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『カレチ』 池田邦彦

コンビニで立ち読みすると、うるっと来て恥ずかしいこと必至のマンガ『カレチ』(池田邦彦)の単行本が発売された。おかげで、家で人目をはばかることなく、号泣必至。

この『カレチ』はモーニングに不定期連載されている(今週発売号にも掲載されている)。初掲載の時、偶然みつけて読んだのだが、一発でお気に入りになった。

「カレチ」とは、特急に乗務し、案内や検札を行う車掌(客扱専務車掌)の意。
昭和40年代後期を舞台に、国鉄のある新米車掌が主人公の一話完結型オムニバス。主人公は、乗客へのホスピタリティと組織の論理との板ばさみにあいながら、ほんの小さな幸福のために奮闘するという人情話。

たとえば、こんな内容。
列車に少女が乗っている。母子家庭で育った彼女は、家出をしたまま、母には会っていなかった。母危篤の報を受け、せめて最期に間に合うように先を急いでいた。しかし、大雪で列車が遅延し、乗り継ぎ列車の接続に間に合わないかもしれない。
彼女に同情した新米車掌は、規則違反で罰せられることを覚悟で、乗り継ぎ列車を引き止める策を立てる。はたして、その作為が露呈し、彼は窮地に陥る。
その時、車掌の心意気に感じ入った別の乗客が、さらに上を行く策を案じてピンチを救った。
(第1話「業務連絡書」)


いわゆる「鉄道マンガ」なので、舞台は全て車内かせいぜい駅構内。時代背景から、古き懐かしい特急車両がたくさん出てくる。

しかし、このマンガは鉄道ファンだけに閉ざすのはもったいないと僕は思う。
確かに鉄道が舞台になっているし、かなりマニアックに描き込まれている。しかし、このマンガの主役はあくまで、人である。鉄道という「一期一会」の舞台装置を準備することで、むしろ人と人との美しい出会いと別れが強調されている。それが、心を打つ。

作者・池田邦彦はちょうど1年前に「ちばてつや賞」を受賞したばかりで、この作品が処女作だそうだ。
1965年生まれだそうで、かなり遅い漫画家デビューではある。しかし、彼の素朴でありながら緻密な筆致は見事であるし、読者の心を温めるストーリーテラーとしての実力も確かだと思う。これからの活躍を期待するものなり。

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