ミルクティを求めて国会図書館関西館へ

国立国会図書館とは、国会に属する機関であり、国内で発行された出版物を全て収集・保管し、国政および国民にサービスすることを目的に作られた唯一の国立図書館である。

東京の永田町の国会議事堂のすぐ横に東京本館があり、京都府相楽郡精華町には関西館がある。2011年ころ神奈川県に住んでいた当方は、片道2時間くらいかけて永田町にある東京本館へおいしいカレーを食べに行ったことがある。

一方、関西館は当方の職場のすぐ近くにあり、通勤で毎日すぐ横の道を通っている。いつも横目で見ているのだが、入館するのは2年に1回くらいのペースだろうか。ずいぶん前には、女の子たちとデート(デート?デートなのか!?)したこともある。最近では、2年くらい前に、当時熱中していたIngressのポータル奪取のためだけに遊びに行ったくらいか。

さて、そんな国会図書館・関西館に、当方が何をしに行ったかといえば、「ミルクティ」を探しに行ったわけである。



関西館4階に、カフェテリアがある。そこでミルクティを飲もうと思ったのだが、ドリンクはメニューに乗っていなかった。


仕方ないので、併設の自動販売機コーナーへ向かった。そこには、ペットボトルや紙コップのミルクティが売られていた。


120円でキリン・午後の紅茶あたたかいミルクティを購入し、そばのテーブルで飲んだ。コンビニで買う午後ティーと何ら変わらなかった。当たり前である。


* * *


つーか、本当は、国会図書館関西館でミルクティを飲むことが第一の目的ではなかったのだが。
雑誌記事の入手に行ったというのが本来の目的。

昨日、twitterで「ミルクティ」というタイトルの論文があるという情報が流れてきた。


行政社会論集』という、紅茶などの飲食物とは全く関係のなさそうな学術論文誌に掲載されているのだ。
山崎暁彦. (2016). ミルクティ. 行政社会論集, 29(2), 155-194.

僕の知る限り、その内容について言及している人はいなかった。単にタイトルだけを見て、「うわ、こんなん載ってるでー」と茶々を入れるのに終始していた。そして、ネットで探しても、本文にアクセスすることはできなかった。
国会図書館の蔵書検索をすると、関西館に収蔵されていることがわかった。それならば、っつーことで複写してくることにした。

行政社会学の学術雑誌に、馬鹿正直にミルクティの記事が掲載されるはずはないと思っていた。ミルクティというのはきっと何かの比喩にすぎず、本文を読めば、何かしら深遠で普遍的で、古今東西、老若男女の琴線に触れる高邁な哲学的考察が繰り広げられているのだろうと期待して書庫から取り寄せた。

山崎暁彦 (2016) ミルクティ. 行政社会論集, 29(2), 七七-一一六.



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意外とボリュームがあった。ページあたりの文字数は少ないけれど、39ページくらいある。箸休めのエッセイといった類のものではなく、「研究ノート」という記事ジャンルだった。

序章「はじめに」では、紅茶の概略が説明されている。国内での紅茶消費量は緑茶の20%強に過ぎないことであるとか、茶葉にはどんな品種があるかとか、茶を積む時期によって成分が異なることであるとか、英語では “black tea” と呼ばれ、「紅」の字を当てるのは主に日本と中国だけであるとか。
また、「ミルクティ」という呼称は和製英語であり、英語話者に調査したところ、完全に理解できる者は60%、ある程度理解できる者まで含めると90%になるそうだ(山根一文.「和製英語はどこまで理解されるか」. 中村学園大学・中村学園大学短期大学部研究紀要, 47)。正しくは “tea with milk”(ちなみに、レモンティは “russian tea”)と呼ぶらしい。
さらに「ロイヤルミルクティ」という単語は、日本以外ではさっぱり伝わらないらしい。どうしてそういう名称ができたかは諸説あるが、Liptonの極東支社(京都府)が「ロイヤルシリーズ」というのを出すときに一商品名として採用したとか、1983年に大阪のロンドンティールームが英国王室式に由来して付けたなどの例が挙げられていた。

1章「ミルクティの創始者は、誰か。」では、文字とおりミルクティの発祥についてまとめられている。はっきりとしたことはわからないのだが、やはりイギリスにルーツがあるという。中国やモンゴルでは茶に乳を入れて飲む風習が古くからあったが、ヨーロッパにはそもそも茶が伝わらなかった(もしくは、とても高価)。ところが、17-18世紀にかけてイギリスはインドとの貿易で茶が大量に輸入されて来た。また、古くから牛乳を飲食物に利用する文化はあったが、牛乳は痛みが早い。加熱することと、茶の殺菌作用の相乗効果で、イギリスでミルクティが発展したのではないかと説明されている。

2章「ミルクティの効用」では、風味や医学的観点から効用が論じられている。風味の点では、牛乳を加えることにより、紅茶由来の渋みや苦味を抑え、コクとまろやかさを与えるという。医学的には、人体に害があるわけではないが、牛乳の成分によって、本来の紅茶の持つ有効成分(抗酸化作用や抗炎症作用、血管拡張作用など)が損なわれるという。この点は、茶を長めに淹れて成分の抽出時間を増やせば良いのではないかと提案されている。

3章「牛乳は、先入れか、後入れか。」は、まさに『ためしてガッテン!』(筆者注: 山瀬まみを愛する当方は、旧番組名を使い続ける)みたいな話である。ティーカップに先にミルクを入れておく Milk In First(MIF)派と、先に紅茶を入れておく Milk In After(MIA)派の間には激しい論争がある。
ただし、これはあくまでジョークの類ではないかとも指摘されている。ミルク先派(MIF)は労働者階級に多く、ミルク後派(MIA)は上流階級に多いというステレオタイプがあり、階級を揶揄するジョークの可能性だという。
労働者階級の好むミルク先入れ(MIF)は、貧しく忙しい人々にとって効率的な淹れ方である。急に熱い紅茶を注いでティーカップが欠けてしまうことや、茶渋汚れを防止できる。自然に撹拌されるのでかき混ぜる手間がかからなかったり、牛乳が傷んでいた場合にすぐに気づくことができる(紅茶を無駄にしない)。
上流階級の好むミルク後入れ(MIA)は、実利を伴わない、優雅で文化的な淹れ方である。紅茶の色合い(見た目)を調節しやすい、最初に純粋な紅茶を楽しんだ後にミルクティにすれば味の変化を堪能できる、撹拌する必要があるので高価なティースプーンを見せびらかすことができる、などである。
実験計画法の第一人者であるフィッシャーも、MIFとMIAで味が変わるかどうか貴婦人を対象とした実験の必要性を述べているとか。ただし、フィッシャーもジョークとして言ったらしく、実験の実施や結果については何も残されていないらしい。

4章「紅茶の品種・銘柄、牛乳の種類」では、まず著者の嗜好として「セイロン系紅茶のKandyを、MIFで」を好むと述べている。続いて、牛乳に関しては、その殺菌方法が重要だと述べられている。日本で流通する牛乳のほとんどは120-150度で3秒間加熱する「高温瞬間殺菌法」を用いられているが、加熱臭がし、ミルクティの色合いが白っぽくなり、飲み口が重くなるという。英国王立化学協会でも、この殺菌法はタンパク質が変性するため望ましくないと指摘しているそうだ。英国式では、63-65度で30分加熱する「低温保持殺菌法」によるミルクが良いとされている。
ただし、著者によれば、日本人は前者の「高温瞬間殺菌法」の牛乳を飲みなれており、問題が無いのではないかと主張している。むしろ、後者の「低温保持殺菌法」を施されたミルクを用いると、後味の生乳香にクセがあると感じられるという。

終章「おわりに」では、夏休みの余戯として行った研究だと書かれていた。調査にかかった費用は、文献の複写・貸借費程度であったという。安楽椅子探偵のようにミルクティの真相に迫り、結論は曖昧なままであるが楽しかったと記されている。

* * *


MIFとMIAが単なる、ジョークかもしれないという話はとても面白かった。それ以外は、そもそも午後の紅茶のミルクティを飲めば満足する程度の舌しか持たない僕には、どうも興味が持てなかった。まぁ、雑学が増えて楽しくはあったけれど。

そして結局、どうしてこれが「行政社会論集」という雑誌に掲載されたのかはよくわからなかった。
しかし、こういうのを掲載するという懐の深さはいいかもしんないな、と。

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