「銀河鉄道999」の車掌みたいなやつとかあって、楽しかった。

20世紀絵画の潮流の美学的意味は、本当にわけがわからないが、まぁ可愛いのでクレーに限っては改めて気に入った。

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