邪馬台国はどこですか? / 鯨統一郎

先日の「タイムスリップ森鷗外」に引き続き,鯨統一郎の歴史ミステリを読んでみた.

この人の破天荒なアイディアには感心させられる.

今回は,バーに集まる4人の人々の歴史談義を下敷きに,歴史上の有名な出来事に関する新解釈を繰り広げる.
で,取り上げてる題材が素っ頓狂でおもろい.

「悟りを開いたのはいつですか?」では,ブッダは実は悟りなんて開いていなかったんじゃないかと,いわゆる仏教の根底を覆す大風呂敷を広げる.

書名にもなっている「邪馬台国はどこですか?」では,九州 vs 畿内の論争で有名な邪馬台国のあった場所について,”隠し玉”ちっくな説を主張.

「聖徳太子はだれですか?」では,お札の肖像画にもなった超有名人の聖徳太子をして,彼は架空の人物ではないかと空想をめぐらせる.

「謀反の動機はなんですか?」では,織田信長が明智光秀に討ち取られたことについて,信長自身が画策した壮大な”自殺計画”であると説得する.

「維新がおきたのはなぜですか?」では,明治維新の真の黒幕を勝海舟であるということを議論.

「奇跡はどのようになされたのですか?」では,イエスの復活は巧妙に仕組まれたお芝居で,十字架に貼り付けられた時点ですでにイエスとユダが入れ替わっており,処刑されたのはユダではないかという仮説を論じる.

ここで,話の種明かしをするのは反則っぽいが,どの話も冒頭に仮説を提示して,残りの紙面で検証を行うというスタイルなので,まぁありでしょう.

読んでみた感想としては,思考遊びとして十分に面白かった.「よく,そんなこと思いついたよな」って感じで.
そして,説得の道筋も,あり.一人の登場人物が大胆な仮説を提示→聞き手が反論→仮説をサポートする証拠を再提示 という構成で,議論がスムーズに流れてる.

登場人物の会話スタイルをとっているため,小難しい話でも,まぁ割とすっと頭に入ってくる.
ただ,個人的には,やや冗長な感じもしたので,もっとサクッと事実の記述だけで読ませてもらいたかったかも.そうすると売れなかったと思うだろうけれど,話の内容自体はスムーズになると思った.

あと,正直な感想として,「邪馬台国はどこですか?」以外の話は,読後感があまりよくなかった.
仮説を支持するための証拠の提示が,すべて歴史上の史料の”解釈”でしかないので,真偽のほどは断定できないと思った.
それに対して,「邪馬台国はどこですか?」に関しては,仮説の検証が比較的容易にできる.本書の中でも触れられているとおり,指摘されているポイントを実際に掘って,邪馬台国の跡が出てくりゃいいだけなので,検証ができる.
#c.f. ブッダが悟りを開いたかどうかなんて,客観的に示す証拠なんて出てきようがないから,シロともクロとも言いようがない.

んなわけで,「邪馬台国はどこですか?」という話は,スタイル,内容ともとてもよい.
その他の話は,スタイルは面白いけれど,客観的に見ると,僕的にいまいち.

いずれにせよ,面白くて夢中になることに間違いはない.

Special thanks to hirori.

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