コネチカット州の大学に勤める白人男性ウォルター(リチャード・ジェンキンス)は、全くうだつが上がらない。発展途上国への経済支援を専門にするが、近年は論文を全く書いていないし、講義内容も20年間変えていない。ピアニストだった妻に先立たれ、唯一彼女の思い出だけを胸に、無気力な毎日を送っている。
ある日、お情けで共著者に加えてもらった論文の学会発表のため、ニューヨークに行くことになった。第一著者が産休のため、どうしても出張できなくなってしまったのだ。少しも気乗りしないのだが、発表をキャンセルするわけにもいかず、嫌々出かけていった。
ニューヨークには、ずいぶん前に購入したアパートメントを持っていた。しかし、どこでどう話がもつれたのか、シリアとセネガルからそれぞれやって来た不法滞在のカップルが又借りして住んでいた。所有権を主張してふたりを追い出すウォルターであったが、行き先の無い彼らを不憫に思い、新しい住処が見つかるまで置いてやることにした。
保守的なアメリカ文化に育ったウォルターと、アフリカ文化をルーツとする彼らの間には当然ぎこちなさがあった。ところがウォルターは、学会での付き合いに馴染めない一方で、シリア人タレク(ハーズ・スレイマン)の打楽器ジャンベに興味が惹かれていく。いつしか、彼と一緒にストリートで演奏するまでになる。
そんなある日、とても些細な出来事のせいでタレクが警察に逮捕され、不法滞在が大きな問題となった。
その事件を通して、ウォルターは良き/善き人生とは何かを考え始めるのだった。
とてもシミジミしている、いい映画でした。派手なところはほとんど無いのだけれど、味わいどころは多い映画だと思いました。
ただしそれは、僕が主人公と同じ研究職にあって(うだつの上がらないところまでそっくりだとか言うな。怒るぞ)、あまり詳しくはないが移民問題にも少々関心を持ち始めているという事情があるせいかもしれないが。そうだとするなら、万人にお勧めできるかどうか、自信をなくす。
映画の中では、アフリカの打楽器ジャンベがキーアイテムとなっている。それほど見せ場が多いわけではないが、物語のターニングポイントで何度か出てくるので印象に残る。映画を見終わったあとも、耳の奥にアフリカン・ビートが響く(西洋音楽は4拍子が多いのに対して、アフリカのリズムは3拍子だそうだ)。
サッカーワールドカップ南アフリカ大会で、ブブゼラという現地の楽器が話題になった今だからこそ、ジャンベの取り上げられたこの映画を見てみるのも悪くあるまい。
物語のラストは、そう言われてみればそういう結末しか無いのだろうけれど、僕には全く予想がつかなかった。
それでも、シミジミと心に沁みわたる、良いラストだった。
追伸:
一度、「オペラ座の怪人」をちゃんと見てみたくなりました。
いつまでも頭の痛い問題ですね。
これ見て「アメリカは偏狭でひどい国だぜ」と憤慨する人が多いと思うのですが、賞をいっぱいとらせてるあたり、やはり自由の国なのか。自由の歪みがそもそもの問題か。
それにしてもリチャード・ジェンキンズ。うだつの上がらない厭世人間。あたり役ですねー。
この映画を見て、僕はアメリカのことじゃなくて日本のことを考えていました。
移民の受け入れには賛否両論あって難しい問題ですし、それによるトラブルもこの映画のようにいくつもある。しかし、アメリカは日本よりもはるかに広く開放しているわけで。
日本は歴史的な経緯で東アジアの人たちが住んでいるけれど、それ以上受け入れようという気はあんまりないようで。今後どうしていくんだろうか、なんて考えてしまいました。
そいえば在米の友人と扉を叩く人の話をしてたとき、アメリカは向こうから来るものに対してはすごく寛大だと話してました。比べると日本は話にならないくらいせまいですね。国土も狭すぎますが…。
今夜は、京都三条での韓国居酒屋呑み会でお世話になりました。
そこで「コメントにはめんどくさくて書かなかった」とおっしゃっていた、リチャード・ジェンキンス助演の『俺たちステップブラザース』をチェックしました。今度見てみます。