休日の夕方、特に何もすることもなく、「スーパーでビールでも買ってきて、早い時間から飲みまくるか」というプランを立てた。歩いて5分のスーパーまで出かけ、予定通りビールを買い、買い物袋をぶら下げてのろのろと帰ってきた。
僕のアパートの前では、5-6歳くらいの女の子がふたり遊んでいた。彼女らは僕の方をジロジロと、遠慮もなく観察している。
確かに僕は、平和な住宅街には似つかわしくない風貌をしている。近所の人々から、職業不詳の不審者だと思われていやしないかと、いつもビクビクしながら暮らしている。小さな女の子の半径3m以内に近づいたら、それだけで通報されるのではないかと思い、幼女がいたらなるべく離れて歩くようにするなどの配慮もしている。考え過ぎかもしれないが。
幼女ふたりは、僕が玄関に近づくまでじっと見ていた。僕がドアの鍵を開けて、家に入ろうとすると、にわかに
「ただ!ただ!」
と騒ぎ出した。
文字にするとわかりにくいが、もう少し正確に表記するなら、
「”た”だ! “た”だ!」
という感じ。なんだよ、「た」って?
「た」に妙にこだわる謎の幼女に声をかけられるなんて、自分が吉田戦車の不条理マンガの世界に紛れ込んでしまったかのような錯覚を覚えた。