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中華の店 味栞

味栞団地の中の庶民風中華。
店名の読み方は「みかん」。

Fujimaru-diaryの記事によれば、

経営方針を聞くと「お客さんに味をわかってもらい、それが口コミで伝わるような、お店にしたい」という。この味栞というお店の名前は、お客さんにこの店の味を知ってもらい、それが頭の中に栞として残って欲しいという願いを込めて命名したという。

だそうだ。


僕がこの店を知ったのも、まさしく口コミ。

会社のおっさんお兄さんが
餃子がめちゃめちゃ美味い店を見つけた。
と、ぶっきらぼうだけれど、口はしにちょっぴり笑顔をたたえながら教えてくれた。

店の名前を聞くと
アジという字に、難しい漢字のミカン
と、彼は確かに言った。
ここで「味柑」と想像した僕を、誰が責められよう?
到着した店の看板は “味栞” だし。
違うじゃん。

さらに、店の所在地を聞くと、これまた要領を得ない回答が返ってきた。
イオンの横の道を登っていって、YellowHat の交差点を超えて、次の交差点を右。ちょっと行くと団地があって、道があるから左に入ると駐車場がある。横の階段を登ったらある。

なんだ、この、地元民以外には絶対に分かりようのない説明は?
当blogの読者が全国に点在してることへの配慮がまったくない説明だ。
ていうか、彼もまさか自分の語った内容がそのまま当blogに掲載されるとは思いも付かなかっただろうケド。

つーか、地元民である当方にとっては「イオン = JUSCO登美ヶ丘」であり、「YellowHat = YellowHat学園前店」であろうことは容易に想像できたが。
想像できたけれど、イエローハットよりもライフ 学園前店の方がよっぽど目印としては分かりやすいと思うのだが、なぜ彼はイエローハットにこだわったのか?
読者への責任として、彼を小1時間問い詰める必要を感じないわけではないが、こちらの方面に突っ込んでいくと収集が付かなくなってしまうので、これくらいにしておこう。

そして今夜、彼の要領を得ない説明をもとに、味栞に向かったのである。
国道163号線から近鉄・学研奈良登美ヶ丘駅の方へ車を向け、JUSCOをやり過ごす。
彼の説明に対して半信半疑である上に、あたりは真っ暗なのでかなり不安ではあった。
はたして、彼の言説通り、確かにイエローハットを越えた次の交差点を右折した先に、団地はあった。

そして団地の入り口らしき道も発見し、駐車場の所在を示す「P」マークも出ていた。
駐車場案内の矢印に誘われるまま、団地の中へ突入。
かなり大きな団地のようだが、行きかう人も車もない。
昔、「ウルトラセブン」で見たゴーストタウン(確か、地底人の団地)のようで、ちょっと怖くなってきたり。
細い1本道を進めども、居住者用の駐車場はあるが、来客用の駐車場らしきものは見当たらず不安になってくる。
200-300m ほど進むと、やっと「中登美ケ丘ショッピングセンター」という看板が見え、駐車場もあった。
どうやら、そこが目的地のようであった。

車を停めてあたりを見渡すと、店舗が5-6軒並んだ一角があった。
20時を過ぎていたので、ほとんどの店はシャッターを閉めていたが、その中で学習塾らしき所と、この味栞だけ灯りが付いていた。
洞窟の中で太陽の光こぼれる出口を見つけたときのように、味栞の看板に寄せ付けられた。

店は、4人がけテーブルが2脚とカウンター10席ほどの、いかにもな感じの庶民派飲食店。
ご夫婦と思しき男女が厨房で動いていた。
先客であるおじさんが1人、カウンターに座り、これまたいかにもな備え付けテレビで水戸黄門を見ながら、ビールを飲っていた。

そのおじさんのいかにも常連っぽい雰囲気と、厨房丸見えの造作(カウンターにありがちな1段高い棚がなくて、厨房と客が互いに丸見えなのだ)にちょっぴり躊躇しながらも、カウンターに腰を下ろす。


(クリックで拡大;裏にご飯系や麺類が乗っていたけれど撮影し忘れた)

メニューを取ろうと、テーブルに手を着くと、染み付いた油がちょっとベトつく感じ。
いつもなら「ムキー!」となる当方であるが、厨房をさえぎる棚がないことを勘案した上、
「これだけ油が付着するくらい一生懸命調理してるんだろうな」
と、むしろ好感を抱いた次第。

本日チョイスしたメニューは「味栞風水ギョーザ」(700円)、「すぶた」(700円)、「ライス(普通)」(150円)の3品。
いつも外食しているとはいえ、夕食の平均出費額が1,000円を下回る当方にとっては、かなりのチャレンジ・オーダー。
最初は「焼き餃子」(確か、250円)にしようかと思ったのだけれど、店の名前を冠する「味栞風水ギョーザ」に店主の自信を勝手に感じ取り、「1,000円超がなんぼのもんじゃい!」と、心の中でのみ男らしく振舞ってみた。

そんな、「男の一品」がこちら。

当方の写真の腕が悪いことを差し引いても、お好み焼きに見えてしまうことだろう。

当方は、調理の一部始終を見ていたので、水餃子だと納得していたが、事情を知らない人なら面食らうことと思う。

調理の過程がまたすごかった。
まず、もやしを大量に茹でていた。
客は当方1人(さっきのおじさんは、もう帰った)で、餃子と酢豚のオーダーなのにもやしである。
そのもやしを、皿の上に敷き詰めていた。
「それって、アナタのまかない食?」
との僕の心のつぶやきは、きっと共感を得るだろう。

もやしを茹でるのと前後して、8個の餃子を鍋にぶち込んで茹で始めた。
もやしを湯からあげ、皿に並べても、まだ餃子を茹でている。
料理がてんでダメな僕ですら、ちょっと不安になる茹で時間である。
学生時代に、半年に1回ほどのペースで、中国人留学生の指導の下「水餃子パーティー」をやった経験のある当方である。茹で過ぎた餃子の悲惨さは身をもって知っている。
内心、ドキドキしながらも、男らしく平静を装うことしかできない当方。

次に、店主はねぎを大量に刻み始めた。
ねぎ1本の3分の1ほどを刻んだ。
刻み終え、ねぎを冷蔵庫にしまおうとした瞬間、軽く小首を傾げて、さらに5cmほど追加で刻んだ。
彼はいったい何を思ったのか?
この客、一見だし、ちょっと意地悪しようか
とでも思っているのではないかと、不安になる。
なぜなら、調理を始めるや、田舎のヤンキーっぽい、スェットに身を包んだアベックが入店した。
彼らとは「最近、車の調子どうよ?」みたいに、和気藹々と会話するにもかかわらず、僕とは視線を合わせようとはしないのである。
この緊張感、読者には伝わるであろうか?

そんな折、中華鍋に油を引いて熱し始める。
いよいよ酢豚の調理開始だろうか。
水餃子がハズレだったときのために、保険としてオーダーした酢豚であったが、モヤシとネギはそこに投入されるのか?
しかし、モヤシ、ネギの入った酢豚など、今までお目にかかったことはない。
このあたりで、玉音放送で終戦を知った日本人のような心境になってしまった。

「もう、どうにでもして」
ってな感じで、ケータイをいじって遊ぼうと思ったら、見事に圏外だし。

なーんて、やさぐれていた瞬間!
店主は、餃子を湯から挙げ、先ほどのモヤシの上に丁寧に並べ始めた。
餃子の上には、刻んだネギ(5cm追加分を含む)を散らしていく。
さらには、その皿をもって、中華鍋の前へ。
そして、熱々の油を皿の上にかけているではないか!
ジュージューという硬質な音と、若干香ばしい匂いが厨房から漂ってくる。

このあたりから、当方の戦後復興が始まった。
油をかけ終わると、その上からポン酢(おそらく)と豆板醤(これまた、おそらく)をタラタラと流しかけて完成。

これが、上に載せた、お好み焼きそっくりの水餃子の調理過程である。

豆板醤(おそらく)とネギのベールを箸で探って、餃子を探り当てる。
私、初めてなの。やさしくしてね
と、身を震わす女の子を扱うよう(ていうか、そんな経験ねーけど)にそっと箸でつまみ上げる。

あれだけ、石川五右衛門のように茹でられていたにもかかわらず、皮はとてもしっかりしている。
箸でつまんだくらいでは、ビクともしないモチモチ加減。
びっくりした。

それでいて、口に頬張ると、綿菓子が溶けていくように、咀嚼するまでもなく崩壊していく餃子。
マジ、感激。
この餃子はないわ。

夢中で食べた。

途中、酢豚も運ばれてきたけれど、この水餃子の前には、オブラートにも等しい。

もしかしたら、味栞風水ギョーザを食べる前なら美味しかったのかもしれないけれど、不幸にして僕は酢豚の前にギョーザを食べてしまった。
今の僕には、この酢豚を評価できない。

官能は straight forward だ。

【中華の店 味栞】
住所: 奈良市登美ヶ丘1-1994-3
Tel: 0742-44-6136
営業時間: 11:30-14:00 / 17:00-21:00
定休日: 木曜日、第3水曜日
駐車場: 中登美ケ丘ショッピングセンター 20台以上
※箱代別途で持ち帰り可能


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