粉瘤のおつり

先週の初めころ、腰に違和感があった。パンツのゴムが当たる辺りが妙にチクチクする。
粉瘤の場所

これは粉瘤だと思った。
粉瘤というのは、通常なら皮膚の外に排出されるはずの皮脂や垢が皮膚の下に溜まってしまうというもの。吹き出物のラスボスみたいなもん?誰しもできるものらしく、小さいものなら通常はほっといてもいいと聞いたような気がする。

僕は去年の初夏、太ももにデカい粉瘤ができた。中で破裂してしまったようで、ものすごく腫れて痛かった。病院に行ったら、皮膚を切って、中の膿みを洗浄する処置をされた。2週間以上通院し、毎日皮膚の中に突っ込まれた膿み取り用のガーゼを交換するのがものすごく痛かった。

あんな思いはもう二度としたくない。そんなわけで、今回は「少し腫れてきたかな?」くらいの早い段階で医者に診てもらうことにした。
医者の診断もやはり粉瘤だということで、即日切開して患部を取り除いた。今回は化膿していなかったので、患部にガーゼを突っ込まれることもなかった。中に何も入れないのだから、切開部分を縫合し、1週間程度毎日消毒のために通院し、無事今日抜糸された。もう来週から通院しなくていいらしい。明日からは風呂に入るなど、傷口を濡らしてもいいらしい。
前回に比べたら、めっちゃ楽だった。

さて、問題は診察料の支払いである。

初日の摘出手術は1万千数百円だった。財布にはあいにく1万円札しかなかったので、万札を2枚出した。おつりは8千数百円である。
おつりと診察券を財布にしまい、受付係に「お大事にー」と声をかけられながら病院を出た。

次の診察日、受付係が僕を見つけるなり、こちらが診察券を出すよりも早く声をかけてきた。
「先日、おつりの千円を取り忘れませんでしたか?お帰りになった後、千円残っていたので、きっと木公さんのものだと思います。お返ししようと思うのですが、よろしいですか?」

全く身に覚えはないのだけれど、向こうがくれるって言うんだから断る理由はないなシメシメと内心思い、笑顔で
「くれるって言うなら断る理由がないので頂戴します」
と述べて千円札を1枚財布にしまった。

そして、今日が最後の診察である。診療代金は400円。健康保険はありがたいねぇ。
今日もまた、財布にはあいにく1万円札しかなかった。たった400円の支払いに1万円札は申し訳ないなぁと思ったり、この前おつりを取り忘れてばつの悪い思いをしたから恥ずかしいなぁと思ったり、今日が最後の通院だからおつりは絶対に取り忘れないぞという強い決意などの下、「大きいのしかなくてごめんなさい」とおずおずと万札を差し出した。

受付係の人は、ニタァと笑った。
「今日はちゃんとおつりを持ち帰ってくださいね」
「もちろん!」と、俺。

一昨年からのコロナ禍になって、現金の受け渡しは受け皿を経由することが当たり前になった。手と手が触れ合ってウイルスが移るのを避けようとする涙ぐましい努力である。

気休めにしかならんだろうなと思いつつ、僕は受け皿の上に万札を置いた。
受付係は、それを確認するとレジから5千円札1枚と千円札4枚を取り出した。僕はそれをしっかり見た。大丈夫、おつりはちょろまかされていない。

受付係は、おつりを受け皿に載せることなく、僕に直に手渡してきた。きっと、受け皿に置くと取り忘れるおそれがあると思ったのだろう。
手渡しで受け取って新型コロナウイルスに感染するリスクと、一旦受け皿に置いてもらって僕がおつりを取り忘れるリスクのそれぞれの損得について一瞬で計算し、ここは手渡しで受け取る一手だと決断した。

受け取った合計9千円を颯爽と財布にしまい、くるりと踵を返し、僕は背中越しに右手をあげる「あだち去」でクールに立ち去ろうとした。

その時である。
「木公さーん、600円忘れてますー」

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