当方の学歴は「文学部卒」ということになってはいるが、実はあんまり言葉を知らない。
日常生活において、文学部卒という当方の肩書きを目当てに、難しい言葉の意味を尋ねられることがあるが、けんもほろろに答えられない。
今、「けんもほろろ」と書いたが、言葉の雰囲気を知ってはいたが、正確な意味は知らなかったので辞書で調べたくらいだ。
「けんもほろろ」
人の頼みなどを冷たくはねつけて、受け入れようとする態度を全然見せない様子。
Shin Meikai Kokugo Dictionary, 5th edition (C) Sanseido Co., Ltd. 1972,1974,1981,1989,1997
先の文脈で使って、本当に正しいのかどうか、実はあんまり自信が無い。
そんな当方の「言葉の知らなさ加減」の原体験といえば、中学生の時分に女の子と生まれてはじめてのデート(デート?デートなのか!?)をした時のエピソードである。
当時、当方が住んでいた街に「巨大迷路」がオープンした。
「ああ、ほんの一瞬、そんなのが流行った時期もあったねぇ」と懐かしさが込み上げてきたり、「そういえば、『男女7人夏物語』あたりでもグループでデートに行くシーンがなかったっけ?」とあやふやな記憶が蘇ったりするアレである。
それを知らないであろう現代の若者にわかりやすく説明すると、広大な敷地に巨大な壁で作られた迷路の中を歩いてゴールに向かうというものである。
今にして思えば、初夏の日差しが照りつける中、いつまでも変わり映えのしない壁面を眺めたり、ショートカットするために壁と地面の間の50cm位の隙間からぬぅっと顔を出す腕白ガキんちょ共に肝を冷やしたりする状況が、初デートにふさわしかったかどうかわからない。
その上、その日はダブルデートの約束で、2組のカップルが一緒に行くはずだったのだが、他方のカップルの♂が約束をすっぽかしやがった。
期せずして当方が逆ドリカム状態になるという、非常に恵まれた境遇になったわけである。
しかし、今ほどスレていない当時の当方にとっては、デートをすっぽかされ、つまりはオトコに振られたのにも関わらず、仲良さげな僕らカップルと一緒に過ごさなくてはならない彼女を不憫に思ったりしたわけだが。
それでもやはり、世間というものに不慣れだった当方は、そんな一人ぼっちの女の子にどう接して良いかもわからず、何事も無いかのように、3人で巨大迷路に突入したわけだが。
そんな感じで、公表されている平均タイムを大幅に下回ってゴールした。
その時になって、初めて、一人ぼっちの女の子は「じゃ、帰るから、後はおふたりで・・・」と言って帰路に着いた。
そうなってはじめて、彼女にとっては苦痛の時間を過ごしていたんだろうなぁ、と思い至る当方。人の気持ちわからなすぎ。
と言っても、5分もしたらそんな繊細な人の感情なんて、どーでもよくなって、僕の彼女(当時)と一緒に浜辺にトコトコと出かけたわけで。
なんせ、生まれて初めてのデートでもあり、40%の”スケベ感”と 30%の”緊張感”と 30%の”失敗は許されない感”で、当方の心はいっぱいなわけであった。
何とか、防波堤にふたりで並んで腰をかけ、いよいよ・・・・
・・・次に、卵焼きを口に運んだときである。
それは、しょう油で味付けされた卵焼きであった。
自他共に認める “砂糖で甘々にした卵焼きが大好きな人間” である当方 (とは言え、彼女にそのことは伝えていなかった) にとっては、世の中に甘くない卵焼きがあるとは、その時まで知らなかった。
つまり、卵焼きによって不意打ちを食らったようなものである。
弱り目に祟り目とはよく言ったもので、吐き出すに吐き出せず、飲み込むに飲み込めず、それでいてポーカーフェイスでやり過ごそうといている当方に向かって、彼女はこう言った。
「美味しい?」
と。
まだまだ若輩者とはいえ、それなりに酸いと甘いを噛み分けた現在の当方であれば、瑞々しいくせにザラザラとした舌触りであることが解せず、当方の天敵と言われる梨を食べさせられたときですら、
「うわー、今まで梨って大嫌いだったけれど、かわいこちゃんが剥いてくれた梨となれば話は別だね。すげぇ美味い。いやー、梨がこんなに美味いものだとは、今まで知らなかったなぁ。いや、ホント」
と、満面の笑みで言える自信がある。
しかし、中学生であった当方はそこまでの力量はなく、ボソッと「美味しい」と言うのが精一杯だった。
その言葉を、字句どおりに受け取ったのか、見透かされていたのかは、今となってはもう分からないが、彼女は次にこう言った。
「おべっか 使わなくていいからね。(笑)」
冒頭に書いた通り(ていうか、既に読者の大多数は、そもそも何の話だったのか忘れてしまっているだろうから、強制的に思い出させる)、当方はあんまり言葉を知らないのである。
当時「おべっか」という言葉を知らなかった。
「おべっか」
〔自分の利益をはかるために〕上の人の御機嫌をとる△こと(ための言葉)。
Shin Meikai Kokugo Dictionary, 5th edition (C) Sanseido Co., Ltd. 1972,1974,1981,1989,1997
初デートで、相手の使っている単語を知らないことの焦燥感を、読者にはぜひ想像してもらいたい。
単語の意味として、まず推測したのが、フォークの日本語が「おべっか」ではないかということだ。
スプーンは「匙」だし、ナイフは「(小)刀」と日本語が対応している。
しかし、そういえば、フォークを日本語で何と言うか知らない。(串だろうか?)
それに、その日、彼女の手料理が詰め込まれた小さなお弁当箱には、箸の代わりにフォークだけが付いていた。
「卵焼きといえば、甘い」のほか、「お弁当といえば箸」という強固な固定観念を有していた当方にとっては、フォークを使ってお弁当を食べることには、著しい違和感があった。
幼稚園児じゃあるまいし。
フォークを使うくらいなら、手づかみの方がよっぽど自分の流儀に合致していたのである。
そんな僕の考えに対して、
「フォークを使わなくてもいいからね。手づかみで食べてもいいのよ。(笑)」
と言われたのだろうと、はじめは思った。
しかし、いくら昭和40年代生まれという、戦争のごく微弱な残り香をまとっている世代とはいえ、まさか「フォーク」を日本語で表現したりはしないだろう。
スプーンを「匙」なんて言ってるヤツすらも、(料理レシピの「大さじ、小さじ」以外に)いなかったし。
それに加えて、「オトコのマニュアル化」が持てはやされ始めようとしていた時代である。
サラダはオトコが女性に取り分けてあげるとか、道路の車道側はオトコが歩くとか、待ち合わせで女性を待たせるのはもっての他とか、言われ始めていた時代である。
手づかみでメシを食うなどは「マニュアル」から大きく逸脱する行為であり、しかも恋に恋するお年頃の女の子がそんな野蛮な行為を勧めるとは到底思えなかった。
結局、恥を忍んで、彼女に「おべっか って何?」と聞いて、意味を教えてもらった。
初デートで緊張していたのだろう、その日にふたりで話した内容は「おべっか」のくだり以外、何も覚えていない。
その後、数ヶ月でフラれちゃったわけだが、今思い出しても「おべっか」以外の記憶はあまりない。
どういう理由で、なんと言われてフラれたのかすら覚えていない(唯一ハッキリしているのは、「おべっかを知らなかったから」という理由ではないということ)。
しかし、たいへん強烈な原体験であるせいか、今でも Rebecca の曲を聴くと、あの時の記憶がまざまざと蘇る。
その他、この女の子とは別の女の子とのデート(デート?デートなのか!?)で「細君」の読み方を僕が “ほそきみ” と読んで、ちょっぴり恥をかいたりしたこともある。
以上、当方がどれだけ日本語に弱いかを説明してきたわけだが、これだけで終わらないのだから、人生は無常である。
以上、当方がどれだけ日本語に弱いかを説明してきたわけだが、これだけで終わらないのだから、当blogはエネルギーの無駄遣いである。
多くの人はご存知の通り、当方は数年前に試される大地・北海道から、上方文化の地・京都府に移住したわけである。
この地では
「なまら」→「めっさ」
「~べさ」→「~やんけ」
「違うよ」→「ちゃうでぇ」
「だめじゃん」→「あかんやん」
「アクセルを精一杯踏んだ」→「めっちゃアクセル踏んだってん。こうな、ぐわーぐわーってな、床抜けるんちゃうかってくらいな、ぶわぁ~~踏んだってん。ほんでな、上半身はくわぁって後ろにのけ反るくらいやねん。まいるで、ほんま」
といった例のように、同じ日本語でありながら、使用される語彙(や表現の誇張さ加減)が北海道とは全く違うのである。
30歳目前で、大学も大学院も出たのに、また勉強のしなおしなのである。
その土地の言葉を覚えるにはその土地の恋人を見つけるのが一番、と言われていたり、いなかったりするが、残念ながら当方にはその土地の恋人を見つけるだけの力量が備わっていなかったので、書物から知識を吸収することにした。
そこで、教科書として選んだのが、小池田マヤ著「バーバーハーバー」である。
理髪店主とOLの遠距離恋愛という、一見、華のなさそうなテーマではある。
しかし、舞台が大阪府吹田市の千里であり、漫画の登場人物のセリフのほとんどが関西弁なのである。
これは、関西弁の勉強にもってこいである。
その上、緩やかな1話完結型(8ページくらい)なので、気軽に読めるし。
あと、全体を通したほのぼのギャグ路線も好印象。
あと、あとぉ、主人公の塔子さんが可愛らしい (乙女バージョンの時)。
#なお、「バーバーハーバー」が完結した現在、後釜としてサライネス著「誰も寝てはならぬ」で学習継続中
「バーバーハーバー」は、とりあえず片手の指では足りないくらいは通読しており、大体の単語はマスターした。
しかし、唯一、意味が分からない言葉があった。
それは、
皆人と塔子さんが箕面でデートの時、皆人が「ちょっとキジ撃ち~」と言いながら、姿をくらます。
塔子さんは、一人納得したように「どーぞ ごゆっくり」と驚くでもない。
なんだ、キジ撃ちって?
どうしてそれだけで会話が成立するのか、当方にはよく分からなかった。
よく分からなかったのだが、「きっと、トイレを意味する関西の隠語だろう」と思って、深く追求してこなかった。
それが本日、ひょんなことから正しく意味を理解した (その上、life hack な知識まで身についた)。
どうやら、関西の言葉ではなくて、登山家たちの隠語だったようだ。
山の知識 -キジ撃ち(野グソ)基礎講座-
注意: お食事中の方、職場でこっそり閲覧している方、尾籠な話題に免疫の無い方、親父としての威厳を保ちたい方などはご覧にならないで下さい。