知人の某美人さん(以後、松雪泰子を想像しながらお読みください)が、音叉が欲しいと言っていた。
彼女は小さい時に父親からクラシックギターの手ほどきを受けたのだが、その父親というのが古い時代の人だから音叉でギターのチューニングをしていたそうだ。もちろん、彼女もそのまま音叉でチューニングする癖がついたという。
彼女もいつしか機械のチューナーも使うようになったし、最近はギターから離れていたこともあり、自分の音叉を失くしてしまったという。なんとなく懐かしくなって、楽器屋に行ったのだが音叉は売っていなかったそうだ。
また、彼女は自分の音感が衰えてないことも確かめたいのだと話していた。自分の声で出した音程が音叉の音と合っているか確かめたくなった、と。
僕は迂闊にも「今どき、スマホでなんぼでも特定のピッチの音出せるんとちゃうん?それでいいじゃん」なんて言ってしまったのだけれど、それは彼女にとっては無粋なことらしい。音叉を叩いて、自分のこめかみにくっつけるという、きわめて物理的かつ身体的なやり方をしたいのだという。
「昔、楽器屋さんで働いていた時、共鳴箱のついた音叉が置いてあった。先輩がそれを鳴らしてチューニングする姿がすごくカッコよくて憧れた」
マジかよ。音叉を使えたらモテるのか!?
当方の現在の勤務先の隣のビルにヤマハミュージック 横浜みなとみらいがある。ここはヤマハの旗艦店だそうで、売り場は広いし、すごくおしゃれ。
何よりも僕がビックリするのは、自由に使えるお試し用のいろんな楽器があちこちにおいてあること。今どき、普通の楽器屋さんだと、安物のギターですら試奏したかったら店員さんにお願いしてからじゃないと触らせてくれない。しかし、このヤマハのお店は、無断で試用できる楽器が置いてあるのです(あくまで売り物ではなく、試奏用のもの)。ピアノやギターはもちろんなんだけれど、僕は一生触ることもないだろうと思っていたチェロやらバイオリンまで弾けるようになっていた。僕はおっかなびっくりチェロの弦を弾いてみただけだけど(弓の使い方とかわからんし)。
で、某美人さんは楽器屋に音叉が置いていないと嘆いていたけれど、僕はこの店ならあるに違いないと思って探しに行ったわけです。前に来た時に、小物コーナーも充実していることはチェック済みだったので(当時は音叉なんて興味なかったけど)。ここで音叉を入手して某美人さんにプレゼントしたら俺の株が上がるに違いないじゃん?
ところが、小物コーナーをざっと見てみたけれど、音叉は見つからなかった。ギター用のクリップチューナーが20種類くらい並んでいたのでそのあたりにあるだろうと思ったのだけれど、見つからず。
言ってなかったけれど、ヤマハミュージック 横浜みなとみらいは18:30閉店です。僕が入店したのは18:15くらい。あまりノンビリもしてられない。閉店間際で客も少なくて手持ち無沙汰にしていた上品そうなお姉様店員(気を使った表現)に「音叉ありませんか?」と訪ねてみたわけです。
上品なお姉様店員(気を使った表現)は、「ありますよ!」と言いながら、やはり小物コーナーのクリップチューナーのあたりに僕を案内した。
しかしそこで、上品なお姉様店員(気を使った表現)は15秒ほどフリーズした。彼女が見当をつけたところに音叉がないのだ。
彼女はしゃがみこんで、棚をまさぐり始めた。するとそこには、ものすごく地味で何も書かれていない真っ黒な薄っぺらいケースの物体があった。他の小物に埋もれるようにしていて、ちょっと埃っぽくも見えた。開店時に陳列されて以来、誰の手にも触れられていないのではないかと思われた。数字とバーコードが整然と印字された白い値札シールには、赤いボールペンで「A 440hz」と手書きされていた。なんだかみすぼらしい気分になった。
比較用にリップクリームを並べて写真を撮ったが、全長15cmくらいのこんなものを初見で見つけろなんて無理でわ。

在庫は3個だった(なお、442Hzの音叉もちょうど3個の在庫があった)。
上品なお姉様店員(気を使った表現)はそのうちひとつを僕に手渡そうとしたのだが、「あ、3つあるならちょうどいいので、全部買いますわ。この店ではそうすべきですよね?」と返した。
上品なお姉様店員(気を使った表現)が怪訝な顔をしたので、「3つの音叉はYAMAHAのロゴじゃないですか!」と説明した。
「じゃあ、ぜひ写真を撮ってください!」
と僕の目論見を見抜くほど上品なお姉様(気を使った表現)でした。
というわけで、撮りました。本当は円で囲わなくてはならないけど。

なお、YAMAHAのロゴについてはこちら(『ロゴの歴史』)をご参照ください。ヤマハ発動機(バイクとかの方)のロゴとのビミョーな違いも説明されています。
てなわけで、通常なら1本の音叉で某美人を口説くところ、3倍の数で勝負だぜ。