紀三井寺: オヤジ・キラーの石段には物語がある

紀三井寺の新仏殿昨日は紀伊半島の東側の三重県を攻めてきたので、今日はバランスをとるために、西側の和歌山県を攻めてきた。
ストイックに車で走るだけで、どこにも寄り道をするつもりはなかった。しかし、国道42号線で和歌山市南部を走行中、正面の山の中腹、生い茂る木々に埋もれるようにして綺麗なお堂が見えてきた。すばやくカーナビに目を移すと、「紀三井寺(きみいでら)」と記されており、所在も主要道路から近かったので立ち寄ってみることにした。

紀三井寺・楼門

紀三井寺の名称の由来は、境内に清らかな水の湧き出す3つの泉があることにちなむらしい。メイン参道のすぐ脇に「清浄水」が位置しているので、そこは手軽に見ることができる。他の2箇所(吉祥水、楊柳水)はちょっと脇にそれていて、僕は見学しなかった。

また、この寺は桜の名所としても有名らしい。ちょうど清浄水の湧いているあたりに、芭蕉の歌碑(すでにかすれてしまっているようで、僕には字が読めなかった)があり、桜にちなんだ歌が詠まれている。

みあぐれば 桜しもうて 紀三井寺 –松尾芭蕉

この句は「桜を楽しみに紀三井寺に来たのだけれど、見上げると、もう桜は終わりのようだ」って意味だと想像した。5月に来た僕も、桜の見ごろは完全にはずしてしまっていたので、芭蕉にちょっと同情の苦笑を向けてみた。

下の写真は、ちょうど清浄水や芭蕉の歌碑のあるあたりから、石段の上を見上げたところ(写真中、一番手前に見える白い看板が清浄水の説明看板・・・だったと記憶している)。

紀三井寺の石段

この階段が、かなり手ごわいオヤジ・キラー。みうらじゅんは室生寺の石段を「オヤジ殺し」と言っているが、紀三井寺はそれ以上かもしれない。石段の周りは木が刈り込まれているので直射日光にさらされて暑いし、かなり急だし、踏み上げも高く登りにくい。石段数 231。

実際、瀕死のオッサンもいた。夫婦と娘らしき3人づれなのだが、登り始めの10段ほど(全体の5%)を登ったあたりで、「もう無理や・・・」と言いながら、立ちすくんでいる(座り込むこともできずに、弁慶の最期のように仁王立ちだったのが笑えた)。妻と娘はそれよりも少し先にいて「300円払って入って来たんやから、上までいかにゃ損やでぇ」と、関西のおばちゃんのステレオタイプ的言動を吐いていたりする。
当方はちょうど上から降りてきたところだったのだかけれど「そんなん、まだまだ序の口ですよ。この先、もっと険しいですよ」とは、かわいそうでよー言わずに、無言ですれ違ったのだが。

僕のすぐ後ろには、別の母娘がいた。この娘さん、花の旬は過ぎた年頃(ちょうど、芭蕉の句のように・・・)だけれど、かなりの美人顔。その上、疲れきっているオッサンに優しく声をかけて励ましてやっていた。もし、僕が励まされたら(禿げ増すじゃないよ)、惚れてしまうね、絶対。

つーか、オッサンもオッサンで、石段を登れないとか言ってるくせに、口先だけは元気でますます笑うんだけれど。励ましてくれた娘さんは、ゆったりとしたワンピース風の服を着ていたのだけれど、着膨れして見えた。そんな彼女のお腹を指しながら、安産のお参りか?とかなんとか聞いてるし。しゃべる元気があるなら、ちょっとは登れよ。
しかも、それに対する娘さんの返事も返事で、
ちゃうねん、ちゃうねん。これは自腹や!
と、関西女性のステレオタイプ的な切り返しを見事に披露。

こういう楽しいおねーさん好きだね。惚れちゃいましたよ。
実際、この階段は「結縁坂(けちえんざか)」と呼ばれ、縁結びのご利益があるらしい。その昔、貧しい若者が親孝行のため、母を背負ってこの石段を登っていたらしい。その時、わらじの鼻緒が切れて難儀していたところ、通りがかった神社の娘に直してもらったのを縁に、ふたりは夫婦になったという由来があるらしい。
しかも、その娘の実家の援助で商売を始めて大成功したので、商売繁盛のご利益もあるらしい。

オンナとカネに縁があるなんて、男の欲望成就のためにあるような石段だね!
みんなも、つべこべ言わずに登ろう!
#残念ながら、件の女性と僕とのロマンスは始まらなかったけど。

紀三井寺の石段にチャレンジするJR社員そのほか、JRの新入社員と思しき10数名の団体も石段を登ってきた。全員、メモ帳を片手に、年長の社員に引率されていた。紀三井寺の目の前にはJR紀三井寺駅もあるし、新人研修として見学に来たのかな。みんなピシッと制服を着ていたのだけれど、足元は革靴だったりヒールの高い靴だったりで、かなり大変な様子でした。若いから平気なのかもしれんけど(男性社員もいたけれど、写真が女性なのはもちろん当方の趣味)。

そのほかの見所としては、高さ12mの千手十一面観音。僕がふもとから見た仏殿の中に安置されていた。2007年に完成し、2008年5月21に入仏法要が行われた(今がちょうど1周年シーズン)という、とても若々しい仏像。木造のボディだが、全身に金箔が貼られているので、ピカピカとまぶしかった。国宝級の古い仏像は木目が出てたり、汚れて黒ずんでいたりしているので、そういうのに見慣れているとどこか奇妙で、滑稽に見えちゃったりする。しかし、仏教的には仏は黄金に輝いているものらしいので、そういうもんかと思って見ていると、まぁ確かに厳かに感じてくる。

あと、本殿の地下がコンクリート作りの宝物殿になっていた。石造の釈迦如来像とか、不動明王像のほか、西国観音霊場三十三番の各寺にちなんだ絵画などがあった。また、一休直筆の書なども。
しかし、あまりグッとくる宝物はなかった感じ。窓もない閉鎖空間で薄暗く、どことなくかび臭く、閉所恐怖症の人は遠慮すべきだと思う。

ところで、受付でもらったパンフレットの中に、けっこう恥ずかしい誤字がある。ていうか、パンフレットの記述が正しいのかも知らんけれど、常識的に考えて、やっぱ誤字だと僕は信じてる。
千手十一面観音が収蔵されている建物のことを「新物殿」と書いている箇所があるのだけれど、これは「新仏殿」だよなぁ、きっと。
湧き水のうちのひとつの名称は「楊柳水」のはずなんだけれど、パンフレットの地図には「揚柳水」と書かれちゃってんだよなぁ。

紀三井寺
住所: 和歌山市紀三井寺1201
TEL: 073-444-1002 / FAX: 073-444-3678
E-Mail: kimidera@kimiidera.com
拝観料: 入山200円、千手十一面観音100円、地下霊宝館100円
駐車場: 門前にコインパーキング15台ほど(平日は100円/30分)


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