彩子さんに紹介してもらった、フィシュテルの『私家版』を読んだ。
彼女は映画版を推していたのだが、そちらは入手が難しかったので(価格の問題もあるし、懇意のレンタル屋にもなかった)、原作小説の翻訳版を読むことにしたのだ。
キャッチ・コピーは「本が凶器になる完全犯罪」。
冒頭の数ページを読むと大筋の手口は予想できてしまい、実際その予測もはずれない。
とはいえ、主人公を殺人に決意させるに至った因縁、完全犯罪達成までの用意周到な準備、断片的なピースを見事につなぎ合わせる文章構成と、三拍子が見事に揃っている。派手な客寄せシーンがあるわけでもなく、比較的淡々と物語が進行するのだが、退屈せずに読まされる(ただし、翻訳文のクセが僕好みじゃないところがあって、最初の1章を過ぎるあたりまでは少々の忍耐力が必要とされた)。
紹介者の彩子さんは、映画版だけを観て、原作は未読とのことだが。
原作版の読みどころの一つは、凶器となる本の作成場面だった。きっと、映画版でもそこは丹念に描かれているのだろうと想像する。古びた材料と、時代遅れな機材を利用して本を作る映像は、きっと幻想的で美しく描写され、映画の見どころの一つ、監督の最大の腕の見せ所なんじゃないかと考えている。
主人公は陰湿な人間で、殺される男は明るく快活な男として描かれている。きっと、映画でも主人公の登場するシーンはほの暗く、被害者のシーンは明るい照明で撮られているんじゃないかとも想像する(僕は映画監督のABCは全く知らないのだが、仮に自分が監督だったらそういう風に撮るだろうと思う)。
主人公が閉め切ったくらい部屋に篭って作業をする中、明り取りのために少しだけ開けた窓から、彼の手元だけを照らす光が入ってくる。そんな、明暗のコントラストがあり、古びた道具のノスタルジックな印象を与えるシーンは、きっと感動的なのではないかと思いをはせている。
単に殺人にいたるプロットが優れているだけではなく、情景がありありと浮かぶような文章描写も、原作の魅力の一つだと思った。
むかし映画をビデオで見ました。
しみじみとした味のある復讐モノで、けっこう記憶に残ってます。
(本の作成場面もばっちし覚えてますよ。でもきっと本の方がおもしろいよ)
どこのレンタル屋だったか思い出そうとして、
そういえば今はどこもDVDになってビデオなんか置いてないことに今更がく然としました…。
ビデオテープがなくなってしまうと、「リング」の貞子もDVDに鞍替えするのかなぁ・・・とちょっと心配になってしまいました。「リング」は見たことないんだけれど(原作も未読)。
そして、古めかしいメディアっつーのが、『私家版』のテーマでもあるので、コメントも上手くオチが付いてるなと自画自賛。
私家版
編集者エドワードの元に持ち込まれた一作の小説。しかし、それは彼が心の奥に秘めていた悲痛な想いを呼び覚まさせることとなり…… フランスの人気キャスターで…