『わたしのハムスターを化石で残すには?』 ミック・オヘア

ミック・オヘア著(勅使河原まゆみ訳)『わたしのハムスターを化石で残すには?: アマチュア・サイエンティストに贈る驚くべき実験の数々』を読んだ。

メインタイトルだけを見ると、シャレたタイトルのミステリー小説のようにも思えるし、深遠な哲学的議論の書物にも見える。僕も本屋でこの本を見かけて、タイトルの意味がさっぱりわからなくて、気になって手にとってしまったクチ。
実際には、サブタイトルにもあるとおり、”サンデー・科学者” 向けに家で簡単に試せる実験の紹介をしている本。もとは、イギリスの科学週刊誌 “New Scientist” の中のコーナーだったらしい。読者からの素朴な疑問を、実験を行って説明するというもの。そのため、扱っている現象が日常生活でよくある話だし、実験のやり方も簡単だし、その説明や理論的根拠がしっかりと説明されていて、マジメな読み物。
中身はマジメなんだけれど、著者の語り口が軽妙で、いちいち笑える。




たとえば、「びん入りケチャップをうまく取り出す方法」なんて話がある。日本の家庭ではあまり見かけないけれど、世の中にはびん入りのトマトケチャップがある。アメリカなんかに行くと、レストランのテーブルに当然のように置いてあったりする。そのケチャップってのが、なかなか粘度が高くて、逆さにしてもなかなか出てこなくてイライラする。それを上手に取り出すにはどうするか?という話。

マジメな話としては、チクソトロピー性という現象が紹介されていた。チクソトロピー性とは、静止している状態ではゼリー状であるのに、エネルギー(振動など)を加えると流れやすい状態に変わる性質だそうだ。この性質を理解していれば、びんを思いっきり振ってやれば、ケチャップは流動的な性質になるから簡単に取り出せるそうだ。
また、この現象は基本的に分子同士の結びつきの強度の問題だそうだ。互いに強くくっついている分子にエネルギーを与え、結合を弱くすることで流動性を得るそうだ。だから、たとえばレンジで15秒ほど温めるなど熱エネルギーを与えても良いらしい。

そういうマジメな話で、「ほぉ~」っと思って油断してると、オチがくる。

メドハーストのほっとき法

戸棚の奥にケチャップのびんをしまったままにしておく。すると、数年後には発酵がはじまる。びんの中の圧力が高まっているから、ふたを取ったとたん、ケチャップが激しく噴出す。




本書のタイトルとなっているハムスターの化石の作り方も、簡単な方法が書かれている。ハムスターの死骸が、他の動物や地震などの地殻変動によって影響を受けないところに埋める・・・ただそれだけ。しかし、より確実に骨格が残るように、生前にカルシウム豊富なエサを与えろとか、腐敗をできるだけ遅らせるために深海の泥の中のような無酸素状態のところに埋めろとか、的確(かつ、困難)なアドバイスがたくさん書かれている。
ただし、「化石ができるまで20万年はかかる。あなたは自分で完成を確かめることができない」などと書かれて、ちょっと悔しいが、笑う。


そのほか、冷たい水よりもぬるま湯の方が早く凍るといってちょっと前に話題になった「ムペンバ効果」が取り上げられていたり(肯定的な書き方でした)、コーラにメントスを入れたら噴出す理由の考察(断定はされていないが、メントスの成分 -アラビアガムとゼラチン- がコーラの表面張力を弱めて、炭酸ガスを押さえる力が弱くなる)とか、鉄分入りシリアルから鉄を本当に取り出す話とかとか・・・まぁ、いろいろ出てきます。
お腹いっぱいになれます。


そして、僕がこの本で一番価値があると思ったのは、80ちかい実験のやり方や、その根拠の説明ではなく。

まえがきのラストにあるこの文章:

最後に一つ、忘れないでほしいことがある。それは、すでに打ち立てられた理論というのは正当性を疑うためにあるのだということ。この本の実験を試して異なる結論に達したら、どうか私たちに知らせてほしい。科学は新たな証拠を得て、つねに進歩している。



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