クサくて、プラトニックな恋愛物語の大好きな当方である。
漫画なら「タッチ」や「めぞん一刻」であり、歌謡曲なら「木綿のハンカチーフ」や「Blue Moon Stone」をよく口ずさむし、テレビドラマなら「同級生」とか「男女7人夏物語」を挙げるし、文学作品なら「ノルウェイの森」とか「智恵子抄」だったりするわけである。
そんな当方のお気に入りリストに、「友情」が加えられた夜。
わが愛する天使よ、巴里へ武子と一緒に来い。お前の赤ん坊からの写真を全部おくれ。俺は全世界を失ってもお前を失いたくない。だがお前と一緒に全世界を得れば、万歳、万歳だ。
「友情」 下篇 9章
クサい、クサすぎる。
でも、いい!
ゾクゾクする。
武者小路実篤の「友情」といえば、かなり有名な部類に入るので、多くの人はあらすじを知っているものと思われる。
三角関係もの。大親友の男2人と、1人の少女をめぐる物語。
男同士の友情を取るか、男女の愛情を取るかの板ばさみになるというプロットは、もうそれだけでクサいし、古臭いんだけど。
しかし、「友情」も「恋愛」も、人類にとってある意味普遍的な精神活動だということを考えれば、現代でも十分に通用するモチーフだと思う。
この作品のテーマを一言で表せといわれたら、今書いたように「友情と恋愛のジレンマ」(もしくは「利己性と利他性の対立」、「理性と本能」)なのだが、丁寧に読めば「立身出世」だの「プライドと劣等感」だの「階層社会」、いわゆる「神」なんてことまで登場人物に投影して語られている。
深い。
なお、僕が読んだバージョンは昨日買ってきた集英社文庫版。
表紙カバーが蒼井優なので、小説のヒロインである杉子に蒼井優の姿を重ね合わせてしまったことは言うまでもない。
そのせいなのか、なんなのか、杉子のことを、可憐で清楚、物静かで人見知りなはにかみ屋なのだと思い込んで読んでいた(僕が蒼井優を初めて見たのが、「世にも奇妙な物語」で病気で死ぬ女の子の役をやっていた時だからだと思う。ここにそう書いてある)。
しかし、実は杉子は内に情熱を秘めて、かなり頑固な少女だということが明らかになっていく。
この落差って、「フラガール」とかで見た蒼井優の役どころにぴったりマッチすので、それはそれは、脳内イメージがありありと浮かび上がってきたわけだ。
そんなわけで、杉子の存在が僕にとって非常に写実的で、いかにも会ったことのあるような人物として捉えることができた。
そして、そういうヒロインの出てくるストーリーがお気に入りなわけだ。
要するに、アレだ。
「恋愛には奥手に見えるけれど、好いた相手には一直線」という、杉子のヒロイン像が “朝倉南”(「タッチ」) や “音無響子”(「めぞん一刻」)等のヒロイン像に合致していて、当方のお気に入り路線ということか。
大変、良い本を読みました。
武者小路実篤って、単にカボチャを描くだけの人じゃなかったんだね。
(蒼井優を遠慮したい人のために、他社のバージョンも貼っておいた)